Azur Fall   作:Isaac/アイザック

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リージョン級のガトリング、ロマンたっぷりでいいですよね


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1-3

《タイタンフォール、スタンバイ!》

 

母港で留守番を頼んでいる明石に指示して、タイタンフォール。これが俺の考えついた手段、逆転の一手。

 

空を見上げれば一条の流星が…あれが、戦場に希望と絶望をもたらす鋼鉄製の巨人。パイロットを、パイロットたらしめる自身の半身となる巨大な相棒。

 

呼び出したタイタンは、リージョン級。手にしたガトリング砲、プレデターキャノンで全てを破砕し、前線を押し上げる重量級タイタン。

 

本当ならノースが良かったが、修復も終わってない、かつこんな大量の敵に攻められている現状では単発武器装備のノースでは不利だ。

 

「……よし、ニューカッスル。前線のオイゲン達に合流しろ、こっちは俺が抑える!」

《はい…どうかご無事で、貴方様…!》

 

装甲空母の甲板に着地すると同時に駆け出し、ここまで俺を運んでくれたニューカッスルに指示を出す。そのまま指示通りに俺の艦隊に向けて行ってしまったニューカッスルを見ながら、走り続ける。

 

途中でロイヤルの士官連中が何だあれはと詰め寄ってくるのをダブルジャンプで躱して、さっさとリージョンの元へ。

 

「おい貴様、止まれと言っている!あれが何なのかを説明しろ!」

 

「……邪魔だ、そこを退け」

 

だが数は向こうが上、あと少しでリージョンに辿り着くという所で、士官に囲まれてしまった。そんなことをしている暇は無いだろうに、どこまで時間を無駄にすれば気が済むんだ…?

 

《パイロット、脅威が迫っています。搭乗を推奨》

 

リージョンは自爆ボートに向け、プレデターキャノンを撃ち始めている。さっさと乗って、混乱中のロイヤルKAN-SEN達にも指示を出してやりたい。だというのに、コイツらは…

 

「……どけ、邪魔だ。今こんな事をしている暇は無い…!」

 

「だったら説明しろ!あれは何だ!お前はどうやってここまで来た!?」

 

どうやらこの士官は、俺の文句を言うだけに飽き足らず、この戦闘の最中でも話を聞く気すら無いらしい。他の士官もそれに同調している。全く…これだから現場を知らない人間は…仕方が無い、手の内はあまり見せたくないがコイツらは邪魔だ。

 

「……後にしろ…ッ!」

 

だから俺は、姿を消した。クロークによる透明化では無い。パイロットアビリティ、フェーズシフトにより別次元に逃げ込んだ。こうすれば位相空間を短時間移動できる、地形以外は何もないモノクロの冷たい世界。

 

そこへ逃げ込み、走る。包囲を突破した俺は、現実に戻った瞬間にリージョンに向けて跳躍。リージョンもハッチを開いて俺を受け止めた。

 

《よく戻りました。報告:基幹システムは平常に作動》

 

ハッチを閉じ、オートからマニュアル操縦へ移行。その次に無線関連の操作を行い、海域のロイヤルKAN-SEN全員に繋ぐ。

 

「……こちら旗艦指揮官を務めるパラドクス。時間がない、手短に指示を出すから聞いて欲しい」

 

返事を待つ暇はない、全てシャットしているが、あの士官共は喚き散らすだけでほとんどまともな指示を出せていない。なら俺が、ある程度の動きを指示してやれば、少しはまともに混乱を治められる。

 

「……脚の速い駆逐艦、及び火力の出る巡洋艦。三人一組の編成を出来れば三つ程、作って前線の支援を頼みたい」

 

プレデターキャノンのスピンアップを開始、近寄ってくる自爆ボートを近距離モードで薙ぎ払いながら返答を待つ。この間に、一応リージョンの火力ならば俺一人で防衛できることを確認しておく。

 

《パラドクス様、こちらベルファスト…指令を受諾します。私とジャベリン様…それから離脱したジュノー様に変わりジュピター様で前線の支援を行います》

「……っ、助かる!」

 

返答あり、さっきのベルファストというKAN-SENだ。指示を聞いてくれるのはありがたい、前線の状況は撃ち、飛びながら確認していたがやはり火力が足らないらしい。支援をしてやりたいと思っていたんだ、助かる。

 

そう思いながら空になった弾倉を落とし、リロードをしていると新たに通信が入った。ロイヤルの艦隊だ。

 

《こ、こちらエディンバラ!ベル…ベルファストの姉です!私も前線に向かいます!》

「……了解した、気をつけてくれ」

 

