Fate/loneliness 4 Fate Grand order -the survival plan- 作:からすまそういち
第七節 フェイト・ロンリネス
ロンギヌスに腹を貫かれたロキは膝をついた。
彼を纏っていた炎が消え、ロキの眼からは生気が消えた。
戦いは終わったのだ。
シャルルが喚んだサーヴァント達は一斉に退去した。何も言わず、ただ彼に視線を送り頷いて。
その中、私の知らない三人の少年少女達が彼を呼んだ。
「シャルル、大きくなったな」
「ええ、ええ」
「僕達の役目は終了しました。僕達はこれでいい。失ったものを取り戻せるかもしれないのだから。でも、シャルルさんはこれでよかったんですか? 世界が元に戻れば、きっと僕達の縁も消える。これまで歩んできたシャルルさんの道も消えてしまう。本当にそれでよかったのですか?」
「なんだか、寂しいよね」
「……確かに、あの聖杯戦争がなかったことになると私達の縁は消えてしまうかもしれません。私が歩んできた道も、繋いできた縁もなくなるのかもしれない。けれど、」
彼は深く息を吸って、言った。
「絶対。ぜーったい! またボク達は出会う。何度世界が変わろうと運命が変わろうと、ボク達は必ずどこかですれ違う。その時を楽しみに待っていよう」
「……ああ、そうだといいな」
「いいですね、それ」
「うん! きっとそうだよ! また会えるよねっ!」
彼らは頷いて、シャルルもまた力強く頷いた。
すると、三人の少年少女は笑って消えていった。
「あ、ああ……」
ロキが儚く声を挙げる。
「! まだ⁉」
「いえ、あれを見てください」
シャルルが指を差す。ロキの身体は光り輝いていた。退去が始まっている。
そして、そんな彼を抱きかかえて座っている男がいた。
その男の名前は――間宮詩。
ロキは今にも消えそうなかすれ声で悪態をつく。
「おい、詩。テメエ、俺を騙したな。なにが面白いヤツ、だよ。とんだじゃじゃ馬じゃねえか」
「はは、でもすごかっただろう? ――どうだい、現世は。楽しかったかい?」
「――ああ。クソみてえに平凡で、退屈な毎日だったよ」
ロキは笑う。微かに。やってらんねーよとでも言いたそうな顔で。
「そうかい。それはよかった」
「次はお前も来いよ。きっとそっちの方が楽しい……ぜ」
ロキはそう言いながら消えていった。
「さて」
間宮は立ち上がる。
「話はいよいよ大詰めといったところか――おっ! 藤丸リツカ君じゃないか!」
彼は私を発見すると近づいてきて、握手を求めた。
「初めまして、間宮詩だよ」
「初め、まして……?」
「ああ、そうか。私は君を知っているけれど、君は私を知らないんだよね。えーっと、どう言えばいいかな。私は君を観測できて――」
「ちょっと待ってください間宮さん。私達は初対面じゃありませんよね?」
アサシン一寸法師の件では間宮詩が主導になって組まれた事件だった。彼も私も忘れられない一件のはずなのだけれど――
「へ? いや、初対面だよ。だって私はロキを喚ぶ際に自身の身体を捧げたからね。一体化してずっとロキと一緒にいたから君に会う暇なんてなかったけれど」
『うふふ』
どこからか声が響いた。
これはそう、例えるなら、空。
私達は空を見上げた。
すると、空高く遥か向こうからこちらを覗く巨大な顔があった。
まるでこの世界が桶の中にあって、その桶を誰かが覗き込んだかのように。
私達が桶の中から彼女を見上げているかのように。
「メアリー・スー……」
シャルルが呟いた。
『見つけた』
彼女はそう言って桶の中に手を伸ばした。
巨大な腕。それは地上に辿り着くと収縮を始め、等身大の女性の姿に変貌した。
ブロンドの長髪に蒼い瞳。
薄く透き通るような肌。
洗練されたボディライン。
女性の私でも見惚れてしまう美貌だった。
「見つけたわ。
彼女は私達には目もくれず、間宮の元へ向かった。
「やあ。久しぶり。成程。私がいないのをいいことに私を騙ってカルデアにここを突破させたというわけか。流石
「役割を持たない者に役目を与えたのよ。
「意趣返しというわけか。とことん
「――え?」
「覚悟はできてるさ。やるといい。私は十分楽しんだ。悔いはないさ」
「ちがっ、違うわ。そんなことじゃないの」
「え?」
「私は
