Fate/loneliness 4 Fate Grand order -the survival plan-   作:からすまそういち

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第4話

 

 

 第二節 雨夜、されど一人

 

 

 私達はビルを降りた。そして、ビルのすぐそこの海岸にある入り江に向かう。

 入り江には洞窟があった。

 その洞窟の壁に凭れ掛かるように一人の女性が座っている。

「あれがシャルルだ。ここ三年、ああして座ったままだ。声をかけても反応がない。……廃人状態だ。あれが使い物になるかは分からない」

「どうする?」

「声をかけてみるしかなさそうだね」

 私はシャルルさんの前に立った。しゃがんで問いかけてみる。

「シャルルさん、聞こえていますか? 私は藤丸リツカと言います」

「……あ、」

 彼女は少し顔を上げた。視線が合う。

 綺麗な人だ。

 亜麻色の短髪に中性的で整った顔。多種多様な英霊と出会ってきた私でも思わず息を呑む美女だった。

 三年間口も利かずにずっと座っていたとはとても思えない。彼女のどこにもみすぼらしさはなかった。歩くのにふと疲れて壁に凭れ掛かったばかりと言われても遜色ない。

 クルースニクも二年間寝ていたと言っていたし、この島にいる人や物質は時間感覚が違うのだろう。

 時間がかかっても物が劣化しない世界なのか、ここは。

「あ、あー……」

 しかし長い時間喋っていないのか、彼女は話すのに苦労しているようだ。

 それでも意識があることに喜んだ私は彼女に手を差し伸べて「立てますか?」と言った。

 すると、彼女は差し出した手の首を取った。

「き、綺麗な、手、ですね」

「え? あ、ありがとうございます」

 

「――これ、いりますか?」

 

 彼女の口角が邪悪に吊り上がった。

「まずい、リツカ! それはシャルルではない!」

「――え?」

「おらァ!」

 横からみっちーが飛び出し、彼女を蹴飛ばした。

 その際に、クルースニクが私を掴んだ腕を剣で叩き斬る。

 彼女は地面をバウンドするように転げ回る際に、勢いをつけて撥ねながら立ち上がった。

「――あはは」

 叩き切られたはずの腕はもう再生していた。

 彼女は上半身を前に出すように屈んで両腕を垂らしながら揺れている。

 顔は楽しそうに笑顔をこちらに向けていた。

 顔つきはさっきと一変している。

 いや、顔付きだけじゃない。

 全身が一回り小さくなった気がする。服はいつの間にか白のワンピースになっており、髪も黒髪のロングになっている。その長い髪が彼女の顔を覆うように垂れている。

 そこから覗ける彼女の口角は異常なほどに吊り上がって――頬の肉を裂いていた。

雨夜、されど一人(わたし、きれい?)

「宝具展開だ! 気を付けろ!」

 クルースニクが叫んだ。私もみっちーも「応!」と答える。

「待て! 今のは()()()()()()()!」

「あはは、答えた。応えたね」

「な、なんだ?」

「こいつ、いつのまに男の声もコピーできるようになったんだ。リツカ、光秀! こいつの問いかけに答えるな! こいつは応じると『化ける』!」

「無駄無駄、もう聞いたもんね、聴いたもんね、訊いちゃったもんね!」

 彼女がこちらに向かって突撃してきた。

 クルースニクは走る彼女を剣で弾き飛ばした。

「いいか! ここからは決して誰の言葉にも答えるな! 彼女の真名()はカシマレイコ! 問いかけに答えた者を殺す殺戮機関! 問いかけに答えさえしなければ害はない。今も答えなかった私だから奴を弾けた!」

「お前はわたしに答えないからキライだ――」

 飛ばされたカシマは呟いた。

 クルースニクは尚も叫ぶ。

「戦う気がなくなるまでここで叩き潰す! 二人は前に出ず後方支援を! 問いかけに答えた君達は奴に腕を掴まれた時点で引き千切られる! 決して彼女に近寄られるな!」

「うざい! クルースニク(おまえ)はキライだ。キライだ――」

 カシマレイコとの戦闘が始まった。

 クルースニクに言われて私達は前に出ず支援に回る。

 しかし火矢で身体を射っても彼女は気に留めない。むしろ射られた部分の身体を分離させて這いよってくる。

 首を断ち切っても首だけが。

 手を落としても手だけが。

 足を落とせば上半身だけが。

 こちらに這いよってくる。その部分をガンドで潰しても元の身体から再生して一からやり直し。

「これじゃキリがねえ! 元の動きをとめねえと!」

「では私の宝具でなんとかしよう。――聖なる十字剣(スヴェティ・クリーシュ)

 クルースニクの剣が輝いた。カシマをその剣で上から串刺しにして地面に繋ぎ止める。

「ヴぁっ⁉ ぶ、分離ができない――」

 首の付け根から一直線に刺され地面まで縫い留められたカシマはなんとかして抜け出そうともがいても無駄だった。蠢くだけで抜け出せる気配はない。

「私の宝具の本質は『吸血鬼(クドラク)を殺す』こと。そして、クドラクとは殺し方を指定する怪物。誤った方法で殺せば成長して復活する。故に殺さずに繋ぎ止める術が私にはある」