その後、もう一人ロンドンと名乗ったKAN-SENも、駆逐艦を引き連れ前線に加わるべく離脱した。これなら向こうも少しは楽になる筈だ。

 

「……残ったKAN-SEN達は陣形を整えろ、理想は複縦陣だが余裕がないなら単縦陣でも構わない。とにかく自爆ボートを確実に落とせるように構えろ!」

 

簡単な指示だが、きちんと役割を持たせ組ませるべき陣形も提示した。練度は遥かにウチより高いはず、他に指示を請われなければ今はこれでいい。

 

《警告:敵駆逐艦が接近中》

 

あとはオープンな通信で五月蝿い士官共だが…まずはリージョンのアラートに従い、駆逐艦を排除しよう。

 

自爆ボートに適切に対応し始めたロイヤル艦隊に一度任せ、インジケーターで接近警告の出た方向へ銃口を向ける。距離160m…近距離モードでは無理だ。

 

「……遠距離モード、モード置換後にパワーショットのチャージ開始」

《了解》

 

タイタンに指示を出し、モード変更をさせる。そしてそのまま構えてスピンアップ。赤熱した砲身から、攻撃アビリティであるパワーショットが放たれ、そのまま弾の雨を駆逐艦・pawn級に降らせる。

 

着弾点で小規模な爆破を引き起こす遠距離モードのパワーショット、それにより主砲を潰されたpawnはなす術もなく船体に穴を開けられていく。

 

《味方KAN-SENの攻撃。敵駆逐艦を排除、お見事です》

 

リージョンAIは機械的に、あくまで淡々と状況を報告する。無機質なその声を聞きながら、自爆ボートの処理に戻り戦闘を継続する。

 

そして駆逐艦の撃破で呆然とし、静かになった士官達に、回線を開いて一言だけ。余計な時間を費やす余裕はない、士気は上げ直したが、コイツらのせいでまた混乱させられるのはゴメンだ。

 

「……伝わらん指示を飛ばし、要らない時間を費やす暇があるなら自爆ボートを撃て。その武器は飾りか士官共…!」

 

それだけ言って、後はもう無視だ。ロイヤル艦隊の指揮官は俺じゃない。にも関わらず、まともな指揮も援護も出来ないなら黙っていろ。

 

そんな俺の言葉を聞いて手にした小銃を撃ち始める奴、そしてそれでも尚何もせず俺を睨む奴に分かれたようだ…言うことはもうない、あとは好きにするといいさ。

 

《指揮官!聞こえる!?》

 

なんとかいい方向に転びつつある状況の最中、前線を任せたオイゲンからの通信。なにやら切羽詰まっている様子だ、何があったのだろうか…?

 

「……オイゲン、大丈夫か?そっちはどうなっている?」

 

そう聞くと、すぐに返事が返ってくる。

 

《後方に空母がいたわ、ロイヤルの連中と協力して幾つか落としたけれど、かなりの数がそっちに…!》

「……面倒だな…だがまぁ、何とかできそうだ。目の前の脅威に集中してくれ」

 

空母発見の報告と、こちらに向かう艦載機の情報。流石にあの状況では落とすに落とせないか、仕方がない。一応此方にも対空手段はある…それもかなりの精度の、とっておきが。

 

「……U-47とU-557、艦隊の援護を開始。目につく敵は沈めてやれ」

 

オイゲンには問題ないと返し、そのまま潜水艦隊の二人に指示。長らく待たせてしまった、彼女らにも存分にやってもらおう。前線は恐らくこれでどうにかなるはず、後はこっちに来る艦載機を撃ち落とすだけだ。

 

「……さぁ、いつでも来い。全部墜としてやるさ」

《スマートコア、レディ》

 

リージョンの声、そしてHUDでアナウンスされる、コアアビリティ・スマートコアの準備完了。これはターゲットを自動で照準し、確実に攻撃を命中させるリージョン級のコアアビリティ。

 

この状態なら、例え相手がどれほど多くても関係ない。全て纏めて、海に落とせる。

 

《か、艦載機!艦載機だ!?》

 

自爆ボートを撃っていたロイヤルの士官の一人が叫ぶ、来たようだ、ちょうど射角に入る。良い位置からの攻めだな、俺が居なければ不意を打たれてハーベスターは艦隊ごと落とされていた。だが俺とリージョンがいる以上、そんなことにはならない。

 

「……コア起動。全て堕ちろ」

《スマートコアオンライン》

 

僅かな振動、ついでHUDに表示される照準レティクルが変わり、髑髏マークの横に数字…つまりは、コア起動中に仕留めた敵の数が表示される。

 

