『スパイ教室 二人のスパイ』 side story   作:眼鏡鏡眼

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モニカ編
caseモニカ&ジキル『メイド服騒動編』①


 

 

「──さぁ、皆さん! 『今からモニカちゃんメイド化計画』について話し合いますよっ」

 

 広間にて。

 そう息巻いて、ホワイトボードを叩くのは豊満なバストが特徴的な愛らしい顔の少女──リリィだ。

 コの字の形をしたソファに座る、少女達──ティア、ジビア、アネット、ハイドの4人が「うえーーいっ!」と歓声を上げる。

 

「因みにグレーテちゃん、サラちゃん、エルナちゃんの3人は任務中なので今回は省きますっ」

 

 そう言って、キュキュっと黒いマーカーペンを持ったリリィがホワイトボードに何やら書き出す。

 

「いやいや、ちょっと待て。キミたち、そんな事に時間を割いてる暇あるの?」

 

 そんな少女達のノリに反して、戸惑いながら発言する灰色髪の青年──ジキル。

 

「何言ってるんですか、ジキルくんっ。これはジキルくんが言い出しっぺなんですよ?」

 

「いやぁ、確かに最初に言ったのは俺かもしれないんだけど……アレは冗談で」

 

 ずいっとジキルの襟を掴んで顔を近づけるリリィが真剣な表情で口を開く。

 

「……モニカちゃんのメイド服姿、見たいんですよね?」

 

「いや、別に見たいって言うわけじゃないんだけど」

 

「やっぱりそうですよねぇええっ。モニカちゃんのメイド服姿見てみたいですよねっ。『ご主人様〜』って呼ばれたいですよねぇえええ?」

 

「いや、言ってない……あと何か変な願望を足すな……いや。もう、いいんだけど」

 

 圧に負けて、ジキルはため息をこぼす。

 なぜ、こんな謎の会議が始まったのか。それは数時間ほど前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「──おいコラ、待てぇぇえええっ! アネットぉおおおおおっ!?」

 

 陽炎パレス中に少女の怒声が響き渡る。

 自室で静かに本を読んでいたジキルは何事かと、声が聞こえた広間へと向かった。

 

「俺様、逃げますっ」

 

「逃すかぁあああああっ」

 

 広間では青銀髪の少女──モニカが、灰桃色髪の少女──アネットを追いかけ回していた。騒ぎを聞きつけて他の少女たちも広間に集まる。

 しばらくして、モニカがアネットを捕まえる。「俺様、捕まりましたっ」とアネットが屈託なく笑った。

 

「何かあったんですか? モニカちゃん」

 

 広間に集まったメンバーを代表して、リリィが疑問を口にする。

 

「あぁっ? こいつがボクの服を勝手にメイド服に改造したんだよっ」

 

 息を切らしたモニカが苛立たしげに吐き捨てた。それを聞いた皆は、「あぁ、またか……」と納得した。

 アネットはディン共和国ではあり得ない水準の技術力と知識を持っている。その技術力と知識が任務に向けばいいのだが、そのほとんどはおかしな方向で発揮される場合が多い。

 壊れた水道口を三本に変え、ハズレの蛇口をひねると爆発するようにしたり。超吸引性の高い掃除機を開発し、部屋を掃除するどころか半壊させたり。身長が伸びた仲間の頭蓋を削るために巨大な削り器を自室に造ったり。

 そこに遠慮とか、他者への配慮は一切ない。

 純真無垢。自由奔放──『灯』一の問題児にして、異端児。それがアネットだ。

 

「ええと、アネット。一応、何でモニカの服をメイド服に改造したのか理由を聞いてもいいかしら?」

 

 凹凸に富んだ四肢を持つ美しい黒髪の少女──ティアがアネットに優しく問いかける。

 アネットが天使のような無邪気な笑顔で答えた。

 

「俺様、洗濯機を直したんです!」

 

 その答えに、集まった少女達は顔を見合わせて首を傾げる。

 

「あ、あぁ。そうなの? ありがとう……でもそれってモニカの服を改造したのと何の関係があるのかしら?」

 

「関係ありますっ。俺様、洗濯機を直すときにもっと効率を上げるために洗濯機の回す速度を倍以上に上げたんですっ。それで、試しに近くにあったモニカの姉貴の制服を入れたら、ビリビリに破けてしまいましたっ」

 

「いや、それはもう直すって言うより、改造ね……」

 

 

 ふぅ、とティアがため息をこぼす。

 ここまで聞いて、ようやく話が繋がった。つまるところ、そのビリビリに破けた制服の証拠を隠滅するために制服も直そうとしたのだろう。ただ、それだけじゃつまらなくなって、メイド服に改造したようだ。

 

「キミは能力の無駄使いすぎなんだよぉぉおおっ!?」と、モニカがアネットの頭をガクガクガクーっと、シェイクする。

 

