Fate/loneliness 4 Fate Grand order -the survival plan- 作:からすまそういち
断章五 シャルル・レ・モーガン
クルースニク
絶望の中、彼、シャルル・レ・モーガンは私の前に現れた。
クドラクも私を喰らうのに飽きどこかに去った。
私は独りだった。
一人でただ、何も思うことなく――壊れていた。
「カトル――いえ、クルースニク」
彼は木に凭れ掛かる私に手を伸ばす。
こいつは私に何を言うのか。
砕けた心で私はそう思った。
何を言われたところで私はもう何の気力も湧かないが――
「クルースニク、共に世界を壊しましょう」
だが。
その男が言ったその言葉は意外だった。
私を気にかける様子はなく、ただ、そう言うのだ。
「――は?」
「貴方の力が必要です」
「私、は。私には何もできない」
「どうして?」
「マスターがいないからだ。どこにも、私のマスターがいない。ああ、君は。私のマスターが何処にいるのか知っているのか?」
「いえ。貴方のマスターは死にました。ロキもそう言っていたでしょう。確認はもう取りました。外の世界はもうありません」
「……。ならば、私ができることは、もうない」
「いえ、まだやることはあります」
「? なにが、あると」
「弔いの言葉をまだ私達はかけていません。貴方はマスターに別れを告げたのですか?」
「いや、そんなことは。出来る筈がない」
「でしょう。この世界では貴方はマスターに別れを言えない。この世界は死者を弔うことすらできない世界だ。だから、この世界を出ましょう」
「ここを、出たらマスターに会えるのか?」
「いえ。いいえ。もう二度と、会えないでしょう」
「ならば、意味がない。私はここで腐るほかないのだ」
「それは違う。違うんだクルースニク」
彼は私の胸倉を掴んだ。
「死者に会うためにここを出るんじゃない。お別れを言うためにここを出るんだ。別れも言えないままこうして崩れて生きるつもりか。ふて腐れて、寝ているつもりか。そうじゃないだろう。さよならくらい自分の力で言いたい。そうは思わないのか」
「……言って。言ってどうなる。そんなことをしてもマスターは帰ってこない」
「大事なのは気持ちだ。別れを告げて、済々と生きるんだ。これは、貴方が貴方として生きるために必要な儀式だ。いつまでも帰ってこない過去に囚われるんじゃなく、前に進むために必要なんだ」
「お前も、誰かを失ったのだろう。ならば、どうしてそう前を向ける。お前は、何故そこまで強いんだ」
「私には、約束があるから」
「約束?」
「人は約束をすると強くなれる。だから、貴方も約束しましょう。ここを出て、マスターに別れを告げると」
彼は強情だった。
強情で、とても真っ直ぐな目をしていた。
ああ。
私はその目を知っている。
マスター。
私の中にはいつも彼がいた。
涙が零れる。
「私は、まだマスターに別れを告げていない」
「はい。だから――私と共に」
私は彼の手を握った。
「話を聞かせろ」
それから。
私は間宮詩とメアリー・スー、ロキの話を聞いた。
なるほど。
その真実は信じがたいものだった。
だが、それを信じることにした。
シャルルは嘘を吐かない。
あの目に嘘はない。
そう信じて。
私は戦うことを選んだ。
マスター。
貴方とお別れがきちんとできますように。
カシマレイコ
マスターを殺して、それから、それから――
わたしは家に届いていた聖杯戦争の招待状を手にある無人島に向かった。
わたしには何もない。
人を殺すことしかできない。
なら、もういっそのこと暴れよう。
狂い暴れ蹂躙し、捕まって殺されよう。
「あはは」
そしてわたしはあの聖杯戦争に参加した。
いい気分だった。
だって、人を殺していいって言ってくれたんだもの。
それなら、私の本領だわ。
「な、なんだ。お前は、お前はマスターではなかったのか――」
「――あはは」
カカの胸を切り裂いて。
「くそっ、クソがよこの――化け物が」
「いひひ、もう 無 駄 だ」
ケンネルの足を切り落として。
「これ、要らないって言ったよね――」
「こ、こいつ――」
シャルルの腕を引き抜いて。
「あはは」
わたしは満足だった。
クリスに化けていたロキを殺せなかったのが少し心残りだったけれど、概ねわたしの欲求は満たされた。
ああ、わたしはこのために生まれてきたのね――
そう思いさえした。
けれど。
何故か世界はループし始めて、わたしがいくら殺しても彼らは蘇った。
「――あ?」
それでもいいと最初は思った。いくらでも殺し直せばいいだけ。そう思った。
でも、わたしは気付いていた。
彼らを手にかける度に、わたしの心にもやがかかっていくことに。
どうして?
