今宵、君とエチュードを   作:イソギンチャク

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瀬田薫水着祈願の小説です!今年こそ……今年こそ……と言い続けて早三年経ちました。
ちなみに水着祈願小説は今月だけでなく八月も上がります!八月こそ、水着祝い小説になってるといいですね……(遠い目)
それでは、よろしくどうぞ。


瀬田薫と海に行く話

 ──それは七月のとある日のこと。どうしてだろうか、俺は知り合いのイケメン女子、瀬田薫さんと二人きりで海に来ていた。

 

 だがしかし、俺は瀬田さんと話すわけでもなくゆらゆら揺れる水面を眺めているだけ。彼女も同じように、どこか虚構を見つめ黄昏ているのみ。

 

 え? どうして話さないの? 男女で海行ってんんでしょ? カップルとかじゃないの? 別れ話にでもなった? ……そんなわけないだろ。

 

 まあさ、確かに俺は瀬田さんと来てるよ、海。女の子と来てるよ、海。だけどな? ところがどっこい、されどもどっこい、彼女と俺、ほとんど接点ないんだよなぁこれが! 

 

 俺が彼女を瀬田さんと呼んでる時点で色々察して欲しいのだが、つまりは超絶気まずいんだなぁお互い。

 

 ……いや、さ? 本当は二人きりじゃなかったんだよ。透子ちゃんとかますきちゃんたちが、一緒に来てくれるはずだったんだ。

 

 だけど当日、香澄ちゃん日菜ちゃんモカちゃん燐子ちゃん透子ちゃんますきちゃんみんな予定がダメになり今に至るのさ。

 

 どうしよう。俺、瀬田さんの子猫ちゃんでもないし、瀬田さんのことよく知らないし、何喋っていいのかわかんねえよ……なんかそこらへんで儚いって言ってるイメージしかねえよ……なんて喋ったらいいんだ……? 

 

「……瀬田さんってその……日焼け止め塗れました?」

 

 いやでも絶対そうじゃねえだろ。もう少しマトモな話題があっただろうにこんな気まずさを加速させるような質問を選んでしまう自分を俺は恨んだ。それはもう恨んだ。

 

 瀬田さんは一瞬驚いたような顔をして少し考え込み、少し経った後口を開いて……

 

「……ちゃんと塗れているよ。ただ……少し背中のあたりが心もとないぐらいで」

 

 ちゃんと俺の質問に答えてくれたよ! 優しいね! 瀬田さん、結構戸惑いながらも答えてくれたよ俺の質問に! 

 

 でもそっかあ、背中のあたりが心もとないんだなぁ。そう思っていると、勝手に口が動いていたようで。

 

「……俺でよければ塗りましょうか?」

 

 俺のBA・KA・YA・RO・U!!!!! 

 

 なーにが俺でよければ塗りましょうか? だ! あの薫様に何セクハラめいた発言してんだよ場合によっては生きて帰れないぞ!? 

 

「……お願いしようかな」

 

 それでいて瀬田さんも軽々しくOKしちゃダメだろ! 俺、男だぞ!? 君に触れることによってワンチャン刑務所送りにされかねない男だぞ!? 

 

 ……でも、OKされたからにはやるしかないよな。ほとんど初対面の女の子の背中を触るしかないんだよな!? 

 

 俺がそうこう悩んでいるうちに、瀬田さんは着ていた上着を脱いでいたようで、上半身は水着一枚だけの姿になっていた。

 

 ……やるしか、ないのか。俺はレジャーシートに寝そべる瀬田さんの近くに腰掛けると、手に日焼け止めを出してその背中にそっと触れ……

 

「……んっ♡」

 

 ……気まず────ーい! 

 

 ……何とは言わないけど気まず────ーい! 

 

 俺は心の中でそう叫ぶがそうしたところで誰も俺を救ってはくれない。どうしようどうしようと慌てる俺。

 

 ……対する瀬田さんの耳は真っ赤だった。そりゃそうだよね。男に日焼け止め塗られて甘い声出しちゃうなんて思わなかったもんね。

 

「……なんかその……すみません」

 

「……私も……すまない」

 

 そんなやりとりをして、また黙り込む俺たち。……終わった。なんか全体的に終わったかも。

 

 もしよければ、誰か俺を助けてくらないだろうか。例えばそこのチャラ男くん、もし良ければこの気まずさをなんとかするために俺をナンパしてくれない? 