「まぁ、作っちまったもんはしょうがないんじゃないか?」

 

 そう言って、ジキルはメイド服を手に取る。

 念入りに触ってみないと分からないが、ちゃんと裂けてしまった布と新しい布を繋ぎ合わせるように裁縫してある。元々の布がどれだけ残っていたのか想定すれば、もう新しい布を用意して作り直した方が早かっただろう。本当に才能の無駄使いだなとため息をこぼしたくなった。

 

「んで? コレどーするんだ? モニカ」

 

「はぁ? どうするも何も、捨てるに決まってんじゃん。着る事もないしね」

 

 モニカが、冷めた目で当然のようにそう答える。

 

「え、勿体なくね? 多分コレ、寸法もモニカにピッタリだし着てみてもいいんじゃねぇか? ……というか、モニカのメイド服姿とか見てみたいけどな」

 

 ちょっとした冗談のつもりだった。

 あのモニカがメイド服を着て「お帰りなさいませ、ご主人様」とか言ってる姿を一瞬だけ想像して、ちょっと面白いな、と思ったからこそ出た言葉だった。

 まぁ、あり得ない話ではあるのだが。

 

「────うわぁ、キモ」

 

 ゴミを見るかのような瞳をしたモニカがそう告げた。

 空気が一瞬で凍りつく。「ひぇっ」と思わずジキルは小さな悲鳴を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

(──いや、もう本当に怖かった。モニカ相手に軽口を言うもんじゃないな)

 

 ジキルは女性からあんなにもハッキリとした嫌悪感のある目で見られたことがなかった。あまりの衝撃に、その後で弁解することも出来なかった。

 

「それにしても、ジキルからあんな言葉が出るなんて意外だったわ。先生と一緒で、そういう事には興味がないと思っていたのに」

 

 隣に座るティアが悪戯っぽい笑顔を浮かべる。ティアの言葉にジキルは首を振った。

 

「いや、別に興味はないよ。最初に言ったけどアレは冗談なんだって」

 

「でも、口に出たって事は少なからずそういう願望があるって事じゃない?」

 

 そう言ったティアがジキルの太ももに触れてくる。

 

「なんなら、私も着てあげるわよ? メイド服。『ご主人様〜』って言って、首を垂れて、恭しくご奉仕してあげるわ……色々と」

 

「いや、お前だと普段からやってそうで面白くないから別にいい」

 

「そうでござるよ。ビッチはお呼びじゃないでござる。というか、引っ込んでろ」

 

「ちょっと、2人とも私に失礼すぎないっ?」

 

 黒髪の童子のような少女──ハイドまでもがそう吐き捨てる。ジキルに手を払い除けられたティアが涙目に訴えた。しかし、本当のことなんだから仕方がない。

 

「まぁ、まぁ! ティアちゃんの事は置いといて、ですよ」

 

「置いとかないでよっ」

 

「問題はどうやって自然とモニカちゃんがメイド服を着なくちゃいけない状況を作るかなんですよねぇ」

 

 さらりとティアを無視したリリィが首を捻る。

 

「うーん。メイド服を着るしかない状況に追い込む……とか?」

 

 白髪の凛然とした少女──ジビアがそう答える。

 

「なら俺様、モニカの姉貴の服を全部メイド服に改造しますっ」

 

「いやいや、それよりもモニカ殿の服をメイド服以外、全部焼き払っちゃえばいいんでござるよ」

 

 と、アネットとハイドの2人が楽しそうにそう答える。超容赦なかった。

 

「うーん。確かにそれが早いんですけど、バレた場合の報復が怖いんですよねぇ」

 

「いや、怖いってもんじゃないだろ? 殺されるぞ、普通に」

 

 というか、こんな作戦を立ててる事を知られた時点で殺されそうなんだが。

 

「──何をしている、お前たち」

 

 振り返ると、黒髪長髪の美しい男性が立っていた。『灯』のボス、クラウスだ。

 

「あ、先生。いやぁ、今モニカちゃんにどうやったらメイド服を自然に着させられるか作戦を立てていまして」

 

「……また、くだらん事を考えているな。そんな事をしている暇があったら訓練しろ」

 

 ため息をこぼしたクラウスが、持っていた小さなメモ書きをジキルに渡す。それは任務の詳細が書かれた暗号書だった。

 

「潜入の任務だ。メンバーは2人。ジキルともう1人。メンバーの選任はジキルに任せる」

 

 用が済むとクラウスは玄関の扉を開け、さっさっと去っていく。また次の任務に出たようだ。

 

「どんな内容の任務なんですか?」

 

 リリィがそう言い、渡されたメモの内容を覗き込む面々。

 そして、その任務内容に思わず皆、顔を見合わせた。

 

 

 

 

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