Fate/loneliness 4 Fate Grand order -the survival plan-   作:からすまそういち

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第9話

 

 

 断章四 マザー・テレサ

 

 

 私はしがない修道女でした。

 決して特別なのではなく、どこにでもいるシスターでした。

 そんな私を私たらしめたのは間違いなく天啓があったからでしょう。

 私が聖人という名誉な称号を得たのは、私が崇高な人間ではなく、高尚な人間ではなく、ただ。

 天啓があったからなのです。

 もし私が他の皆様と違うところがあったとするならば、そこでしょう。

 だから。

 ふと、考えてしまいます。

 もし、天啓がなかったとするなら。

 私はどうなっていたのでしょうか。

 その答えをくれたのは、私のマスターでした。

「お前はバーサーカーだ」

 彼は私にそう言います。

「お前は狂っている。人間が、他者に奉仕できる限界をお前は越えている。それはお前自身の人生の放棄だ。何故お前はそう在れた?」

 分かりません。

 私には分からないのです。

「俺が教えてやる。お前が狂っているということを、俺が教えてやる。だからついてこい」

 分かりました。

 貴方がそう言うのなら、私は貴方についていきましょう。

 私は天啓を捨てた。

 それがバーサーカーとしての私。

 もし私に天啓が下らなかったら。そのイフ。

 ええ、本当は。

 天啓を与えられなかった私こそが、狂信者(バーサーカー)なのです。

 独善的な信者。

 それこそが今の私。

 私は彼に尽くしました。

 それが新たな(めい)だと考えて。

 聖杯戦争で戦ってきたのです。

 他者と争うことは不毛なことです。

 ですが、私はその享楽に身を預けました。

 マスターの喜ぶ顔が見たくて。

 ただ、それだけを願って。

 そして、訪れたのが例の無人島でした。

 島に訪れて少し散策して、私達は異常に気付きました。

 森の中に男の死体があったのです。

 何かがおかしいと察知した私達はその男の令呪端末を奪い、死体を隠しました。

 私達は瞬時に理解してしまったのです。

 今回の聖杯戦争は「そういうもの」なんだと。

 ですから、情報アドバンテージのために皆様に嘘を吐きました。

 私は何かしらのマスターであると。

 しかし、それも意味なく私達は殺されました。

 マスターはカシマレイコに。

 私はロキに。

 ああ、なんということでしょう――

 私はマスターを守ることができなかった。

『お前だけでも逃げろ!』

 令呪を使うマスターの姿が今でも頭に浮かぶ。

 私は逃げた。

 マスターの命に逆らうことができなかった。

 何故彼は逃げろと言ったのでしょう。

 私ならカシマレイコとも戦えた。

 全身全霊全てを賭ければ斃すこともできたでしょう。

 だというのに。

 聖杯戦争がループしてから、私は彼に訊きました。

「何故あの時逃げろと仰ったのですか?」

「万が一にでも。お前が負ける姿を――死ぬ姿を見たくなかった」

「――え?」

 それが、ご自身の命よりも大切なことだったのですか?

「悪ぃかよ」

「ふふ」

「笑うな」

「いえ、嬉しかったのです。私は貴方の誇りになれたのですね」

 島の時間がループしてから少しは平和な時間でした。

 久しぶりのマスターとの歓談。

 戦いづくめの日々からの解放。

 私が求めていたものがそこにはありました。

 しかし、

「――最後に、言おうと思ってたんだ」

「最後?」

 その時はやってきました。

「ああ、実はさっきロキに確認した。このループに必要なのはサーヴァントだけだ。マスターはループに必要ないらしい。だから、俺はループから抜ける」

「なんと、それは……本当ですか?」

「ああ、俺はもう、いい。十分戦った。これ以上足掻くつもりはねー」

「マスター、本当に、よろしいので?」

「もういい。もう十分お前の生き様を見た。もう十分だ。これ以上お前を狂わせる必要もない。お前は、お前だよ。マザー・テレサ。他の誰でもない。バーサーカーという枠組みに囚われない、ただ一人の聖人だ」

 彼の体が淡く輝き始める。

「マスター。私は今まで貴方に従ってきました。貴方が往くというからついてきたのです。貴方が途中で降りるのは無責任ではありませんか?」

「ははっ、お前が嫌い過ぎてお前を困らせるために今まで付き合わせてやったんだ。これもまた嫌がらせだ。聖人の隣に居ると自分がすり減る。これ以上は御免だね」

 彼は笑いました。

「マザー。お前を縛るものはもう何もない。後は自由に生きればいいさ。自由に生きて自由に死ね。それがお前、マザー・テレサってやつだよ――」

「マスター、貴方は面白い人でした。もしまた機会があれば、私のマスターになっていただけますか?」

 私もまた、微笑むのです。

「はん、ノーと答えると知ってて言うかよ。お前も現世でいらぬ知恵をつけたね。――そうだな。世界がまた通常に戻れば、あり得るかもかな」

「それだけ聞ければ、十分です。貴方に安らかな眠りのあらんことを。ケンネル・フェルナンデス」

 私はそっと彼に祈りを捧げます。

「ああ、じゃあな――」

 彼は光の粒になって、消えました。

「もし別れが来るのなら、私が先に逝くものだと思っていました」

 そう、それなのに。

「どうして、私はこう、先に逝く人を見送ってしまうのでしょうか」

 長く生きた者に訪れる不幸。

 それは別れの多さだと私は思います。

 私はマスターを失いました。

 私は生きる意味を失ったのです。

 彼は自由に生きろと言ってくれた。

 でも、解放された私は。

 解放されても依然変わりなく。

 バーサーカーであるのです。

 滅んでしまったこの世界が正しいと思えてしまうのです。

 そして、私を蝕むその思考に悩まされる中、「彼」が私の前に現れました。

 

 

 

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