TSしたい親友と止めたい俺の攻防戦   作:pantra

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第2話

 

 

 夕飯後、リビングのソファにだらしなく座りながら何となくテレビを見る。

 映し出されているのは今人気絶頂の若手女優が主演している連続ドラマだ。そして主演女優の親友役であり、彼女の相手役に横恋慕する役柄を演じている、もう一人の女優。

 主演女優に引けを取らない美貌と抜群のスタイルを誇るこの女優が元は男だなんて、とてもではないが外見を見ただけでは信じられない。

 イケメンと元イケメンが唇をくっ付け合ってレロレロしている様子を苦々しく眺めていた俺は、元イケメン現美人女優のブラウスの前が開かれて胸の谷間が露わになったところでチャンネルを変えた。

 

 変えた先の番組は、どうやら報道番組のようなワイドショーのような何かだった。こういうのが好きな我が母ちゃんなら詳しいだろうが、あいにく俺は興味がない。

 画面上で一人のおっさんが大写しになる。脂ぎっていてデブで不細工なおっさんで、それなりに名の通った評論家だか大学教授だかの肩書の持ち主だ。

 学があるというわりに口汚く、唾を飛ばして持論を展開しているこのおっさんも元は女だそうだ。昔から女性の社会進出に関する熱心な論客として有名だったらしいが、俺たちの世界に性転換魔法がもたらされたばかりの頃、その賛否が盛んに議論されている最中にいつの間にやら性転換していたらしい。

 結局、女として地位を得たいんじゃなくて、地位のある男になりたかったんだねぇ、とは我が母ちゃんの弁である。

 ちなみに性転換して以降、夜遊びがすごいらしい。時々母ちゃんは俺にはよく分からないところから情報を持ってくる。

 

 俺はため息を吐き出してテレビを消した。

 今の世の中、性転換を経験している人間は探せばそれなりに出てくる。

 有名人は話題性ゆえに認知されやすいけど、一般人でも意外と身近なところにいるものだし、そういった決断をした人々に対して差別的な言動を取ることはタブーとなっている。

 立ち上がってリビングから出て行こうとする俺に母ちゃんが声をかけてきた。

 

「もうテレビ見ないの?」

 

「見ない。部屋で勉強する」

 

「あら珍しい。後でコーヒー持って行ってあげようか」

 

「後でな」

 

 ひらひらと手で応じて、俺は自分の部屋に戻った。

 

 

 

 性転換魔法とは何ぞや。

 それは完全なる生まれ変わりである。

 

 我が親友の衝撃の告白を受けたその日、帰宅した俺はネット上で検索した。

 そして出てきた解説サイトに書いてあった一文がこれだ。

 

 完全なる生まれ変わり。

 男は女に、女は男に。

 肉体はあらかじめそうであったのと同義に一切の瑕疵なく再構成される。ここでいう瑕疵がないというのは、主に性差が見られる器官の充足、そして生殖能力を十全に発揮できることを意味している。

 被施術者が元来有していた先天的ないし後天的異常や疾患を取り除けるわけではないが、少なくとも外科的に外観を整える手術とは、この点において根本的に隔絶している。

 

 どのようにしてそれを実現しているか、という解説部分は正直俺には理解不能だった。何しろ専門用語のオンパレードな上、半分以上が地球言語で発音不能な異世界言語が表記されているのだ。

 とにかく何だかよく分からんやり方で体を造り替え、ついでに元の精神と新しい肉体が齟齬を起こして変調を来さないようパスを繋ぎ直すのだそうだ。

 それによって精神の方も新しい肉体にしっかりと適合するようになる。

 

 この点からも軽い気持ちでカジュアルに性転換しようとする人たちには注意喚起が為されている。違う性別をちょこっと体験してみたい、なんて軽率に性転換したら最後、精神的にもきちんと性転換してしまうからだ。

 二度目以降の性転換は不可能ではないが、繰り返す度にリスクは高まるため、特別な理由が認められない限りは施術が受けられるのは二回までとされ、間隔も五年以上開けることが義務付けられている。

 ちなみに心身の不調が主なリスクだが、かつて異世界でこの魔法が開発されたばかりの頃は同一人に無制限に魔法を施した結果、原形質のスープのように被施術者の肉体が崩壊してしまったそうだ。

 今ではそんな危険はほぼ100%あり得ないと解説サイトにも書いてあったが、『ほぼ』というところがミソだ。

 実際、どこぞの独裁国家が異世界人しか扱えない性転換魔法の秘密を得ようと実験を繰り返した結果、大量の人間を二目と見られない姿に変えてしまったという都市伝説があるらしい。

 

 というように、調べれば調べるほど深い闇が垣間見えてくる性転換魔法だが。

 一般的に言えばしっかり安全性は確保された魔法技術だし、それを必要とする人たちにとってはまさに神の祝福のようなものだ。

 だから人類は異世界と接触して性転換魔法の存在を知った時、自分たちが変わることを選択した。すなわち、原則的には生まれ落ちたままの性別で生きざるを得ない世界から、人類が自らの意思で性別を選択できる世界へと変わることを。

 

 

 

 正直なところ、俺にはどうして親友が性転換魔法を受けたがっているのか分からない。

 まだ聞けていないが、それなりの理由はあるのだろうと思う。

 よほどの馬鹿じゃない限り軽々しく性別を換えるなんてことできないし、結構な額の費用もかかると聞いた。

 でもそれらを理解した上でなお、本音を言えば俺は親友に性転換して欲しくない。

 純粋に戸惑っているというのもあるし、俺たちの関係性が変わってしまうかもしれないという恐怖もある。

 親友がもし女になったら、これまでのように気安く接することは難しくなるだろう。

 周りの目だってあるし、いずれお互い恋人ができたりすれば異性同士の友情を維持するのはますます厳しくなる。

 