「じゃあ、世界のルールを変えたのも、消滅させたのも、私への嫌がらせではなく――」
「どうして私がそんなことをするの? 私は
「――ああ、そうだったのか。
「どうして私が
「……ごめんね、それはできない」
「どうして?」
「私は
「――ああ、そうなのね――。
「そう、出会えたんだ。だから、
「いいの。
「それは違うよ。
「……詩」
彼女の手が、間宮の服の袖を掴む。
「なんだい、メアリー」
彼女は震える声で言った。
「それでも、寂しいわ。折角こうして再会できたのに。貴方と別れなければならないなんて」
「その代わり君は自由だ。理想の私ではなくただの君、メアリー・スーとして生きられる」
「要らない。要らないのよ。貴方がいない自由なんて。これまでと変わらないじゃない。私は貴方と生きていければそれでよかったのに。それすら叶わないなんて」
「……共に生きることはできないけれど、共に消えることならできる。でも、私は君を自由にしてあげたい。それが私の夢だっただから。せめて私の理想だけは。自由でいてほしいんだ」
「私は既に自由よ。だから、私は貴方と一緒に居たい。最期の時まで。――ああ、詩。私と一緒に死んでくれる?」
「……勿論さ。君がそう言うなら、私は止めない。私と一緒に落ちよう。どこまでも」
「嬉しいわ。私と一緒に行きましょう。どこまでも」
彼女は間宮の身体に凭れ掛かった。
「――話は終わったかな?」
シャルルが言った。
「終わったよ」
間宮が答えた。
そして彼は私に向かって聖杯を放り投げた。
私は慌ててそれをキャッチする。
「これがロキの聖杯さ。これで特異点は解消。そうでしょ?」
「は、はい。そうですけれど……」
「外の世界の問題はこっちでなんとかしておくよ。まあ、おそらくリセットになるだろうね。シャルル君も、それでいいかい?」
「はい。何度世界が変わろうと私は皆に会いに行きます。必ず」
「そうか、良かった。――じゃあ、私達はもう行くよ」
間宮はそう言うとメアリー・スーを抱き締めて風のように消えた。
「驚いた」
シャルルは口を零す。
「本当は、メアリー・スーを倒すために今まで準備してたんですけれど、戦うことなかったですね」
「私は結局何もできませんでした」
「いえいえ、貴女が来てくれたからこそ士気が上がった。貴女こそが私達の希望だったんです。だから、貴女が来てくれてよかった」
「ま、そう言ってくれるんならそれでいいじゃねえかマスター! こういう時もあるって!」
みっちーが励ましてくれた。
「そうかな。そう思うことにしよう」
『リツカ君! やっと繋がった! もう特異点の消滅が始まってる! 脱出ポイントを送ったから早く戻って!』
ダヴィンチちゃんから通信が入った。
「分かりました!」
そう答えて、みっちーと目配せする。
「そっか。もう少し話したかったんですけれど、もう行かれるんですね」
「すみません。ありがとうございました」
お辞儀をする。
「んじゃ、マスター。行きますか」
「うん」
「あ、ちょっと……」
脱出ポイントに行こうとする私達をシャルルは呼び止めた。
「なんですか?」
「い、いえ。すみません。さようなら」
「……?」
何かを言おうとして口をつぐんだシャルル。みっちーも不思議に思ったのだろう。手を顎に当て、何か考えている。
シャルルに別れを言い、脱出ポイントに辿り着いた私達は、転送を待つだけとなった。
「なあ、マスター」
突然、みっちーが声を挙げる。
「なに?」
「ちょっと行ってくる。大事なことが、大事なことがあったはずなんだ。何かを忘れてる。俺は大事な何かを忘れているんだ」
「え?」
彼は突然走り出した。
「どうしたの⁉ あっ、ダヴィンチちゃんちょっと転送待って!」
彼は走り向かう。
シャルルの元へ。
「シャルル! シャルル――シャルルちゃん!」
「!」
彼は振り向いた。
みっちーは叫ぶ。
「ごめん! 思い出せなくて――ごめん! シャルルちゃん! でも、俺、次は絶対忘れねえから! 絶対に忘れねえから!」
いきなりそう言いだすみっちーに唖然とするシャルル。
でも、彼もいきなり涙を流して、
「なんだよ……」
みっちーはシャルルの元に辿り着いた。
「シャルルちゃん! 俺はお前を覚えてない! でも、今日のことは、今日のことは絶対に忘れねえから! だから――」
