『スパイ教室 二人のスパイ』 side story   作:眼鏡鏡眼

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あ、ちなみにこちら内容はいじってません。
悪しからず





caseアネット&ハイド『二人の問題児編』②

 

 

 

「むぅ……追い出されてしまったでござるな」

 

 多くの人々が行き交う、賑やかな商店街の通りにて。

 パフェ専門の出店の前にある長椅子に腰掛けたハイドが、ぽつりと呟く。

 

「ジキルの兄貴、めちゃくちゃ怒っていましたねっ」

 

 隣に座るアネットが楽しそうに笑って応える。まったく反省している様子がなかった。

 つい三時間ほど前の事。

 アネットが撒菱型の小型爆弾を放り投げた事により、ジキルが借りている部屋が半壊した。幸い、怪我人は居なかったものの、爆発音を聞きつけて駆けつけた他の『灯』の少女達には怒られたり、呆れられたりされ、『灯』のボスであるクラウスには静かに怒られた。そして最後にその部屋の主……ジキルにはめちゃくちゃ怒られた。

 ハイドとアネットは二人揃って拳骨を喰らい、一時間ほど正座で説教される事になった。説教の途中で、アネットが飽きて逃げようとしなければ、もう少し早く終わったかもしれない。

 その後は半壊した部屋の修繕をする事になったのだが……アネットが部屋の中に改造を施そうとしたり、ハイドが修繕するそばから物を壊すので、余計にジキルに怒られ、二人揃って陽炎パレスを追い出されてしまった。

 不服そうに唇を尖らせながら、ハイドが「というか、」と口を開く。

 

「拙者、やっぱりアネット殿が考えた『撒菱型の小型爆弾』はやり過ぎだったと思うでござるよ。あそこは拙者が考えた『電流が流れる撒菱』を披露すべきだったでござるよ」

 

「えー? でもアレは置いただけじゃ効果が分かりにくいですよ?」

 

「そこは、ジキル殿に触れてもらえばいいでござろう? もしくは床を水浸しにして電気を通しやすくするとか……」

 

「それでもやっぱり地味過ぎます! 俺様は派手なのがいいですっ」

 

「でもそのせいで、ジキル殿に怒られる事になったのでござるよ?」

 

「むむっ。もしかしてハイドちゃん、俺様のせいにしようとしてます? 俺様、ハイドちゃんが考案した物を披露したとしても怒られたと思いますっ」

 

「むっ、そんな事ないでござるよっ?」

 

 ーーいや。普通に怒るわ、とこの場に灰色髪の青年がいたら、そうツッコんでいただろう。醜く責任の押し付け合いを始める二人の少女。

 

「大体、アネット殿が考えるものは一辺倒過ぎるでござるよ。撒菱型の小型爆弾、手裏剣型の爆弾、使用者以外が一分以上持つと爆発する短刀、鎌の部分が爆発する鎖鎌……全部爆発するものばかりでござるよなっ?」

 

「そういうハイドちゃんだって、電流が流れる撒菱、電気を帯びる手裏剣、使用者以外が一分以上持つと電流が流れる短刀、電流が流れる鎖鎌……全部電気が流れるような物ばかりですよねっ。なんですか、電気が流れる系はカッコいいとか思ってるんですかっ?」

 

「ござっ!? か、かっこいいに決まっているでござろうっ?」

 

「全然かっこよくないです、地味過ぎますっ」

 

「アネット殿は派手過ぎでごさるよっ」

 

 ──いや。どっちも変わんねぇよ、とこの場に灰色髪の青年がいたら、そう呆れていただろう。

 放っておいたら、延々と低レベルな言い合いをしそうな二人だったが──

 

「──スペシャルイチゴパフェと、スペシャルミルクチョコレートパフェのお客様ー。お待たせしましたぁ」

 

 ナイスタイミング、と言うべきか。頼んでいたデザートが来た事によって、二人の醜い言い合いは終了した。「うーん、美味でござるなぁ」「俺様、美味しすぎて感動しますっ」と、二人は口々に感想を漏らしながらパフェを食べる事に集中する。

 

「──ふぅ。ごちそうさま、でござる」

 

 パフェを食べ終えたハイドが満足そうに手を合わせた。隣に座るアネットもちょうど食べ終えたらしく、満足そうに唇を舐める。お互いに責任を押し付けあっていた事など、とうに二人は忘れてしまっていた。

 それでも、ジキルにめちゃくちゃ怒られた事は覚えていた。あの怒り様は、たった一日では収まらないだろう。そんな人物がいる家に帰る、というのは中々に気が引けるものがある。

 ふと、ハイドが「あっ」と何か思いついたように口を開いた。

 

「拙者、良い事を思いついたでござる! 拙者たちが考えた道具がとても役に立つという事を証明できれば、ジキル殿の怒りも収まるかもしれないでござるよ」

 

