アサルトリリィーTrinityー   作:門番

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やっとで戦闘が書けた…


第九話 間を『分』かち、空を『割』く

「ごきげんよう梨璃」

「ごきげんようお姉様!」

 

 日がわずかに陰り、夕暮れが迫っていることを知らせる紅い日差しが夢結と梨璃を照らす。

 一日の講義と訓練が終わり、ヒュージ出現の警報も鳴らない平和な時間を、一般校と同じくガーデンでも放課後と呼ぶ。

 そんな穏やかな時間、いつも紅茶とお菓子を囲むテラスで優雅にカップを傾けていた敬愛する姉君の元に、サイドアップに結んだ桃色の髪を愛玩用の犬のようにぴょこぴょこと揺らした(シルト)がやってきたところであった。

 

「今日は二水さんは一緒ではないのかしら」

 

 紅茶と茶菓子に舌鼓を打つ梨璃の姉君の口から出てきたのは他の女の名前。

 一学年下の妹のクラスメイトに何の用があるのだろうか。

 

「二水ちゃんですか?今日はこれから用事があるみたいで、撮影機材?とかの荷物を沢山抱えて、『スクープですぅ~!』って言いながら教室を飛び出て行きましたよ」

「そう。では二水さんと連絡は取れるかしら」

 

 妹はその言葉に神妙な表情を浮かべる。

 

「二水ちゃんですか?え~と、こないだの私達を記事にしたことは反省してるみたいですけど……」

「もうそのことはいいの!」

 

 姉は頬を羞恥で赤く染めて声を張った。

 自身達の関係性を新聞に面白おかしく書きたてられたのは、彼女にとって誠に遺憾であったらしい。

 

「え、えっとそれでは二水ちゃんに電話してみますね」

 

 端末を耳に当てること数秒、すぐに電話は通じたようだ。

 

「あ、二水ちゃん?梨璃だよ。今、大丈夫?うん、うん、えっとね、お姉様がちょっとお話があるみたいなんだって。え、違うよ。リリィ新聞のことじゃないって!」

「梨璃、私に変わるように伝えてもらえるかしら」

「あ、はい。二水ちゃんお姉様が変わって欲しいって。……うん。わかった」

 

 どうぞ、と恭しく端末を渡してくる妹に短く礼を述べ、夢結が端末を耳に当てた。

 

「もしもし、夢結よ。断っておくけど、この間の新聞の件については忘れた覚えはありませんよ」

 

 ヒィッ!

 ブンヤの物らしき短い悲鳴は、端末のスピーカーを通して梨璃の耳にも届いた。

 

「……それで今どこにいるの?当ててあげましょうか。訓練場よね?……えぇ、今日のお昼に、あなた達と別れた後に本人から聞いたの。……しょうがないじゃない。その時は丁度二水さんは席を外していた時だったの。……それなら私達三人が見物出来るスペースも追加で確保しておいてくれるかしら。……それでお願いするわ。ではよろしく」

 

 電話が切られ不通音が鳴る端末を、梨璃は先程の様に恭しく受け取った。

 

「梨璃。急かすようで申し訳ないのだけれど、今日のお茶会は早めに畳ませて貰うわ。……そうね。後五分ほどで荷物を纏めて貰えるかしら?」

「え?な、何かあったんですか?」

 

 姉妹の契りを結んでから、リリィとしての指導の時以外は仲睦まじく紅茶と時間を共にしていた姉が、それを急に畳もうとする用事は一体何用であろうか。

 普段は太陽のような笑顔を浮かべてばかりの梨璃の顔が、不安に曇った。

 

「これから依奈が、あぁ私の旧友ね。訓練場で模擬戦をするみたいなの。二水さんはその模擬戦の記録をしたかったみたいで、そのために機材を運んでいたみたいね」

「あっ、これからその観戦に行くってことですね!」

「その通りよ。梨璃、あなたにもいい勉強になるかとおもったの。優秀なリリィ同士がCHARMを交わし合う事を直に見ることが出来る機会はけして多くは無いわ」

 

 成る程と梨璃が手を打った。

 リリィとしての成長を願い、自身へ貴重な機会に立ち会わせてくれようとする姉のなんとすばらしきことか。姉への敬慕の高まりは上限を知らないようだ。

 しかし、すぐに何か疑問が浮かんだのか、頬に人差し指を当て何かを考え込む。

 

