Azur Fall   作:Isaac/アイザック

18 / 29
今回はKAN-SENと模擬戦を行い、彼女らをパイロットが撃つシーンがあります。そういったのが苦手な方はご注意を

ご意見、ご感想はお気軽に


パイロットとして

「……なるほど、そういうものか…」

「そうよ、本当に何にも知らないのね。よくもまぁ、そんな知識量でやろうと思ったものだわ…!」

 

任務達成後の帰還から二日。ブリックス司令に過去の戦績を聞いたらしいカッスルに説教され、一晩が明けた。慣れない正座で長時間の説教をされたせいか、身体の節々が痛いような気もするが…カッスルなりに俺を心配してくれているのは分かる。

 

故にそれは別にいいとして…隣で執務机に向かう俺に、あれこれと言ってくるのは、今朝ここに到着したロイヤルからの派遣KAN-SEN。

 

ネルソン級戦艦のネームドシップ、ネルソン。二つに結えた金髪が特徴の、キリッとした印象の長身の女性。そんな彼女に、報告書やらなんやらの書類仕事を一からレクチャーされている。

 

「そっちの書類はアンタの承認印が必要よ、覚えておきなさい」

「……分かった。何から何まで、助かる」

 

基本前線での戦闘、後方に戻っても休んで訓練指導。それからまた戦場に、というワークルーティンが『フロンティア戦争』の頃の俺の習慣だった。少しずつ慣れていたとは言えども、やはり厳しくかつ丁寧にそういった書類仕事を教わると覚えが違う。

 

彼女の口調はやや強めだが、それもこちらを思ってのことだというのは理解できる。自分の上司が、書類仕事も出来ない奴では周りにも示しがつかない。そう考えてくれての事、ありがたい限りだ。

 

「……これでいいのか?」

「見せて…えぇ、大丈夫よ。覚えたわね?」

 

彼女が確認する書類を今一度確認し、俺はしっかりと押印をする。その様子に彼女は満足げな表情を浮かべる。

 

「とりあえず一区切りね。一度休みなさい、詰めすぎても意味が無いわ」

 

そして、そのまま休みましょうと一言。ネルソンは休憩に俺を誘い、そのままソファに座った。俺も一度机の上を片付けて、彼女の向かいに座る。

 

この執務室の掃除やらをさせていたマービンが、ソファに誰かが座った時の指令入力に従い、適当な雑誌や新聞を持ってくる。

 

「それにしても、大したものね。フロンティアの技術も」

 

それを見たネルソンは、神妙な面持ちになりながらマービンを見送る。色々な雑用を頼める人型のロボットは、ロイヤルでは馴染みがないようだ。

 

「……指令さえ入力すれば、大抵は出来る。インスタントの紅茶やコーヒーなら、すぐに出せるくらいは良くできている」

 

俺の言葉に、ネルソンは小さくため息をつく。

 

「人の手なんて要らないわね…良いんだか悪いんだか…」

「……一長一短だ。繊細な作業はどうしても人の手が要る、マービンやスペクターも、精々出来て大まかな役割の分担だ」

 

KAN-SEN達と俺を除き、この母港には人は居ない。警備はスペクターやストーカー、掃除や細やかな雑用はマービンが多くいる為、暫くはこの体制のままで運営するつもりだ。

 

IMCの元となった会社…ハモンド・ロボティクス社創設者の子孫、Mr.ハモンドは極度の人間嫌いだと聞いているが…俺も人付き合いや仕事を任せるのは、そこまでではないにしても抵抗がある。

 

いずれ、信頼でき、かつ美人揃いのKAN-SEN相手に下手な間違いを起こさないシュミラクラムのパイロットくらいは雇おうと思っているが…暫くはいいだろう。スペクターやストーカーで時間を稼げれば、俺がある程度までなら一人で殲滅できる。

 

「でも、警備まで機械任せじゃリスクが高いんじゃないの?」

 

ネルソンはそう言うと、テーブルに置かれた新聞を手に取る。

 

彼女としては、基地のセキュリティーの甘さを心配しているのかもしれない。確かに、基地への襲撃自体は容易に予想できる。セイレーン然り、ここいらフロンティアの無法者達。

 

