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「……着いたな、今開ける」
かなりの量の物を積めるよう、ドロップシップで母港から西にある街にやってきた俺達。一応は操縦出来るため、横に操作を学習させ、ついでにドロップシップで番をさせるべくマービンを乗せてここまで来た。
ボタンを操作して、機体側面のスライド式のハッチを開ける。先にカッスル達を降ろして、その後俺とマービンも後に続く。
「わぁ…ここが?」
「……あぁ、一番近い街だな。ほら、見てみろ」
初めて見たフロンティアの街の景色に驚くグラスゴー。それはそうだろう、この街はフロンティア特有のインフラが敷設されている。着地したこのヘリポートのあるビルよりも高い建物、低空を行き交う交通。
フロンティアの豊かな資源と、それらから培われた技術。先進的なそれは、街の様子によく現れている。
「………ほら」
街を見据えるグラスゴーを横目に、留守を頼むマービンに、なんとなくオイゲンが読んでいた新聞を渡してみる。
《わーい^ ^》
思いの外気に入ったのか、シートに寝そべり脚を組んで読み始めるマービン。果たして意味があるのか…まぁ見た目が面白いから良しとしよう、留守をするように入力した指令を遂行する気はあるようだし、あまり深く考えない方がいいだろう。
「……ようこそ、フロンティアへ。物珍しいかもしれないが、そのうち慣れる。行こう」
圧倒されたように街並みを眺め続けるグラスゴーの背を押し、ビルの中へと促す。連れてきたのはグラスゴー含めるメイド全員、それからオイゲンと明石。
「……食料、日用品、消費の激しいものに娯楽の品…分担するのが理想だが…」
エレベーターのボタンを押し、呼び出しながら思案する本来なら、手分けして買い物するのが一番だ。だが初めて来る街で、別れて買い物をしてまた集合できるのか、と言われれば少し厳しいだろう。
一応、このビルで全て済むといえば済むのだが…とにかく、少し考えなければならない。
「私達はそれでも構いませんが…」
「……だがな…初めて訪れる場所だ、コアシステムとは別の仕組みがあって混乱するかもしれない…」
カッスルは構わないと言うが、グラスゴーの様子を見るに不安は残る。一度街に訪れているであろうカッスル、明石はいいだろうが、それだけではこれから自分達だけで来た時に困るだろう。
「でしたら…」
「……少し時間はかかるが…初回だ、仕方ないだろう」
エレベーターが到着し、扉が開くと同時に先に皆を乗り込ませる。そして最後に行き先を指定して、扉が閉まるのをぼんやり眺めながらカッスルに返答する。
大型の商業施設とは一口に言えども、マービンやドローン類を始めとした無人機による輸送サービスや買い物の補助などはフロンティア独自だと思っている。
慣れれば便利な物だが、対応するまでには少し戸惑うこともあるだろう。とにかく今回の買い出しは、勝手を覚えて貰えるように一緒に回るべきだろう。
そんな風に考えていると、目的の階層よりかなり上…未だにドロップシップ等の収容エリアを抜けない階でエレベーターが止まる。開く扉を見ながら、少し端へと寄ろうとすると…
「パ、パイロット…!?」
「………ブリックス、司令…?」
そこには見知った顔の女性…ミリシアSRSの司令官である、サラ・ブリックスが目を丸くして立っていた。
「へぇ…凄いじゃない!まさか前線で働いてた貴方が、指揮官になっているだなんて!」
「……右も左も分からないがな。艦隊運動の指揮の経験は、全くの素人だ」
工業品の展示販売エリアを歩きながら、休暇でたまたま買い出しだという司令に現状の説明と、KAN-SEN達について話した。
SRS…かつて世話になった兵団で、ピッチングについてもそこの所属パイロットに教わった。IMCからの脱走兵である俺や部隊の奴らも、快く受け入れてくれた恩人だ。
