Fate/loneliness 4 Fate Grand order -the survival plan-   作:からすまそういち

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第6話

 

 

 第三節 突入! ユークリッド・ワンダーランド

 

 

 私達はビルの傍に停めてあったクルースニクの軽自動車に乗せてもらい島の北西に向かう。その途中で中央大広場を通った。

「でけー像だな」

 みっちーは広場の中心に建つ巨大な人物像を指差して言った。その像は剣を天高く翳している。

「あれはロキの像だ。奴が自分で建てた」

 クルースニクは慣れた手つきで運転を続ける。

 騎乗スキルはないそうだが、運転免許は現界してからマスターと一緒に取ったらしい。

 彼は自分についても軽く話してくれた。

「自己顕示欲の塊かよ」

「あれの足元にも実物大の像がある。余程自分が好きらしい」

「ひえー、神サマって感じ」

「そういえば、どうして先に遊園地に行くんですか?」

「遊園地を仕切っているのはエウクレイデスという名のキャスターだ。あいつは宝具で依代がある限り無限に分裂できる。それを他の領主にも配っているわけだ。だからまずは奴を抑えた方が効率いい。――そろそろ着くぞ」

 車から降りると大きな門が見えた。

 門をくぐると遊園地の入り口があった。

 クルースニクは券売り場を無視して入り口の回転扉を通ろうとする。

「いいんですか?」

「ここに通貨の概念はない。見た目を模倣しているだけだ。気にするな」

「そもそも俺達金なんて持ってないしな」

 クルースニクに続いて私達は回転扉を通る。

「そういえば、誰も居ないんだな」

 売り場にも扉にもスタッフはいなかった。

「人ならそろそろ飽きるほどやってくるぞ」

『お客人の皆さま、ようこそユークリッド・ワンダーランドへ。スタッフ一同で歓迎いたします』

 女性の声でアナウンスが鳴った。それに応じる様に、あちらこちらから等身大の人形が顔を出す。

 ツヤのない緑髪のロングツインテールが印象的なその人形達は、縁日で売られている少女向けアニメの仮面を貼り付けただけのような生気のない顔をしていた。表情が硬い笑顔に固定されていて不気味極まりない。

