今宵、君とエチュードを   作:イソギンチャク

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どうも、イソギンチャクです。
前回の話に続いて今回はホワイトデーのお話です! ぜひ楽しんでくれたらうれしいです。
それでは、よろしくどうぞ。
※前回に引き続きヤンデレ描写ありです!


ホワイトデーの天使

「……ねぇひまりちゃん、ホワイトデーのお返しの意味ってひまりちゃん詳しくない? いや特に深い意味はないんだけど。そういうのひまりちゃん詳しいかなって」

 

「お返し……お返しってことはもしかしてチョコもらえたんですか? よかったですね! そうですね……お返しなら、私はキャンディとかがオススメですっ! だって〜、その意味はあなたが好」

 

「いや悪いけど断りたいんだな。だからマイナスな意味しかないアイテムをたくさん教えてくれないかなひまりちゃん」

 

「えぇ……あんなに欲しがってたチョコを貰っておいてそれって……」

 

 ご機嫌よう、全日本のモテない男子諸君。久しぶりだね、一ヶ月ぶりの怪物くんだよ。今日は、なんとめでたいホワイトデーだね! 

 

 みんなは、こんな日でも元気にリア充僻んでるかな? 俺はまあ好きな子からのバレンタインのお返しをどうしたらいいのか相談に乗ってくれ、って真っ赤になりながら聞いてきた言ってきた男の友人に蹴りを入れたりとかしたカナ☆

 

「察してくれやしないかひまりちゃん……俺のこの目を見て。……でもさ、ひまりちゃん。もしひまりちゃんが今ここで俺にチョコくれたなら、君が望むキャンディ、ちゃんと心を込めて返すぜ……」

 

「あっそれは別にいらないです」

 

「あまりにも即答で怪物くん泣きそうだよ」

 

 そんなホワイトデーに結局チョコをくれなかったひまりちゃんとたわいもない会話をしながら、俺は多分この後やって来るであろう『彼女』について考える。

 

 ……あの俺に相談をよこしてきた男の子、いるじゃん? 俺だってさ、貰ってるって部分は一緒っちゃ一緒なんだよ。チョコレート。

 

 そうだよ、非リアでもチョコ貰ったよ! 貰えたよ! だけどさ……あのね、それをくれた女の子、いわゆるヤンデレちゃんなんだよね。無闇に付き合うと今後が怖いんだよね。

 

 彼女との末恐ろしい未来を回避するために頭を回す俺に、ひまりちゃんは苦い顔で携帯を見ながらこう言ってくる。

 

「正直、相手側の女の子の気持ちを考えると私はあんまり推奨しないですけど……例えばチョコレートを返してみるのはどうですか? 意味は『あなたの気持ちをそのままお返しします』、お返しなんかによくある曖昧さもないですしわかりやすくていいと思いますけど……やっぱり推奨はできな」

 

「よーし、早速家に帰ってキラキラドキドキのチョコレート作るぞー☆」

 

「ダメだこの人何も話を聞いてない!」

 

 ありがとうひまりちゃん! なんでいいことを聞いちゃったんだろ! きっと今日はいい日になるね、ハ◯太郎! 

 

 そのまま俺は素敵な情報を教えてくれたひまりちゃんに別れを告げ、スーパーでチョコレートとトッピング材料を買うとそのままダッシュで家のキッチンに向かった。

 

 〜

 

 我が家のキッチン。俺は準備という準備をしてオコトワリチョコレートを製作する寸前に入っていた。

 

 断れることが嬉しすぎて興奮しすぎたのか間違ってハート型の型買ってきちゃったけどちょうど真ん中で真っ二つに割れば気持ちも伝わるだろ! な! 

 

 ただ……ね? 今から作ろうにも、その……問題が一つあるんだよね。

 

「……俺が今日お家でクッキングするってあなたには教えたことないんすけど……?」

 

「何を言うんだい。王子たるもの、愛する君の行動ぐらい分かって当然だろう? それに、ここは君と君の御両親が暮らす城のようなものだからね。君に会いにくると同時に、未来のお義父様とお義母様とも交流を図れるからちょうどよかったよ!」

 

「まだお前の両親じゃないからな。まあなぁそうだよなぁこのヤンデレしれっと母ちゃんと仲良くなりやがって……! ていうかさ、いつも思ってたけど俺といる時の薫の立ち位置は姫なの? 王子なの? どっちなの?」

 

「どっちも……だね。それもまた、儚い……」

 