「にしても、貴方がこんな美人さん達に囲まれているなんて…見間違いかと思ったわ」
「……残念ながら現実だ。俺は生憎、戦いからは逃れられないらしい」
茶化すように言うブリックス司令の言葉に返しながら、持っているタブレットに目を移す。表示されたマップによれば、もうすぐ明石の要望と、母港の施設拡張に必要な機材を購入できる店が見えてくる。
「難儀なものね…まぁ、私も似たようなものだけれど」
呆れたように肩を竦め、そして朗らかに笑って俺に言った。
「ほら、パイロット。よければ私にも案内させて頂戴。フロンティアの良さ、この娘達にたっぷり教えてあげたいもの」
どうやら、休暇という時間を使い、KAN-SEN達を案内してくれるらしい…ありがたいが申し出だが、せっかくの休みだというのにいいのだろうか。
「……いいのか、折角の休暇を…」
「良いわよ。それに、私も彼女達に興味があるの。色々とお話しさせて欲しいわ」
ブリックス司令本人は乗り気だし、ここは厚意に甘えるべきか…
「……分かった。ではメイド隊の三人を任せたい、一番ここを使うことになるだろうからな」
そう言って彼女に頼む。任せなさいと胸を叩くブリックス司令に頷き、カッスル、ベルファスト、そしてグラスゴーに向き直る。
「……すまないが、別行動で頼む。かなりの人格者だ、信頼してくれていい」
せっかくの買い物、カッスルに関しては俺含めた皆で買い出しに行けるのが楽しみだと言っていた。だというのに、別行動にしてしまう事に謝罪をする。
彼女には申し訳ないが、今回は既に昼を大きく過ぎている時間帯。差し迫った執務はないが、まだ大きく無い基地をそう長く空けていたくはない。
「…えぇ、分かりました。貴方様がそう言うのなら…」
渋々、といった様子を一瞬見せたが、すぐに丁寧に礼をするカッスル。そんな彼女にもう一度謝ろうとしたその時、ズイと俺の顔に端正なその顔を彼女は寄せてきた。
「また今度…楽しみにしていますから」
「……あぁ、必ず」
彼女の言葉に応えると、満足したのか笑顔を浮かべ、ブリックス司令の方へと向かっていった。
「……明石、オイゲン。行くぞ」
「はいはーい」
「にゃ、早く入ろうにゃ…!」
少し遅れて、二人に声をかける。特に彼女らは不満はなさそうだが、後でカッスルには埋め合わせをしなければ。そんな事を考えながら、店へと入る。
きっと、ブリックス司令ならば彼女たちの疑問にも答えられるはずだ。話すことが得意でない分、彼女にその辺りを代わってもらえれば…
そう思いながら、店主に声を掛ける。必要な物を、明石と、夕張。それから基地の警備機械兵に、買っていこう。
○○○○○○○○
「さぁ、なんでも聞いて頂戴。ここは広いけれど、大体どこに何があるかは分かってるわ!」
ご主人様と別れた後、彼の顔見知りであり組織のトップ。ミリシアの司令官であるサラ・ブリックス様と一緒に、広いショッピングエリアを歩きます。
ご主人様と歩いて、少しは親睦を深められると思ったのですが…仕方がありません、そんなに悠長にしていては日が暮れてしまいます。
「えぇ、よろしくお願いします。ブリックス様」
胸を張る彼女に、ニューカッスルさんが丁寧にお願いする。まだ勝手の分からない私たちに、貴重な時間を割いて案内を申し出てもらったのですから。
「サラ、でいいわ…貴女は…」
「パラドクス様のメイド、ニューカッスルと申します。こちらが同僚のベルファスト、そして妹のグラスゴーです」
改めて自己紹介をし、こちらを手で示したニューカッスルさん。慌てたように礼をするグラスゴーの後に続いて、私もカーテシーで一礼。
「よ、よろしくお願いします…!」
「どうぞ、お見知り置きを」
「えぇ、よろしく。さぁ行きましょうか」
ウインクを一つした彼女に連れられ、またエレベーターに。当初の目的通り、私達は食料品や、日用品の売られるエリアに向かいます。
「この大陸でも、ここは結構大きなショップモールなの。大体なんでも揃えられるわ」
