まちカドまぞくRTA番外 メイプル旅行記   作:兼六園

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リアリスト ①

「──ただいま~っと…………またか」

 

 街から離れたとある施設に、荷物を詰めた買い物袋を肩に提げて玄関から入ってきた楓。

 ふと、奥のリビングから聞こえてきた怒号にげんなりとした表情を浮かべて、楓は荷物を背負い直してから声の方向に向かった。

 

 

 

「……ヒナゲシー、今日は誰と誰だ?」

「あっ、おとうさんお帰り。今日は……お姉様とスイセンなの」

「先週はスズランとエニシダだったな」

 

 オレンジがベースの服を着た、おどおどした少女に問いかけると、少女──ヒナゲシはそう言って視線をテーブルを挟んだ向かいに向ける。

 荷物を起きながらその方向に顔を向けるとそこでは、西部劇のガンマンのような服装をした黄緑の髪の少女と、マントを羽織った際どい格好のピンク髪の少女が言い争っていた。

 

 今にも掴み合いに発展しそうな剣幕の二人に、楓はため息混じりに介入する。

 

「こらこらこら。スイセン、リコリス、今度はどんなしょうもない理由で喧嘩してるんだ」

「しょうもなくない! 楓、聞いてよ! リコリスがウチのクッキー勝手に食べた!」

「だーかーらー、そんなの名前書いとかないあんたが悪いでしょ?」

「なにおう!?」

 

 ──しょうもないじゃないか。と反射的に言いそうになった口を閉じて、楓は一拍置いてから呆れながら改めて口を開く。

 

「それで、俺がちょっと街に買い出しに行った一時間でどうやったら喧嘩出来るんだ?」

 

 ガンマンとマントの少女──スイセンとリコリスは、楓にそう言われて冷静さを取り戻す。

 

「……アタシがちょっと口寂しくて、なにかないかと思って冷蔵庫漁ってたのよ。で、クッキーあったからこれでいいかって思ったの」

「それがスイセンのものだとは思わなかったから喧嘩になったのか」

「ふん。名前書いとけって話でしょ」

「食う前に聞けって話だろ」

「いたっ」

 

 ビシッ、と鋭い手刀がリコリスの頭に落ちる。頭を押さえる彼女に、楓は続けた。

 

「ほら、スイセンに謝りな」

「…………」

「今日の晩御飯の当番はエニシダ────」

「スイセン、悪かったわよ」

「……仕方ないから許す。ウチは寛大なんよ」

 

 一転、先程までの態度は何処へやら。

 リコリスは手短だが本心の謝罪をし、スイセンもあっさりと彼女を許した。突然名前が挙がったエニシダは、紅茶を淹れていたカップを置きながら疑問符を浮かべて小首を傾げた。

 

「なぜワタクシを引き合いに出すんですの?」

「お前の料理が不味いからだろ」

「ワタクシ別に下手ではありませんが!?」

 

 テーブルを挟んだ向かいで楓たちの会話を聞いていた、ホットパンツとボロボロのビキニを着た女性──スズラン。彼女にそう言われて、角の生えた頭をぐりんと向けてエニシダは返す。

 

 それからエニシダは楓を見ると、うがーっと威嚇するように声を荒らげた。

 

「ちょっと楓さん、あなたワタクシの料理にケチをつけるおつもりですか?」

「いや、旨いよ? でもキミ鼻歌歌いながら料理するでしょ。魔力が料理に混ざるせいで、食べながら気分が落ち込んで行くんだよね」

「………………そ、そうでしたか」

 

 ……そうでしたか? と疑問符を浮かべるエニシダだが、無意識にやっていては気づけまい。彼女の歌は人の感情を落ち込ませる呪いが込められてしまうため、迂闊に人前で歌えないのだ。

 

 

「──さて、それはそれとして、今日のおやつはパウンドケーキを作りまーす」

 

 パン、と手を叩いて注目させると、楓はそう言いながら買い物袋を持ち上げてキッチンに向かう。一拍置いてひょこりと顔をリビングに覗かせると続けて言った。

 

「作るの手伝ってくれたら、分けるとき大きめに切ってあげるぞー」

「やるの」

「やるっ!」

 

 楓の言葉に、ヒナゲシとスイセンが反応してキッチンへと追いかけていった。

 その背中を見送ったリコリスはエニシダとスズランと同じように座ると、薄く笑みを浮かべて呆れ気味に口を開くと呟いた。

 

「……ふっ、食い意地張ってるんだから」

「食い意地の半分は貴女がクッキー食べたせいですわよ、リコリス」

「わかってるっての」

 

