『スパイ教室 二人のスパイ』 side story   作:眼鏡鏡眼

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そう言えば、前置きに書いた事あったか忘れたんですが『スパイ教室』アニメ化決定しましたねぇ。
どこまでやるのかなー?





caseモニカ&ジキル『メイド服騒動編』③

 

 

 

 真夜中。静寂が支配する夜の街中で、バスパール家の邸宅から一人の女性が出てきた。黒い髪を夜風に靡かせながら、女は足早に逃げるように舗装された道を歩いてゆく。

 

「──待ちなよ。こんな真夜中にどこに行く気?」

 

 曲がり角から人影が現れる。暗くてしっかりと視認はできないが、その声と髪型のシルエットに女性は見覚えがあった。

 

「まさか、今更逃げるつもり? 遅すぎでしょ、ガルガド帝国のスパイ──いや、クレア(・・・)さん」

 

 女性──クレアは状況を察して、舌打ちする。

 迷いはなかった。懐に隠していた拳銃を抜き、最速で現れた人影に焦点を当てる。

 しかし、それよりも早く人影──青銀髪の少女、モニカは動いていた。

 

「コードネーム『氷刃』──時間の限り、愛し抱け」

 

 シャッター音と共に放たれる光線。それはあらかじめ設置されていたガラスに反射し、クレアの目に直撃した。

 

「────ぁぁぁあっ!?」

 

 その衝撃でクレアが怯む。その隙にモニカはクレアに肉薄し、地面に組み敷いた。腕を締め上げられ、クレアは持っていた拳銃を取りこぼす。

 

「諦めなよ、オバさん。アンタはもう詰んでるんだよ」

 

 そう得意げにモニカが告げる。「ちなみに──」と口を開く。

 

「ウォルターさんの暗殺も失敗してるよ、アンタ」

 

 その言葉と共にもう一人、クレアの目の前に現れる。灰色髪の青年──ジキルだ。懐からジキルが何やら取り出す。

 

「これ、執務室に仕掛けていたものだろ? ウォルターさんに睡眠薬を盛って、眠っている間に爆殺──そういう計画だったわけだ」

 

 クレアの前に置かれたものは小型の時限爆弾だった。既に解除されているのか、数字の針が全く動いていない。

 観念したのか、クレアが力なく項垂れる。

 これで任務は達成した。あとは同胞にクレアの身柄を引き渡すだけだ。

 しかし、その前にジキルはクレアに質問したい事があった。

 

 

 

 

 

 

 

 クレアの身柄を到着した同胞に引き渡したジキルとモニカはバスパール家の邸宅へと向かっていた。任務は達成したとはいえ、唐突に姿を消すわけにもいかなかったからだ。

 

「──まさか、『好きになってしまったから』とはな」

 

 ため息を漏らす。

 その言葉はジキルがクレアに対してした質問の答えだった。その質問とは、何故ウォルターをすぐに殺さなかったのか。

 秘書という立場を得ていた彼女にはウォルターを殺せる瞬間などいくらでもあったはずだ。でも、彼女は実行しなかった。執務室に設置されていた爆弾も殺傷能力が低いもので、ウォルターが眠る執務机よりも離れた本棚の奥に置かれていた。仮に爆発したとしても、よほど運が悪くない限り死ぬことはなかっただろう。

 ジキル達が来る前に派遣されたディン共和国のスパイに正体を見抜かれ、その口封じにスパイを殺した後も彼女は逃げることはしなかった。逃げなければ次のスパイが送り込まれ、今度こそ捕まる事は彼女も十分承知していた。

 それでも彼女は、自分の気持ちに整理がつくまでウォルターのそばに居たかったのだと言う。

 

「恋は盲目、なんて言うけれどその通りだな」

 

 恋は人を狂わせる。思考を鈍らせ、判断を誤らせる。

 スパイなら、目的と信念の中で生きろ──これは師匠の言葉だが、改めて身に染みる。

 恋はスパイを滅びへと導きかねない。

 

「その通りだね……でもさ」

 

 今まで黙っていたモニカが言葉を続ける。

 

「スパイだって人間じゃん? クレアさんみたいにボクらも誰かに恋をするかもしれない。それは仲間だったり、全然関係ない人だったり……敵だったり」

 

 モニカが顔をジキルに向ける。ただ、視線が合わさる事はなかった。

 

「その時、ジキルさんはどーするの?」

 

 難しい質問だった。なにぶん、今まで恋というものをした事がなかった。それに恋に現を吐かす暇もなかった。ジキルの頭の中は問題しか起こさない相棒(ハイド)の事ばかりだし、その胸中には妹を殺され、『鴉羽』に対する憎悪の炎が燃えている。

 自分が恋をするなど考えられなかった。ただ、それでもあえて答えるとするならば。

 

「何がなんでも守るだろうな、そいつを」

 

 もし自分が恋をするほどの人ができたなら、必ずジキルはそうする。この痛みに満ちた世界で、もう二度と奪われたくはないから。

 

「……はは、極上だね」

 

 モニカの乾いた笑いが、夜の街に響いた。

 

 

 

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