開いたエレベーターから降りると、かなりの規模のマーケットが目の前に。行き交う人々はとても多く、しかしそれでも尽きる事がないと思う程高く積み上げられた商品。
「わぁ…」
「ふふ、すごいでしょう?コアシステムのマーケットは、こんな風に売ってないだろうし」
感嘆の声を上げるグラスゴー。そんな彼女の前に立ち、自慢げに説明するブリックス様。そんな彼女たちの横に立ってタブレット端末に目をやりながら、確かめるように指で指しながら話すニューカッスルさん。
「食料品はもう少し行ったところ、日用の消耗品はすぐそこのコーナーですね…順番に済ませましょう」
地図を見ながら、必要な物を書き記したメモを見てそう言ったニューカッスルさんに頷き、一番近い売り場から見ていく。
歯ブラシ、タオル、その他消耗品…人数が今後も増える事も見越して、少し多めに余裕を持って。ブリックス様にカートを持っていただき、三人で手早く効率的に。
次々とチェックリストにチェックを入れて、不足の無いよう完璧に。ロイヤルメイドたる者、常に優雅に無駄なく余裕を崩さず。
そんな風にテキパキと買い物をしていると、横で見ていたブリックス様が呟くように言った。
「羨ましいし、変わったわね…あのパイロットが、こんな美人なメイドさんを雇うなんて」
クスクスと笑いながら、私もメイドを雇おうかしら?なんて言う彼女、の一言が気になって、思わず聞き返してしまいます。
「変わった…?ご主人様が、ですか?」
「…えぇ。正直、私は彼の事がほんの少し、怖かったの。その戦い方が、そして強さが、ね」
そう言って、彼女は懐かしむような表情を見せる。その言葉の意味がよく分からず、首を傾げる。
確かにご主人様の戦い方は、度肝を抜かれるような常識外れのもの。ですがそれは、彼曰くパイロットであれば当然出来る、というものであるらしいとは伺っている。
「ですが、パイロットであれば普通と仰っていましたが…?」
そう疑問を呈せば、パチクリと目を瞬かせて…そして吹き出すように笑ったブリックス様。
「ふふ、ベルファストさんもそう言われたのね?でも、あのパイロットとその部下の普通は普通じゃないわ、信頼しちゃダメ」
楽しそうに、しかし何処か困ったようにそう言ったブリックス様。そんな彼女にニューカッスルさんがすかさず訊ねた。
「昔から、やはり無茶を…?」
「それはもう。IMC出身者だから信頼を得なきゃ、なんて息巻いてて」
ケラケラと笑いながら、私達の買い物を手伝ってくれるブリックス様。
「奴らに占拠された市街地を、いくら小規模だったとはいえたった4人の部隊で制圧したのよ?無茶も程々にしてほしかったわ…」
ブリックス様の元に下ったばかりのご主人様の率いるパイロット部隊は、どうやら相当やんちゃな人達だったらしい…
「…後で、詳しくお聞かせ願えますか?あの人に、色々と言わなければならないことが増えそうです」
にこやかな笑顔だが、目の笑っていないニューカッスルさん。そんな怖いニューカッスルさんと、熱い握手を交わすブリックス様。
「えぇ、もちろん。無茶しないように、ストッパーになって欲しいもの…大事な指揮官が、いの一番に死ぬなんて許せないでしょう?」
元々彼の上に立ち、私たちの知らないご主人様を知るブリックス様。そんな彼女もご主人様の無茶っぷりには散々頭を悩ませられたらしい…
謎の多い彼ですが、もしかするとそんな彼の新たな一面を知れるかもしれない。ニューカッスルさんはそう思ったのでしょう。
「私からも、お願い致します。また後で、ゆっくりと…」
「いいわよ。さ、そうと決まれば…済ませてしまいましょうか」
私からもお願いをすれば、快く了承してくれたブリックス様。ご主人様が素晴らしい人、と言っていたのが分かりました。とても優しく責任感があり、また人望厚い人であるのがまだこの短い間の付き合いでもよく分かりました。
