Azur Fall   作:Isaac/アイザック

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一章完結です。次から数話は母港での話にしたいです

ご感想、ご意見はお気軽に


1-8

勢いよく飛び込むままに私を抱きしめる彼、そして響く弾けるような音。彼の体越しに、強い衝撃を感じて腕の中に抱かれたまま甲板に倒れる。

 

「……ァグ…ッ!」

 

彼の苦しげな呻き声、そして彼の体から流れる生暖かい液体…手を見てみれば、私の指にはベッタリと血が付いていた…

 

「っハハハハハ!やった、やったぞ…!」

 

狂気に歪んだ笑みで、元指揮官が高らかに腕を突き上げる。味方のはずの…私の、大切な人を撃って、喜んでいる…?

 

沸々と怒りが込み上げてくる。滅多にあるものではありません、この世界にはどうしようもないこともあります…ですがこれは、こんなことは…許される訳も、受け入れられる筈もありません…!

 

(貴方様、少しお待ちを…すぐに終わらせますから…)

 

壮絶な痛みに苛まれているであろう彼の腕から抜け、そっと甲板に横たえる。私の主人である彼に…手を出すと言うのであれば、例え元上司であっても容赦はしません。

 

「私は、やったんだ…!ロイヤルの誇りを汚す、余所者を…!!」

 

そう興奮に酔いしれる元指揮官の前に立つ。そしてももにホルダーを巻き、普段は隠れるようにして携行する武器…彼からもらった、スマートピストルを手に。

 

元指揮官に連れ従うスペクターが、私が手に武器を持った事に反応して一斉にこちらにを向き、武器を構えようと動く。

 

でももう、遅い。ピピッ、と言う微かな音が連続してスマートピストルから響く。その時点で、もう勝負なんてついているようなものですから…

 

「ハハハハ…ハ…ぁ、あぁ?…な、にが……!?」

 

引き金を一度引けば、重たい銃身が連続で跳ねる。普通ならありえない速度、照準なんて意味もないような連射。しかし放たれた弾は、正確にスペクターの機械の頭に食い込み、弾き飛ばした。

 

そんな光景を目にして、元指揮官は愕然と口を開いた。その時にはもう、スペクター達は既に甲板に崩れ落ちてしまいました。

 

「ふぅ…!ふぅ…!」

 

カチ、カチ…目の前のこの男も片付けてしまおうと、引き金を引く。しかしそんな虚しい音を立てて、弾が出ることは無かった。弾切れ、らしい…あぁ、そうでした。確か12発装填だと、仰っていましたね…

 

「や、やめてくれ…!わ、私はただ君が…!」

 

情けない声を上げて命乞いをする元指揮官。そんなものは、聞く価値もありません。無言のまま、黙って空になった弾倉を落とします。カチャン、という落下音にさえ、ビクリと体を震わせる元指揮官…

 

情けない、と言う感情すら湧いてきません…早く、この男を……

 

「……よせ、カッスル!」

「ぁ……?あなた、さま…?」

 

いつの間に目を覚ましていたのか、彼が私の肩と銃を持つ手を掴んで動きを止めさせてきた…彼に支えられたその手は、ひどく震えていて、そして冷や汗でじっとりと濡れてしまっていることに今気付かされました…

 

「…お、お怪我は…?」

「……俺の事はいい、心配をかけてすまなかった」

 

彼は申し訳なさそうな声音で私に語りかけながら、ゆっくりと私から銃を取り上げました…そして、まるで子どもをあやすかのように、背中に手を回して優しく叩き、撫でてきます。

 

「……落ち着け…俺は無事だ、こんな奴の為に、お前が手を汚す必要はないんだから」

「ッ…は、い……」

 

彼の言葉を聞いてようやく、冷静さを取り戻すことが出来ました。彼の腕の中で深呼吸をして、怒り昂った心を静めるようにします。

 

そして私が落ち着いた頃を見計らった彼が、私から離れます。

 

「……さて、お前は邪魔だな」

 

