Fate/loneliness 4 Fate Grand order -the survival plan-   作:からすまそういち

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第13話

 

 

 第七節 明日へ

 

 

「安心しな。これからもっと長い冒険がお前を待ってるぜェ。ははははははは!」

 ロキが邪悪に笑う。

 私以外、誰も顔を上げている者はいない。

 クルースニク、エウクレイデス、ユークリッド、みっちー、シャルル。

 皆地面に突っ伏したまま動かない。

 戦えるのは、私だけ。

「まだだ、まだ負けてない」

 私は立ち上がった。

「何言ってンだ。もう終わったんだよ。お前らに勝ち目はねェ。大人しくしてな」

「まだだ!」

 私は声を張り上げる。

 精一杯。

 己を奮い立たせるために。

「まだ――負けてない!」

 私はロキに向かって走り出した。

 右手で拳をつくりそれをロキの頬に向かって思い切り繰り出す。

 ロキは全く動かなかった。

 受け止めようとも、避けようともしなかった。

 拳がロキの頬に触れた瞬間、殴りつけた拳から鈍い痛みが走る。

「がっ、ああっ」

 思わず手を引いて右手を押さえた。

「……」

 ロキは分かっていたのだ。

 この行為に何の意味もないことに。

 だから、彼は何も言わない。

 動こうともしない。

 ただ、私が諦めるのを待っている。

 それでも、私は諦めない。

 指の骨が折れただろう右の拳で彼の胸を殴った。

「ああっ!」

 悲鳴を挙げたのは私だった。

 ロキはただ黙って私を見ている。

 彼の表情は既に真顔になっていた。

 まるで感情をなくしたかのような表情で私を見ている。

「くそっ!」

「……なにしてんだオマエ」

「まだ!」

 私は彼を殴り続ける。指が折れても構わない。

 両手でひたすら彼の胸を殴った。

「やめろ」

「まだ! まだ!」

 殴るのをやめない。

「やめろ」

「まだ‼ まだだ‼」

 殴り続けた。

「やめろっつってんだろ!」

 彼は私の腕を掴んで私を地面に叩きつけた。

「ばっ、……っはー」

 腕も折れた。

 それでもまだ、私は立ち上がろうと掌を地面につける。

 腕に力を入れて少し顔を起こすと、視界が赤いことに気付いた。

 鼻から血が垂れる。叩きつけられた時に鼻も折ったらしい。

「みじめだな」

 冷めた声で彼は言う。

 私は上体を起こして、立ち上がった。

 彼は私の頬を手でなぞってこう言った。

「綺麗な顔が台無しじゃねーか。後でちゃんと治してやるからな」

「まだだ、まだ負けてない」

「往生際が悪いぜ。お前一人で何ができる」

 何もできない。

 そんなことは分かっている。

 だから私は――独りでは戦わない。

 ぷす、と。

 ロキの背中に矢が刺さる。

「――あ?」

 彼はゆっくりと振り向いた。

 横になって倒れながらもみっちーは弓を構えていた。

「まだ負けてねーぜ、ロキ」

「……分かってない奴ばっかりだな――」

 やれやれと面倒臭そうにロキは背に刺さった矢を抜いた。

 みっちーは立ち上がる。

「諦めないのが俺達のモットーなんでね! なあ、マスター!」

「おうともよ!」

 二人とも立ち上がったが互いにフラフラだった。

 でも、それだけでもよかった。

 まだ、戦える。

 それが――分かったから。

「令呪をもって命ずる――」

 私達には切り札がある。

『君の令呪は特別性なのだろう。ここは時間の概念が外とは違う。ここでは君の令呪は無尽蔵の魔力供給源となるわけか――ふむ』

 クルースニクの言うことが本当なら、今の私には最強の切り札があるってわけだ。

「みっちー! 霊基復元!」

「おうよ!」

 令呪の魔力リソースで強引にみっちーの傷を癒す。そして――

「令呪をもって命ずる。宝具解放!」

「ああ、行くぜ! ――『燃えよ身体よ心と共に(ほんのうじのへん)』ッ!」

 みっちーの身体に炎が纏う。

 みっちーの宝具は拡張性が高い。

 通常は心象風景を現実に投影する固有結界を生み出しそこからエネルギーを得るというものだ。

 だけどエミヤオルタさんの真似をして固有結界を矢に閉じ込めることもできれば、その結界を自分の霊基の中で開いて体全身を「生きる心象風景の具現化」にすることもできる。そして、彼の結界内では第六天魔王すなわち神さえも殺し得るようになるパワーを持つ。