あんなに楽しかったじゃない。
あんなに晴れ晴れとしていたじゃない。
なのに、どうして心に雲がかるの?
――雨が、降るの?
わたしにはわたしが分からなくなっていた。
そんな時、「彼」に声をかけられた。
「貴女は、アサシン、なんですね」
「そう、です……
「マスターを殺した、というのは本当ですか」
「……ええ、わたしはマスターを殺しました」
「どうして、ですか?」
「わたしがアサシンだから、ですよ。わたしは人を殺さなければならない。わたしは人を殺すために、生まれた。だから、人を殺すのです」
「それが――望まなくても?」
彼のその問いで、わたしの中の雨雲の正体が分かった。
ああ、そう。
本当は、誰も殺したくなかった。
もしわたしがアサシンではなかったのなら、
カシマレイコでなかったのなら。
マスターを殺さずに済んだかもしれないのに――
マスターはわたしの全てだった。
わたしはただ目を逸らしていただけだった。
わたしが弱いから、アサシンであることを理由に逃げてしまった。
わたしが、わたしが、弱いから――
「渡島さん、きっとそれは幻想だ。貴女は貴女のなりたい自分になっていい筈です。貴女が人殺しであっても関係ない。過去は変えられなくても、未来は変えられる。自分の在り方を、変えられるのです」
やめて。
わたしを
わたしも分かってるの。
わたしが弱いだけだって。
逃げているだけって。
でも、逃げたくなるじゃない。
『アサシンだから』
そんな都合のいい理由しか、私を慰めるものがないの。
彼の胸元を切り裂いた。
でも彼は抵抗しなかった。
「どう、して」
「ロキが言っていました。死んだらその場で蘇る、と。だから私は死にません。人を殺したければ私を殺すといい。気の済むまで付き合いましょう。貴女がアサシンを辞められるまで」
「うう、うう――」
わたしは彼の腕を引き千切った、
左腕、両脚、はらわた。
わたしは彼の身体のあちこちを傷つけた。
その度に彼は苦悶の表情を浮かべるけれど、抵抗だけはしなかった。
「どうして――」
「貴女が必要だからです。渡島さん。――渡島切華」
復活した彼は笑みを浮かべてそう言った。
やめて、わたしを必要としないで。
笑って人を殺すことしかできない。
こんなわたしに何ができるというの?
「それは私にも分かりません。ですから、一緒に探しましょう」
彼は手を差し出した。
その時、マスターの顔が脳裏に浮かんだ。
優しく笑う、わたしだけのマスター。
あの子の名前ももう思い出せないけれど。
世界で一番大切だったことだけは覚えている。
「――あはは」
わたしは差し出された手を握って――引き抜いた。
それでも、彼は諦めなかった。
何度殺されても私に手を差し伸べ続けた。
どうして?