「っひ…!?化け物が…!!」

 

私に対するものとは打って変わって、冷たく感情の読めない声音で、腰を抜かした元指揮官を見下す彼。化け物、と罵りながら、慌てた様子で手に持った散弾銃をこちらに向けようとする。

 

しかし彼は慌てる事なく、何かを甲板に落とした。それが甲板についた瞬間、放たれた散弾は全て彼や私に当たる前に阻まれた。

 

「な、何故…!?なんだそれは!?」

「……なんでもいいだろう、お前が知ったところで意味はない」

 

彼が落とした円盤状の物から、淡い水色の壁が目の前に展開されていて…それに阻まれて元指揮官の弾は、私たちに傷ひとつつけずに消えてしまった。

 

そんな光景に、喚き散らしながら散弾銃を撃ち続ける元指揮官。しかしいずれも効果はなく、すぐに弾が尽きてしまったようで悔しげに顔を歪めて銃を投げ捨てる。

 

「…このっ…何故だ!?何故貴様のような辺境の兵士一人!何故この私が敵わない!?」

 

「……知るか…いい加減に、しろ…!」

 

怒り狂いながら、元指揮官は必死の形相で立ち上がり、彼に殴りかかる。しかし彼はそれを軽くいなし、組みつし転ばせ、馬乗りになって頸部を組んだ腕できつく圧迫し始める。

 

「ガ…ァ…!!ッッ…!」

 

彼の装備のせいで、殴る蹴るの格闘攻撃では、威力が出過ぎて殺してしまう…と言っていた。そのため、わざわざこうして絞めあげ、気絶させようとしているのです。

 

ジタバタと足を動かし、暴れる元指揮官…しかし、それも段々と弱まり、次第に大人しくなっていく。

 

「……はぁ、まったく…」

 

そして気絶した元指揮官の体をひっくり返し、手錠をかけた彼。その姿を見て呆れたようなため息を吐くと、彼は元指揮官の首根っこを掴み引き摺って、甲板の邪魔にならないような場所へと放り投げた。

 

そのまま彼は、私の方に歩いてきて首を傾げ私に問いかけてくる。

 

「……怪我は?」

 

先程までの様子が嘘のように、いつも通りの優しい声音で話しかけてくれる。その様子に驚きつつも、私は自分の身体を確認する。特に目立った外傷は無く、痛みも感じません。

 

「はい、貴方様のお陰で…」

 

そう伝えると、彼はホッと一息つき、私の肩に手を置きました。

 

「……良かった…」

 

安堵の声は、心なしか震えていて。とても心配をかけてしまった、と思う反面彼自身の負傷も気になってしまう。

 

「あ、貴方様のお怪我は…?本当にもう大丈夫で…?」

「……あぁ、興奮剤で無理矢理治した…荒療治だが、お前が手を汚す前に間に合って良かった」

 

そう言って、彼は私を離すとポーチから空になった注射器を取り出した。僅かに毒々しい蛍光色の緑の液体が、中に付着しているのが見てとれる。

 

「……粗方の傷は塞がっている、今は目の前のことを、片付けよう」

 

そんな事を言って、またすぐ戦線に戻ろうとする彼。思わず腕を掴んで引き留めてしまいます。

 

「そ、そんな…いくら処置したと言えども、お怪我をされて…」

「……終わったら。終わったら処置を頼む、後少しだけだ」

 

私の制止を振り切るように、言葉を被せた彼。しかし、しっかり私の顔を見ながら、真っ直ぐそう言い切ってくれて…

 

「はい、分かりました。ですがご無理はなさらないよう…」

「……あぁ、片付けよう」

 

そんな風に言い、落ちた銃を拾った彼。その背中には痛々しい、焦げたような跡と滲んだ血が見えた。

 

 

○○○○○○○○

 

《こちら旗艦のプリンツ・オイゲン…人型を排除、私達の勝利よ!》

 

オイゲンの通信は、勝利を告げる高らかなものだった。それを聞いたロイヤル、そしてラストリゾートの全ての味方が沸き上がるのを感じる。

 