「でもお姉様。二水ちゃんに追加で三人分の席っておっしゃってましたよね。私とお姉様で二人、あと一人はどなたなんでしょうか?」

 

 それを聞いた夢結は、テラス端の壁際にソファが置かれていること以外誰もいない方向に静かに呼びかけた。

 

「楓さん。いるんでしょう?あなたもご一緒されるかしら」

「え、楓さん?こちらに来る前に別れたばかりですけど……」

 

 

「もちのろんですわ!」

 

 夢結がこの場にいない筈の梨璃のクラスメイトの名前を呼んだことに困惑する間も無く、横掛けのソファの影から、手入れの行き届いた茶髪をなびかせた令嬢が飛び出してきた。

 

「わ、楓さん!いったい何時からそこに!?」

「それはもう、夢結様が二水さんに連絡が着くかお尋ねになったところからですわ!」

「最初からじゃない……私達の二人だけの時間を邪魔しないよう気を回してくれたのはありがたいけれど、そんな不審者のような真似は控えて頂けるかしら」

「不審者ではありません!ただ、梨璃さんを陰から見守っていただけでしてよ!」

「それを不審者って言うのよ!」

 

 梨璃は自身を題材に痴話喧嘩を始めた二人を横目に、苦笑いを浮かべながらも姉の言いつけ通りに茶器を片付け始めた。

 姉とクラスメイトはジャケットの襟元をんで睨みを利かせ合っている。

 背後の廊下を歩くリリィがその様子を見て、クスリと微笑みそのまま立ち去って行った。

 百合ヶ丘の新年度が始まってまだ二週間も経ってはいないが、彼女たちの痴話喧嘩は既に学院の風物詩となりつつあるらしい。

 

「お姉様、楓さん。食器は片付けて来たので、いつでも行けますよ。」

 

 少し乱れた衣服を整えている二人へ梨璃が呼びかけた。

 

「はぁまったく。少しは私にも梨璃さんと共に過ごせる時間を分けて下さいまし」

「だからあなたの席も用意するように二水さんにお願いしたんじゃない」

 

「ところで百合ヶ丘の(プランセス)、番匠谷依奈様のお相手を務める栄誉あるお方は、一体どなたなのですか?」

「あなたも知っているリリィよ。あなたも私も初日に顔を合わせたじゃない」

「……まさか」

「恐らくそのまさかね。依奈の対戦相手は、あなた達と同じ一年生。初日から大暴れを起こした無名のリリィ。無法者(デスペラード)、真榊衣緒里さんよ」

 

 

▲▽▲

 

 

「はぁ、衣緒里さんったら……こないだもあんな騒ぎを起こしたばかりなのに、今度はアールヴヘイムの依奈様にまで喧嘩を売ってただなんて……」

「まぁまぁ伊紀(いのり)、いいじゃないの。初日の決闘騒ぎは、事故みたいなものよ。しょうがないじゃないの。熱い闘志に燃えるリリィが二人揃ったら、やることはただ一つ!CHARMと友情を交わすしかないじゃない!」

碧乙(みお)?そんなことは無いと思うわよ」

「ほら碧乙姉様、ロザ姉様だって違うっておっしゃってますよ!」

「衣緒里さんはともかく、亜羅椰さんが燃やしていたのは闘志ではなく下半身よ」

「ロザ姉様!?」

 

 百合ヶ丘女学院の誇る壮大なトラス模様のフレームと強化ガラスに覆われた屋内訓練場の二階ギャラリーの端に陣取る衛生(・・)特務レギオンLGロスヴァイセの三筆頭。

 その主将を最年少ながらに務める北河原(きたがわら)伊紀(いのり)は、副官でもあり義姉妹の契りを結んだ姉たちの漫才のようなやりとりに呆れ、欄干に伏しため息をついた。

 

「まぁ伊紀、そこまで気に掛ける必要は無いわ。衣緒里さんなら依奈さんのことだってケチョンケチョンにしちゃうわ!」

「そういう問題じゃありません。私達はリリィなんですよ!?そもそもリリィ同士の許可なき私闘は禁じられているんですからね!」

 

 肩に馴れ馴れしく手を回し諫めようとする碧乙を振りほどき、ギャラリーの薄い金属の床をカンカンと踵で鳴らす。

 自身達がいくら超法規的(・・・・)な任務を担う特異な存在であっても、守るべき規則と常識という物があるのだ。

 