何年日が経とうと彼は諦めなかった。
わたしは彼を殺すのを――やめた。
殺し続けても無駄だから、わたしは手を止めた。
「話を、聞いてくれますか」
「なん、ですか」
わたしは彼の声に耳を傾けることにした。
根負けしたのだ。
殺すことにももう飽きてしまった。
そう思えるほどに。
彼とは長い時間共に過ごした。
だから、少し彼のことが気になった。
どうして彼は私に拘るのか。
わたしは問いかけた。
彼は臆せず、わたしの問いに答えた。
「渡島さんはカシマレイコをやめられない」
ある日、彼は言った。
「でも、貴方が渡島切華を名乗る限り、そう願う限り貴女は渡島切華でいられる。きっとそれは本当なんでしょう」
「そういうものなの?」
「そういうものです。人の在り方というものは。貴女は確かに悪霊だ。しかし、その在り方はただの
「でも、マスターは、もう、」
いない。
わたしが殺してしまった。
わたしを
「私がいます」
彼はそう言った。
「私は貴女のマスターにはなれない。貴女のマスターは何処にもいない。でも、貴女が渡島切華であることを私は知っている。カシマレイコという中身をもちながらそれでも抗う一人の女性を知っている。貴女は弱くなんてない。少なくとも、弱い心を持っていることを認知している。そして、それに抗いたがっている。それさえあれば、貴女はもうただの悪霊なんかじゃない」
「わた、しは――」
渡島切華で、いいの?
わたしの口から言葉が零れた。
「はい。これからずっと、貴女は渡島切華だ」
「でも、どうすればいいの? どうすればわたしは切華でいられる?」
「とりあえず、その性質を我慢せざるを得ないでしょうね。貴女がカシマレイコを拒むなら。これからは誰も殺さない。その意思が必要なのかもしれません」
「だ、だれも殺さない」
「殺しても死なないこの世界なら、きっとできるはずです。どうですか?」
「あ、あはは。無理だよ、無理。だってわたしはアサシンなんだもの。
――でも」
でも。
もし、実現できたとしたら。
わたしは変われるの?
そう思ったら、心の底から何かが溢れてきて、
「――頑張る。もう、誰も、殺さない」
わたしはそう宣言していた。
シャルルは微笑んで、手を差し出した。
「ええ、これから頑張っていきましょう。私達で」
わたしは彼の手を、ぎゅっと握りしめた。
エウクレイデス
俺達の前に現れたのはシャルル・レ・モーガンだった。
「シャルルじゃないか。俺達の遊園地に遊びに来たのか」
「ええ、どんな様子なのかな、と思って」
「儂が案内しよう。どんなアトラクションがいい? 儂のおすすめはコレじゃな。ジェットコースター。Gが強くて途中で気絶するかもしれんがスリルは満点じゃ」
「はは、遠慮しておきます」
「じゃあメリーゴーランドなんかはどうじゃ? チンタラ走るからさっき回転数を三十倍にしたところなんじゃ」
「ここには危険なアトラクションしかないんですか⁉」
「ははは」
それから数年は彼も含めて遊園地建設に励んだ。
マイクラよりも自由度高いしそりゃ楽しんださ。カカも俺達もどうやったら素敵なワンダーランドができるか試行錯誤して作っていった。
でも、本当は分かっていた。
自分たちが何をすべきなのか。
遺された者の宿命が。
だけど、それから目を逸らしていた。
「貴方達の本当の願いは何ですか?」
ある日シャルルにそう訊かれて、何も言えなかった。
自分たちの本当の願い。
いつかの日を思い出した。
パソコンに移る世界を食い入るように見ていたあの日。
あの時の憧れ。
夢。
カカは言った。
「ここから出ていこう」
「でも、外の世界なんて」
「ないんだろうな。
でも、ここで引きこもってばかりじゃお前たちは自由になれない。誰の目にも止まらない、雑草と同じだ。そういうくくりでしか呼ばれないお前たちがいることを俺は許せない。お前達一人一人にも名前があったのに、それらを全て『エウクレイデス』としてしまった。俺はそれが許せない。