《よし!よくセイレーンを撃退してくれた!作戦は成功だ!》

《勝ったぞ!勝ったぞ!》

 

勝利に喜ぶドロズ、それと一緒にはしゃぐデービスの声を聞きながら、俺は安堵の息を吐く。色々あったが、なんとか仕事を全う出来た。後は母港に帰るだけ…あぁ、報酬も受け取らなければな…

 

そう考えればまだやらなくてはならない事がまだあるが、取り敢えず一区切りついた。その安心感はとても心地いいもので、ようやく気を抜ける、というわけだ。

 

まぁ背中に一発、マスティフのペレットを幾つか貰ったが、目立った負傷はそれだけだ。あの距離できっちり全弾当てられないあたり、やはり所詮士官。直接戦闘するような連中でなかった、というわけだ。

 

「……戦利品の回収、それから被害状況の確認と報告を忘れないように」

《分かってるわ。また後で会いましょう?》

 

そうして無線を切り、俺はニューカッスルを連れて甲板を後にする。元指揮官を引き摺り、船室の方へ。何故こいつがマスティフを持ち出し、剰え見張りを振り切って俺の元にスペクターまで連れてきたのか…

 

その辺りも追求しなければならない、仕事終わりとはいえやる事が尽きない。

 

「……ニューカッスル、誰でもいい。ロイヤルの士官か海兵を呼んできてくれ」

「………はい、かしこまりました」

 

ニューカッスルにそう言い、ヘムロックを床に放った中佐に向けておく。起きたところで何も出来ないだろうが、妙な真似をすれば即座に撃てるように備えておく。三度目は無い。

 

何故か少し不服そうにしたニューカッスルは、しかしすぐに一礼すると船室へと走っていく。その背を見送ってから、俺は未だ気を失う中佐に視線を向けた。

 

ニューカッスルに対して、何か特別な思いがあった。それは別に構わない、ロイヤル王室への忠義も、俺には無い高尚でな感情。実に結構なことだ。

 

だが、嫉妬を割り切れず、私的な感情を暴走させたのはいただけない。優秀だったはずのこの男は堕ちるところまで堕ちてしまった。どうせ指揮官としての権限を剥奪されるなら、等と言っていたが…もうそれどころか日の目を見れるかどうかも怪しい。

 

「……哀れだな」

 

そう呟いて、彼の眉間に照準を合わせる。いっそここで殺してやった方が、コイツの誇りと忠義とやらは傷つかないで済むのではないか…どうせ何人も、数え切れないほど俺は殺してきた…こいつ一人程度増えた所で……

 

「貴方様、お待たせしました」

「……あぁ、大丈夫だ」

 

しかし引き金に指をかけたところで、彼女が戻ってきてしまった。すぐに不自然にならないように銃を下ろし、待ってはいないと返事をする。

 

「中佐…本当に…?」

「おい…!今は、とにかく連れて行くんだ…!」

 

彼女が連れてきたロイヤル海兵は、中佐の姿をみて怪訝な表情を浮かべたものの、すぐに中佐を担ぎ上げ、彼らは俺に敬礼をする。

 

「ご迷惑をおかけしました!」

「後は我々が、一度失礼致します!」

 

律儀に敬礼をして、そのまま連行していく海兵達。そこまでかしこまる必要もないというのに…そう思ったが、そのまま見送る。

 

そして再び二人きりになった時、彼女は小さく微笑みながら言った。

 

「貴方様、こちらへ。背中の傷を診せてくださいませ」

「……あぁ、そうだな。頼む」

 

言われるままに、彼女に連れられ艦内を歩く。現状ではほとんど痛みは感じないが、一応の処置は受けておくべきだろう。そう易々と、こんなくだらない負傷で『再生』するのは馬鹿げている。

 

幾つか角を曲がり、たどり着いた一室へと入る。仮眠を取るための、ベッドとランプのみのシンプルな部屋だ。特に直前まで誰かがいた形跡もない、にも関わらず綺麗に清掃され、床には埃一つ見受けられない。