 テーブルに肘を突いてそう返すリコリスに、エニシダはくつくつと喉を鳴らして笑う。

 キッチンの奥から聞こえてくる調理の音と材料の香りを感じ取りながら、スズランが「しっかし──」と呟いてから続けた。

 

「楓……アイツって確か()殿()()()()クリエメイトだろ? よくオレらみたいなはみ出し者の相手なんか出来るよなぁ」

「それだけ変わり者ってことなんじゃないの。この世界の住人じゃないんだから、()()()()がどれだけ厄介な話かなんて知らないんでしょ」

 

 ふん、と鼻を鳴らすリコリスは自虐的な笑みを作る。彼女らが暮らしている孤児院、『リアリスト』。ここは聖典を嫌う者、行く宛のない者、社会からあぶれた者、そういったはみ出し者を集めて保護する、一種の避難所であった。

 

 

 

 

 

 ──カチャカチャとフォークと食器のぶつかる音が響き、辺りにはバターの香りが漂う。

 エニシダが用意した紅茶とマッチしているそれを口に入れる楓に、半分だけ残したケーキをスイセンに譲りながらリコリスが問いかけた。

 

「楓、あんたって普段神殿で何してるの?」

「ん? 言ってなかったっけ」

「少なくともアタシは聞いたことないわよ」

 

 うーん、と悩む動きを見せる楓は、少しして困ったように口を開く。

 

「いわゆる窓際部署って感じだからなぁ。要は……神殿版の何でも屋?」

「あー、なんか分かる。お前そういうのやってそうな顔してるもんな」

「どんな顔だよ……」

 

 カラカラと笑うスズランに苦い表情を返す楓。

 

「というかここに居るのも仕事の一環なんだぞ? アルシーヴからは『聖典を不審がる者たちの監視をしろ』って言われてるんだからな」

「──ふーん」

「……まあ、定期的な報告では『特に問題ありません』としか言ってないけどね」

「それ職務怠慢って言わねぇ?」

 

 リコリスの表情が冷めるが、続けて言われた言葉にスズランが苦笑をこぼした。

 

「そりゃ、俺は好きでここに居るんだからな。アルシーヴの言い分は尤もだけど、お前たちが()()()()()()()()()()()()し」

「あんたアタシたちのこと好きすぎじゃない?」

「そうだね」

「…………」

「自爆しましたわね」

 

 嫌みのようにからかい半分で言ったリコリスは、あっけらかんとした返しに頬杖をついたままの姿勢で頬を染め、エニシダが呟く。

 それから少しして、玄関の方から誰かが入ってくる音を耳にした。

 

「……お、二人とも帰ってきたか」

「──ただいま、戻ったよ」

「戻りました」

 

 玄関からリビングへとやって来たのは、頭に角のある骸骨を被ったふくらはぎ辺りまである黒髪を真っ直ぐ伸ばした女性と、黒と白で半分ずつ分かれた髪を伸ばしている少女だった。

 

「いい香りだ、おやつの時間だったのかい?」

「お帰りハイプリス、サンストーン。二人の分も出すから座っててくれ」

「そうか、ありがとう」

「……お構い無く」

「はいはい」

 

 どことなく気まずそうな少女──サンストーンに適当に返した楓は、自分の食器を下げるついでに、二人の分で分けておいたケーキを取りに行った。席についたハイプリスは、自分の横に腰を下ろすサンストーンに楽しげに言う。

 

「まだ楓が苦手かい?」

「……いえ、そういうわけでは」

「ふふ、初対面の頃に強く当たったことなら、もう気にしていないと思うけれどね」

「……お戯れを」

 

 当時のことを思い返して笑みを浮かべるハイプリスに、サンストーンはそう返した。

 

「──ところで、お前たち」

「は、はい」

 

 ふと、おもむろにハイプリスはリコリスたちを見回して、全員を見ると問いかける。

 

「楓に迷惑は掛けていないかい?」

「それは……まあ」

「ちゃんといい子にしていた?」

「と、当然じゃんっ!」

 

 リコリスとスイセンが反射的にそう言うが、ハイプリスにじっと目を見られて冷や汗を垂らす。横で顔を逸らして笑うスズランに一瞬イラッとしつつ、二人はハイプリスの言葉を待った。

 

「……なら、そう言うことにしておこうか」

「────」

「────」

「今後は、気を付けるように。いいね?」

 

 にっこりとした笑みを浮かべつつも目は笑っていないハイプリスに、二人はただただ小さく「はい」と答えるしかない。

 施設『リアリスト』の管理者、ある種の院長のような立ち位置のハイプリスに逆らえる者は、おそらく楓以外に居ないのだろう。

 