 

「海……入ってきますね」

 

 もう、こうなればヤケだ。この気まずさごと海に流してもらおう。

 

 そのままダッシュで海へと向かおうとする俺。よし今から入水だ……と思ったその瞬間。

 

「準備運動しないと……」

 

「あっ……」

 

 瀬田さんが慌てて俺の手を引っ張って、準備運動がまだだった俺のことを止めてくれた。さっきから思ってたけど優しいなこの子! 

 

 俺は彼女に言われた通り準備運動をしていると、瀬田さんがやってきてとあることを聞いてくる。

 

「……かき氷はその……いる……かい?」

 

「あっ……じゃあいちごで……」

 

「ああ……わかった」

 

 俺がそう答えると、瀬田さんはそのまま売店まで行ってしまう。

 

 ……なんか、今日の瀬田さんって世間一般的な瀬田さんらしくないよな。口数も少ないし。

 

 彼女の代名詞でもある口癖の儚い、とかも言ってないし、王子様みたいな感じも普段と比べてなりを潜めてるし……

 

 とまあ、そんなことを考えていると瀬田さんが戻ってきたようだ。両手にはふたつかき氷を持っていて……あ、ちゃんといちご買ってきてくれたんだ。優しいなぁ。

 

「どうぞ、〇〇くん」

 

「あ、お、俺の名前……覚えててくれたんですね」

 

「……えっ? あ、ああ……そ、そう、だね……」

 

 俺がそう言うと、びっくりした顔をしてそう答える瀬田さん。もうそれ以上話は続かず、お互いかき氷を食べ始める。

 

 ……後で、お金返さなきゃな。瀬田さんの優しさにじんわりしながらも氷の冷たさにじんわりしていると、目の前の瀬田さんの異変に気づく。

 

 おっ……おっ……おっぱいに……かき氷が……? それも、それが瀬田さんのスレンダーな谷間に入り込もうとしてる……? 

 

「……あ……あ……あ……」

 

 俺はそれを瀬田さんに伝えようとするが、まるで壊れかけのロボットみたいなことしか言えない。いやでも女の子におっぱいにかき氷落ちてますよとか言えないでしょ? 男の子のみんな。

 

 それに、これ口にしたら余計気まずさ加速しそうじゃん。たしかにさ、これは普通の男にとってはラッキーなハプニングかもしれないよ? 

 

 でも俺は気まずさの材料としか思ってないから。別に瀬田さんの胸ガン見してるわけじゃないし垂れていったかき氷の液の残りが瀬田さんの胸についてるのがエロいとか思ってるわけでもない! 

 

「……〇〇くん」

 

「あ、はい、なんでしょう」

 

「……かき氷、美味しいかな」

 

「あ……美味しいデス」

 

 ……あ、そうだ、かき氷食べよ。もうこんな時くらいかき氷食べよ。

 

 もう止めどなく溢れ出す邪念を消し去るために俺はかき氷を秒速で食べ切った。ぶっちゃけ歯がキンキン痛い。

 

「ところで……さっきから君は私の方を見ているようだけど……何かおかしなところがあるかな?」

 

「へ?! ど、どこでしょうね〜……? じゃねえ違う! そんなのないですよ~!」

 

「……その……私の見当違いだったらすまない。さっきからその……君に胸元をまじまじと見られているような気がしたんだ」

 

 お わ っ た 。

 

 瀬田さんはその長いまつ毛を伏せながら俺にそう聞いてきたのだ。俺、思わず食べ切ったかき氷のカップ落としちゃった。シロップもすすりきったからなんの被害もないけど。

 

「……気になるかな?」

 

「……いや、違うんです瀬田さん、その……あなたのお胸にかき氷が落ちてたのが気になってただけです。断じて邪な心では見てません」

 

「そう……だったのか……? 本当だ、少しひんやりしたと思ったらかき氷を落としてしまっていたんだね」

 

「は、はは、そうなんですよ、はは!」

 

 ……いや、本当はめちゃくちゃ邪な目で見てたんですけどね! 

 

 とは言えないので必死に誤魔化す。そのまま俺は話を誤魔化し続けて、なんとか瀬田さんの意識を胸を見られたことからそらすことに成功する。

 

「……ま、それはさておきかき氷も食べ終わり、準備運動をしたところで海! いきましょうか!」

 

「あ、ああ……そうだね」

 

 そんなこんなで海に入ることになった俺たち。といっても別に何をするわけでもなく、ただただ浜辺で突っ立っているだけ。

 

 これ、ほんとに海に来た男女がやること? ほら、水かけあってきゃっきゃうふふとかそういうんじゃなくて? 