 

「ここは、あまり使う人のいない場所ですから…さぁ、一度装備を取って、傷を診せてください」

「……分かった、わざわざすまない」

 

人の来なさそうな場所を選んでくれた彼女に感謝しつつ、鍵を閉め、言われた通りに銃を置きヘルメットを脱ぐ。そのままツナギになっているパイロットスーツを上だけはだけて、上半身を晒した。

 

「……頼む」

「…あ、はい。失礼しますね?」

 

少し間を開け、動いたニューカッスルは背後へと回り、背中に手を触れた。

 

「確かに、大方は…ですが治りの悪い位置もあります。こちらにお掛けください」

「……あぁ」

 

促されるまま、備え付けのベッドに腰掛ける。そして背中を向ければ、ニューカッスルは軍用の医療キットをベッドの下から引っ張り出して、中を開けた。そしてそこから消毒液とガーゼ、当て布。そして包帯を取り出して…小さなメス、ピンセットを取り出した。

 

「幾つか、弾が食い込んでいます…浅い場所ですので…」

「……分かった、よろしく頼む」

 

ニューカッスルの確認…つまるところ、無理に治したところを一旦開き、残った弾を取り出すというもの。この小さな弾を体に残しておくと、それが溶け出して金属中毒になったり、感染症の元になってしまう。

 

早めに取るに越したことはない、と考えていると、冷たい感触…ついで鋭い痛みが背中に走る。

 

「……ッ…!」

「少し、我慢してください…」

 

声を抑え、耐える。しかしそれでも漏れてしまう呻き声は、ニューカッスルにも聞こえてしまっているだろう。彼女の細い指先がゆっくりと傷を開くように動き、さらにピンセットが体内に入り込む感触。

 

「…後、少しです…!」

 

一つ一つ確実に、最小限の切開で弾を除去してくれるニューカッスル。その手際は見事と言う他なく、あっという間に全てを取り除いてくれた。

 

最後にグチュ、と生々しい音と、何かが抜けるような感覚と共に、全ての弾丸が取り出される。

 

「お疲れ様です…少し染みますが、我慢してくださいね?」

 

優しく囁くように言って、消毒液で濡れたガーゼを押し付けられる。未だ開いたままの傷口に染みる痛み…思わず顔をしかめそうになるも、なんとか堪える。

 

やがて程なくしてそれは終わり、失礼します、と言う声とともに包帯が巻かれる。その手際はとても良く、淀みないままに全てが終わった。

 

「……助かった、背中はどうしても俺一人じゃ出来ない」

「いえ、貴方様のためなら…どんなこともさせていただきますから…」

 

そう言い、微笑むニューカッスル。しかし、どこか浮かない表情をしている。どうかしたのだろうか?

 

「……何か、気になることでも?」

 

装備を着直しながら、そんな彼女に問いかける。別に、俺が傷ついたのは俺が咄嗟に動いたからであって、彼女のせいでは無い。

 

もしそんな事を思っていたら、お前のせいでないとまた言い聞かせなければ…そんな風に思っていたが、彼女の言葉はその予想よりも遥かに別方向のものだった。

 

「いえ…その……先程、私を庇ってくれた時に、『カッスル』と…」

 

一瞬、何の話かと思うが、すぐに思い返す。

 

確かに言った。あの時、中佐がチョーク無しでマスティフを撃とうとした瞬間に、咄嗟に口をついてそう呼んでしまった事だ。

 

彼女を傷つけさせまい、そして彼女たちの手を汚させまいと必死だった。そのせいで略して名前を呼んでしまった、不快だっただろうか…

 

「……すまない、必死だった。迷惑だったなら…」

 

謝ろうとすると、不意に彼女はベッドから立ち上がり、こちらへ歩み寄り俺の口を閉ざすように指を当て…そして小さく首を横に振る。

 

どうやら、怒ってはいないらしい。それどころか、どこか嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

「迷惑だなんて…また一つ、貴方様との距離が縮まったと…そう思いましたのに」

 