「はい。グラスゴー、ニューカッスルさんも…少し駆け足で参りましょう」
三人の返事を聞きながら、タブレット端末にメモした物を買える場所を素早くチェックしていく。
食料品、日用品、雑貨、様々な物が売られているマーケットをあちらへこちらへ。最大限短いルートで手早くお買い物を済ませるべく、カートを押して売り場へと進みます。
「すごいわね、前線でセイレーンとかいう化け物と戦ってるとは思えない手際だったわ…!」
あれから程なくして買い物を終わらせて、買ったものはなんとドローンで私達の乗ってきたドロップシップの所まで運んでしまうという、フロンティアならではのサービスに驚いた後。
入った喫茶店で紅茶とケーキを頼んで、ブリックス様との細やかなお茶会の席に着きました。
「ロイヤルの誇るメイド隊ですから、常にいついかなる時も優雅にご奉仕いたします」
「本当に、パラドクスには勿体無いくらいだわ」
微笑みながらそう言ったブリックス様に、ニューカッスルさんが静かに、そして確かに自慢げに返します。
彼女はティーカップを手に取り、香りを楽しむと一口。そしてその唇を濡らすように少しだけ口に含み、味を確かめると…満足げに頷き、一つ息を吐いた。
「さ、聞きたいことがあったら答えるわよ。知ってる範囲で、話してあげるわ」
そうして微笑むブリックス様、そんな彼女にグラスゴーが訊く。
「あ、あの…パイロットの試験…98%がその…パイロットに、なれないって…本当ですか…?」
それはついさっき、ここに来る前の午前のお茶会で彼の言った話。パイロットになるための試験では、僅か2%の兵士しか合格できない。
そして、その他98%の落第者は…命を落とす、と……
「…そんな話から聞かせたの…ひどい男ね、現実主義も程々にしてほしいわ」
苦笑いしながら、ブリックス様は語り始める。
パイロットのフルコンバットライセンス認証試験。もちろん毎度きっちり受験者の98%が不合格になる訳では無く、平均してそのくらい、という指標らしい。
それでも、ほとんどの参加者は命を落とす過酷な試験。くぐり抜けたパイロットは数えるのも容易いほどの数にしかならないようです。
「上級兵士、というフレーズに惹かれた若者から、優れた才能だけを選出する。恐ろしいものよ」
かつて、コアシステムでのセイレーン侵攻。制海権のほとんどを喪失し、陸上への侵攻を許してしまった。
その時はまだKAN-SENが戦場に登場する段階では無く、人々は抵抗しながらもその勢いを削げずにどんどん内陸に追いやられていった。
そんな時に、後にIMCとなる先駆けの企業…ハモンドロボティクス社と、その系譜が開発したタイタン。そして当時前線でセイレーンと戦っていた兵士の中で、優秀な者にパイロットの装備を与えて戦わせた。
それが、パイロットの起源だと言うブリックス様。また一口紅茶を飲んで、渇きを癒して続ける。
「元々はタイタンだって現行の量産機と違って、戦闘用は三種類のシャーシしか無かったの」
重量級のオーガ、中量級のアトラス。そして軽量級のストライダー。なんとかその三種を、戦況によって使い分けつつセイレーンを海へ押し返す。
泥沼の戦いだったが、同時に少しずつ。前線は上がっていき、絶望に沈んでいた人類に少しずつ希望が戻ってきた。
そんな中で、ある革新的な技術が内陸で開発されたという。それが何なのか、と思い訊こうと思ったその時、ニューカッスルさんが口を開いた。
「それが、ジャンプドライブ?」
「そうよ。コアシステムからここに来る時に、使ったはずのアレよ」
ジャンプドライブ…端的に言えば、長距離のワープ技術。これによって、この星の広大さ故に未踏だった海域や島々…果ては宇宙にまで、人類は足を伸ばすことができた。
それにより、兵站補給や資源の確保が進み、なんとかセイレーンを押し返して陸の活動権を人類は取り戻した。