 先日、理事長室に呼び出されてみれば、己が長を務めるレギオンへの半強制的な人員補充の指示。それはLGロスヴァイセの予備人員(スーパーサブ)兼別動隊要員の加入であった。

 加入する人員は、今年の一月に百合ヶ丘へ担ぎ込まれたばかりだけれど我流でありながらも下手なリリィより実践慣れしている衣緒里さんと、G.E.H.E.N.Aの陰謀により故郷を追われて百合ヶ丘へやって来たアンナマリアさんのお二人。

 優秀なリリィの集う百合ヶ丘と言えども、その中でも上澄みの実力者に足るお二人が、別動隊という立場であっても共に戦う同志となることは心強い。

 しかし、自身達が数か月前に直接勧誘した際には取り付く島もなく振られてしまった相手が、なぜ今になって気を変えたのだろうか。何かわだかまりが残るようなことが無いとよいのだが。

 

 そう考えていた矢先の事だった。

 ロスヴァイセ預かりとなった二人のリリィ達は、結局お咎めなしだったとは言えど新年度初日から乱闘騒ぎを起こした問題児達で、今回の騒ぎはその片割れの模擬戦という名を借りたただの私闘。学院生活の中でも問題やトラブルを起こすのではないかと危惧していたが案の定であった。

 特務を共にするリリィとして以上に、自身が委員長を務める学級の旧友の行いに嘆く羽目になるとは先が思いやられる。

 

「伊紀、あなたは真面目だから色々と考え過ぎなのよ。衣緒里さんだって別に悪い子じゃないんだから。ちょっと血の気が多いだけよ!……やっぱり悪い子かも」

「碧乙姉様。擁護されるなら最後までしてあげてください……」

 

「そういえば、衣緒里さんはこないだ『アールヴヘイムの二年生組全員抜き』とか言っていたわよ」

 

 黙っていた上姉、ロザリンデ・フリーデグンデ・V(フォン)・オットーが思い出したように口を開いた。

 

「えぇ!?実質的な百合ヶ丘の最強戦力全員と戦いたいってことですか!?そんな事したら駄目ですよ!百合ヶ丘のレギオンのパワーバランスが変わっちゃうかもしれないんですよ!?只でさえ私達の立場は結構危ないって言うのに、これ以上せっつかれたら大変!」

「『強くなりたいなら戦うことが最短の近道だ』。というのが彼女のモットーみたいね。最近の子にしてはガッツのある子ねぇ」

「そのガッツのせいで私はガッツリ悩まされてるんですよ!?」

 

 

▲▽▲

 

 

 色とりどりの髪色で飾られたギャラリーの中心でぽつりと向き合う二人。

 狂暴な輝きを瞳に湛え、巨大な黒光りする巨刃を片刃に鍛え上げたCHARM、『ムラマサ』を携えた小柄な無法者(デスペラード)

 方や、藤色の髪のカーテンから伸ばした両の手で、手斧型CHARM『グングニル・カービン』と大槍型CHARM『アステリオン』を掴み、静かな視線を返す(プランセス)

 

 相対するのは美女と野獣。

 誰も知らぬ獣と高名な姫君。

 野に生きた蛮騎士と戦いが為に育った姫騎士。

 

 見下ろす観衆にとって、何もかもが違えた二人が落日の陽に照らされ長い影法師を伸ばしていた。

 

「悪いねぇ、番匠谷先輩。こんな無名の素人に時間を割いて貰っちゃってさ」

「まったくよ。天葉(ソラ)からのお願いじゃなかったら無視していたわ」

そら(・・)、ありがてぇ話だ。遠征前の調整で忙しいんだったか?」

「えぇそうよ」

 

 両の手で握った斧と槍を藤色の髪と共に揺らしながら、番匠谷依奈はゆらりゆらりと歩を運び始めた。

 

「というか、まだ遠征の話は決まっていない筈だけど、なんであなたが知っているのかしら」

 

 対する衣緒里は、小柄な身の丈を超える剣を肩に載せ、腰を低く落としながら依奈を睨みつけた。

 

「へぇ。小耳に挟んだだけのつもりだったんだが、噂はマジだったみてぇだな」

 

 依奈の足が止まる。

 

「……気に入らないわねぇ。その上級生を試すような態度」

「試してるんだよ番匠谷先輩。」

 