そう言うと、彼女は拗ねるように流し目で俺を見る。

 

「ですので、貴方様の呼びたいように。迷惑だなんて、ありませんから」

 

これは困った。まるで駄々をこねる子供のような仕草に、思わず苦笑いしてしまう。彼女との距離感は、俺が思うよりも近いらしい。

 

被りかけたヘルメットを一度片手で持ち直し、正面から彼女と向き合う。

 

「……では、これからはカッスル、と」

「…っ!はい…!」

 

その呼び方に満足したのか、あるいは嬉しかったのか。顔を綻ばせて頷いたニューカッスル改め、カッスル。確かにこちらの方が呼びやすいし、それに少しまた親しくなったように感じて俺も嬉しい。

 

少しの間互いに見つめ合い、そして視線を切ってヘルメットを被り直す。HUDが起動すると同時に、エリザベスからのコールが鳴り響く。

 

《ちょっと、貴方!大丈夫なのかしら!?》

「……問題ない、応急処置を受けていた。今そっちに行く」

 

どうやら中佐の件が耳に入ったようだ、そちら側に詳細も話し、聞かなければ。カッスルに目配せすれば、それを察したかのように頷く。酷いハプニングではあったが、また彼女との関係がより強固なものになったようで。

 

そんな事を思いながら、カッスルと共に並び、女王の元へと向かう。もう一踏ん張りだ、片付けてしまおう。

 

 

 

 

「指揮官さまぁぁぁぁ!」

「……残念だったな、イラストリアス」

 

再三に渡るエリザベスの謝罪を受け終え、責任を持って中佐の処罰を下すという誓約書までしたためた後に報酬やら人員派遣の話に話題は移った。

 

まず報酬だが、予定していたものの三割増となった。これはラストリゾート側が早速起動したハーベスターからの資源が一割、そして慰謝料込みでのロイヤル側の支払いが二割、といった具合だ。

 

ロイヤルメイド二人に抑えられ、こちらに向かってジタバタ暴れながら悲痛な叫びを上げているのはイラストリアス。彼女は派遣の対象のKAN-SENでは無いという、消費する燃料が多く、まだ俺の艦隊で運用するには厳しいとエリザベスが判断したとの事だ。

 

「えぇい!うるさいわね、いい加減にしなさい!」

「んぁ…!?そこは叩かないでくださいませ陛下!」

 

そんな様子でさっきから場を乱す彼女を見かねたのか、席を一度立ったエリザベスが平手打ちを食らわせ黙らせる…何故胸を引っ叩くのは知らないが。俺は何を見せられているんだ…?

 

「もうっ!やめっ……!」

「こんなっ…!贅肉っ…!」

 

どうも個人的な感情が大きいようだ、アレには深く触れない方がいいだろう。触らぬ神になんとやら、とかつての仲間が言っていたのを思い出す。

 

「……エリザベス、人員の件についてまだ話は残っている」

「ふぅ、ふぅ…!えぇ、そうね…はぁ、すまないわ…」

 

だが、このまま話が進まないのも困る、女王にそう口を挟めば、肩で息をしながら席に戻ってきた。そしてそのまま着席し、再び話が始まる。

 

「……それで?結局こっちに移籍させるのは誰にするんだ?」

 

俺の問いかけに、得意げに指を鳴らしたエリザベス。それを合図に、ベルファストが俺のそばに来てファイルに入った書類を渡してきた。

 

それに礼を言いつつ、促されるままに中身を確認する。艦種別にまとめられた名簿を取り出し、名前を目で追い黙読する。

 

駆逐艦・ジャベリン

軽巡洋艦・ベルファスト、グラスゴー

重巡洋艦・ロンドン

軽空母・ユニコーン

巡洋戦艦・ネルソン

 

以上六名が、俺の艦隊の所属として派遣される面々のようだ。チラリとベルファストを見れば、僅かに微笑み小さく礼をした。どうやら彼女もだったらしい。

 