コア起動中は弾薬は尽きない、フェーズ空間に格納された場所から直接弾を供給するため、撃ち放題。次々と火を上げ、穴を開け、墜落していく艦載機。

 

それはまるで嵐が攫うかのように、瞬く間に敵を減らしていく。編隊飛行で接近するもの達には、近距離モードのパワーショットによる散弾状の攻撃でまとめて潰す。

 

《敵性航空勢力排除、スマートコアオフライン》

 

リージョンの一言と共に怒涛の制圧攻撃が止み、空の脅威は消え去った。残るは海上の自爆ボートのみだが…まぁ、そっちはKAN-SEN達がもう完全に対応できている。数も目に見えて減っている、前線で本隊が片付いたのかもしれない。

 

「……こっちは何とかなった。オイゲン、そっちは?」

《えぇ、こっちも片付いたわ…ちょっと疲れちゃったけれど、なんとか終わりよ》

 

通信を入れれば、オイゲンは苦笑いしながら、そう言った。無理もない、彼女はまだ着任して間もないのだから。むしろ良くやってくれた、俺には勿体無いくらいの優秀さだ。

 

「……そうか、助かった。一度戻ってくれ」

《了解、じゃあね。また後で会いましょう?》

そこで回線を切り、俺はリージョンのハッチを開き、外へ降りる。するとそれを待っていたかのように、エリザベスがこちらに士官を引き連れてやって来た。

 

「よくやったわ庶民!褒めて遣わすわ!」

 

まぁ、大方予想通りの上から目線。一応身分は大幅に違うのは事実だが、なんとも慣れないものだ…そんな風に思いながら、努めて丁寧に返事をする。

 

「……物資を守る、という依頼に対して当然の事をしたまでだ。アンタが俺を信じてくれたから、コイツを降ろせた。それだけだ」

 

ガードモードにし、辺りの警戒をさせるリージョンの重厚な脚部の装甲を叩いて言う。エリザベスがダメだ、無理だと言えばその時点でこの艦隊は沈んでいた。

 

そういう観点で言えば、俺だけの判断や戦果とは言えない。俺の言葉を信じ、託したエリザベスの判断あっての勝利だ。

 

「フン、謙虚な事ね…まぁいいわ!今後の話をしましょう!」

「……あぁ、俺からも…そうだな、幾つかそちらに確認したい事が出来た」

 

○○○○○○○○

 

不届きなセイレーンの襲撃も、ロイヤルの威光の前には全くの無意味だった。場所を移して艦内、作戦指令室にて行われるデブリーフィングの中、私は目の前の黒尽くめの装備の男に怒りの視線を向けていた。

 

気に入らない、気に入らない…!こんな辺境で、いきなり現れた元兵士の男が指揮官だと!?それだけでも気に入らないと言うのに、女王陛下とは親しげに…そしてあろうことか、この私のかつての秘書艦を連れて現れた!これを憤らずして何を憤ると言うのか…!

 

「……という具合だな…夜間航行中も警戒は緩められないだろう、むしろ俺はそっちを警戒しているんだが…」

「そうね、それには同意よ。我がロイヤルの同胞には申し訳ないけれど、夜間も交代で警戒するしかなさそうね」

 

海図を広げた机で向かい合い、女王陛下の前というのに顔を隠すヘルメットを取りもしないなぞ不敬だ、不敬極まる…所詮は開拓地の下々民、礼節も身についていない…

 

そんな奴に、そんな奴が…!私より優れているだと!?ふざけるな、身の程を知れ!私が何年ロイヤル王家にこの身を捧げて来たと思っている…!?

 

行き所のない怒りを視線だけこのパイロットなどという者に向けていたが、話し合いの風向きが変わった。

 

「……それから、ロイヤルの士官…ついては指揮官についてだが…」

 

なんと、下々民の分際で私たちロイヤルネイビーの士官に意見があるという。思わず失笑してしまう、何様のつもりだと。

 

「ハンッ…!私達に何かあるというのか、余所者が!」

 

こちらを向いたパイロットに声を張り上げ、抗議する。貴様如きに、何が分かると。

 

「……大ありだ。さっきまでの襲撃の時に、お前が飛ばした指示の内容はなんだった?」

 

だが、それに対して返ってきたのはそんな冷たい言葉…馬鹿にしているのか、たかが兵士上がりの下民ごときが、この私を…!! 思わず殴りかかろうと手を振り上げた瞬間、後ろから羽交い締めにされ、止められてしまう。

 

「やめてください中佐!これ以上恥を晒さないで下さい!!」

 