 ついに依奈が腰を低く落とした。

 両の手に握られた二振りが大きく宙に弧を描く。

 

「夢結の言っていた通りだわ。あなたには少し躾が必要みたいね」

 

 赤く輝き迫る夕暮れを知らせる陽が、薄雲に陰り訓練場に深い影を落とす。

 

「知っているとは思うけど、この学院は上級生を『様』を付けて呼ぶのがしきたりなのよ」

「へぇ、それなら……」

 

 夕日を隠していた雲が露わになると同時に、訓練場の中心で三振りのCHARMが打ち鳴らす音と巨大なマギの激突が辺りを重く揺らした。

 

「言わせてみろよ!お姫様ァッ!」

「上等!アールヴヘイムの司令塔の実力、その身で味わいなさいッ!」

 

 無法者と姫君、なにもかもが違えた二人の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 先に仕掛けたのは衣緒里だった。獣のような雄たけびを上げながら、妖刀(ムラマサ)の名前を与えられた剣が牙を剥く。振り下ろされた刃はコンクリートの床を軽々と砕き、その粉塵が宙を煙のように舞う。依奈はその獰猛な唐竹割を後ろに飛び退り躱すと、大振りの剣撃の隙へと左手の大槍の突きを打ち込む。

 しかし、衣緒里はその鋭い切っ先の軌跡を既に予期していたのか、その小柄な重心を左手側へとずらし、側転するかのように軽々と避けた。転がる勢いのまま、巨刃を地に寝かせるように構え大ぶりの横薙ぎを放たんと踏み込んだ。

 その巨刃の初撃を目の当たりにした依奈は、そう何度も打たせるものかと右手に持った戦斧を手首のスナップで手斧を回転させると握り(グリップ)が小銃へと姿を変え、そのまま数発の弾を衣緒里へと見舞った。 

 だがその目論見は外れ、衣緒里に迫った弾丸は半透明の光の膜のような防壁に阻まれ、その弾道を明後日の方向に変える。

 迫る大薙ぎを今一度大きく飛び退り躱すと、今度は数度跳ねるように距離を取った。

 

「情報通りの『聖域転換』と感知系のスキル…『未来予知(ファンタズム)』ではなさそうね、レアスキルは『この世の理』かしら?」

「へぇ?サプライズにはならなかったみたいだなぁ!」

 

▲▽▲

 

 ギャラリーの見物人に紛れたアールヴヘイムの面ケが、眼下で刃を交わし剣舞を演じる二人を見下ろしていた。

 

「なるほど、大型CHARMによる大質量の攻撃を、聖域転換の光帯障壁(バリア)を盾にしながら確実に押し込む。あれが本来の戦闘スタイルってことかな?」

「今日は天葉(そらは)姉様と同じ使い方なんだ……一応だけど……」

 

 主将、天葉にその(シルト)の樟美が、どこか安心した顔持ちでしな垂れ掛かっている。

 その横で工廠科の制服を着た二人は、いささか興奮しているのか声色高い。

 

「それよりも辰姫はアイツのCHARMが気になる!転校してきた上級生が持ち込んだ謎の三世代機なんだって!」

「あれ?辰姫、二世代機のブリューナクをベースにしたカスタム機って噂は聞いてるけど、それってマギ遠隔操作機構(クラウドコントロール)を後付けしたってこと?」

「うん。檜組のミリアムから聞いたけど、独学で組んだ三世代機らしいよ」

「なにそれ気になる!OSのセッティングとかどうなってるのかな!」

 

▲▽▲

 

(典型的な一撃の重さで勝負するパワーファイター、確かに下手な使い手ではその威力に怯んでしまうだろうけど……)

 

 再度の強烈な踏み込み。コンクリートの床にヒビを刻み、上半身を弓の様に反らし強烈な薙ぎを振るわんとする衣緒里。

 しかし、依奈はそれに怯むことなく、腰を落とすと頭上を通る刃の起こす風を感じながらも再度手斧に変じたCHARMで鋭い反撃(カウンター)を見舞った。

 たまらずCHARMを捻るようにして、その一撃を防ぐと握り(グリップ)を軸に体を宙に躍らせ、鉄芯入りのブーツによる回し蹴りを叩き込む。

 

「ぐぅっ!?」

「甘い!猪突猛進の勢いだけでこの私達に勝とうなんて、100年早いわ!」

 