しっかりと会話したことがあるのはベルファスト、ユニコーン。指揮の時の顔合わせと、指示のみの会話がジャベリン、ロンドン、そしてグラスゴー。

 

そして全く知らない、恐らくはこの艦隊に居ないのが、このネルソンという名のKAN-SEN。今のウチに無い貴重な火力、巡洋戦艦なのはありがたいが…

 

「どうかしら?一応貴方の艦隊の燃料事情や、貴方自身の練度も考慮したつもりよ!」

 

自慢気に鼻を鳴らすエリザベスに、少し苦笑いしつつ資料を仕舞う。そして改めて女王に向き直る。

 

「……確認した。ありがたい話だ、今一度感謝する」

 

そして頭を下げて、謝意を示す。こうして実力を試す機会を与えられた事、それに対する正当な評価、そして詫びるべき事はしっかりと補填してもらった誠実な対応についても。

 

「面を上げなさい、これくらい女王として当然の事よ!」

 

得意げな顔で胸を張るエリザベス、器も大きい、いい上司だ。今後とも、何かあれば呼ばれるだろうが、出来る限り力になれるようにしたい。そう思えるような人柄、器量。

 

これがロイヤルを束ねる女王にしてKAN-SEN…思わず感嘆してしまう程に、この少女は立派な指導者だった。

 

「……ありがとう、本当に助かった」

「えぇ、私からもお礼申し上げます」

 

再度礼を述べれば、カッスルもまた礼をする。エリザベスは満足気に大きく一つ息を吐き、腕を組んで背もたれにもたれかかる。その表情はどこか誇らしげに見えた。

 

「そう思うのなら、これからも励むことね…私が選んだ派遣の娘達、精々上手く大事に使いなさい!」

 

エリザベスの言葉に、力強く首肯して答える。すると、エリザベスは満足気に笑ってから立ち上がり、仰々しく手を振り高らかに言う。

 

「ネルソンに関しては、後でこちらからしっかり派遣するわ!今は、ラストリゾートの庶民たちにも会ってくるといいわ!」

 

そしてそう言い残してから部屋を出ていく。エリザベスが出て行ったあと、残された俺達はひとまず休憩がてら、ドロズとデービスの元へと行く事に。

 

 

 

 

「パイロット!大丈夫か!?」

「……問題ない、かすり傷だ」

 

ラストリゾートの元を訪れると、デービスがそうで迎えてくれた。ドロズの姿はない、どうやら別の作業をしているようだ。

 

俺が撃たれた件については、既に耳に入っているらしい。出会い頭に背を叩こうとしたデービスは、その手をすぐに引っ込めた。

 

「ならいいけどよ、折角の功績の立役者が死んじゃ世話ないからな!」

「……あの距離でまともにマスティフも当てれん奴に、殺される気は無いさ」

 

そう肩を竦めて見せれば、デービスは愉快そうに笑う。実際、パイロットや隊長級のIMC、もしくはミリシアの歩兵であったなら、あの距離でマスティフを撃たれればもっとひどい傷か、最悪死んでいた。

 

それ程強力なフロンティアの武器、それを使ったとしても庇う相手がいる俺一人殺れないのは甘過ぎると言ってもいい。そんな相手に殺されたら、『再生』出来たとしても恥を背負う事になる。

 

「ハハハ、調子のいいやつめ!」

 

そう言ってもう一度俺の肩を叩き、笑ったデービス。それから彼らの拠点へと戻る道すがら、ドロズはどうしたのかと聞く。奴にも世話になった、一言くらいは告げてから帰りたい。

 

「ドロズか?今殺到してるラストリゾート加入希望のパイロットに、どうにか連絡返してる最中だ。ハーベスターがキチンと使えるようになったからな」

「……あのパイロット達で充分じゃないのか?」

 

確かに、ラストリゾートに戦力があるに越したことは無いが…パイロットを既に四人雇っているだけでもかなりの戦力だ。

 