 だから今は君という王子様を目の前にして嬉しいお姫様の気分だ、なんて言いながら俺に抱きついてくる薫。

 

 さあて、皆さまお分かりでしょうか? というか分かってくれ。つまりはその……今ちょうど俺にむぎゅっと抱きついている女の子……瀬田薫ちゃんが問題のヤンデレなのだ。お断りしたい相手本人が来ちゃったのだ。

 

 っていうかさ? 色々思い出したくないあのバレンタイン以来、マジで毎日チョコレートを作って渡してきたもんこのヤンデレ王子様。

 

 断るにも断りきれず俺も毎日彼女のチョコを食していたが、薫にはどうやらショコラティエの才能があるのか何気に全部美味しかったし。ただ……チョコを口に入れた途端鉄の味がしたあの日は本気で血の気が引いたな。血だけに。いやネタじゃなくて。

 

 血は流石に気づいたけど、唾液を入れられてる場合もあるしな……今のところ食ってる側、つまり俺の自覚はないけど、多分薫のことだから結構入れられてる気がする。いつものように気づかず唾液入りチョコを食ってる自分の味音痴ぶりを呪うよ、ほんと。

 

「……でも、こうして君の隣でキッチンに立っているとまるで君の妻になった気がするな。お風呂にするかい? ご飯にするかい? それとも、私? ダーリンは、どれがいい?」

 

「なんかこう……薫がダーリンって言うとここら辺がゾゾッと来るんだけど……」

 

「そうかい? でも……たしかに、私はダーリンと呼ぶよりかはやっぱり君のことは名前で呼びたいな。何故なら、君はこの世界で……」

 

「分かった瀬田薫ポエムなら後で聞くから! っていうか! 今日ホワイトデーだよね! 俺キッチンいるよね! ほら……その、色々察して欲しいんですけど……一応お返しってテイなんだから、薫も一緒に作るわけにはいかないだろ? 俺の部屋貸すから、そこでゆっくりするなりしといてもらえると助かるんだけど」

 

 また長ったらしい瀬田薫ポエムを今にも紡ぎそうな薫の口を手で塞いで、俺は薫に部屋移動を促す。

 

 薫は一瞬ぽかんとするが、意味がわかったのか嬉しそうにしてキラキラした目でこう言ってくる。

 

「分かったよ……それじゃあ、私は君の部屋で儚いものを探し」

 

「先に! 言っておくけど、絶対俺の部屋のモノとか漁るなよ。お前のことだから君の私物……儚い……とか言って持ってくだろ? だから! あくまで大人しく! 大人しくな!」

 

「むぅ……分かったよ。それじゃあ、君からの儚いお返しを貰う前に……んっ」

 

 ……ああ、今日はこのパターンね。俺は薫にチョコを口移しされながらそう思う。唾液でチョコレートが溶けて、甘くなった舌がねじ込まれて、思考が奪われていく。

 

 でもさ、こういうキスまでしてるのに付き合ってないんだぜ? 俺と薫。いや、まあその大半が一方的なキスだし付き合うつもりもないけどさ。

 

 だいぶ激しいキスをしたからか、キスが終わる頃には俺と薫の間には少しだけ白い唾液の糸ができて、それを見ながら今日はホワイトデーだからホワイトチョコにしたよ、なんて言葉を甘い吐息混じりで俺に言ってくる薫。

 

 俺はそんな彼女を適当にあしらうと、ようやくチョコレート作りに取り掛かる。

 

 俺が作るのはいわゆる典型的な板チョコを溶かして再形成するチョコ。小学生の頃、女の子たちが作っているのは見かけたけどもちろん一切もらえなかった。

 

 ただ、溶かして固める。それだけなのに、なんだか薫のようにうまくいかない。なんか不恰好だし、なんか変な味するし。薫の方が難易度が高いチョコを作っているのにどうしてこう違うんだ……? 

 

 まあいいや、どうせ好きじゃない相手に作るもんだし。別に力を入れなくても、どうってことないだろ。

 

 そんなことを考えながら、チョコを冷蔵庫で固めて。最後に固まったハート型のチョコを全部真ん中のところで二等分したら、そのまま安売りコーナーで売られてた包装紙に入れて完成! 