「ほら、出たぞ」

 ぞろぞろと現れた人形の数はとてつもなく多かった。指で数えられないどころか、目で追いきるのも難しい。

「うへえ、マジかよ」

「あっはっは! 君達が『例の客人』だな! じゃあ早速、ぶっ潰してやろうか!」

 人形達は笑う。カタカタ、カタカタ、と。関節を鳴らしながら。

 私達を囲むように並んだ。

「結局こうなるのかよ」

「ヤツは『賛成派』だからな。こうもなるだろう」

「で? どうすんだ?」

「……? どうもこうも、これを何とかするのが君達の役目だろう?」

「無策かよ!」

「こいつらをまずどうにかできなければマザーもクドラクも倒せまい。さて、どうする?」

「マスター! 実はこいつまだ敵なんじゃねえの⁉」

「うーん、数が圧倒的に足りない。打破するには……」

「光秀! 宝具を使うんだ!」

 どこからともなく声が聞こえた。

「確かに。みっちー、宝具展開!」

「いいのか? じゃあぶっちぎってやるぜ! 『本能寺の変』‼」

 令呪を切ってみっちーに魔力を供給する。

 宝具で人形達を結界の中に閉じ込めた。

 人形達は為すすべなく全て燃え落ちた。

「とりあえず窮地は脱したが……令呪を切ってよかったのか?」

 みっちーは全滅を確認するとすぐに結界を解除する。

「まともに戦っても勝てなかったし仕方な――あれ?」

 使ったはずの令呪が回復している。

「なんで?」

「君の令呪は特別性なのだろう。体に刻んである令呪、か。シャルルから聞いている。ここは時間の概念が外とは違う。その特性から令呪を回復することもあり得るか?」

「――そうか。私の令呪は時間経過で回復するんです。だから、」

「ここでは君の令呪は無尽蔵の魔力供給源となるわけか――ふむ」

「だが、マスターの体力は無限じゃねえ。そう簡単に使うわけにはいかねーだろ」

「そういうものか、残念だ」

「でも、頑張れば多少は無茶できるってことだよね」

「マスター、それは最後の手段にしてくれよ?」

 やれやれとみっちーは首を傾ける。

「そういえば、さっきの声は?」

「あれが件の――来たぞ」

 空から甲冑武者が落下してきた。彼は人を胸に抱えたまま、地面にズドンと着地する。

「ありがとう、アーチャー」

 武者に抱えられていた人がそう言って地上に降り立った。

 私はその人を知っている。

 会ったことはないけれど、その見た目はカシマレイコが化けた綺麗な人と全く同じ、シャルル・レ・モーガンだった。

「初めまして。私の名前はシャルル・レ・モーガン。こいつはアーチャーの那須与一。君は?」

 彼のサーヴァントだろうアーチャー那須与一は彼に合わせて会釈した。私も彼らに合わせる。

「初めまして。藤丸リツカ、と言います」

「日本人か。……ああ、ごめん。変な意味じゃなくてね。私は日本で教師をしていたものだから」

「そうなんですか」

「うん。――さて。久し振り、光秀」

 彼はみっちーを向いて優しい微笑みを投げかけた。

 知り合いなのかな、と私はそう思ったけれど――

「えと、その、ごめん。どこかで会ったことあったっけ?」

 みっちーの反応はとても淡白なものだった。

 シャルルの目が見開く。

 一瞬時間が止まったかのように固まった彼だったが、すぐに言い直した。

「ああ、すみません。知り合いに似ていたもので――」

「シャルル、」

 クルースニクが何か言いかけたがシャルルはそれを手で制した。

「……そうか」

 クルースニクは乗り出した身を引っ込める。

「貴方は明智光秀。そうですね?」

「ああ、そうだけど」

「私は日本史担当でした。故に貴方のことが分かったのでしょう。浅い真名看破ですけどね。さて、挨拶も済んだことですし、状況に話を戻しましょう。君達はユーたんの人形群を倒した。しかし、これは一陣に過ぎません。すぐに第二陣が来る」

「マジかよ。宝具はそう簡単に連発できねえぜ。マスターの身体に悪い」

「ですから、私が来たのです。私とカトル――クルースニクで第二陣に穴を空けます。そこを貴方達は突き進んでください。観覧車の近くに塔があります。その塔こそがユーたんの根城、管制室です」

「言っている間に来たぞ。二陣だ」

 向こうから雪崩のように大量の人形達がこちらに向かっているのが見える。第一陣とは比べ物にならない。みっちーの宝具を使っても時間がかかるだろう。

「来ました、ね。あれが第二陣。ですが、あれだけ大量の戦力を投入してきたのなら本陣は薄いはず。私達で穴を空けるのでそこを光秀がマスターを抱えて突破、いいですね?」

「お、おう」

 手際の良さに私達は呆気にとられる。だが、確かに彼の作戦が最善のように思えた。

「ではそれでいきましょう。お願いします」

「はい。カトル、準備はいい?」

「そちらこそ」

「私も既に準備はできております」

 みっちーは私を抱きかかえる。

「こっちもいいぜ」

「よし、じゃあいくぞ

 ――合体宝具」

 クルースニクは自身の剣、十字剣を那須与一に渡した。

 受け取った与一はそれを矢のように引いて構える。

「――『闇穿つ一条(スヴェティ・クリーシュ)』」

 彼が放ったそれは、一筋の光線の様に空を切り裂いていった。

 そして、雪崩のように突っ込んでくる人形の網に巨大な穴を空け――

「行け光秀! 観覧車を目指すんだ!」

「応よ!」

 みっちーはその穴に向かって走り出した。

 穴が塞がれるその前に、みっちーは駆け抜ける。

 人形の波を抜けた後も、観覧車を目指して走り続けた。

 そして、辿り着いた。

「ここでいいんだよな」

「多分」

 みっちーは私を下ろす。観覧車の横、巨大な塔。その目前。

「はっはっは、よくぞここまで辿り着いた」

 塔の前に居るのは三人。

「我が桃源郷に現れた虫が君か?」

 一人はやせぎすで背の高い、眼鏡をかけた男。

「儂の力を見せる時が来たのう」

 もう一人は杖を持ったローブを纏う老人。

「俺達の網を抜けるとは、中々やるんじゃない?」

 三人目は人形だった。いや、人形とだけ表現するには言葉が足りない。等身大のフィギュア。それがまるで人間のように瞬きしながら動いている。

 見た目は先程戦ってきた人形達と似ていた。地面に届きそうなほどに長い緑髪のツインテールに美少女フィギュアのような顔つき。しかし髪は輝くようにツヤがあり、表情は生きているかのように自然に表情が動いている。

