Fate/loneliness 4 Fate Grand order -the survival plan- 作:からすまそういち
断章三 エウクレイデス
儂は最初、カカのサーヴァントではなかった。
カカの父、クンジャ・コーニャのサーヴァントじゃった。
カカと似て不器用じゃが心根の優しい男じゃった。
しかし、ある時。
クンジャは過労で倒れた。
原因は日々の労働だけではない。
サーヴァントを稼働させるには魔力がいる。コーニャ家には聖杯がなかった。それはつまり、人間の体内から魔力を分け与えないといけないということじゃった。
儂への魔力供給は契約者のクンジャから行われていた。
儂の存在はクンジャの負担となっていたわけじゃな。
クンジャが倒れた後、儂は彼に契約を切ることを進言した。
儂はそう大したサーヴァントではない。
学者のなりそこないの集合体。
何かを遺そうとして叶わなかった存在。
現に当時の儂はクンジャの子であるカカの家庭教師をやっていただけじゃった。遊び相手とも言うのう。ともかく、コーニャ家で大事なポジションではなかった。
クンジャは説き伏せた。働き盛りの男をこれ以上苦しませるわけにはいかぬ。彼は最終的に首を縦に振った。
しかしカカは納得しなかった。カカは当時小学生じゃったからのう。こんなしがない老人でも別れるのが惜しかったのじゃろう。泣き崩れるわ駄々をこねるわ宥めるのが大変じゃった。
あの時の顔は今でも忘れられぬ。
普段は無愛想でぶっきらぼうなのにあの時だけは声を荒げておった。
ほっほっほ。
……あら、何の話じゃった?
ああ、そう。それで。
カカがあまりにも反対するので契約破棄は一旦白紙になった。
じゃがそれではクンジャの負担が大きいままじゃ。
どうしたものかと閉口していたら、カカが儂のマスターになると言い出した。
サーヴァントを継ぐには早すぎる。
魔力回路も育ち切っていない。
無理があると儂は言うたが、カカは聞く耳を持たなかった。
そして、疑似的ではあるがクンジャからバイパスを繋げ儂のマスターになってしもうた。
カカはすごかった。まだ若いというのに魔力が安定している。
儂に見栄を切った手前、どうにかせねばと考えていたのだろう。
カカは体調管理に余念を欠かさなかった。
絶対に無理はせず自分の限界を把握し、管理できている聡明な少年じゃった。
儂は彼を見くびっておったよ。
結局、自立できる年齢まで儂のマスターで在り続けた。
そうして正式にカカは儂のマスターとなったわけじゃ。
独り立ちした彼に儂はついていった。
もう教えられることなど何もないが、儂はまだカカと一緒に居たかった。
親心に似たものじゃろう。長いこと一緒にいたから、それが当然のように思えた。
カカも儂と共に居たいと言ってくれた。
むしろ、共に居て儂のことを世に広めたいと言い始めた。
「何故じゃ? 儂は何もできんぞ?」
「そんなわけあるか。俺は今までエウクレイデスから多くのことを学んできた。それは他の人間にも役立てるはずだ。もっと、誰かを笑わせられるはずだ」
そして、彼が持ち出したのがユーチューブじゃった。
「これだ」
彼はパソコンの画面を指差す。
「? これ、いつもカカが見てるやつじゃろ?」
「そうだ。これは多種多様な人間が動画を投稿しているサイトだ」
「ほう。それで?」
「俺達も動画を投稿する」
「な、何故じゃ。というか何を投稿するんじゃ」
「理由は言った。何を投稿するかはまた考える」
「はて……」
それから、儂らは学問についてだらだらと語り合う専門チャンネルを開設した。
無論、人気など出なかった。
おっさんと老人の二人が学問についてにべもなく語り合うチャンネルに受容などなかった。
少し考えると分かるもんじゃが、とにかく動画を録っては投稿することに精一杯の儂らには分からぬことじゃった。
じゃが、ある日。
ユーチューブをサーフィンしている時に儂は気付いた。
「……これじゃ」
「なんだ?」
「これじゃよ。儂らに足りないものは!」
カカに該当ページを見せる。
「な、なんだ? これは」
儂が見せたのは――ヴァーチャルユーチューバー、通称Vチューバ―が生配信しているページじゃった。
「絵が動いて喋っている? これがどうした」
「儂らに足りないのは『萌え』じゃよ!」
「も――モエ? モエってなんだ」
カカが仕事中も自宅でネットサーフィンしている儂がネットに潜む沼を紹介した。