わざわざ稼働しているIMCの防衛設備準拠の基地を攻めよう、と思う奴も多くはないだろうが…ここにはノースやローニン。他にもタイタンは居る、生半可な戦力ではこちらを害することもろくにできないだろう。

 

「……そこは心配する必要はない。タイタンとスペクター。ストーカー達だけでも十分、それに俺も居るからな」

 

慢心や驕りではない。パイロットであると言う自信と矜持、圧倒的な経験則からの言葉だ。しかし、どうやらネルソンはそれが気に食わなかったらしい。

 

「アンタが、多少は出来るとは聞いているわ。けど、それは幾らなんでも傲慢過ぎないかしら?」

 

読んでいた新聞をローテーブルに叩きつけるように置き、不機嫌であるとすぐに分かる低い声音で睨んでくるネルソン。

 

「……いいや、少なくとも俺は油断もなければ驕ってもいない」

 

だから落ち着けと首を振るが、ネルソンは納得いかず、むしろ刺激してしまったらしい。バン、と音を立ててテーブルを叩き、立ち上がった。

 

「馬鹿言わないで!アンタは指揮官なのよ、私達KAN-SENに警備させれば解決じゃないの!」

 

叫ぶネルソン。だが、俺としてもここで引く訳にもいかない。確かに、彼女の言い分は正しい部分もある。指揮官は貴重な存在、リスクを負うべきでない…それは確かだ。

 

だが、そもそも前提が違う。

 

「……KAN-SENの敵は、セイレーンだろう。人間の相手は、同じ人間だ…履き違えないでくれ」

 

俺は指揮官である前にパイロット、彼女らとは違い人と人との戦いに特化した兵士の一人。海でセイレーンと戦う彼女らに、つまらない同族同士の殺し合いに参加させるわけにはいかない。

 

そう思いながら、彼女を諌めようとそう言ったのだが…顔を真っ赤にしたネルソンが立ち上がり、側に来て俺の胸ぐらを掴んだ。

 

「…この…分からず屋っ!!」

「……落ち着け。別に喧嘩したい訳じゃない」

 

落ち着かせるつもりが、逆効果だったようだ。ネルソンは俺の襟首を締め上げ、怒りの形相を向けてくる。流石に、この状況では俺も焦る。

 

「ふざけないで!!なんでそんな簡単な意見が受け入れられないのよ!?」

「……資金的な問題と、規模が大きくなれば生じる指示の齟齬への警戒だ。とにかく離してくれ」

 

どうにも、真面目すぎるせいで自分が正しいと思ったことを推し進めたい性格らしい…それは美徳だが、いずれにせよ今すぐに警備の増員、なんて真似は出来ない。

 

だが、このままでは彼女が納得しないのは目に見えている。どうにか、落とし所を作りたいが…

 

「……分かった、なら一つ訓練で決めよう」

 

そんな考えを巡らせ、俺は一つの提案をする。こうすれば、パイロットの実力。そして機械歩兵の優秀さも分かってもらえるはずだ。

 

 

 

○○○○○○○○

 

 

 

 

「……よし、問題ないな」

 

女王陛下の命の元、着任したフロンティアの母港。そこの指揮官は、かつてのこの辺境の開拓地の海で起きた戦争、『フロンティア戦争』で活躍した伝説的な上級兵士…パイロットであるらしい…

 

そんなこの男は、あろうことか拠点の警備の全てをロボットに委譲していた。それは、自らの力がそれで時間を稼げればどんな敵でも倒せる、と言う驕りとしか思えない思考からの体制。

 

即刻、止めさせるべきだ。そう思い、強く非難したがそれを変えるには言葉だけでは至らせられなかった。ムキになってしまった私に、指揮官は提案をした。

 

「…本当に、手加減しないわよ?問題ないのよね?」

「……勿論だ。全力で来てくれ」

 

この母港にある、仮想空間訓練装置を使っての戦闘訓練。艤装の情報も読み込ませ、砲撃を使ってもいいとの事。

 

そんなに自信があると言うのなら、私はそれをしっかりとへし折ってやらなければならない…たった一人に頼るような警備、認められるものですか…!