 

 なんだろうな、とりあえず作った感想をまとめると……とにかくめんどくさい! たかがチョコを溶かして固めるだけなのにこうもめんどくさいのか。なのに? 薫は? これを? 毎日? すごいな、俺に労力割きすぎだろ。

 

 でも、これを作るだけで薫が俺のことを諦めてくれるならそれでいいさ。そのまま俺は、チョコレートを持って薫が待つ部屋へと向かったのだった。

 

 〜

 

「薫、これは俺からの手作り『チョコレート』のお返しだ! 受け取ってくれ!」

 

 ……俺の部屋に着いた途端、俺は大袈裟にチョコレートの部分を強調して薫にチョコを渡した。俺の想いが伝わってくれるといいな。いや、悪い意味なんだけど。

 

 ほんと、チョコレートを渡した理由に気づいてチョコレート? そうだったのかー、君は私の重い愛に苦しんで大変だったんだねー、すまないねー、なんて言って早く諦めてくれるといいなぁ。

 

「ありがとう、嬉しいな」

 

 ──だけど薫は、渡したチョコレートをまるで宝物のようにぎゅっと抱きしめたのだ。

 

 チョコを受け取った時の彼女のはにかんだ笑顔が、あまりにも無垢だったから。俺はどうしようもない感情に見舞われる。

 

 ……へぇ、そんなに喜ぶんだ、そうなんだ。キラキラした目で包装紙を見つめる薫を見ると、胸がゾワゾワして苦しい。

 

「君からお返しをもらえただけでも嬉しいのに……それが君の手作りのチョコレートだなんて、さらに嬉しいよ! 本当にありがとう!」

 

「あ、そう……よかった……」

 

「ふふっ、今ここで開けてみてもいいかな? どんなチョコレートなのか楽しみで」

 

「別に、いいけど……」

 

 ああ、わかったよ。この反応を見るに、チョコレートのお返しの意味もわからず喜んじゃってるんだろうな。でもまあ、中身のばっくり割れたハートのチョコレートで察するか。いや察して欲しいんだけど。

 

 ところが薫さんね、ロマンチストさんだから全然気づかないの。ばっくり割れたチョコのかけらをふたつ嬉しそうに取り出して俺に片っぽ渡してくるの。

 

 多分この子、片割れ同士を合わせたらハートになる♡的な恋人同士のペアネックレスみたいな感じだと思ったんだね。違うね。

 

 薫は俺のチョコを美味しいって言いながらたくさん食べて、はたまた俺にチョコを食べさせて欲しい、なんて甘えてくる。

 

 きっと、俺にしか見せないであろうその姿は正直言うとかわいい。かわいい、けれど。もし、その気持ちを断ったりなんかしたらこんな風に甘えてくることは無くなるのかな。

 

 ……いや、何考えてんだよ俺。今から振るんだろこの子。そんなことを考えていると、薫はチョコを食べる手を止めて、俺にこう言ったのだ。

 

「……今だから言うよ。私は、本来なら君への気持ちをずっと告げないつもりでいたんだ」

 

「……え」

 

「だって、君は小柄で可愛らしいタイプの女の子が好きだろう? 私と話す時、いつも言っていたじゃないか。だから、そうじゃない私からの告白なんて、きっと嫌がられる。それで関係が壊れてしまうぐらいならずっと友人でいた方が苦しくないのかな、って思っていたんだ」

 

 そんな中、まさかの薫からの告白に、俺は目を見開いたまま固まる。

 

 ……まあたしかに、俺と薫は友人だ。そう、友人だったよ。まるで男友達みたいにたわいもない会話ばっかりする、俺の唯一の女の子の友達だった。だけど……急に彼女は豹変した。

 

「でも、大好きな君と話せば話すほどもっと好きになって、そのたびに想いが溢れてしまいそうで毎日苦しかった。その時からかな、恋人でもないのに、君が他の女の子と話すことがとても嫌になって。私だけの君だと思っていたのに、どうして他の女の子と話すんだろう、って。……その、だから、あえて」

 

「……俺が女の子にモテないように仕向けてたってことか?」

 

「……本当に、ごめんなさい。全部、私のせいなんだ。だからずっと、謝りたくて」

 

「……そう。まあマイナスからマイナスになってもマイナスだし、別にいいけどさ」

 

 ……いや、豹変じゃなくてずっと溜め込んでいたものが爆発した結果がコレなんだろう。

 

 今までの薫は、本当によくいる恋愛感情を持たない普通の友人だったから。……もしかして、薫側は恋愛感情のない友人である演技をしていただけで、心の奥底では俺のことが好きだったのかな。

 

 ……っていうか、普通に負い目感じてたのか。そうやって自分を責めるなら、ヤンデレとか辞めればいいのに。……そんな悲しそうな顔したら、こっちが辛くなるじゃん。

 