 ハイドはジキルに説教されていた時を思い返す。たしか、ジキルはハイド達に『使えない道具を作るんじゃない』と怒っていた。ならば、ハイド達が考案した道具が『使える道具』という事が証明できれば、彼の怒りも収まるのではないだろうか。

 

「いや、むしろ拙者たちに怒った事は間違いだったと、ジキル殿から後悔で涙を流しながら謝ってくれるかもしれないでござるよ」

 

 ふふん、と得意げに胸を張るハイド。

 ちなみに、絶対にそんな事にはならない。そもそも、ジキルがハイド達に説教をしていた時に言ったのは、『使えない道具を作るんじゃない』ではなく、『使いこなせない道具を作るんじゃない』である。ハイドの隣で説教を聞いていたアネットもそんな事を言ってましたっけ? と首をひねる……が、どうでもいい事なので、ハイドの間違いを指摘する事はなかった。むしろ、

 

「その通りですねっ。俺様もジキルの兄貴の発言にはカンカンです! 見返してやりましょうっ」

 

 一緒になって都合よく解釈して、見当違いの案に乗るぐらいである。

 

「しかし、どうするでござるかな。証明しようにも相手がいないでござる」

 

 証明と称して、ジキルで試すのは本末転倒である。彼の怒りのボルテージを上げかねない。都合よく、手頃な悪党でも出てきてくれればいいのだが。

 

「ハイドちゃん、あいつらなんかどうですか?」

 

 アネットに肩を叩かれ、視線をずらすハイド。

 そこには黒ずくめのスーツを着た強面の男たちが数人。その内の一人は高価そうなアタッシュケースを持っている。賑やかな商店街の道を抜けて建物と建物の間の細道に入って行くのが見えた。男たちが入っていった細道の先にはたしか、取り壊し予定の建物が並ぶ場所があったはずだ。

 ──都合よく、手頃な悪党がいた。

 

「ナイスでござる! アネット殿、早速奴らを追うでござるよっ」

 

「わかりましたっ」

 

 そう言って、パフェのお代を支払うと二人の少女は足早に気付かれないように、黒ずくめの男たちの後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、取り壊し予定の小さなビルだった。

 鉄骨が剥き出しの閑散としたビルの中で、黒ずくめのスーツを着た男たちが、アタッシュケースを開ける。その中には大量の札束があった。それを見て満足そうに頷いた恰幅の良いスーツ姿の男が、大量の札束と引き換えに怪しげな白い粉が入ったリュックを、黒ずくめの男たちに手渡した。

 麻薬の密売である。

 取引を終えた男たちは素早くその場を離れようとした──その時。

 

「待つでござるよ、悪党ども!」

 

 そんな言葉と共にビルの高いところに位置する窓枠から現れたのは黒髪の小柄な少女──ハイドだ。3メートル以上ある高所にも関わらず、静かに着地したハイドは男たちを指差して、得意げに胸を張る。

 

「麻薬の密売とは卑劣なり! そんな悪党どもには拙者たちの発明品の実験台──じゃなかった。ええと……そう、餌食! 餌食になってもらうでござるよっ」

 

 ──いや。それ意味一緒じゃね? とその場に灰色髪の青年がいたら、そうツッコんでいただろう。ザザッと片耳に入れた通信機から、『俺様、それ同じ意味だと思いますっ』とアネットにツッコまれる。

 

「細かい事はいいでござろう!? それよりもアネット殿は自分の仕事をして欲しいでござるっ」

 

 小声でそう反論するハイドに、アネットは『わかりましたっ』と応える。

 そこでようやく、突然の闖入者に呆然としていた男たちが反応し始める。

 

「てめぇ、クソガキ! どこの組のもんだっ?」

 

「生きて帰れると思うなよっ!」

 

 口々に暴言を吐きまくる男たち。その様子を見て、ハイドは呆れたように溜息をこぼす。

 

「うーん。格好だけではなく、中身まで三流って感じでござるな。もうその手のセリフは使い回され過ぎて聞き飽きたでござるよ……こんな所で麻薬の密売をする前に、役者の養成所にでも通った方がいいでござるよ?」

 

「て、てめぇ……! ぶっ殺してやるっ。おい、お前ら!」

 

 ハイドの煽り文句にブチ切れた男たちがハイドを覆うように並び、一斉に拳銃を構える。

 男たちがその気になれば、こんな小柄な少女など瞬く間に蜂の巣と化すだろう──しかし、その当の本人、ハイドは余裕然とした態度を崩さない。

 

「ふ、今日は発明品の真価を試す場でござるからな。コレは使わないでおいてあげるでござるよ」

 

 そう言って、構えるハイドの手にはいつもの短刀が──なかった。

 