止めたのは大尉、凄まじい力で抑えられてしまい、全く身動きが取れない。そうして後ろに下げられてしまった私に代わる形で、中尉がパイロットの前に立った。

 

「失礼を、致しました。私はロイヤルネイビー所属の中尉です、先程までとんだ失礼を働きました。どうかお許し願いたい!」

 

何と深々と頭を下げた中尉、その様子に思わずまた声を上げようとしてしまうが敢え無く止められてしまう。

 

「……いや、問題ない。初対面で、一兵卒上がりの俺が信頼出来なかった、というのは理解している。頭を上げてくれ中尉」

 

だが、中尉のそれを咎めるでもなく、早く頭を上げてくれと鬱陶しそうに手で示した。頭を上げた中尉は、それでも尚謝罪を続けた。

 

「本当に申し訳ない、ロイヤルにあるまじき態度だった。だというのに、貴君にも…貴君のKAN-SEN達にも救われた。何と言えばいいのか……」

 

「………分かっているなら、いい。今後は無いようにしてくれ」

 

言葉を遮るようにして謝罪をやめさせたパイロットは、そのまま話し続ける。

 

どうやらこの男は、私達の事を気遣っているようだ。だが、そんなもの不要…むしろ侮辱されたと言ってもいい。私達は誇り高きロイヤルネイビー、たかが辺境の兵士に劣るはずがない。

 

「……奇襲だった、それは認める。だがその後の指揮が余りに粗末だった…分かるな?」

 

「貴様…ッ!?」

 

激昂した私が制止を振り切り立ち上がろうとした時だった、真っ直ぐにこちらに得体の知れない強い気配をぶつけられた。銃を抜いたパイロットが、銃口と共にこちらを見ている。たったそれだけ、それだけなのに…体が動かない、声すら出せなくなった。

 

「……いい加減に、黙れ。今話しているのは現実に起きた事だ、お前の脳内でどう処理されてるかはどうでもいい。事実だけを、俺は喋っている」

 

威圧感…今まで感じたことも無い、重苦しいそれに当てられ…私は声を上げることすら出来なくなっていた。何故だ、どうしてこんな男の、ハッタリに…!?

 

「……ロイヤル士官に言いたいことは大別して三つ」

 

こちらに銃口を向けたまま、女王陛下に振り返ったパイロットが、指を上げて話し始める。

 

「……一つ、緊急時の対応」

 

一つ、指が上がる。

 

「……二つ、射撃の精度、練度」

 

また一つ指が立つ。

 

「……三つ、戦闘時においても下らない感情一つ抑えきれない、自制心の低さだ」

 

三本目の指を立てた後、銃をホルスターにしまった男。それによりようやく重圧から解放された私は、思わずへたり込んでしまう。なんだ今のは、まるで、死神にでも睨まれたような気分だ…

 

「……一つ目は、まぁ仕方がない。俺もこの立場でなければそうなっていた可能性がある」

 

首を振りながら中尉に話すパイロット…気づけば周りの士官達もそれに聞き入っている。

 

「……だが二つ目と三つ目、これは訓練時代に大枠を完成させておくべきものだ、ロイヤルの訓練はどうなっている、女王?」

 

話を振られた女王陛下は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに悔しそうな、悲しそうな顔になる…陛下にあんな顔をさせて…何様のつもりなんだ…

 

「それについては、言い訳のしようもなくこちらの落ち度よ」

 

そして、女王陛下の言葉を聞いたパイロットは頷き、机に両手をついた。

 

「……ついては、一度射撃訓練でもしないか?交流、そしてきちんとした訓練も兼ねてだ。実戦仕込みの基本程度の射撃でよければ、俺が教える」

 

そう言って、パイロットは中尉の方を見た。中尉の方は少し困り気味だったが…やがてゆっくりと首を縦に振ると、パイロットに頭を下げた。

 

「はい…恥を忍んで、お願いします。我々には足りない物を、少しでも補いたい…!」

 

そうしてパイロットは頷くと、また頭を上げてくれと言い放ち、今度は女王陛下に言った。

 

「……と、いう訳だ。明日の昼過ぎにでも、ここの甲板を借りたい。少しは蟠りも解けるだろう」

「…えぇ、ならお願いするわ。すまないわね庶民」

 

困ったように微笑んだ陛下に首を振って答えたパイロットは、そのまま踵を返してドアノブに手をかけ止まった。

 

「……気にするな。俺は自分の艦隊に戻る、何かあれば呼んでくれ。僅かだろうが出来うる限り力になる」

 

そのまま出ていったパイロット、その背中を見ながら、私は歯軋りした。あの男は…一体何なんだと…!やり場のないこの怒りは、どうすればいいんだ…!