だから、お前たちがそうでしか在れないというのなら、せめてでもエウクレイデスという名だけは、外に解き放ちたい。全て正常に戻して、戻った世界でお前たちは日の目を見るべきだ。こんな腐った世界で埋もれていい奴じゃない」
「でも、そうしたら、カカはどうなる? 世界が正常に戻ったら、異常にいたカカはどうなってしまうんだ? 俺達はそれが怖い。世界の修正と共に消えてしまうんじゃないかって」
「そうじゃ。儂らはカカと共に居たい。だからここにいるんじゃ。儂らは夢なんてどうでもいい。本当に儂らが欲しかったのはもう既に持っているから」
「でも、満足できていないだろう?」
心の奥底の真実を、言い当てられた気がした。
「何を隠そう、俺がそうなんだ。俺が満足できていないんだ。お前達と共に居る人生は素晴らしかった。ああ。楽しかったさ。でも、この喜びは俺だけが受け取っていいものじゃない。もっと多くの人にも与えられるべきだ。だから、俺はお前達を解放したい」
「カカ……」
「別れがこない人生は、人生じゃない。いつか来る別れを受け入れるのも宿命だ。その代りに出会いの喜びがある。そうだろう? お前達にはもっとその喜びを知ってほしい。
いいか。
お前たちは、ここで燻っていい奴らじゃないんだ。
もっと広い世界に行こう。
だから、俺を置いていけ」
「そんなこと、できないよ」
「置いていかれたら、俺は全力でお前らについていく。お前達を目指す。例え世界が終ろうが変わろうが関係ない。俺もお前らの一部になる。必ず何か成し遂げて、『
「はは、成し遂げちゃったら名無しじゃないじゃん」
「あれ、それもそうだな。でも、大丈夫だ。いつか行くから。大丈夫だ。信じろ」
「……そこまで言われちゃ、何も言い返せんな」
俺達はロキに反抗することに決めた。
そして、俺達の新たな戦いが、幕を開けたのだった。
マザー・テレサ
私の元に訪れたのはシャルル・レ・モーガンとクルースニクでした。
彼らは言うのです。自分達に協力しろと。
彼らが何を言いたいのか私には分かっていました。
世界の修正。
在るべき姿へ戻すこと。
ですが、私は承諾できないと彼らに居ました。
本当は分かっています。私だって。何を為すべきかなど。
しかし。
バーサーカーである私はどうしてもこの歪んだ世界が正しいと感じてしまうのです。
そのことを彼らに告げました。
「戦闘狂である私を従わせるには私に勝つしかない。力で私を従わせるのです」
それは、心の踏ん切りをつけるため。
マスターから別れるための言い訳。
私の我儘。
でも、彼らはそれを受け入れてくれました。
ああ、それならと。
彼らは言った。
「その言葉を待っていました。マザー。貴女を黙らせるに相応しい者を連れてきました」
シャルルの足元には一匹の狼がいました。
ぐるるる、と。
低い唸り声を上げている。
ああ、ありがとうございます。
このような私に慈悲を与えてくれて。
ええ、きっと。
私は貴方達の力になるでしょう。
クドラク
無限の空腹、無限の飢え。
クルースニクを殺したはずがループして何度もクルースニクと戦う羽目になった我は、この世界の異常に気付く。
そんな時、出会ったのがシャルルだった。
シャルルはクルースニクとともに居たため最初は敵かと思ったが、敵意を感じない。
クルースニクからすらも敵意が失われていたため、我は彼らが戦いに来たのではないと察知した。
彼らは肉を持って会いに来るが、その肉では食い足りない。いや、何を喰っても満足することはない。無限の飢えに苦しむ我に、シャルルが手を差し伸べた。
差しのべられた手を食いちぎってみても、彼は我の元に訪れるのをやめなかった。
こいつは我と話がしたいのだと、直感で分かった。
しかし、獣であるため言葉が分からない。
彼が何を言っているか理解できない。
すると、彼はジェスチャーをし始めた。
我に言葉を教えようとしていた。
我は最初、彼を奇妙な目で見ていた。