あの時は柄になく熱く語ったもんじゃ。まず日本の萌え文化を説明してからだったからのう。隅々までカカに叩き込んだ。
すると、カカも納得したようで、
「成程。確かに。男二人が喋るよりも女が話す方が見栄えがいい。いい視点じゃないか」
と言った。
「でも、俺達は男だぞ。どうするんだ?」
「ふふ、バ
「ば、バミニク……?」
「ガワさえ整えればあとはこっちのもんじゃあ! 3Dモデルを作るんじゃ!」
「お。おう……」
それからは儂らでモデリングの猛勉強じゃった。
その間にカカも萌え文化に興味を持ったようで、見聞を広げていった。
そんなある日。
「エウクレイデス。これを見てくれ」
カカは何かを買ってきたようで、儂にそれのパッケージを見せてきた。
「初音ミク――? カカ、これは……?」
「これが俺達の声だ」
「ばっ、馬鹿! なんでボーカロイドなんじゃ! 他にもボイスロイドか何かあるじゃろ! なんでわざわざ調教がめんどくさいやつ選ぶんじゃ! 声なら変声機使えばいいじゃろ! そもそも文章の読み上げなどゆっくりにでもやらせれば――」
「ゆっくりは! 萌えない!」
「――は?」
「ゆっくりに萌えるか⁉ いいや萌えない! 萌えるにはこいつが必要だ!」
「か、カカ……」
「3Dモデルも緑髪ツインテだ。これは譲れない。あの長いツインテに絡まれるのが俺の夢なんだ」
――儂はとんでもない
へんたいよくできました。
おっと、それはともかく。
――で、
それからも大変だったなあ。
どうせなら知名度バーンと上げてからデビューがいいなあと俺達は考えて、聖杯戦争に参加することにした。
モチのロンで俺達は最弱だけれど、他のサーヴァントにはない特性を持っていた。
自我の分離。
俺達はエウクレイデスという名の「名の知れぬ学者の集合体」だ。だから実際は「儂」の中にも一人一人別人がいる。そいつらに名前はもうないけれど、全員が全員エウクレイデスだ。俺達はそういうモノだった。
それを利用したってコト。
人形を何体も見繕ってそれら一つに一つに俺達の何人かを分ける。そうやって独立して稼働するもう一人の「俺」を何体も造った。
大量のエウクレイデスを生産して戦闘に投入して、俺達は勝ち上がった。聖杯戦争のルール上問題はない範囲らしい。ちょっとしたズルかもしれないが、俺達は圧倒的な数の差で勝ってきたのさ。
それで、ここからどうなったかというと――
地獄だった。
聖杯戦争決勝戦。そういわれて来た謎の無人島。そこで俺達はサバイバルデス・ゲームに巻き込まれた。
カカは争う必要はないと皆に自身の令呪端末を叩き割ってまで説明するが、誰もその話に乗ってくれない。
カカは不器用な男だった。無愛想でぶっきらぼうに話すため他者に誤解を与えやすい。
皆のことを思ってした行動も、無駄だった。
カシマレイコに殺されたカカはそれはそれは無念だっただろう。
彼の気持ちを考えると胸が張り裂けそうになる。
誰にも意見を聞いてもらえず、一人孤独に殺された。
外に居たエウクレイデス本体もクドラクに殺された。
予備で持ってきていた人形が稼働してユークリッドとしてデス・ゲームに参加を続けるもこれもまた無残に壊された。
退去の瞬間、俺達は思った。
こんなところで終わりなのか、カカも死んでしまった。
俺達が生きてきた意味。
それがカカと掲げた夢だったことに気付いた俺達は、深い闇に思考を落としながら涙を流した。
身体は人を模した木材に過ぎなかったが、その涙だけは本物だった。俺はそう信じている。
――そして、目覚める。
聖杯戦争がループしたのだ。
ループして感じたのは、喜びだった。
またカカと共に暮らせる。
そう思うと、世界の滅亡ももう叶わぬ夢も大したことのないように思えた。
カカは夢が叶えられぬ世界に残念がるが、俺達は違った。
こうなったら生前できなかったこと、楽しかったこと、やりたかったこと、できること全部やっていこうとカカに提案し、ロキに頼んで自分達だけのテーマパークを造り上げる権能をもらった。
そうしておかしく楽しく過ごしていく。
が、やはり心の何処かに雲がかかる。
俺達が目指していたのはここではないと。
それに気づきながらも、俺達は目を逸らしていた。
生きているだけで、いいじゃないか。
そう思いながら。
嘘を吐いて生きてきた。
そんな時、俺達の前に「彼」が、現れたのだった。