パイロットは一般兵士五人分の戦力、などと言われるが実際はそれ以上。タイタンとパイロットの戦力比も、状況への適応故にパイロットの方がやや高いとされる程。

 

その気になれば、正面からタイタンさえ落としてみせる…そんな化け物じみた兵士をラストリゾートが、何故それほど集めるのか…

 

「燃料に飢えた残留艦隊は、度々ミリシアのコイツを襲ってる。その防衛に、もっと人数が欲しいのさ!」

 

その言葉になるほど、と納得した。確かにコアシステムの本体と切り離された残留艦隊には、その巨大な組織を支えるに相応しいだけの資源が要る。

 

いくらデメテルの戦いで補給が絶たれているとしても、規模は桁違いの巨大軍産企業。全体のエネルギーや兵站を賄うには、それ相応のリソースが必要ということだ。

 

「……そうなのか…」

「ミリシアは前から、フロンティアディフェンスって作戦名で、ハーベスターを守らせてた。その為には、状況に応じたパイロットが必要なんだ」

 

全く知らなかった。俺は来る日も来る日もIMCとの消耗戦、拠点戦…とにかく、前線でひたすらに戦っているだけだった。まさか後方で、そんな事が起きていたとは…

 

その、フロンティアディフェンス、とされる防衛戦についてデービスからさらに聞きながら歩く。

 

曰く、攻めてくる残留艦隊の兵団によって、敵の編成が異なる事。ストーカーやスペクターを100機単位で投入してきたり、ドローンを主な攻撃源として使う連中も居るとか…

 

そして中でも興味を惹かれたのは…タイタンに対するラストリゾートの改造支援、『イージスアップグレード』。寄るタイタンや機械歩兵の波を、より強く押し戻すためのアップグレードだと言う。

 

「……それは、俺にも出来るのか?」

「可能っちゃ可能だが…まぁそれについてもか。ちょっと待ってろ…ドロズ、ドロズ!」

 

それについて聞くが、デービスはそう言いって基地へと向かっていく。少ししてから、ドロズを引っ張って歩いてきた。

 

「おぉ、パラドクス!撃たれたんだってな、元気そうで何よりだ!」

 

そう朗らかに笑い、ドロズは疲労を感じさせずに言う。

 

「……何度も言うがかすり傷だ、問題ない」

 

その言葉に、俺も返す。すると、またデービスの時と同じように肩を叩かれる。

 

「いやぁ、まぁお前が死ぬなんて想像出来ないしな…とにかく、普通に歩けてるだけ良かったよ」

 

俺が無事である事を喜ぶドロズ。その横で、デービスはドロズを呼んだ理由を話す。一目会いたかった事、そして先程聞いた『イージスアップグレード』とやらについて。

 

「なるほどな…本来、フロンティアディフェンスの作戦専用の拡張だが…別に法で禁止されてる訳でもない、話は分かった…」

 

だが、どうにも煮え切らない返事だ。現実的な話ではないのか、それとも何か別の理由があるのか…

 

「……やはり、難しいのか?」

 

そう問えば、ドロズは肯首する。言葉を選んで、ゆっくりと俺に詳細を話してくれる。

 

「金がかかるだけじゃない、適切にアップグレードするには経験値が要る。データが無いまま、改修は出来ないんだ」

 

その言葉に納得した。確かに、全く状況を想定できないタイタンに、強化改造を施せるようになる筈がない。

 

だが、俺のタイタン操縦歴はかなり長い。それだけではダメなのだろうか、そう疑問に思うが、それは横のデービスが補足を入れる。

 

「フロンティアディフェンスは、激しい攻撃の波を抑え撃破する防衛戦。今までお前がしてきた戦いとは、一味違うんだよ」

 

確かにそうだ。敵の拠点や要塞を攻め落とす為の戦いは、俺の得意とする所。こう言ってはなんだが、かなり上手くやれる自信がある。

 

だが、今回必要なのはそうではない。向こうから攻撃を仕掛けてくるのを、ひたすら耐えるだけでなく、押し返す防衛戦。だからこそ、相手の情報、そしてそれに対する俺の戦闘データが必要になる。