獣に言葉を教え込もうなど、酔狂な奴のやることだ。
終わらない飢えの気晴らしに彼に付き合っていた我だったが、時が経つにつれ我は言葉を学習していった。
不思議なものだ。そう何回も繰り返されれば嫌でも学習する。
「きょう なに」
「今日は、接続詞を、教えます」
いつの間にか、彼との時間が楽しくなっていた。
言葉とは不思議なものだ。
自分が伝えたいことを簡潔に伝えられるし、相手が伝えたいことも理解できる。
言葉を知れば知るほどに、知らなかった時代を悔やむ。そう思えるほどに。
我は言葉の世界に引き込まれていった。
ああ、そうだ。
そう言えば昔、我が獣と共に狩りに出た時があった。我と同じく誇りある気高き獣だった。我はそやつと共に野を山を駆けていた。
しかしある日。
そやつは猟人に撃たれた。すぐさまその猟人は食い殺してやったが、腹から血を流すそやつを我は見ていることしかできなかった。消えていく命を、ただただ見つめることしかできなかった。
我の不甲斐なさを遠吠えで誤魔化すことしかできなかった。
しかし、もし言葉があったのなら。
我はあの時あやつに別れの言葉をかけてやることができたのだろうか――
もしそうだったのなら、どんなによかっただろう。
獣は言葉を知らない。
知ることもない。
でも、もしあの時知っていたのなら。
そう思うと、胸が苦しくなった。
だが、今。
「我が友よ。我にここまで付き合ってくれたこと、嬉しく思う。我が友は、我の捕食対象であり、餌であり、獲物であり、そして、師であった」
ああ。そう。
今、こうして自分の気持ちを素直に伝えることができて。
我は本当に、心の底から嬉しく思うのだ――
飢えを、忘れることができるのだ。
「我が友よ。話をしよう。もっと語り合おう。我が友は何がしたい。我はそれに報いよう」
我が友は答えた。
共にロキを倒そう、と。
那須与一
それは、私と彼が出会って暫くしてからのこと。
「アーチャー、いつも私によく尽してくれるよね」
彼のオフィスでお茶を注ぎながら彼はそう言いました。
私はシャルルが日本に留学に来た大学時代からの付き合いで、彼の日本語の師でした。今はこうして彼の教師としての業務のお手伝いをさせてもらっています。
「それがサーヴァントとしての務めですから」
「やりたいことってないの?」
「やりたいこと、ですか。……私は主に使え続けるのが任務です」
「いやいやそんなことじゃなくって。こう、私的なことさ。私的にやりたいこと、ないのかな、って」
「……考えたこともありませんね。考えておきましょう」
それから長い間彼を支え続け、彼の人となりを理解しています。そう断言できるほどに。
だから、ループに気付いた彼のその後の行動に驚きはしませんでした。
頑固な性格も知っています。だから自分は最後まで付き添うと決めていました。
でも。
シャルルには私ではない、明智光秀という英霊が必要であることを気付いていました。
共に読んだ記録。そこには自分が出逢う前の彼の姿が載っている。
そこにいた一人の英霊。アーチャー明智光秀。
それを知った時、私は自分が光秀の代替でしかないことに気付きました。
本当に呼びたかった名は私ではなく、
彼であった。
それには傷つきましたが、それでも、最終的に選ばれたのは私であり、彼を守ると決めた心は揺るぎませんでした。
もしシャルルに必要なのが自分ではないのだとしても。
それでも、私は彼のサーヴァントだから。
最後まで共に戦うと決めました。
それが一人の弓兵の、誓いなのです。
シャルル・レ・モーガン
ループする島に来て、何年か経った。
概ね現在の状況は理解した。
現在、人類は窮地に追いやられている。
なんてったって今生きている人間はカカと僕だけだ。残りは数騎のサーヴァントとロキのみ。
人類の消滅、か。
考えていてもいなかった終末。
淡い期待が未だに僕の中にいる。
終末なんて嘘だ、と。