 まるで意思を持って動いている。そういう生き物であるかのように。

「では改めまして。わたくしが当テーマパークの支配人、ユークリッドでございます」

 フィギュアは腰を折りながら仰々しく言った。その声はアナウンスで聞こえた女性と同じ声だった。

「お前がボスか。つまり、お前を倒せばいいんだな」

「ふん、分かっているじゃないか。その通りだよ。だが、そうは上手くいくかな? なあ、カカ」

 カカと呼ばれたやせぎすの男は得意げに胸を張り応える。

「ああ、まさかあの雪崩で我々の作戦が終わっているとでも? そんなわけがない」

「ああ、そんなわけはないのう」

「モチ。当然、こうなった時の作戦も用意してるよなァ!」

 はっはっは――と彼らは不敵な笑みをこちらに向ける。

「大丈夫だマスター。俺がいる」

「分かってるよ。宝具を使うかもね」

 さて、こいつらはどうくる――私達が身構えたその時だった。

 

「「「すんませんでしたァ‼」」」

 

 ――彼らは地面に座って地に這うように頭を垂れた。

「――え?」

 私達は固まる。

 これが――作戦なのだろうか。

「なにしてんだ?」

 思わずみっちーが口をこぼす。

 それに答えたのはカカだった。

「……なに? 日本では命乞いの時に土下座をするのではないか?」

「え?」

「命乞い……だと?」

「そう! それがユークリッド流処世術秘奥義!『DOGEZA』‼」

「ドゲザ? ――は?」

 ユークリッドは顔を上げる。

「で、あの、どうしたら俺達は許されますかね? 痛いのは嫌なんですまじほんと。『お前痛覚ないだろ』ってよく言われるんですけれど痛覚の問題じゃないんです。死ぬ感覚嫌いなんです本当に」

「えーっと、とりあえず……人形達を引き上げてくれませんか?」

 ここに来たのは他の領地にも人形が派遣されているから、とのことだった。それが解消されれば他の地区にも行けるのだろう。それに、今も戦っているであろうシャルル達の負担も減るだろうし。

「「「畏まりましたァ‼」」」

 勢いよく彼らが答えるので少しびくっとする。

 命乞いをしている態度なのだろうか、これが。

 みっちーも私も油断せずに二人を見ていたけれど、彼らがこの隙に何かをしているという様子はなかった。どうも本気らしい。

「なんか、呆気なかったな」

「そうだね……」

 どうしたものかと考えているとシャルル達がやってきた。

「急に人形達が停止したからどうなったかと思えば、終わったみたいだね」

「ああ。なんか、そうみたいだ」

 集合して話し合いの末、シャルルはユークリッド達の見張りにクルースニクをつけることにした。

「クルースニクさんは来ないんですね」

「ああ、マザーは聖職者だ。俺は聖職者とは戦えない。それに――」

「それに?」

「万が一、戦っても俺はマザーに勝てないだろうからな」

「え、そうなんですか?」

「実際に戦えば分かるだろう。行ってくるといい」

 クルースニクに促され、シャルルと共に私達は次の目的地、大聖堂へと行くことになった。

 遊園地を出ようと私達は入口まで戻る。

 その時、入口の向こうで誰かが手を振っていることに気付いた。

「――ロキ」

 シャルルが呟く。

「あいつが?」

 手を振っている男は面妖な雰囲気を持った美しい男だった。白を基調としたスーツを身に纏うが、それには端々に紫や紅色の細工が施されている。

 彼が――ロキ。

「よう。そいつが例の新入りか?」

 彼の前まで歩き、対面する。

「そうだ」

 シャルルが答える。

「お名前は?」

「藤丸リツカといいます」

 訊かれたので答える。ロキは嬉しそうに口角を上げて言った。

「――女か」

「……それがなにか?」

「いいや。元気そうで何よりだ。お前なら丈夫な子が産めるだろう」

「はい?」

「おいシャルル。女が来たぞ。これは喜ばしいことだ。これで繁殖が可能になった」

「――ロキ」

 シャルルは呆れたように顔に手を当てる。

「藤丸リツカと言ったな。ではリツカ。お前、そこのシャルルと――交尾しろ」

 ロキは恥ずかしげもなくそう言ってのけた。

「……はい?」

「ニンゲンの文化には他人の交尾を見て興奮する文化があるんだろ? 俺は見るよりもヤる方専門だが、これも経験だ。見ておいてやろう。ほら、つくばえ」

 何を言ってるんだこの男は?