 

「一番手っ取り早いのは、お前もフロンティアディフェンスに参加する事。だが今の立場じゃ…」

 

そう、指揮官としての立場と責務。そして仕事がある…いずれは人員も増えていき、大きくなれば仕事を一旦任せて出撃、ということも出来るだろうが…現状では厳しいと言わざるをえない

 

「……まぁ、そうだな…暫くは、その話は無しだな。俺も余裕がない」

 

今は目の前の事に集中しなければならない、それほどいっぱいいっぱいだ。それに一応その強化が無くても、俺は今戦えている。ならば暫くは平気なはずだ。

 

「すまないな、今すぐ役に立てそうもなくて」

「……話を聞けただけ十分、有益なものだった」

 

謝るのを制してそう礼を言うと、ドロズは手を差し出してくる。

 

「俺はこの後やる事がある…今回は助かった、何かあったらまた頼みたい!」

「……願ってもない。こちらこそ贔屓にしてくれ、力になる」

 

差し出された手を取り、しっかりと握手を交わす。彼らとの縁は、ここでまた強く繋がった。機会があれば、またラストリゾートと肩を並べる事もあるかも知れない。

 

「ハハッ、頼もしいな!アテにしてるぞパイロット!」

 

互いにパイロット同士、そのヘルメットの下の素顔は知らないが、それでも変わらず頼りになる相手同士というのは事実だ。

 

そうして握手を終えて手を離すと、横にいたカッスルも手を差し出した。

 

「私もお世話になりましたので…よろしいですか?」

 

そう言われれば、ドロズも断る理由はない。ドロズはまた、しっかりとカッスルの手を握る。

 

「勿論だ、俺のことも覚えててくれると嬉しいぜ!」

「あ、ズルいぞドロズ!俺もメイドさんと握手させてくれ!」

 

ドロズの言葉に便乗するように、デービスもまたカッスルに手を伸ばす。賑やかなラストリゾート二人の様子に、楽しそうに微笑みながら手を取るカッスル。

 

「ヘヘッ…そうだ、写真撮ろうぜ!」

「おぉ、そりゃ良いな。おいパラドクス!お前も来い!」

 

そんな中、ドロズが携帯端末を取り出しそんな事を言う。デービスも乗り気で、俺に手招きする。仮にも傭兵が、そんな緩い雰囲気でいいのか、と苦笑してしまう。

 

「貴方様…」

「……あぁ、分かったよ」

 

カッスルにも手を引かれ、その輪に混ざる。艦隊初の任務、その成功記念に。

 

「ほら、笑ってメイドさん!パラドクスとデービスも!」

「隠れてて見えねぇぞ!」

 

「っふふ…!」

 

軽口を吐き出すドロズ、そしてそれにさらにボケを重ねるデービス。それにカッスルが微笑んだ瞬間にシャッターが切られる。

 

四人中三人が顔を隠しているが、それでも成功の喜びが伝わる。そんな、いい写真だった。




・スマートピストル
正式名はMK-6スマートピストル。腰だめでもADSでも、構えて一定範囲の敵をロックオンして自動追尾する弾を発射するパイロットの特殊武装。パイロットに撃つ場合はロックまで少しラグがあるものの、歩兵サイズの敵ならば瞬殺できる凶悪な武器です

・残留艦隊
タイタンフォールにおける、「デメテルの戦い」にてデメテル港をミリシアに破壊されたことにより、コアシステムから孤立してしまったフロンティアのIMCの総称。敗残兵団、とはいえその規模はミリシアと同等かそれ以上にやりあえる程の兵力であるとのこと…

・フロンティアディフェンス
通称FD。起動したハーベスターにウェーブ形式で押し寄せる残留艦隊を排除して、ハーベスターを防衛するゲームモード。残留艦隊が襲ってくる理由は独自解釈です。ただし、本当に補給の為に襲ってるのか、と疑問に思うほどの兵力が攻めてくるため、少し無理がある解釈かもしれません…
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