「死ねや、クソガキぃいいいっ!」

 

 怒声と共に、男たちが引き金を引こうとしたーーその時。

 

「今でござるよ、アネット殿!」

 

『分かりましたっ。コードネーム『忘我』──組み上げる時間にしましょうっ』

 

 その文句と共に、空いた窓枠を通って四方から飛んでくる数々の手裏剣。

 それは狙いを誤ることなく男たちが持つ拳銃に突き刺さり、爆発した。

 

「ぎゃああああぁっ!? なんだ? 何が起きたっ!?」

 

 突然の出来事に、男たちはパニックに陥る。

 その光景に、ハイドも驚いていた。ザザッとアネットから通信が入る。

 

『元々作っていた小型の射出機に手裏剣型の爆弾をはめ込んで、同時に射出してみましたっ」

 

「え、その調整をあの短時間でしたのでござるか? しかも射出の軌道も完璧でござったし……アネット殿、天才でござるかっ?」

 

 通信機からアネットの得意げな声が聞こえてくる。よくよく考えれば、ハイドの骨董品に等しい武具をここまで近代的な兵器に改造してみせたのだ。ハイドは今更ながらアネットの天才ぶりに驚く。

 

『それじゃあ、第二弾! いきますっ』

 

 そうこうしている内に、アネットは二回目の設置を終えたらしい。『俺様、発射しますっ』と、いう通信音が聞こえると、再び窓枠から手裏剣型の爆弾が男たちの足元に飛来し、爆発した。

 完全に戦意を喪失した男たちは、我先にとビルから脱出しようとする。

 

「あ、逃がさないでござるよ!」

 

 ハイドは片腕を地面につき、両足を広げ、姿勢を地面ギリギリまで低くする。そして逃げ惑う男たちの足元に狙いをつけ、腰に装備した『発明品』をもう片方の手に取る。

 

「コードネーム『黒子』──忍び、這い回る時間でござる」

 

 次の瞬間、ハイドは手に持った鎖鎌を投げた。鎌と持ち手を繋ぐ鎖は一直線に伸び、鎖鎌は鎖の真ん中部分を軸に回転する。そのまま鎖鎌は弧を描くようにビルの室内を駆け、男たちの足元に当たり──男たちに一瞬だけ、電流が走った。

 

「こ、今度は何だあぁぁぁあっ!?」

 

 もつれるようにして男たちが一斉に転ぶ。男たちはすぐに立ち上がろうとするが、足が痺れて立ち上がる事が出来なかった。

 

「ふ、『電流が流れる鎖鎌』──やっぱり便利でござるな。どんなに敵と離れていてもこうやってワイヤーと繋げば、問題ないでござるし……流石、拙者」

 

 無駄に高等な技を披露し、ドヤ顔を決めるハイド。「さて、」とハイドは壁に向かって駆けると、そのまま壁を駆け上がり、高所に位置する窓枠に足を掛ける。

 

「アネット殿、仕上げでござるっ」

 

 ハイドの掛け声と共にアネットが『わかりましたっ』と応える。

 少し遅れて、四方の窓枠から幾つもの大きめの丸い玉が飛来し、上空で弾ける。そして玉の中に入っていた大量の水が床を濡らした。

 

「これが最終兵器──『電流が流れる撒菱』でござる!」

 

 とどめと言わんばかりに、ハイドがポーチから取り出した撒菱を放り投げる。

 これで水に濡れた男たちは完全に身動きが取れなくなるだろう。その後で男たちを捕縛し、警察に引き渡す。その成果をジキルに報告すれば──ハイドたちの計画は成功する。

 ハイドが、ジキルが後悔に涙を流し、土下座をする姿を妄想して、ほくそ笑んだ──その時。

 

『あれ? ハイドちゃん、こっちに雷マークが描かれたポーチがあるんですけど。もしかして持っていくポーチ、間違えてないですかっ?」

 

「えっ」

 

 慌てて、ハイドがポーチを手に取って確認する。

 そこには間違えないようにと『電流が流れる撒菱』は雷マーク、『撒菱型の小型爆弾』は爆弾のマークをポーチに描いたのだが……今、目の前にあるのは、爆弾のマークが描かれたポーチだ。

 

「……しまったでござる。拙者、持ってくるポーチを間違え──」

 

 そんなハイドの言葉尻を奪うように、地に落ちた撒菱が爆発する。

 ──その翌日。商店街の外れにある取り壊し予定のビルが突然崩壊し、そこに偶然居合わせた麻薬の密売人たちが巻き込まれて大怪我を負った事が、朝刊の記事に載る。

 そして、そのビルが崩壊した当日の夜。

 とある豪奢な館の前で、大きなタンコブを作り、数時間ものあいだ正座で叱られる二人の少女の姿があった。

 

 

 

 

 

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