「ロキ、あのさあ――」

 シャルルが口を挟もうとするがロキは構わない。

「恥ずかしいのか? 白昼堂々外でヤる趣味はないと? 初々しいな。なら新しく宿屋を用意しよう。どんなのがいい? 日本家屋がいいならそれもデザインしてやるぞ」

 話についていけない。

 こいつは何を言っている?

「ロキ――」

「初夜は流石に二人きりの方が良いのか? でも俺は破瓜の様子も見てみた――」

「ヤらない!」

 シャルルは大きく声を挙げた。

 ロキは固まる。

「――なんだって?」

「私はヤらない。彼女も望んでない。そういうのは強制するものじゃない。恥ずかしいからそれ以上口を開くな」

「何を言う? 大事な儀式だ。人類存続に必要だろう交尾は。何を恥ずかしがる」

「恥ずかしいのはお前の発言だバカ!」

「バカとはなんだとぉ! この俺が恥ずかしいっていうのか⁉」

「恥ずかしいわ! 人の前で交尾とか、は、破瓜とか――言うな!」

 ロキとシャルルが口論を始める。

 な、なんだこれは。

 居心地が悪い。

「やっとこの世界に女が来た! この機会を逃してどうする⁉ お前は人類が滅びてもいいっていうのか⁉」

「人権を踏みにじるなこの駄目神! 既に滅んでんだよ人類は! いい加減理解しろ!」

「この――俺が滅びから守ってやっているというのになんてクチだお前は! 滅んでない! 人類まだ滅んでない! 今からやり直せばいいだけだろ⁉」

「平行線、ですな」

 与一が二人の様子を見て呆れるように呟く。

「すみません、二人はいつもこうなのです。お気になさらず。ロキの失礼な発言はお許しを」

「は、はあ……」

「誰が失礼だァ⁉ 上等じゃねえかかかってこいやオラァ! 喧嘩なら負けねえぞ!」

「そりゃお前は神だから負けないだろうな! 口で勝てないからって暴力で解決か⁉」

「あンだとォ⁉」

 二人はお互いの胸倉を掴み合って吠え合っている。

 な、なんだこの光景は。

 これが神と人との――喧嘩?

 とてもレベルが低い。

 与一が間に入る。

「どうどう。どうどう」

「……テメエッ! 覚えていやがれ!」

「こっちこそだ! ふーんだ!」

 距離を離されても二人のテンションは変わらない。

 けれど、時間が経つと彼らも少しは冷静になったようで、

「――俺はこの世界のことを考えているだけだ」

 ロキは言った。

「俺は神が嫌いだ。私利私欲にまみれ横暴で陰険な神どもが嫌いで嫌いでたまらない。虫唾が走る。その点ニンゲンはいい。神と比べると遥かにマシだ。力ない小さき者は庇護の対象だ。愛するに値する。ああ、そうだ。俺はニンゲンを愛している! 愛しているんだよ!」

 彼は笑う。

 ははは、と嘘くさく。

「お前達がしようとしてることなんてお見通しだ。それでも自由にさせてやってるのは何をしようがお前達では俺様に勝てないからだ。そして分からせてやるのさ。『ああ、やっぱりロキ様こそが我らが信仰すべき神なのだ』と。その時はすぐに来る。ああ、すぐにだ」

 ロキは私に向かってウインクした。

「今は待っていてやろう。覚悟ができたら遠慮なくいってくれ。豪華な寝室を用意しよう」

「は、はあ……」

「じゃあまたな」

 ロキは飛び上がるとそのまま空に浮いて飛んで行った。

「なんか破天荒な人でしたね……」

「まあ、ロキだからね」

 疲れたようにシャルルは肩を落とす。

「邪魔が入ったけどとりあえず次の場所へ行こう。クルースニクから鍵はもらってる。私が運転するよ」

 私達は車に乗りシャルルが運転して次の場所、大聖堂へ向かうことになった。

 

 

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