『スパイ教室 二人のスパイ』 side story 作:眼鏡鏡眼
皆さん、楽しみですね! これでファンが増えてくれたら尚嬉しい……
ついでに二次創作も増えてくれたら嬉しい……
あ、ちなみに今回上げたものは本編で上げているサイドストーリーを少しだけ手直ししたものなので悪しからず。
case グレーテ&ジキル『男女の友情編①』
これから語られるのは、ジキルとハイドが『灯』のメンバーと出会い、再び盗まれた『奈落人形』の奪還するため、『鴉羽』の暗殺者と死闘を繰り広げるまでの間に起きた出来事についてである。
世界は痛みに満ちている──。
歴史上最大規模の戦争が世界に残したのは、理不尽な苦痛、そして、生々しい傷跡だった。
ガルガド帝国の降伏と共に「光の戦争」は終わりを告げ、現代で繰り広げられるのはスパイ達による「影の戦争」と呼ばれる情報戦だった。
戦争の被害国であるディン共和国でも諜報機関が作られ、日々多くのスパイが祖国のために命懸けで任務に当たっている。
たった一人で、戦況を大きく変えるのがスパイであるが、そんなスパイでも時には仲間と協力し、立ち向かわなければならない時がある。
その時に備えるのも、またスパイの使命なのである──。
「──クラウス。少し相談に乗ってもらいたい事があるんだが」
アースチェンジの開発区での任務を終えてから二日後の夜。
クラウスの部屋に突然、暗い顔をした灰色髪の青年──ジキルが訪れた。
バディを組んでいる少女、ハイドの事でいつも疲れたような顔をしているジキルだが、今回はそれとはまた違った、困り果てた表情をしていた。
「どうした? 僕に解決できる事であれば協力するが」
そんなジキルを気遣って、クラウスは油絵を描く手を止める。室内に置いてある椅子を使っていい事を伝えると、ジキルは「すまない」と言って、クラウスと対面するように、持ってきた椅子に腰掛けた。
ジキルが溜息を漏らしながら、口を開く。
「……グレーテと仲良くするには、どうしたらいい?」
「……なんだって?」
ジキルの言葉に、クラウスは訝しんだ瞳を向けた。
「グレーテと、何かあったのか?」
グレーテは『灯』の中で作戦立案を担当している、思慮深く、心優しい少女だ。四肢は細く、儚げで、基本的に争い事とは無縁な印象を与える。そんな彼女がチーム内で、メンバーと何か問題を起こすなど考えられなかった。
「まぁ、な……彼女、男性が苦手なんだろう? 任務の打ち合わせをしていたんだが、距離を取られてしまってな。挙げ句の果てに、体調を崩してしまって打ち合わせどころじゃなくなってな……俺なりに気を遣ってみてはいるんだが」
ジキルからその話を聞いて、クラウスは思い出したように頷いた。
クラウス相手にそんな素振りが今までなかったので、失念していた。元々、グレーテは男性が苦手で、養成学校時代は落ちこぼれの烙印を押されていた少女だった。
今までなら男性はクラウスしかいないし、大した問題にもならなかったが、これからは任務を達成するまでの間だけ、ジキルという男性がもう一人増える事になる。
「そういう事か。すまない、僕が失念していたよ……しかし、これは困ったな」
クラウスが顎に手を当てて考え込む。男性が苦手で、これから協力する関係にある仲間と打ち合わせすら出来ないというのは問題だ。場合によっては打ち合わせだけじゃなく、任務を共にする可能性もある。
早急に解決すべき問題だった。
「そうなんだよ。それで、最初の話に戻るんだが……グレーテと仲良くするにはどうしたらいい? グレーテって、クラウスなら平気なんだろ?」
そう、縋り付くような瞳を向けられてクラウスは、「いや、」と口を開く。
「僕の場合は少々特殊でな……その手の話なら、サラやティアにした方がいいと思うが」
クラウスがそうアドバイスするが、ジキルは首を横に振る。
「男が苦手な奴との接し方を女性に聞くよりも、男が苦手な奴と仲良くする事に成功している男性に聞いた方が参考になるだろ。何でもいいんだ、グレーテと仲良くなる上で何かきっかけになるような事があったなら、教えてくれ」
それも一理ある、とクラウスはジキルの問いに答える事にした。
「そうだな……まず、グレーテがシャワーを浴びている時に鉢合わせたんだ」
「………………はい?」
クラウスの言葉に、ジキルの目が点になる。
「その時にグレーテの姿を見て、僕は言ったんだ。『美しいな』、と」
「なにを言っているんだ、お前は?」
不信感もあらわに、ジキルが目を細める。
「なにって、見た感想だが……まぁ、それだけの話だ。参考になったか?」
「クラウスが天然覗き魔って事ぐらいしか分からなかったんだが」
ジキルが相談する相手を間違えたなとでも言いたげに首を横に振った。
人聞きの悪い事を言うな、と反論するクラウス。
「……まぁ、いいや。仕方ない、他のメンバーにも相談するしかないか」
最初はサラやティアあたりに相談するか、と呟いてジキルは立ち上がる。そして「邪魔したな」と言って、部屋から出ていった。
心なしか、その時にクラウスを見るジキルの目に蔑みの色が込められていた気がした。
「……人間関係というのは、ままならないものだな」
そうため息を漏らし、クラウスは再び筆を取って、油絵を描き始めた。