 結局のところ、俺は親友を失いたくないのだ。

 たとえそれが親友自身の選択によるものなのだとしても。

 

 やめてくれ。頼むから俺から大事なものを取り上げないでくれ。

 

 最初に打ち明けられた時、声を大にしてそう訴えるべきだったのだろうか。

 今からでもそう伝えたほうがいいのだろうか。

 親友自身の意思を踏みにじり、傷つけることを分かった上で。

 それでも俺はわがままを押し通すべきなのだろうか。

 

 

 

 自室で一人思い悩んでいると、スマホからRINE着信を知らせる音が鳴った。

 アプリを開くと、我が親友が一件のメッセージを送ってきていた。

 

【写真送るね】

 

 簡潔な一言を俺が確認したのとほぼ同時に新たにメッセージ、というか画像が表示される。

 それを見た俺は思わず目を見開いた。

 なぜならそこには、地味なグレーの下着姿の我が親友にそっくりな女の子の姿があったからだ。

 

「え? 何で? ええ?」

 

 ちなみにほんの数時間前、親友と俺は一緒に下校している。その時まで確かに親友は男だったし、本来性転換魔法の施術は効果が定着安定するのに最低三日間から一週間くらいかかると言われているので、この画像の女の子が親友であるはずがない。

 だとするとこの女の子は誰なのか。何なのか。

 顔は我が親友とよく似ており、相当な美少女だ。色気ゼロなグレーのスポブラに包まれた胸部は十代半ばの外見からすると十分に豊かな質量を誇っている。折れそうに細い腰や手足との対比がいっそアンバランスで、背徳的にすら感じられた。

 画像を拡大しつつ隅々まで確認し終えた俺は一つの結論に至り、天井を仰いで手のひらで顔を覆った。

 

 これ、我が親友の妹ちゃんじゃないか?

 

 親友の妹ちゃんは現在中学三年生。身長は兄貴よりやや低く、顔もよく似ていて昔から頻繁に双子と間違われてきた。

 下着姿を見たことがあるわけではないが、体型もこの画像とほぼほぼ同じ。小柄な兄貴と比べると発育している印象がある。

 ちなみに妹ちゃんと俺との関係はあくまで親友を介したものに過ぎず、直接やり取りするような親しい間柄じゃない。まあ、親友宅へ行ってこれまで散々一緒に遊んだことがあるから、そうそう知らない仲でもないんだが。

 

 ピロン、と再びスマホがメッセージ着信を知らせる。

 

【流出させたら社会的にも物理的にもコロスから♡】

 

 いかにも妹ちゃんが口にしそうな毒舌メッセージに、ますます俺の中で確信が深まる。

 常に柔和で滅多なことでは口調が乱れない我が親友とは対照的に、妹ちゃんは結構な毒舌家だ。我が親友の親友たる俺に対しても昔から容赦がない。まあ、それはそれで可愛いものだが。

 

 それにしてもなぜ妹ちゃんは俺のスマホに下着姿なんて送り付けてきたのだろうか。

 もしや……俺が好きとか?

 ……いや。いやいやいや、それはないな。

 またこれをネタに俺をからかうつもりなんだろう。

 これまでの経験上間違いない。

 

 我が親友のスマホを勝手に使ってまでやることではないと思うし、下着姿を送るなんて体を張りすぎだと思うが。

 親友はこれに気付いているんだろうか。明日それとなく話して、親友から妹ちゃんに注意してもらおう。送るならせめて服を着て欲しいと。

 わたしの下着姿見て興奮したくせに。キモ。

 とか言われそうだな。

 

 髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、俺は天井を見上げていた視線を下へ降ろした。

 我ながら節操がないと思うのだが、俺は今勃起していた。

 昔からよく知るとはいえ、ご近所でも評判の美少女である妹ちゃんの下着姿をじっくり隅々まで見てしまったのだ。興奮するに決まっている。

 よって我が相棒がやる気を出してしまうのも致し方なし。

 

「とはいえすごい罪悪感あるなこれ」

 

 ちんちんはギンギンだが、すっきりさせてしまおうという気が微塵も起きない。

 どの道母ちゃんがいつコーヒーを持って乱入してくるか分からない状況下でオナニーなんてできないのだが。

 とりあえず部屋に転がっているクッションを膝の上に置いてやる気満々の我が相棒を隠すことにしよう。

 妹ちゃんの画像も見られるとまずいので一度表示を消し、母ちゃんが近づいてくる気配がないのを確認して再度表示させた。

 

「うーん……、ヤッベーよなぁ」

 

 何がヤバいのかと言えば、俺が性転換後の親友に異性としてムラムラしてしまう可能性がこの画像で証明されてしまったということだ。

 実際、クラスの女子の脳を破壊するレベルの美少年である親友が女の子になったら、妹ちゃん以上の美少女になってしまうのでは?

 これでおっぱいが大きかったりした日には終わりですよ、終わり。

 

「それでも……それでも俺たちの友情は誰にも奪えない。そうだよな?」

 

 柔らかそうな妹ちゃんのおっぱいを拡大表示させつつ俺が芝居じみた呟きを口にしていると、ノックの音と同時に「入るわよー」と母ちゃんの声がして部屋の扉が開いた。

 もちろん画像は光速で消したが、クッションを抱きしめている俺を面白そうに見ていた母ちゃんの様子から推察するに、勃起してたのバレてたわこれ。

 

 このところ人前で勃起する機会が多すぎて性癖が壊れそう。

 助けて、親友。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ちなみに妹ちゃんは下着写真を送っていません。
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