その後、メンタルキューブの発見、解析によりKAN-SEN達が戦場に登場。セイレーン大戦と名付けられたその戦いに勝利することが出来たという。
「漫画みたいな、凄い話ですね…」
「そうでしょう?私はフロンティアの生まれだからよく知らないけれど、彼はセイレーン大戦終盤にパイロットになってるらしいから、きっと知っているわ」
そんな風にして一度話を締めたブリックス様は、ケーキを一口食べて目を細めます。そんな彼女に、私はさらに気になった事を訊く。
「フロンティア戦争、の発端についてはご主人様に聞きました…その詳細を、お聞きしても?」
フロンティア戦争…ここフロンティアで起きた、大きな戦争。コアシステムにあるロイヤル本島にも、その戦況がニュースになって流れていたほど。
とはいえ、知る情報はIMCの情報部を通してニュースになった事のほんの一部に過ぎない。彼が駆けて、超えてきた戦い。それをもっと、知りたかった。
「…ミリシアに、IMCからの離脱者が合流するのは、少なくはなかったわ」
IMCの強引な土地の利権の主張、そしてそれに伴う住民の退去。その勢いは苛烈を極め、逆らえば撃たれて殺される、なんてことも普通にあったとブリックス様は語る。
「そんな状況に嫌気が差したんでしょうね。忘れもしないわ、彼は侵攻が始まってすぐに、部隊の三人を連れてミリシアの本部…大陸ハーモニーにやってきたの」
そう言って、懐かしむような表情で語り出すブリックス様。
「自分と同じく部下とタイタンにも武器を捨てさせて、お前達の為に働かせてくれって…驚いたのをよく覚えてるわ」
当時の既存のタイタンではないタイプのタイタン、後に新型の量産機としてIMCが戦線に投入するそれを連れてやって来たご主人様達。
敵対する陣営からの裏切り者、そんな彼らをミリシアの人々は疑い、中々受け入れようとはしなかったが…
「IMCの拠点や補給路の情報、それだけじゃなくて、当時の誰よりも前線でIMCと戦い続ける姿を見て。私達も、彼らなら信じていいって思えて」
そうして、彼らはミリシアで共に戦う仲間となったとブリックス様は言う。
「それに、とても強かったし。ミリシアのエースパイロットに、彼らに教わらなかった人はいないわ」
パイロットとしての心構え、戦いの最中の意識。戦技にタイタンの操縦、様々な形でミリシアのパイロットに貢献してくれた。そんな風に語る彼女は、とても楽しそうで。
どれだけご主人様が慕われていたか、というのが窺えます。
「本当…助けられたわ。襲撃を退けてくれたり、拠点制圧を率先してしてくれたり…頼ってばかりの所が、いつも何処かにあったわ」
しかしすぐに少し申し訳なさそうな顔になり、彼の働きようをつらつらと語り始める。
パルクール訓練から始まり、パイロット以外の兵士にも射撃の訓練を施し…
出撃の際には誰よりも前線でIMCを抑え、倒し。IMCの情報を提供するだけに足りず、捕虜とした敵の兵士に説得まで行いミリシア陣営に引き込む。
IMCを打倒するため、手段を選ばず奔走していたと言うご主人様。その働き振りは、組織のトップとしての激務に追われていたブリックス様の目を持っても過剰であるように映ったという。
「ふぇ…あの人が、そんなに…」
「そうよ、グラスゴーさん。だから絶対に目を離しちゃダメ、興奮剤まで持ち出して働かれたら身体が持たないわ」
少しふざけながらも、釘を刺すようにしてそう言う彼女…興奮剤…とはなんのことか分かりませんが、碌なものでは無いということは解ります。
「はぁ…どうやら言わなければならないことが、多そうですね」
「口を酸っぱくしてやって欲しいわ。半端な注意じゃ聞かないわよ?」
困ったものです、と言いながらため息をつくニューカッスルさん。確かに、指揮官のめちゃくちゃな戦術は治して欲しいものですが……
私はそんなことを考えつつ、一口ケーキを口に運ぶ。甘くて美味しいケーキは、束の間の平穏と幸せを感じさせてくれる。
