※オリ主の失恋描写があります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。
「ねえ、ゆうくん。おおきくなったら、わたしとけっこんしてくれる?」
薫が結婚、という言葉を初めて口にしたのは、幼稚園でのおままごとの時間だっただろうか。
当時結婚という概念を知らなかった俺は、「けっこんってなに?」と薫に聞いた。すると、薫は「だいすきなふたりが、いっしょのかぞくになることなんだよ」と嬉しそうに口にする。俺はその言葉に何も返せなくなって、答えをはぐらかした。
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「ゆうくんは、どんな結婚式がしたい? 私は、ロマンチックなのがいいなあ」
小学生になったら、少しは変わるかと思っていたが全然そんなことはなかった。むしろいらん方のリアリティが増した。っていうか普通に小学生の時から結婚式のプランを考え出すの、おかしくね?
でもまあ、近頃の小学生はませてるっていうし、今考えれば薫もその一例だったのかもしれない。「気が早すぎ、却下」と俺がいうと、薫は不服そうに頬を膨らませていた。
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「雄也、子供は何人欲しい? 幸せな家族設計を考えてみるのもまた儚いと思ってね」
なんだろうな、中学生になって途端に薫のウザさが増した。なんか変な部活にでも入ったのかなんなのかは知らないけど、妙に芝居がかった感じで話してくるようになった。まあ、といっても中身はおなじみ結婚関連の話なんだけど。
「シアワセ家族計画とか興味ない。お前だけでやってろ」と言ってあしらうと、薫はつれない子猫ちゃんだね、なんて言いながら「……私は、君とだったら何人でも」と優しい声でつぶやいた。
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「やあ、雄也。実は、これから近くの式場の宣伝ポスターの撮影があってね! せっかくだから君と撮りたいんだ、ダメかな?」
高校生になっても薫は変わらない。もはや、薫が俺に結婚についての話をしてくるのは、“一生変わることはない”のだろうと、半ば諦め気味だ。
「お前となんてまっぴらごめんだ」俺がそう言うと、薫は少し寂しそうな顔をして、頷いた。
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「……雄也、いや、なんでもないよ」
大学生になって、薫は少し遠慮がちになった。結婚の話題を振ってくることが、昔と比べてかなり減ったと言うか、もはやしてこなくなった、みたいな。でもまあ、今までが今までで結構うんざりしてたし、これはこれで良かったのかもしれない。
「あっそ」俺は適当に返事をすると、スマホに視線を戻し、ソシャゲの周回の続きをする。そんな俺を見つめる薫の瞳が、切なく揺れていたことに気づかないまま。
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「雄也、君に話がある」
社会人四年目ぐらいの春、だったか。薫に急に呼び出された俺は、いきなり何の話をされるのだろうか? と思いながら待ち合わせ場所に向かった。
そこには薫がいた。いつもみたいに、優しい笑顔で。ただ、一つだけ違ったのは、左手の薬指に婚約指輪がはめられていたことだろうか。左手に光るそれを優しい目で見つめた後、薫はこう口にした。
「私、結婚するんだ」
「へえ、そっか」これしか言えなかった。それ以上何かを口にしたら、おかしくなってしまいそうだったから。
何も言えない俺に対して、「君には一番に伝えたかった」と口にする薫。その言葉は、純粋で、だけど残酷で。
俺の知らない薫が、目の前にいる。きっと俺は、そのことをどうしても受け入れられなかったのだろう。
「ゆうくん」
そんな時、呼ばれる俺の名前。小さい頃から、ずっと呼ばれてきた俺の名前。薫が俺をそう呼ぶ時は、いつも。
やめろ、言うな、言わないで。そんな願いも虚しく、薫は優しい笑顔でこう言った。
「今までありがとう」
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家に帰るなり、俺はひとり泣いていた。枕に顔を押し付けて、それはもう情けなく。
ああ、ごめん、ごめんよ、薫。俺はさ、ずっと、お前の気持ちを無碍にしてたな。ずっと、お前の気持ちを受け止めてやれなかったな。
思い返せば、ずっと薫は俺に想いを伝えてくれていたのに。俺も、そのことが嬉しくてたまらなかったのに。ただ、俺の中のくだらないプライドが、それを許さなかった。
──好きだよ、薫。
涙で歪む視界の中、俺はスマホのメッセージアプリを開いてかおちゃん、と書かれたトークに宛てて、四文字の言葉を打ち込んだ。《好きだよ》という遅すぎた告白を、打ち込んだ。
こんなことすら面と向かって言えない俺は、きっともうダメなのだろう。少し経つと、彼女からメッセージが返ってくる。《私も、好きだったよ》とだけ書かれた、一通のメッセージが。
俺は、そのメッセージを見て、また胸が苦しくなる。でもどこか、救われた気持ちにもなって。
……うん、そっか、そうだよな。俺は在りし日の彼女に向かって、こう口にする。
「今までありがとう」
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それから少し経った後、結婚式の招待状がうちに届いた。
招待状にシェイクスピアの言葉載ってるとか、新婦の顔写真がやけに多いとか、そんな部分が薫らしくて、思わず笑ってしまった。
俺は一通り修正線を引き終わると、最後に出席、という二文字の周りに丸をつけ、ポストに入れた。
……迎えた結婚式当日。皆に祝福される君のドレス姿は誰よりも綺麗だった。でもそれはきっと、大好きな人が隣にいるからだろうと今更ながらにそう思う。
そう、その薫の大好きな人。今日の式のもうひとりの主役である新郎くんは、絵に描いたような好青年だった。
薫をいつも気遣って、優しくエスコートしてさ。その上、大好きだよって、愛してるよって、素直に言葉にできるんだ。敵いっこないよ、ほんと。
……俺とは、まるで正反対だ。
「来てくれてありがとう」
感動の披露宴も終わり、帰る準備をしていたらそこに薫がやって来て。何を話していいのかわからない俺に、彼女はそう言った。
ひどい振り方をしてしまったから来てもらえないと思っていた、なんて口にする薫に、「お前のドレス姿見るためだけに来た」なんて冗談っぽく言うと、くすくすと笑うものだから。
一通り笑い終わると、薫はさっきからずっと手に持っていたそれを俺に差し出す。これは何? と俺が聞くと。
「引き出物のバウムクーヘンだよ。まさか、貰わずに帰るつもりなのかい?」
あ、そっか、すっかり忘れてた。最近結婚式に参列すること少なかったから、しょうがないと思って見逃して欲しい。
俺は薫からそれを受け取ると、彼女に向かってニカっと笑ってみせる。
「結婚おめでとう、かおちゃん」
どうしてだろうか。家に帰った後食べたバウムクーヘンは、少しだけしょっぱい味がした。