「だから、バレンタインの日、私が食べさせたあのチョコも、ゴミ箱に捨てる予定だったんだ。でも、ナミちゃんが君にチョコを渡そうとしているのを見て、私以外のチョコを食べて欲しくないって思ってしまって……」

 

「……今に至るってか。……その……なんていうかさ。今まで我慢させててごめんな、薫」

 

「……君が謝ることはないよ。だって、バレンタインの日に想いを告げてから、とっても幸せな毎日になったんだ」

 

 そう言って、また嬉しそうに笑う薫。その笑顔は、いつものヤンデレ王子様ではなく、俺に恋した少女の笑顔だった。

 

 ……だから、だからこそ、俺は早く付き合えない、と言わなくてはならない。言わなくてはダメなんだ。……なのに。

 

「君が毎日私のチョコを食べてくれて嬉しかった。君が毎日私と話してくれて嬉しかった。君が毎日私の好きを受け入れてくれて嬉しかった。君に嫌われることが、一番怖かったから」

 

「……ああ」

 

「……それから……あそこにあるのは私が渡したチョコレートだろう? まさか、一緒にいる時に食べきれなかった分もこうして食べてくれていたとは思わなくて。ああやって綺麗なケースに入れて、私のチョコを一粒一粒大事に食べてくれてたんだ、って思うと胸がいっぱいになってしまって、また嬉しくなっていたんだ」

 

 ……どうしてそんなに、心の底から嬉しそうな顔しかしないんだよ。そんな顔されたら、余計振りづらくなるじゃん。余計傷つけたくなくなるじゃん。

 

 薫からもらったチョコだってそうだ。あんな真心のこもったチョコレートたちを、捨てられるわけあるか。それを見て、嬉しそうにされればされるほど、胸がどんどん苦しくなる。

 

「でも……今日は本当に素敵な日だな。君がこうして同じように手作りチョコを返してくれるなんて、夢にも思わなかったからね! 大好きだよ、──」

 

 そう言って、俺に抱きついてくる薫。頼む、頼むから。やめろよ、抱きついたりなんかするなよ、大好きなんて言うなよ。

 

 ……でも、それは俺の意見だ。薫からしたらずっと言えずに伝えないつもりでいた恋心がこうして実ったんだもんな。そりゃ、嬉しいよな。笑顔にもなるよな。

 

 だからこそ、本当のチョコレートのお返しの意味を伝えたら、どんな顔をするんだろう。悲しくて泣いてしまったり、するのかな。

 

 ……今なら、ひまりちゃんの言ってたことがわかるよ。そうだよな、あの時の俺は渡してくれた女の子の気持ちを考えてなかったな。

 

「どうしたんだい? せっかくの幸せなホワイトデーなのに、そんな切ない顔をして。私は、君に笑っていて欲しいな」

 

「……薫」

 

 ……あの日怪物呼ばわりなんかして、ごめんな薫。誤解してたな、俺。

 

 薫は怪物なんかじゃない。こんなしょうもない俺をただ純粋に慕ってくれて、毎日真心を込めたチョコを渡してくれる天使みたいな女の子だろ。

 

 そのチョコに唾液とか血とか入ってる時もあれど、強引にチョコを口移ししてくる時もあれど、根っこの部分はすごい可愛くてピュアな女の子だろ。

 

 ……俺はこんな可愛い子に、ずっと恋心を我慢させてきたんだ。その上、きっと好きになってもらえないだろうとその恋心を諦めかけさせようとさえしたんだ。

 

 思い出せ、バレンタインの怪物。この子は、ちょっと愛が重かったりするけど非リアの俺にチョコをくれた唯一の女の子だろ。

 

 まあつまりは薫のことが好きだよ! 好きなんだよ! バレンタイン以降、薫のこと意識しちゃってたよ! せざるを得なかったよ! そんな最中、こんなにも可愛い顔されたりなんかしたらもうこの世に生きる全男子が惚れてもおかしくないね!? 

 

 俺は気合を入れると、チョコを咥えるとそのまま薫の口目掛けてキスをする。

 

 ……てかえ、普段薫の美味しいチョコばっか食べてたからかもしれないけど俺のチョコ変な味しない? それを薫は美味しいって言ってくれてたの? 天使なの? もはや天使なの? 