彼の心は常に戦場に向けられているようですが…それをどうにか、この安らかな時間にも向けてほしい。そんなお願いを彼女からされ、他にも彼の無茶っぷりをたっぷりと聞かされた。
一人でタイタン2機に挑みそれを撃破したり、補給線を断つために自爆特攻紛いの単身突撃。聞けば聞くほどニューカッスルさんの表情は固くなり、それを見てグラスゴーが怯えたように私の方へと席を寄せる。
そんな様子でご主人様の預かり知らないここで、過去のやらかしがかつての上司に暴露され続ける。ニコニコと笑うニューカッスルさんのその笑顔は、深まると共に何か凄まじい迫力のようなものが滲み出す…
相当怖いですね、普段お淑やかなニューカッスルさんが、にこやかに微笑みながら彼に対するお説教の内容を考えている様子は…
「ふ、ふふ…どうやら…一度しっかりと『お話』しないといけないみたいですね…?」
「えぇ、言い聞かせてあげて。私じゃついぞ無理だったけれど、親しい貴女達ならなんとかなるかもしれないわ」
まだまだ彼の罪状は出揃っていないらしい。グラスゴーと一緒に、お茶のおかわりを頼みながら、タブレット端末に目を落としておく。もうご主人様の事は、ニューカッスルさんに全部任せた方がいいのでしょう。
ある程度話し終えたところで、お茶もケーキも無くなってしまい、キリがいいのでとささやかなお茶会を切り上げた。
「ふぅ…ベルファスト、今日の夕食の事は任せてもいいですか?」
喫茶店を出た所で、ニューカッスルさんにそう言われる。断るわけにもいかず、そのくらいならと頷いて了承する。
「はい、お任せください。ニューカッスルさんはご主人様をお願いします」
散々な彼のミリシア時代の話は、しっかりとニューカッスルさんの耳に入ってしまいました。ご主人様には気の毒ですが、今一度指揮官、としての立場を彼女にみっちりと教えてもらわないといけません。
そんなやる気満々なニューカッスルさんを見て、ブリックス様もコクコクと満足げに頷いています。
「頼もしい限りだわ。パラドクス以上のパイロットは、きっとこの先現れないわ。今一度しっかり、言ってやって頂戴」
「はい、おまかせを。キチンと『お話』致しますので」
丁寧にブリックス様に頭を下げて、胸に手を置いた所で、端末に通信が入る。
「はい、ベルファストです」
《……俺だ、こっちは済んだ。そっちは?》
ご主人様のお買い物は済んだようです。うにゃうにゃと楽しそうな明石様の声と、わざと艶やかな声を出し体を伸ばしているのか、オイゲン様の声が背後で聞こえている。
「はい、こちらも終わっております。今はどちらに?」
《……ドロップシップだ。荷物の積み込みをしている…ブリックス司令は居るか?》
どうやらもう帰り支度の最中のようでした…主人に雑用をさせてしまうなど…ロイヤルメイドとして不覚ですが、今それを言っても仕方がありません。素直に彼からの質問に答えます。
「はい、お傍に…代わりますか?」
《……あぁ、頼む》
彼に頼まれるままに、ブリックス様に端末を通話状態のまま渡す。ありがとう、と受け取った彼女は、そのままご主人様と話し出す。
「パラドクス、楽しかったわ。とても貴重な時間だったわ」
《……こちらこそ、感謝する。わざわざ案内をしてくれて、助かった》
端末の向こうから聞こえるご主人様の声は、少し疲れ気味ではありましたが…でもどこか嬉しそうで。かつて上司だったというブリックス様との再会を、素直に喜んでいるように感じました。
「いいわよ、本当に楽しかったんだから…これから大変だろうけど、どうか頑張って頂戴」
《……そうさせてもらう…ささやかだが、案内してくれた礼の品を用意した。カッスル達と、ドロップシップまで来てくれ》
「気が利くわね、分かったわ。じゃあまた後で」
短い会話の後、端末を私に返してきたブリックス様。そんな彼女にニューカッスルさんが語りかける
「では、屋上までお手数ですが…」
「いいわよ、じゃあ行きましょうか」