 体重を乗せた回し蹴りは、脛を依奈の肘鉄に防がれ、痛みのあまり地面に転がった。

 それを見逃さんと大槍の振り下ろしが迫ると、服が汚れることも厭わず、床をゴロゴロと転がる。

 

「チィッ!先輩なんだから手心加えてくれてもいいんじゃないの?」

「あんな不意打ち染みた方法で亜羅椰に勝ったこと。私、これでも結構キテるのよ。百合ヶ丘のリリィなら少しは戦い方にも美学を持ちなさい!」

 

 床に転がる衣緒里に、連続して左右のCHARMの刃を槌を振るうかの様に叩きつける。衣緒里はCHARMの側面部、腹に当たる部分で受けるが先ほどと転じて防戦一方だ。

 

「マウントを取って痛めつけるのがお嬢様の美学ってか?全く素敵だねぇ!」

「減らず口を!」

 

 依奈が大きくCHARMを振りかぶった瞬間、衣緒里がCHARMを追い払うかのように振り回すと依奈はそれを、ステップで跳ねて躱す。その隙を突き、衣緒里が跳ねるように起き上がると、コンクリートに線を引きながら切り上げ(アッパーカット)繰り出す。依奈はその反撃を、空中でCHARMを交差し刃を受け止めると、打ち込まれた勢いに身を任せたまま宙を軽やかに舞い、後方へと着地した。

 

 距離を取り体勢を整えた衣緒里に、今度は依奈が距離を詰める。

 突き出される大槍。その切っ先を半身を逸らすことで避けるが、身を引いた先に手斧の一振りが迫る!

 CHARMを無理やり引き寄せその斬撃を防ぐが、硬直した胴体に引き戻した槍の一突きを撃ち込む。

 衣緒里が纏う半透明な光壁に槍が突き刺さると、一瞬の拮抗の後にガラスが砕けるような破砕音が響き、聖域転換による防御を打ち抜いたのだった。

 

▲▽▲

 

 己を覆う光の盾を砕かれようと、その穂先をまともに食らう訳にはいかない。その突きを寸での所で倒れ込むように避けるとその勢いのままに飛び引くが、依奈の握る二振りは既に射撃形態(シューティングモード)に姿を変えていた。

 

「なるほど。アイツの聖域転換はマギの弾丸程度なら簡単に防げるみたいだけど、近接用のCHARMを防げるほどの硬度は無いみたいねぇ」

「ですわね。矢除けの盾にはなっても、大槍を防ぐだけの厚さには足りませんわ」

「それに攻性利用したアーマーブレイクも攻撃が当たらなきゃ意味が無いわぁ」

「アハハ、アイツは攻めるのは得意だけど攻められるのは苦手だからナ。前のめりになりすぎて踏ん張りが効かないのが珠にキズだナ!」

「攻めるのが得意!?つまりアイツも私と同じ……!」

 

「いや、多分意味が違うと思うけど!?」

 

 携帯端末から投影されたホログラム状のモニターに映る計器類から眼を逸らさずに、千秋は亜羅椰へとツッコミを入れた。

 

「千秋様、あなたは騎士様の戦いを見物しませんの。相棒なのでしょう?」

 

 アンナマリアが首を傾げて千秋へと疑問を投げかけた。

 

衣緒里(いおりん)は強いから大丈夫!それよりも私はデータ収集の方が大事!こないだ夢結ちゃんに使ってもらった時みたいに、良質な運用データが取れそうなの!」

 

 相棒の実力を信じる故の言葉なのか、それとも依奈を見くびっての言葉なのか。どちらにせよ、このアーセナルにとっては戦いそのものよりも、それによって得られるデータの方が重要らしい。

 

「というか、亜羅椰さんはなぜこちらににいらっしゃるのですか?あなた、あの依奈様のお仲間なのでしょう?」

「勿論、依奈様のことも応援しています…。でも、この(ワタクシ)を打ち倒すほどのリリィ(オンナ)!気にならない筈が御座いませんわぁ!」

 

 眼下では、火を噴く長銃と突撃銃の二丁から放たれる弾丸の調べに追われる衣緒里が、依奈の周囲を旋回するかのように逃げ回っている。

 それを舐めるように眺める亜羅椰の顔は喜悦に歪んでいた。

 

「だいたい、この程度があの子の本気ではないのでしょう?さぁ、魅せて御覧なさい…!あなたの本質を!」

 

▲▽▲

 