 

そんな気概で、指示されるままにトレーニングポッドと呼ばれる、仮想空間へとアクセスするための機械に座る。そのまま指揮官が内部のスイッチや機器を操作して、私に言う。

 

「……ウォーゲームシュミレートが開始したら、少し待っていてくれ。他のKAN-SENも中に入れる」

 

指揮官がそう言って離れた途端、左右のハッチが閉まる。そして、緑色の眩い光に視界と全身が覆われる。

 

それに思わず目を瞑ってしまう。まぶた越しでも分かるほどの光量、耐えるように強く目を閉じて…

 

 

 

「っ…凄い、わね…!」

 

 

光が収まり、ゆっくりとまた目を開いた時には広い空間…ドロップシップの発着場らしき場所に立っていた。どこかの街をイメージしているのだろうか、壁に囲まれた外側にうず高いビルが整然と並んでいるのが見てとれる。

 

試しにと軽く跳ねたり、手を握ったり。艤装を呼び出すことさえ何の違和感もなく出来た…本当にこれが仮想の空間なのか、と思ってしまう程の再現度に驚いてしまう。

 

そんな風に思っていると、ふわりと降り立つように別の人影が隣に現れる。

 

「…ふぅ、なるほど…初めてでしたがこれは凄いですね」

 

人を集めると指揮官が言った際に、真っ先に手を挙げたニューカッスルだった。彼女も今の警備や指揮官の負担を考えると、腑に落ちないところがあると言う。

 

「本当に、よく出来ていますね…」

「えぇ、かなり驚いたわ」

 

改めて、彼女と並んで周囲を見回す。現実と見紛う程精巧な街並み。それに反して人一人いないという不気味さ、現実のものとの余りの違和感の無さがそれを助長しているような気がして。

 

思わず細く、息を吐く。こんな静かな場所で、今から模擬とはいえ自らの指揮官となる人物と戦闘を行う。それがほんの少し怖い気がしたけれど、ここまで来たら引くわけにはいかない。

 

「ふぅ…ニューカッスル、残りのメンバーが揃ったら作戦立てるわよ」

「はい、ネルソン様。微力ながらお手伝いさせていただきます」

 

気持ちを落ち着けるべく一息、そしてそこそこの時間をあの指揮官と過ごしているニューカッスルにそう言い、他の面々を待つ。

 

 

 

 

「で、アンタは何をしてるのよ!?」

 

集まった面々は私とニューカッスル。ベルファストに綾波、そしてジャベリンとロング・アイランドだったのだが…

 

「えへへへ〜!指揮官さんに乗りたいって言ったら、シュミレーターならいいって言ってたの〜♪」

 

ロング・アイランドの登場は、私や他の面々と違い、空から巨大なロボット…タイタンに乗って落ちてくるというハチャメチャなものだった。今彼女は開いたハッチの中から、はしゃぎながら私達を見下ろしている。

 

そのタイタンは基地を彷徨いていた細身の機体…ローニンやノーススターよりも遥かに重量を感じさせる、ずんぐりとしたシルエットのタイタンだった。

 

《こんにちはネルソンさん。私はSC-0001、スコーチ級のタイタンです。今回のシュミレーションでは貴艦の指揮に従います》

 

名を、スコーチ。腰に帯びた巨大な銃火器を手に取り、低い声で淀みなく自らを紹介するタイタン。これもあの指揮官が「個人的に」所有するタイタンらしい。

 

「…はぁ…一つ確認するけど、アンタは指揮官のスパイじゃないわよね?」

 

《勿論違います。入力された指令はあなた達KAN-SENの支援。プロトコル:2に従いその任務を執行します》

 

私の質問にも淡々と答えるタイタン。プロトコル2、とやらが何かは知らないがこちらの味方ではあるらしい。であるならばと、一つ質問をする。

 

「じゃあ、指揮官との戦闘で注意すべきことを教えて」

 

信じて無いわけではないが、そんな大事な情報を易々と言えるのか…そんな風に少し試すような問いかけだったが、スコーチは間を開けずに答えた。

 

《はい。パイロットの戦闘効率評価は平均して93%前後を維持しています、簡単には勝てるとは思えません》

 

戦闘効率評価、93%。詳細は分からないが、とにかく戦闘をこなす事についてかなりの評価をされる程というのはわかった。スコーチはそのまま淡々と続ける。

 