「あ、あ――」

「お前のその分離は『元になった怪異の変更』で行われている。首が落ちればデュラハンに、腕が落ちれば小袖の手に、下半身を失えばてけてけに成ることで意思を持った分離に成功している。女の怪異の集合体。だが、お前が分離するには自分が死ぬ(きずつく)ことが条件となる。首が落ちねばお前はデュラハンになれぬし、腕が落ちねば小袖の手にもなれない。だから繋ぎ止めた。お前は死ぬことはない。故にそれを条件とした分離は行えぬ」

「ぐ、お、おまえは、キライだ。わたしの声に耳を貸さないくせに――」

 カシマに背を向けクルースニクはこちらに向かってくる。

「さて、リツカ、明智。勝負は終わった。中立派のカシマがどこに行ったのかずっと不思議だったが、ずっとシャルルに化けていたとはな。あいつは女に似ているから姿を似せられたのか」

あれじゃあシャルルさんって男性なんですか(わたし、きれい?)?」

「ああ、そうだ。間違えられやすいがな」

「――え?」

 私は何も喋っていない。

 じゃあ今の声は――

「あはは、やっと答えたな。わたしの問いに」

 カシマは再び邪悪な笑顔を向けた。

「ば、ばかな。お前は何もできぬはず――」

 瞬間。

 クルースニクの胸から手が生えた。

 いや生えた、のではない。

 彼の背中から手が彼を貫いたのだ。鮮血に染まる女性の手を見て私は気付いた。

「がっ、な、なに――ッ」

「最初に、手を斬った、な。それを、残しておいた。確かにお前の言う通り意志を持つ分離は通常不可能。でも、問いかけに答えた今。この瞬間だけは、わたしの能力は拡張する――」

 ははは、と彼女は笑い声をあげた。

「問いかけに答えられた時に発現する無敵の能力性、か。しまった。

 気を抜いた私の負けか――」

 クルースニクは膝をついて倒れた。

 その時彼の宝具が消え、カシマは解放される。

「あはは! 次は お ま え だ !」

 解放されると同時、彼女はこちらに向かって走ってきた。

 ものすごいスピードだ。車よりも速い。一瞬で距離を詰められる。

「ま、まずい――」

 みっちーの火矢も私のガンドも効かないことがもう分かっている。

 私達には彼女を斃すすべがない――

「これ、いる?」

 彼女は私の目の前まで来ると、私の手を取った。

 私の手首を握る不自然なほどに冷たく白い手。それが私にはとても眩く見えた。

「て、テメエ――」

 みっちーに手を出すなと視線を送る。

「……これが欲しいの?」

 私は彼女に問い返した。

「え?」

「私の手は誰かの手を握るためにある。私の足は立ち上がるためにある。私の身体は、皆のために、私のために――在る」

「……え?」

「貴女には貴女の身体がある。それでも、貴女は私の身体が欲しいの?」

 私は彼女の手首を掴んだ。

「ぐ、ぐぐぐ――要らない。要らない――」

 笑顔だった彼女の表情が一変した。今は苦しそうに顔を歪めている。

 彼女は私の手を振り払った。

「や、約束。もう誰も殺さないって――」

 そして、頭を抱える。

「……?」

 何か分からないが彼女の中で葛藤が生まれているらしい。今なら隙をついて逃げられるか?

「捨てないで。ステナイデ――」

 彼女は何かに怯える様に走って去って行ってしまった。

「……なんだ? 急に」

「分からない。でも、助かった、のかな?」

「マスター、あんま肝が冷えることしないでくれ。焦ったぜ」

「ごめん、でも、もうああするしかなかったのかな、って思って」

 彼女は言った。

『お前はわたしに答えないからキライだ――』

きっと、彼女はコミュニケーションを求めている。クルースニクは答えるなと言ったが、きっとそれは根本的な解決にはならない。だから、勝負で勝てない今、賭けに出る必要があった。

 逆にこちらが問いかけてしまえばいい。

 口裂け女の都市伝説曰く、彼女に出遭った場合はその問いに特定の答えを返せばいいのだそうだ。カシマレイコにおいても同じく、『問いかけ』をする怪異にはそれのカウンター、『答え』が用意されている。

 つまり、問いかけに応じないことは答えにならない。

 大体、こういうヤツの答えの相場は決まっているものだ。

『相手を困らせる』。

 相手の想定していない部分へ石を投げる。

 今回はそれが運よく決まった。

「成程。カウンターという考えか。私はそこまでに至らなかった。都市伝説や怪異について調べたのに、根本的なところに気付いていなかったようだ」

 クルースニクは頷いた。

「クルースニクさん⁉ 大丈夫なんですか⁉」

 いつの間にか立ち上がって平気そうにしている。貫かれたはずの胸の傷も塞がっていた。というか何事もなかったかのように衣服も元に戻っている。血の跡も残っていない。

「ここでは人も英霊も致命傷を負おうが死なない。そういうルールになっているからだ。君は例外なので実際どうなるかは分からないが、おそらく君も大丈夫なのだろう。なに、カシマとの戦闘はじゃれ合いのようなものだ。あいつは人をよく襲うからな」

「おいおい、緊迫感返せよ」

「生き返ると言っても痛覚はあるんだ。腕をもがれ続けても平気な精神ならカシマに抵抗せずに済むがな。そんな奴はこの島に一人しかいない。とにかく、シャルルはいなかった。でも、奴も鐘の音は聞こえているだろう。なら私達が次へ行くべき場所は決まっている」

「どこですか?」

 彼は一方向を指差しながら答えた。

「そこは島の北西部にある――ユークリッド・ワンダーランド」

 

 

 

 

 

 

 

 

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