全員で並んで、エレベーターで最上階へ。少しして昇りきり、扉が開ききったところで、目の前には見慣れたフルフェイスのヘルメット装備のご主人様が待っていました。
「……戻ったか…勝手は分かったか?」
私達を見るなり、そう訊いてくるご主人様。それにグラスゴーが答えた。
「いろいろ凄かったけど、多分大丈夫…だと思います」
「……そうか、なら良いさ」
ポンポンと、彼女の頭を撫でて。それからブリックス様に向き直った彼。手に持っていた大きめの瓶を、手渡しました。
「……改めて、助かった。せめてもの礼だ、これなら飲めるだろう?」
「あら、気が利くじゃない。ありがたく貰っておくわ」
それを受け取ったブリックス様は、嬉しそうにそれを眺める…見たことのないものですが、どうやらフロンティアのブランドのビールのようです。
「それじゃ、私は行くわ。何かあったら力になれるかもしれないから、遠慮なく連絡しなさい?」
「……その時は、そうさせてもらう。今日は助かった、ありがとう」
別れ際にそんな言葉を交わしていた二人を見て、本当に二人はミリシアで持ちつ持たれつの関係だったことが伺えました。
ブリックス様はひとしきり握手し終えると、表情を引き締めてご主人様の隠れた顔を見つめ、口を開きます。
「人の上に立つのは、貴方が思う以上に大変よ…頑張りなさい」
それは、ミリシアの一兵団を率いる司令官としての、忠告。ミリシアの部隊の指揮官であり、ご主人様の友人としての言葉でもあった。
「……あぁ、肝に銘じておく」
そう言って、彼はその場を後にするブリックス様を見送る。そしてエレベーターの扉が閉まり、私達の艦隊のKAN-SENだけが残された。
「……もうすぐ、積み込みが終わる。そうしたら出発だ」
ご主人様が皆に告げる。その声音はいつもよりも、少し気分が良いように感じました。
「はい、かしこまりました。では、準備をお手伝いいたします」
そんなご主人様にニューカッスルさんが応えて、オイゲン様とマービンと一緒に荷物を積み込む作業を手伝いに行きました。
「ね、姉さん…!私の買い物は私が持つから…!」
慌てたようにグラスゴーがそれを追いかけて向こうに行ってしまいました…確か、かなりの量の漫画を買っていましたね…内容を見られると困るのでしょうか?
「……楽しかったか?」
「…はい、ブリックス様からも色々とお話を聞けましたから」
残った私に話しかけてきた彼に、そう返します。彼はこれから戻ったら、ニューカッスルさんからのお説教でしょうが…まぁそれはわざわざ言う必要もないでしょう、どの道逃げられはしないでしょうし…
「……そうか…なら、よかった」
そんな事を露知らぬご主人様は、安心したように一息。そしてこっちを見て、私に言う。
「……困惑することもあるだろうが…そう言う時はすぐに聞いてくれ」
「はい、よろしくお願いしますね?」
クスリと笑って返した私。すると彼の方もまた…きっと、ヘルメットの下で微笑んで頷き返してくれました。これからの日々が、とても楽しみです。
・サラ・ブリックス
ミリシアの特攻兵団の司令官。タイタンフォールでは敵基地に乗り込み、ウイルスを仕込みつつ脱出。タイタンフォール2では前線に出張ってガンガン戦うという現場主義のリーダー。多くの人に慕われる女傑
・ジャンプドライブ
いわゆるワープ技術。タイタンフォール原作では、この技術の開発により人類は宇宙に進出。多くの利益と更なる技術の発展を迎えた。今作では宇宙にももちろん行けますが、海がクソほど広い設定なので、主にそこの行き来に使われます。
・パラドクスのやらかし
タイタン二機に単身挑む→ゲームでも出来なくは無いが、相当無謀
自爆特攻→タイタンの拡張機能に、「ニュークリアイジェクト」という周りを巻き込む大爆発を起こすキットがあり、それを利用した自爆特攻。ただ、発動すると空高く緊急脱出させられるので、パイロットは基本無傷。