AZ(アタッキングゾーン)のリリィとしては致命的なほどの射撃スキルの低さは本当みたいね!悔しかったら打ち返して見せなさい!」

「そういうアンタは豆鉄砲の撃ち方が下手クソだな!どうした?ドブの魚に餌でも撒いてるつもりか!?」

「……なに?にょろのこと馬鹿にしてるの!?」

「本当にドブ魚なんて飼ってんのかよ!クッセェクッセェドブ魚をよぉ!」

「なんですってぇ!?」

 

 衣緒里の下品な煽りで眉間に青筋を浮かべた依奈は、獲物を追い立てるように二丁の銃から吐き出す弾丸はより激しいものとなる。引き金を引く速度こそ尋常ではなくなるが、必然的にその狙いは粗いものとなり、弾丸の幾つかが逸れ始めた。

 その小さな隙を見逃さず、まるで四足の獣のように身を屈めた衣緒里が、喉笛に噛み付かんと突貫する!亜羅椰との戦いの際にも見せた驚異的な突進力だ。地に這うような極めて低い姿勢に照準が追い付かない。

 頭上を風切るマギの弾丸に怯まず一瞬で距離を詰め、横から殴りつけるような斬撃を放つ!

 不意を突くような突撃と怒りに滾るノルアドレナリンにより一瞬反応が遅れた依奈は、大槍(アステリオン)の変形が間に合わない事を熱に火照る頭ながらに悟り瞬時に防御を決断、手斧(グングニル・カービン)の刃を妖刀(ムラマサ)と交差させる。ついにこの戦闘が始まってより、初めてお互いの刃が交わされた。

 

「ぐっ!?この障壁を貫く衝撃、なんて馬鹿力なの!?」

「お褒めに預かり光栄だな!そっちの槍越しにも味わってみるか!?」

「このっ!馬鹿にしてぇっ!」

 

 変形の完了した大槍による薙ぎを繰り出すも、衣緒里はそれを予期していたように余裕を持って躱すと、獲物の隙を探すかのように再び依奈の周囲を駆け始める。

 再び衣緒里を依奈の放つ弾丸が追い立てるが、右手のCHARMから放たれる弾丸は先程より勢いが削がれ、精彩を欠くものとなっていた。

 

(これが例のアーマーブレイク!思った以上に右手に残るダメージが深いわ!)

 

 痺れる右手に鞭を打ちながらも引き金を引き続けるが、再度野獣の牙が迫る。今度は直線ではなく、弧を描くように飛びかかるコースだ。しかし、同じ獣に何度も噛みつかれる程甘い戦歴のリリィではない。それを察知した依奈は、射撃の腕を止め両の腕に持ったCHARMを有刃の形態へと変え、迎撃の構えに臨む。

 それを目にした衣緒里は、プシュッと空気の抜ける音の後に刃を振りかぶり、上半身を宙に躍らせくるりと回ると、その回転の勢いを乗せた凶刃を片手(・・)で横薙ぎを叩きつけた。

 

 叩きつけられた妖刀の一振りを手斧と大槍の二振りが受け止める!

 

 無法者と姫君その二人が燃える闘志と刃を真正面から交わらせ、鍔迫り合いの勝負へと持ち込む。

 依奈はその対格差を活かし、衣緒里を刃ごと上から抑え込むように力を籠めると、一瞬の拮抗の後に衣緒里の片膝が地面を打った。

 

「どうしたの無法者(デスペラード)さん?それで終わりなの!?」

「挑発のつもりか?ガラ空き注意だぜお姫様!」

 

 完全に上を取られ、体格の貧相さにより踏ん張りの効かない衣緒里は鍔迫り合いとなると完全に不利な状況に陥らざるを得ない。

 依奈はそれでもなおのこと油断せず力を加え衣緒里を無法の罪に跪かせんと、より強く抑え込みにかかる。

 いくら両の手に多少の痺れが滲んでいても、片手(・・)で二本のCHARMを抑え込まなければならない状況であれば、確実に勝利を掴み取れ……

 

 

 その瞬間、そこはかとない悪寒を依奈は覚えた。

 歴戦のリリィとしての直感が警報のサイレンをやかましく鳴らす。

 

 …なぜ、両の手でCHARMを振るわなかったの?

 …なぜ、障壁を超えてなお強烈な衝撃を打ち込んでくる刃を、両の手であろうといとも簡単に受け止められたの?