「光秀」
「な、なんだ」
「ボクにちゃん付けするな、バカ……」
「えっ⁉」
「ほら、帰るんだろ⁉ 早く行け!」
シャルルはみっちーの腕を叩く。
「お、おう」
「光秀! あばよ!」
「おう! あばよ!」
シャルルはみっちーの背を押した。
そして、みっちーは脱出ポイントに戻ってきた。
「もういいの?」
「おう! もう忘れねえ!」
「じゃあ行くよ――」
私達は現代に戻っていった。
「……」
「我が友、あれで良かったのか。アレは我が友の友人であったのだろう?」
彼らが行ってしまった後、クドラクがシャルルに向けてそう言った。
「いいんだよ。あいつは、もう忘れないって言ってくれた。それだけで十分さ」
「そうか。我が友がそれでいいなら我もそれでいい」
「クドラク」
クルースニクがクドラクに話しかける。
「なんだ我が宿敵よ。祝杯を挙げる時間はないぞ」
「それは俺も分かっている。――これからのことだ」
「ほう」
「俺達は宿敵だ。それは変わらない。この特異点が消滅すれば再び俺達は敵同士。殺し合う仲になる。だが、今この時だけは戦友だ。だから言っておくよ。ありがとう」
「――」
クドラクは一瞬固まって、笑うとこう答えた。
「そうだな。宿敵よ。我も感謝している。誰が欠けてもいけぬ戦いであった。例え本来殺し合う仲だとしても関係ない。今この時だけは我々は友だ」
二人は握手する。
「ああ、だから。次に会う時は容赦しない。次も私がお前を殺してみせる」
「ロンギヌスに頼らなければ我を倒せなかった男がよく言う。次もお前を食い殺し、人間どもを喰らうとしよう」
はっはっは――彼らは笑い声をあげた。
するとクルースニクの身体が、光り始める。
「ひと先早く俺は行くことにするよ。役も終わったんでな」
「ああ、さらばだ我が宿敵よ」
クルースニクは光の粒になって消えた。
この瞬間、クルースニクは思った。
自分のマスターのことを。
(マスター。私は、貴方の無念を晴らせたでしょうか)
答えは分からない。
けれど、
そう信じて。
クルースニクは消えていった。
「さて、別れの言葉も済んだし、我も行くとしよう」
「今までありがとう、クドラク」
「我こそだ。我が友よ。我が友がいなければそもそも成立しなかった。ここまで、よくやったな」
クドラクは優しくシャルルの頭を撫でる。
「ふふ、恥ずかしいよ」
「我もだ。獣の片隅にも置けぬ。はっはっは」
「――またね」
「ああ、また会おう友よ! その時は其方の肉を喰らおうぞ――ははは‼」
クドラクは雄たけびを上げて消えていった。
「あとは君達だね」
エウクレイデスとユークリッド達は名残惜しそうにカカの手を握ったままでいる。
「もう少し、もう少しだけ」
クルースニクやクドラクとは別れの言葉を済ませたけれど、カカとは踏ん切りがつかないままだった。
「駄目だ。行け。エウクレイデス。ユーたん」
カカは彼らの手を振り払った。
「でも、もう二度と会えないかもしれないんだよ! 魔術が神秘になってしまったら、俺達は出会えない!」
「それでいいのさ。もう十分俺達は遊んできた。ずっと俺がお前達を縛ってきた。だから、今度はお前達が自由になる番だ」
「縛ってきたなど、そんなことはない。そんなことはないのじゃ」
「……あのさ、俺達の夢を思い出せ。俺達の夢は世界に羽ばたくこと。お前達エウクレイデスが世に出ることだ。俺はそれを何処かで見守っている。だから、お前達は行くんだ! 広い世界に!」
「カカ……」
シャルルはエウクレイデスの肩に手を置く。
「分かったよ。じゃあもしちゃんと有名になったらさ、会いに来てよね」
「勿論だ。スパチャもする。だからちゃんと読み上げてくれ」
「うん……うん!」
ユークリッド達は笑って、光に包まれた。
「またの」
エウクレイデスは小さく手を振った。
そして、彼らもまた退去していった。
「なあ、シャルル」
カカは問いかける。
「なに?」
「次はどんな世界なんだろうな」
「分からない。けれど、多分今までと変わらない。誰かを好きになって、嫌いになって。誰かと笑って、喧嘩して。色んな人と出会って、別れて。その繰り返しなんだ」
「ふふ。ああ、そうだな――」
残った二人もまた、光に包まれて消えていった。