 

 そんなことを考えている俺をよそに、薫はびっくりしながらも、俺のキスを受け入れてくれているようで。そうして、今日二度目の長いキスが終わると。

 

「え、あ、その、キスって俺からしたことなかったなー! って! ……いや、てか俺たち付き合ってた? 付き合ってないよな。じゃあ付き合ってないのに薫にキスされてたのか……? ねえ薫、俺たちってちゃんと清いお付き合いできてるかな」

 

「……それは……すまない」

 

「あ、意外と気にしてたんだ……」

 

 そんなたわいもない会話をしながら、俺は薫を抱きしめる。やわらかいね、ふわふわだね、もこもこしちゃうね。

 

 薫と話して思ったけど、そういえば俺たちって付き合ってなかったよな。付き合ってないのに、薫からキスされてたのか俺。キスが嫌じゃない、って時点で何かしらの感情はあったのか〜なんて思うけど、今更昔のことを考えてもしょうがないか。なんて思った矢先、薫はとある爆弾発言をする。

 

「それにしても、君もなかなかロマンチストだね。たしか……ホワイトデーのお返しにおけるチョコレートの意味は『あなたの気持ちをそのままお返しします』、みたいな意味じゃなかったかな?」

 

「ひょえ⁈あ、い、いやね、それはね、言葉の綾で……」

 

「言葉の綾……? 第一、君は何も恥じることはないよ。気持ちを返す、ということは君も私と同じ気持ちでいてくれた、ということだろう? ああっ、儚い……!」

 

「……?」

 

 ……悲報です。薫さん、チョコレートを渡すことに意味を知ってた。それじゃあ俺の今までの決意も何も水の泡……⁈そんな超絶怒涛の大ピンチに怯える俺だが、薫の言葉ですぐさま拍子抜けする。

 

 もしや……彼女、意味をハッピーな方に勘違いしてる? 文中のそのまま返すって言葉を、薫じゃなくて俺からの愛をそのまま返す〜みたいなことと思ってるのか……? 

 

 いや、でもいいのか。終わりよければすべてよし、って薫が好きなシェイクスピアも言ってたし。……いや、シェイクスピアじゃなかった気もするけど。

 

「でも……たしかにこんなに私たちは愛し合っているのに恋人じゃないのはおかしいね……だから、改めて私の王子様……いや、恋人になって欲しいんだ。──」

 

「……仰せのままに、なんてな」

 

 薫の告白に俺がそう答えると、何がおかしいのか薫はくすくすと笑い出す。……いや、王子様っぽく答えてみたんだけど、なんか変だったのかな。

 

 俺が変だったか、って聞くとさらに薫は笑い出すから。なんだろう、この子と過ごしていくこれからの日々が楽しみだな。

 

 俺と薫は、きっとこれからも暖かくて優しい日々を築いていくんだろうと、遠い未来が楽しみになったホワイトデーだった──。

 

 〜

 

 ……翌日。

 

「……どうして……俺の隣で寝てるの……?」

 

「どうしてって、恋人だからだよ?」

 

「うーん、恋人でも急に同棲はしないと思うんだけどなー、それは俺だけなのかなー」

 

「そうかい? 君のお母様……いや、お義母様はすぐにOKしてくれたけれど」

 

 まさかさ、朝起きたら隣で彼女が眠ってるなんて思わないよな。しかも母ちゃんの許可付き。何してくれてんだマイマザー。

 

 っていうかさ? お前の『おかあさま』の字絶対おかしいだろ薫。なんていうかニュアンス的に義母って文字が含まれてたの俺は聞き逃してないからな。

 

「……せっかく同じベッドで朝を迎えたんだ。君からのおはようのキスが欲しいな」

 

「うーんなんだか誤解を招くような表現が使われてるような気がするけどこれまた気のせい?」

 

「……い、今から……してもいいんだよ……?」

 

「しねぇよ!」

 

 恥ずかしそうに目を逸らしながら服を脱ごうとする薫を止めるがてら俺はとりあえず薫にキスをする。

 

 ああ、嬉しそうにしてるな、かわいいな。なんてことを考えながら布団を出ようとすると、薫はそんな俺の腕を掴まれてこう言った。俺はその薫の言葉で改めて彼女の性格を思い知る。

 

「……そうだ、──。君が私の王子様になったからには、これからは私のことだけを考えて、私だけを愛して欲しいな。私はこんなにも君だけなのに、君が私のことを愛してくれないのは寂しいよ。私が君だけの私であるように、君も私だけの君であってくれないと嫌だ。つまり……君と私は運命共同体なのだから、それを絶対に忘れないでおくれ」

 

 ──あ、一応ヤンデレなのはヤンデレなんだネって。




ここまで読んでくださりありがとうございます!
それでは皆様、ハッピーホワイトデー!
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