Fate/loneliness 4 Fate Grand order -the survival plan- 作:からすまそういち
断章二 カシマレイコ
これはわたしの話。
わたしが何者であるかの話。
わたしは召喚されてすぐにマスターを殺害し、山を下って雨の中川岸をのそりのそりと歩いていた。
雨がわたしの身体を打つ。
髪はべったりと肌に貼りつく。
呼吸は乱れる。
岩石に足を取られ躓く。
「――はぁーっ、っはー」
立ち上がろうとしても腕に力が入らない。
魔力切れだ。何日も歩き続け、そして夜になった。
誰もわたしを気にしない。見向きもしない。
それはそうだ。
裸足で山を下る不気味な女に関わりたいと思う奴なんていない。
みな見て見ぬふりをする。
それは正しい。
何故なら、何故なら――わたしは悪霊なのだから。
出遭った人を殺してしまうのだから。
――わたしは何故生まれたのだろう。
人を殺めることしかできないわたしは何故この世に生まれたのか。
何故サーヴァントなどというモノにあてはめられたのか。
でも、そんなことはどうでもいい。
雨に打たれ倒れたこのわたしは、もう消えるのだ。
人を殺すしか能のないわたしはもう、誰にも気付かれずに一人で孤独に死んでいくのだ――
そうだ、それでいい。
わたしにはきっと、それが相応しい。
わたしは諦めて目を瞑った。
その時だった。
「大丈夫ですか?」
あの子に、声をかけられた。
貝殻集めが趣味で、たまに川辺に来るあの子に見つかった。
「立てますか?」
あの子はわたしの手を取ってくれた。
あの子はわたしを自分の家に招いてくれた。
「びしょ濡れだね」
タオルでわたしを拭いてくれた。
「あ、あ……」
暖かなモノに顔を包まれる。不思議な感覚だった。
「貴女、もしかしてサーヴァント? マスターは何処にいるの?」
「……マスターは、いません」
「そうなの? はぐれサーヴァントってやつかな。だったらさ、私と契約しない?」
「――え」
「いやー、私も英霊と契約する歳になったんだけどね、魔力量がそんなになくって殆どの英霊と契約できないんだ。だからさ、マスターがいないなら私と契約しようよ。お互いその方が都合いいでしょ?」
「え、で、でも、わたしは、アサシン、で……」
「アサシンかー。野良アサシンはきついよねー。わかるわかる。物好きな人しか契約しないイメージだし。私は気にしないけど」
「やめといた、方が、いいです、よ。わたし、悪霊、なんです。カシマレイコって、いう」
「カシマレイコ? 聞いたことあるな。有名なやつじゃない。すごいね」
「そんな、すごくなんて」
「で、どうなの? 契約してくれる?」
「あ、あ……」
あの子の推しが強くて。
わたしはあの子と契約してしまった。
それから。
わたしが自分の
人を傷つける衝動が抑えられないと言ったら聖杯戦争でそれを解消しようと言って一緒に戦ってくれた。
あの子はわたしの為に、一緒にいてくれた。
でも、ある日。
あの子は恋人をわたしに紹介してくれた。これから一緒に住むらしい。
けれど、その恋人の男はわたしを気味悪がった。
当然よね。
だってわたしは、悪霊だもの。
男はあの子に令呪を使えと迫った。
あの子は嫌がったけれど、渋々わたしに令呪を使った。
私達に危害を加えるな、と。
分かってる。
だってわたしは、アサシン、だもの。
それから、わたしはあの子の傍に居づらくなった。
あの子の幸せには、わたしは要らないと気付いてしまったから。
でも、わたしにはあの子しかいなかった。
あの子しかわたしを認めてくれなかった。
だから、わたしはあの場所を離れることができなかった。
わたしは頑張った。
どうやったらあの子の傍に居られるか。
きっと恋人の男に認められるしかないんだわ。
そうよ、男もわたしを受け入れてくれたらわたしもここに居られるわ――
でもわたしが受け入られることは、なかった。
「うわぁ‼ 俺の背中に立つなよ!」
「ごめんなさい、着替えを持ってこようと思って――」
「いいから、じっとしていてくれ」
「ごめんなさい、ごめんなさい――」
ごめんなさい、ごめんなさい。
きっとわたしは邪魔よね。
こんな悪霊、家に置いておきたくないものね。
そうよね、分かっているわ――
男はわたしを無視するようになった。
だってわたしの声に答えたら殺されるかもしれないんだもの。
当然よね。
分かってる。
わたしは家を出ていくことにした。
でも家を出る前に、挨拶だけはしなくちゃと思って。
あの子が家にいない時に、わたしは男に声をかけた。
「い、今まで。お世話になりました。こ、ここを出ていきます」
「……なんだ、突然。恵子には言ったのか? まあ、俺はどうでもいいけど」
そっけなくそう返された時、私は思った。
――今、「答えた」な?
わたしは、自分が邪悪に笑っていることに気付いた。
令呪の束縛を感じる。
けれど、わたしはそれを打ち破った。
それがわたしの能力、悪霊としての「本質」だから。
抵抗する男の腕をもいで空に投げた時、わたしは答えに辿り着いた。
ああ、わたしは最初から、こいつを殺すつもりだったのだと。
受け入られるつもりはなく、
受け入れる気もない。
わたしはこいつを邪魔に思っていたんだ――
――あはは。
「あはは! お前なんか! 死んでしまえ! 死んでしまえ――」
胸が澄んだような晴れやかさだった。
わたしは
どうしようもなく、どうしようもなく。
人を殺さねば生きていけないのね――
「――切華?」
あの子が、帰ってきた。
「どうして?」
あの子が私に問いかけた。
「ち、違うの。わた、わたしは、こんな、つもりはなくて――」
嘘が零れる。
違うの。
わたしが言いたいのはこんな言葉じゃない。
わたしは、貴女の傍に居たいだけなの。
だから、邪魔な奴は■すの。
ただ、それだけなの――
「あ、あ……」
あの子の顔が、恐怖に歪む。
その時、私はこれからどうなるか悟ってしまった。
「す、捨てないで――。もう一人は嫌なの! 嫌なの――」
手を伸ばす。
「きゃああああ‼」
その手は振り払われた。
その時、私の中で何かが壊れてしまった。
「あ、ああ――
わたし――きれい?」
全てが終わって、私はあの子の手に頬ずりしていた。
肘から先がない彼女の細腕。
温もりもとうに消えて冷え切ってしまっている。
「あ、あ、ああ」
全て失った。
わたしの名前は渡島切華《カシマレイコ》。
問いかけに答えた者を殺す――