 

○○○○○○○○

 

デブリーフィングを終え、言いたいことは全て言った。向こうでの俺の仕事は一区切り、後はウチの艦隊に戻って報告を聞きながら労ってやらなければ…

 

そう思いながら、甲板まで出ると…

 

「あぁ、来たんか」

「指揮官、ここに着くまでにヘンな事に巻き込まれたりしてないよね?」

 

U-47とU-557が待っていた。ニューカッスルがいるものだと思っていたが、少し意外だった。

 

「……大丈夫、何もなかった。戻ろう、待たせたな」

 

だがせっかく待っていてくれたんだ、出撃後で疲れているだろうに、わざわざありがたいことだ。二人を連れて、ジップラインを張れる機材の所まで行く。

 

そこで一旦別れようかとも思ったが、また彼女達に海を行かせるのは気が引ける。

 

「……よし、557。背負うから、掴まっていろ」

 

そこで、俺は屈んでU-557の前に背中を向ける。

 

「え、えぇ…?じゃあ、失礼するね?」

 

すると彼女はおずおずといった様子で、俺の肩を掴んだ…軽い。こんな小さな少女を戦場に送り込んでいる事に罪悪感を感じてしまう…

 

そのまま立ち上がり、しっかり掴まっているように指示した後、U-47に向き直る。彼女は自分はどうすればいい、という顔をしてこちらを見ていた。

 

「……お前は片手で抱いていく。ほら、来い」

「うん、分かった…」

 

そんなU-47に左手を広げて、俺は彼女を手招きした。彼女の腰をしっかりと抱いて、ジップラインを空いた右手で掴んだ。

 

「……わぁ…!」

「すごい…」

 

そしてジャンプキットのジェットを利用して、艦船の間に張られたジップラインで海の上を進む。心地いい海の風が全身を撫で、爽快に進む感触。

 

それに二人が感嘆の声を上げた。お気に召したようで、何よりだ。近づいてくる護衛艦の甲板、着く直前で手を離し、ダブルジャンプの要領で軽やかに着地…二人を下ろした。

 

「……乗り心地は、どうだった?」

 

二人は顔を見合わせると、嬉しそうにはにかんだ。

 

「すっごく、楽しかった」

「悪くなかったよ、気持ちよかった」

 

満足げな二人の顔を見て、思わず口元が緩む。出来るだけこんな見た目の歳相応の顔をさせてやりたいな、と思いながら屈み、二人に視線の高さを合わせた。

 

「……なら、よかった。それで、お前達に提案がある」

 

首を傾げた二人に、そのまま俺が言おうとしていた事を告げる。

 

「……お前達の、呼び方だ。嫌じゃなければ、U-47はヨナ…U-557はココナと呼ばせてくれないか?仲間を数字で呼ぶのはどうも…気が引ける」

 

そう言うと、二人は少し困ったような表情を浮かべたが、すぐにその表情を和らげた。

 

「ヨナ…うん、いいよ。その響き、悪くないね」

「じゃあ、私も今からココナ…だね…ありがとう、指揮官…」

 

二人が俺の言った事を承諾してくれた。それを聞いて、内心ほっとする。名前というのは、やはり特別な物だからな。こんなに心豊かな女の子を、数字で呼び分けるなんて事はしたくなかった。

 

かつての上司であるARES師団の大将、マーダーの様な冷血な男なら気にしないのだろうが…俺はあそこまで色々と捨てきれない。

 

あの時の仲間に教わった重桜での数の数え方、読み方。それを参考にして、簡単で安直ではあるが呼び名を考えさせてもらった。

 

改めて、二人によろしくと言い、また俺達の指揮艇まで歩き始める。気難しそうなこの二人との距離が、心なしか少し縮んだ気がして…少し、嬉しかった。




・フェーズシフト
パイロットアビリティの一つ。発動後の数秒間、地形しか存在しないモノクロの別次元に姿を隠しあらゆる攻撃、障害を無視するアビリティ。フェーズシフト中のパイロットには、どんな手段を用いても攻撃することができなくなるという反則じみたアビリティ

・コアアビリティ
いわゆる必殺技。タイタンごとに違ったものが設定されています。今回のリージョン級は『スマートコア』、ゲーム内では弾数無限の自動追尾弾を一定時間放ち続けるというもの。弾数の供給は独自解釈です。

・Uボートの呼び方について
あんなに可愛い女の子を数字で呼ぶとか無くね?と作者は思ってます。よって少し安直ですが、呼び名をつけてあげることにしました。(書くのが少し手間という理由もあります)
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