 …なぜ、未だにもう一つの手をCHARMに添えようともしないの?

 

 そして何よりも…

 

 なぜ、身の丈を超えるほどのCHARMの刃が、半分ほどの長さに縮んでいるの!?

 

 そう、衣緒里の握るCHARMは開戦前の刃渡りから半分ほどへと折り畳まれ、両刃の剣へと姿を変えていた。減衰させられているとはいえ、あの刃を受け止められたのは、その刃渡りによる遠心力を上乗せ出来なかったから故のものであった。

 そして、そのCHARMは……

 

(銃身が無い?……まさか!?)

 

「ばーん!」

 

 嘲るような衣緒里の一声。無法者の左手に新たに握られた小銃を、交差した二振りの隙間へと捩じ込むと、麗しき姫君へ弾丸を吐き出した。

 

「ガハッ!?」

 

 腹部に強い衝撃を受けた依奈の艶やかな髪が宙を舞う。

 先程と同じく衣緒里の右手には刃が握られているが、そのCHARMには砲身が姿を消しており、左手には銃身の切り詰められた小銃型のCHARMが握られていた。小型の銃身のCHARMとはいえ凄まじい衝撃だ。訓練用の弾丸でなければ障壁を本当に抜かれていたかもしれない。

 

「言ったじゃねぇか。ガラ空き注意ってさ」

 

 内臓へと打ち込まれた強い痛みに端正な顔を歪ませ、苦し気に咳き込みながらも依奈がCHARMを構え直す。

 

「私と同じ円環の御手(サークリットブレス)!?でも、それは……!」

「ご明察だなぁ!第三世代機って奴だ。いや、有線制御だから2.5世代ってところか?」

 

 両手に握った二振りに変じたCHARMを、見せびらかすように揺らすとそれぞれの握り(グリップ)から伸びた制御用らしきワイヤーが共に揺れた。

 

▲▽▲

 

「ふぉぉぉ!あれが千秋様の言っていたムラマサの第三形態か!」

「知ってるんですのミリアムさん!?」

「お主が梨璃を追いかけて行ったから知らんのも無理はないのぅ!あのCHARM、ムラマサは斬撃形態(ブレードモード)砲撃形態(キャノンモード)、そしてマギ有線制御機構(ドライブコントロール)により、両刃剣(グラディウス)散弾銃(ショットガン)へと分離する強襲形態(アサルトモード)の3モードへの変形分離機構を持つユニーク機じゃ!」

「えぇ!?ミリアムさん、なんで教えてくれなかったんですか!?謎の新入生のユニークCHARMのお話!教えていただけてたらすぐに記事にしてたのにぃ~!」

 

「依奈様、痛そうです……」

「そうね。でも梨璃、目を背けては駄目よ。例えどんなに痛ましい戦いであっても全力で戦う二人のリリィ、その勇姿から眼を背けるのは彼女達への侮辱になるわ」

「でもリリィ同士の戦いなんて……きっと良くないと思います」

「……戦うことでしか前に進めない人だっているのよ。あなたに出会う前の私の様にね」

「お姉様……」

 

▲▽▲

 

 CHARMを振り払い折り畳まれた刃を展開すると刃の背に当たる箇所に、銃身を叩きつけるように合体させると、無法者が悪鬼の様に喊声(かんせい)を雄叫ぶ。

 

「ウジャァァッ!!!」

 

 黒い刃を引きずりながら最後の突撃を、と依奈に向かって赤茶色の流星が突貫する。コンクリートの床は刃の重量と踏み抜く脚力に悲鳴を上げ白い煙を吐き出す。巨大な獣の顎の如き白煙を背負った衣緒里が突き進む!

 対する依奈は痛恨の一撃を喰らいながらも、何とか体制を整えると腰を落としCHARMを十字に構え直し、これまでと違い確実な防御の姿勢を取る。

 

(マズい!横隔膜に残った衝撃でまともに呼吸が出来ない。どうにか確実に次の攻撃をいなしてカウンターを叩き込まないと……)

 

 負ける。

 ついに依奈の脳裏に敗北の二文字が霞み始めた。

 

 衣緒里はその弱気とも言える気勢を野生の獣染みた直感で察知し、狼のような犬歯を剝き出しに口角を上げた。

 

 二人の視線が重なる。

 

 その瞬間衣緒里の姿がブレ(・・)た。

 

 次の瞬間、依奈から数10㎝も離れていない目の前に、渾身の切り上げ(アッパーカット)の構えを取った衣緒里の姿が現れていた。

 驚愕に怯む暇もなく、繰り出される全力を込めた切り上げ、想定していたよりも数瞬速くに打ち込まれたその一振りを両の手のCHARMで受け止め無理やり抑え込まんとする!