 よってその結界そのものになった彼は今、

 誰よりも魔王を斃す猛者となるのだ――

 勿論、代償は大きい。

 例えるなら通常での宝具展開による魔力消費量が一だというのなら、現在の魔力消費量はざっと十。それだけの負荷が彼にも私にもかかる。普段ならとてもじゃないけどできないリミッターの解放。

 でも、私が立っていられる限り魔力を供給できるというのなら、

 それは机上の空論ではなくなる――

「令呪をもって命ずる――」

「やめろ死ぬ気か! 令呪のリソースはあくまでループによって保証されているものに過ぎない! 身体への負担は変わらないんだぞ!」

 ロキめ、私の心配をしている場合じゃないぞ。

「それでも、私達は負けられないんだ――ッ‼

 令呪をもって! 命ずる――ッ‼」

 手の甲が赤く燃え、弾けた。

 体中の血管が膨張するのを感じる。

 肌は裂けてそこから血が飛び出す。

 手の感覚がない。

 足はがくがくと震えている。

 呼吸は乱れ、視界は揺れる。

 肌を伝って流れた血が地面にひたひたと落ちる。

 構うもんか。

 こんな逆境、何度だって乗り越えてきた。

 もっと辛い選択を迫られた人がいることを私は知っている。

 地獄を見て、それでも走り続けた人を知っている。

 だから、

 私はこんなところで、止まれない。

 

「ドクタァァァァァァァァァァァ――ッ‼」

 

 もう何処にもいない彼の名を叫ぶ。

 返答のないその声かけを私はやめない。

 彼が私の中に住み続ける限り、私は前に進むことをやめない。

 笑顔の優しい――私の愛しい人。

 今もまだ彼の残影を追いかけている。

 私は諦めないよ。

 だから、そこで見てて。

 

 ――今から、コイツをブッ倒すから。

 

「「――覚悟はできたか道化師野郎」」

 

 みっちーはロキを殴り飛ばした。

「はン! やるな! それでこそ俺の敵だ! 認めてやるよ!」

 飛ばされたロキは身を翻してみっちーに突撃する。

「令呪を、もって……命、ず、る……」

 視界が紅く染まって前が見えない。

 立っているだけでやっとだ。

 地響きが何度か起こった。

 耳が遠くてよく聞こえないが大きな音がする。

 戦いが壮絶であることは見なくとも分かった。

 今、みっちーとロキが戦っているんだ。

 私も、戦わないと……。

「令呪を……もって……命……」

 ふと倒れそうになる。

 そんな私を誰かが支えてくれた。

「もう終わったぜ。ゆっくり休みな」

 ああ、みっちー。

 勝った、んだね……。

「ああ、クソ野郎はブッ殺した」

 彼は私の顔についている血を拭った。

 視界が晴れる。

 

 ――私の顔を拭ったのはロキだった。

 

「クソ武者野郎はブッ殺したぜ。ほらな」

 彼は無造作に私の足元に何かを放り投げる。

 つま先に当たった「それ」を見て私は、

 

 私は。

 

「あ、ああ……あああああああああああああああああああああ」

「嘆くこたぁねー。サーヴァントがいくら死んでも替わりはいるんだ。お前の替わりはいないんだぜ? もっと自分を大事にしな」

 私は跪いた。

 あれ、

 

 足に力が入らない。

 

 視界もぼやけて暗くなって

 

 こわ、いよ……。

 

「安心しな。俺達で、明日を創っていこう。ここにいる俺達で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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