 

 

 

 

 ──少女らが寝静まった深夜、パチパチと木が弾ける音を聞きながらぼんやりとソファに座って暖炉の火を眺めるハイプリスは、横に座った楓に意識を向ける。

 

「ココア飲むか」

「ん、ありがとう楓」

 

 差し出されたマグカップを受け取ると、彼女は表情を緩める。湯気の立つそれに息を吹き掛けてから一口啜ると、楓に言った。

 

「あの子たちの相手は疲れるだろう」

「そうだなぁ……まあ、お世話には慣れてるからなあ。クセの強い子にも慣れてるし」

「ふふ、頼もしいね」

「それよりお前こそ、これでよかったのか? ()()()()()が聖典嫌いを集めて保護しようなんて」

 

 楓の言葉に、ハイプリスは視線を暖炉に移しながら、カップを傍らの机に置いてから返す。

 

「──例えば、聖典は人に希望を与え、笑顔にする力があるのだろう。だとしたら、聖典があるからといって笑顔になれない程に生きることが難しい者たちは……どうすれば救われる?」

 

「だから、女神候補生を辞めて神殿を抜けてでもあの子たちに居場所を作りたかった……と。ハイプリス、俺の監視対象はそんな行動に出たお前でもあるって、わかってるんだよな?」

 

 ──わかっているよ。そう言って、ハイプリスは楓の方に向いて続けた。

 

「そうしなければ、家族から愛を与えられなかった者は、孤独を恐れる者は、呪いのせいで夢を諦めざるを得なかった者は、どうなっていたのだろうか。そう考えてしまうとね──私は自分の行いを悔いることは出来ないんだ」

 

「……まあ、そうだな。もしかしたら()()()()()()()()()()だし、ハイプリスの行動は……間違いではないんだろうよ」

 

 ──だからこそ、楓はリコリスたちが危うい精神をした不安的な少女たちだと分かっていながら、神殿には『問題なし』と報告している。

 それはもはや立派な裏切りと言える以上、楓にハイプリスを咎める権利はない。

 

「……はぁ。仕方ないか」

 

 マグカップの残りを呷って、ため息をつきながら立ち上がると、楓はハイプリスの頭にある魔物の頭蓋骨を取りながら彼女に言った。

 

「──それはそれとして、お前……なんでこんなもん被ってるんだ?」

「ああ、いいだろう? 私の顔を知っている者はそれなりに居るからね、変装も兼ねているんだ。カッコいいと思うんだが……どうかな」

「……めちゃくちゃ()()()()()。お前の格好ってこう、()()()()()()()()()()()()()()だよな」

「え゛っ」

 

 頭蓋骨を元の位置に戻してそう言った楓に、ハイプリスがどことなくショックを受けているような顔をする。楓はそんなに気に入ってたのか──と呟くと、その場をあとにするのだった。




リアリスト
・ゲーム本編と違い、組織ではなくそういう名前として使われている施設。エトワリアのはみ出し者を集めて保護するためにとハイプリスが考案し、楓が協力している。


ヒナゲシ
・いつもおどおどしている。リコリスの事をお姉様と呼んでいるが本当の姉妹ではない。
保護された恩もあってか、楓の事を父親のように想っている。

リコリス
・気の強い性格で、施設のなかでも度々誰かと喧嘩をしている。マントの裏には大量のダガーが仕込まれており、服装はかなりヤバい。

エニシダ
・聴かせた相手をネガティブにさせる呪いの歌しか歌えないため、歌に関する聖典が嫌い。
楓だけは状態異常回復の魔法をひたすら重ね掛けしてレジストし続けるという荒業で、なんとか最後まで平常なまま聴いたことがある。

スイセン
・碌に食事すらできない環境に居たが神殿が助けてくれなかった過去があり、食に関する聖典と神殿が嫌い。更にはその反動で食いしん坊になっており、人一倍食べ物にうるさい。
服装はそこそこヤバい。

スズラン
・楓に雇われている傭兵。本人はそこまで聖典が憎いわけではないが、特段好きなわけでもない。服装はかなりヤバい。

サンストーン
・ハイプリスが拾ってきた少女。初対面の時の楓に強く当たってしまったことを気にしており、今でも面と向かって話せないでいる。
実はきららの妹で、使ったことは無いが『パス』を切り離す力を持つ。服装はかなりヤバい。

ハイプリス
・元女神候補生。聖典や神殿ですら救えない者が居ることを知ってしまい、女神ではなく人としてそんな人たちを救うために孤児院『リアリスト』を設立した。悪役っぽいと言われたことはかなり気にしている。服装はかなりヤバい。
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