 しかし、最下段から上り龍の如く繰り出される身の丈を超えるほどの刃。そんなものまともに受け止めようとでもしてみれば、

 

「ブチ飛べぇぇぇぇッ!!」

 

 当然、鉄塊の如きCHARMを二本携えたリリィであろうとも軽々と天井へとその身を打ち上げた。

 

(た、高い!なんて馬鹿力!?)

 

 眼を開けると飛び込んでくるのは眼下数10mに映る衣緒里とギャラリーから見上げる多くのリリィの視線。

 しかし、依奈もただではやられない。打ち上げられるも、空中を舞いながら両の手のCHARMを射撃形態へと変形。凄まじい衝撃により揺らされる三半規管を根性で無理やり抑え込み、地上に残った無法者を罰さんと銃口を向けた。

 

 衣緒里は姫君を宙の旅へと送り出した直後にCHARMを分離変形、左手に握った小銃の銃口を既に空へと向けていた。

 口角が上がると共に引かれた引き金、炸裂音と共にその銃口が吐き出したのは―――

 

(散弾ですって!?)

 

 放射状に発射された無数の弾丸が依奈の逃げ場を奪いながら空へと追い立てる!

 たまらず自身に向かう弾丸防ごうと両手の銃を連射。

 自身に迫るそれのほとんどを打ち落とし、受ける弾丸も障壁で防ぐが、衝突した弾丸が炸裂し黒煙が宙を埋めた。

 

 依奈と衣緒里を挟む空間には、マギの弾丸が砕けたことによる煙とマギをもうもうと立ちふさがり、視認性を著しく妨げていた。

 

(しまった。これだと下が見えない!それに散弾まで打ち続けられたら防ぎきれない!)

 

 大地から放たれる悪鬼の弾丸を目を凝らしながら警戒するも、煙によりその姿すら見えない。

 

(どこなの、次は一体どこから!?)

 

 依奈の注意が地面に完全に向けられていた時、今度の発砲音は宙を舞う自身の『真横』から聞こえて来た。

 

「ウソ!?」

 

 反射的に銃声の方向にCHARMを向け発砲し弾丸を防ごうとするも、続けて三発の発砲音。今度のそれは依奈を真横から取り囲むように鳴り響いた。

 

「どういうことなの!?」

 

 空中で身を翻しながら弾丸を乱射するが、その狙いは粗くなり、その殆どが依奈の張った弾幕を搔い潜り、防御障壁へと喰い付く。

 四方から放たれた散弾の嵐が姫の纏うゴシック調の制服を穿ち、仕立ての良いそれを無惨に食い破る!

 

 痛みと衝撃で朦朧とする依奈の眼下で黒煙が晴れ始め、観客の姿が露わになり始める。

 緑髪に白いカチューシャを載せた可愛い後輩の姿が、やけに鮮明に見えた。

 

『依奈様!上です!』

 

 その言葉にはっと驚き宙を振りかえると、僅か数m先まで近付いた天井に、両刃剣を突き刺しぶら下がる無法者の姿。獲物を逃がさんとする捕食者の眼。

 連続で浴びせられた弾丸により死に体となった依奈に、天井を足場にした衣緒里が猟犬の様に襲い掛かる!

 

「当てられないんだったら…」

 

 再度両刃剣と散弾銃を合体、そして即座に砲撃形態へとムラマサは移行。自由落下を始めた依奈の腹部へと銃口を噛み付かせた。

 

「当てに行くんだよなぁ!?」

 

 『ムラマサ』の砲身が、この日最大の咆哮を放った。

 




・ロスヴァイセの皆様
口調が無限に分からん…
公式はもっと出番増やして♡

・ゆゆりりかえ
ポンコツ夢結様なんていなかった。
ちゃんと妹を導く姉ムーブが◎
楓さんは…うん!

・二水
スクープですぅ~!

・千秋
どさくさに紛れて夢結がムラマサを使用した際の戦闘データを取っていたらしい。

・謎のカタコトの先輩
一体、何者なんだ・・・?


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