 

 ……そんなの、つらすぎんだろ。仮にも相手は超絶美少女の瀬田さんなのにさ。

 

 なんていうかこう、こんな気まずい夏の一日なんて瀬田さんが可哀想だよ。こうなるならいっそ、俺も急な予定が入ればよかったよ。

 

 ここに、他の子がいたら何か変わってたかな。きっと、楽しさも変わってたかな。何より、瀬田さんにこんな虚しい思いさせずに済んだかな。

 

 ──そう考えていた時。

 

「……危ない、〇〇くん……!」

 

 〜

 

「……すみません、俺のことかばったせいで」

 

「気にしないでおくれ、〇〇くん。少し挫いただけだから」

 

「でも……!」

 

「本当に大丈夫だよ、ほら、今だってこうやって歩け……っ」

 

 そう言って歩こうとするも、足が痛んでその場に倒れ込みそうになる瀬田さん。俺はそんな彼女を抱き抱えるように支え、その横顔を見つめる。

 

 ……ちょうどさっき俺が考え事をしていた時、どこからかボールが飛んできていたようで。それに気づいた瀬田さんは咄嗟に俺を助けて、怪我をした。

 

 俺は慌ててそんな彼女を近くの岩場まで運び、今はこうして二人きりで過ごしている。

 

 怪我について……瀬田さんは大丈夫、気にしないで、と繰り返すが俺の気が済まない。

 

「私こそ、結果的に君に迷惑をかける形になってしまって本当にすまない」

 

「それは違います! 俺がいなきゃ、瀬田さんが怪我せず済んだんですよ」

 

「……それは……」

 

「……瀬田さん」

 

 俺がそう言うと、瀬田さんは言葉に詰まってしまう。

 

 そうだよ、俺がいなきゃ、瀬田さんだって楽しく過ごしてたはずだ。俺がいるせいで、変に気を遣って瀬田さんらしく過ごせていなかったんじゃないかな。

 

「……単刀直入に言います。俺と二人きりなんて、楽しくないっすよね」

 

「〇〇……くん……?」

 

「……すみません、必要以上に気を遣わせてしまって。実は最初から思ってたんです、今日の瀬田さんは瀬田さんらしくないなって。でも、それは俺のせいだ。俺のせいで、瀬田さんが楽しめなくなった。俺のせ……」

 

「……そんなことないよ」

 

 ……だが、瀬田さんはそんな俺の言葉を遮って、こう言った。

 

 それに対して、でも、と言いかけた俺に、もう一度そんなことないと瀬田さんは話す。

 

「今日君と過ごして、楽しくない、なんて思ったことはないよ」

 

「……瀬田、さん」

 

「……今日、少しぎこちなかったのは君と二人きりで緊張していただけなんだ。普段あまり男の子と話さないから、何を話していいのかわからなくて」

 

「そう、だったんですか」

 

 瀬田さんは、そう言って優しい顔で笑った。ああ、そうだったんだ、そう、思ってくれてたんだ。

 

 その言葉に付け加えるように、瀬田さんはさらにこう話す。

 

「……本当は、透子ちゃんに私から頼んで計画してもらったんだ。……〇〇くんと仲良くなりたいから、一緒に過ごすきっかけを作ってくれないか、と」

 

「……瀬田さんが、透子ちゃんに?」

 

「……私ひとりだけ瀬田さん呼びで敬語を使われるのは、やっぱり寂しいから。私だって、君と仲良くなりたかったんだ」

 

 ……そう、だったんだな。瀬田さんは、俺と仲良くなりたいって思ってくれてたんだ。

 

 それなら、俺がやるべきことは一つだろ。

 

「……薫。俺、おぶって帰るよ。足を挫いた女の子を歩かせるわけにはいかないし」

 

「……ありがとう。君は……優しいね」

 

「どうってことないよ。どうかな? 今の俺、儚い?」

 

「ああ……儚いよ」

 

 俺がそう聞くと、薫は嬉しそうにそう答えてくれるから。

 

 そんな彼女に、俺はこう返す。

 

 

 

「儚い、やっと聞けた」

 

 

 

 〜

 

 

 

「やあ〇〇、見てくれ私のこの儚い水着姿を……!」

 

「わかったわかった! っていうかさ、あの日から一年で儚い三百万回ぐらい聞いた気がするんだけど。薫って前世儚いbot?」

 

「おや、そうかい? でもきっとそれは、君といる時間が儚いからかな。それもまた、儚い……」

 

「その言葉は嬉しいけどもう儚いは懲り懲りだよ……」

 

 ちなみに、その日以降薫と仲良くなった俺は、冗談抜きで儚いという言葉を一日一回は聞くようになりました。

 

おわり!!!!!

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