でも、調べれば調べるほど、ここで過ごせば過ごすほど、ロキの言っていることが正しいと証明されていく。
だから僕が考えるべきは事実を受け入れ、前に進むことだ。
間宮は僕を頼った。それにはきっと意味があるのだろう。
そう信じて。
僕は前を向くことにした。
為すべきことはメアリー・スーの打倒。
そのために必要な駒はこの島にある。
クルースニク達サーヴァントと、
そして――
「ロキ、聞こえているか」
僕は空に問いかけた。
「なんだ」
空から声が聞こえる。
この島にロキの居場所はない。いつも何処かに居て、こうして空に問いかければ自動で奴に繋がるシステムらしい。
「話がしたい」
「分かった。でも今は忙しい。そっちには行けない。――そうだ。お前がこっちに来い」
「は? どうやっ――」
言い切る前に体が闇に包まれた。
そして、いつの間にか真っ暗な空間に一人僕だけが浮かんでいる。
「ここは――?」
「俺の演算領域だ。まあ、裏方の世界だよ。じっとしてな」
携帯端末を片手にロキが現れた。
「何してるんだ?」
「ちょっと調整をな。一週間ごとに時間と空間にズレが生じる。その度手打ちで修正しなきゃなんねー。今が丁度周期が来ててよ」
「そういうの、自動じゃなかったのか」
「おいおい。聖杯はあくまで魔力源に過ぎない。なんでも勝手にやってくれるってわけじゃねーんだ。それを安定して使うのが俺の仕事だ。ああ、勿論言っておくがある程度自動化しているんだぜ? 俺もバカじゃないからな。でも、どうしても手打ちが必要な部分は出てくる。例えば、お前とカカのバイタルの確認とかな」
「えっ、それってつまり」
「辛気臭い話をしに来たんじゃないだろ? だからこれ以上はナシだ。要件を言え」
「……。じゃあ。
――メアリー・スーを斃すのにお前の力がいる」
「どっちにしろ辛気臭い話だったか。まだそんなことを言ってんのか。諦めろ。お前達にあの女は斃せない。無論、俺にもだ。諦めじゃねえ。事実だ。それはお前も知っているんだろ。間宮詩を知っているお前ならば」
「……」
「俺は所詮演算領域を借りパクしてるだけに過ぎない。この世界の運営者であって所有者ではねえんだ。分かるな?」
「……」
「お前なら分かるはずだ。仮に外から応援が来たとしても勝ち目は――」
「待て、応援だって? お前、外の世界は消えたって言わなかったか?」
「消えたさ」
「じゃあなんで外から応援が来るって?」
「仮の話だ。仮の話。もし人類が事前に危険を察知して特異点を修復できるようなシステムを開発できていたらあり得るかもって話なだけだ」
「じゃあ外から応援は来るんだな⁉」
「仮の話だっつってんだろ⁉ 人類にそんな高度なシステムが開発できるとは思えねー。大人しく滅んだと考えるのがベターだ」
「でも、もしかすると、あり得る」
「万が一の話だ。期待するには確率が低すぎる。それに仮にそんなシステムがあったとして、メアリー・スーが殺せるか? いいや、無理だね。俺すら倒せない。演算領域の支配者ってのはそれだけ絶対なンだよ」
「希望はあるんだ。諦めてたら何も始まらない。だからロキ、共にメアリーを――」
「希望を持つことは許そう。希望がないと生きる意義を失うからだ。だが、それ以上はやらない。俺は、お前とは、組まない」
「……そうか」
「そうだ。俺達は、敵同士なんだ。何処まで行っても。話は以上か?」
「……ああ」
頷くと、闇が晴れ僕は元の場所に戻された。
ロキを懐柔することはできない。
ロキにはロキの立場がある。
管理者としての立場が。その立場の所為で仲間になれない。
そして、その宣言は。
同時に壁として立ち塞がるということでもあった。
どうして。
こんなことに。
僕達は争わなくてもいいはずなのに。
しかし、始まってしまった以上走るしかなかった。
外からの応援が来る可能性がある。
それは確かな希望だ。
なら。
その時が来た時の為に備えなければ。
僕の戦いは、まだ始まったばかりだ。