《ジャンプキットによるパルクール、それから繋げられる正確な射撃はかなりの脅威です。それに対してはあなた方の装備、対空砲での対抗射撃が有効と考えられます》

 

指揮官…つまるところパイロットという兵士が得意とするのは、立体での機動を主軸取り入れた高速の戦闘。それは私達には無い、未知数のもの。それについての情報はかなり助かる。

 

《また、パイロットアビリティで特に警戒すべきはフェーズシフト。別次元の亜空間に一時的に退避します、この状態ではパイロットの姿を確認できずまた攻撃も無効です》

 

「……もし事実ならとんでもないわね、本当なの?」

 

にわかには信じられない単語の羅列、ふざけているのならやめて欲しい。そう思ってニューカッスルに訊くが、返ってきた返事は残酷なものだった。

 

「本当です。一度体験させていただきましたが…やはり、信じがたい体験でした」

 

彼女の表情と、その時の感覚を思い出したような声色。つまり、これは嘘ではないということを物語っている…

 

思わず額に手を当ててしまう。本当に、そんなものが実在するなんて…フロンティアは魔境か何かなのだろうか?そんな私に、スコーチは続けた。

 

《正直に言えば、ロング・アイランドさんのマニュアル操縦では、私も長くは持ちません。パイロット対タイタン戦の戦闘経験もパイロットは豊富です》

「えぇ〜!?ひどいの、幽霊さんそんなに弱くないの〜!」

 

「なるほど…他にはございますか?」

 

騒ぐロング・アイランド。もう追い打ちとしか思えない情報に頭を抱えるしかない私に代わり、ベルファストが問いかける。

 

《勝機があるとすればやはり集団での飽和的な対空砲撃、そこに尽きます。いかにパイロットを懐に入れずに封殺するかが鍵です》

 

パイロット、と言うモノよく知るタイタンからの助言。AIだからと馬鹿にはできない、機械だからこその説得力がある説明だ。

 

《また、歩兵は機械歩兵とパイロットを前にはさして役には立ちません、後者のみを対処させるのでも足りないでしょう。そちらにも戦力を回すことを推奨します》

 

そう言うスコーチ、その情報を元になんとか作戦を立てようと全員を集める。

 

「…チームを分けるましょう。こちら側の歩兵について行くのと、そして直接指揮官を狙うチームに」

 

一応は警備に人を入れるかどうかという訓練、仮想とはいえこちらの指示に従う歩兵隊が用意されると指揮官は言っていた。そしてスコーチの意見を加味すると、KAN-SENも歩兵について回った方が有利に戦闘が進められるだろう。

 

「ジャベリン、綾波。あとスコーチも。アンタ達は歩兵を頼むわ」

 

よって、対空できる巡洋艦のベルファストとニューカッスルは残して、歩兵の方には駆逐艦の娘達、スコーチにのったロング・アイランドに任せることに。

 

そしてああだこうだと話し合いながら、表示したこの空間の地図を頭に入れている時に指揮官から通信が入る。

 

《……準備は出来たか?》

 

その言葉と共に、周りには各々武器を持った兵士が現れる。

 

《……ルールは消耗戦、兵士は機械だろうと関係なく一つ倒せば1ポイント。俺かKAN-SENは倒せば5ポイント。どちらかが上限の250に到達するまで戦う》

 

視界の上の端の方に、左右に伸びるメーターが表示される。そこには数字の0が重なるように表示されていて、それが恐らく敵を倒すごとに上がるのだろう。

 

《……ちなみにタイタンは10ポイントだ。そちらは俺とは違い、やられてもすぐ呼び出せるようにしているから、安心してくれ》

 

ハンデのつもりなのか、そんなことを付け足す指揮官。思わずカチンと来て、通信に怒鳴ってしまう。

 

「アンタ…負けたら分かってるんでしょうね…!?」

 

《……分かってる。手は抜かないから安心しろ、全力だ。2分後に始める、よろしく頼む》

 

そういって切られた通信、視界に映る2分のタイマー。思わず歯を食いしばるが、仕方がない…今更何を言ってもどうしようもない、目に物を見せてあげましょう…

 

「…始まるわ、行くわよ!」

 

タイマーのカウントがゼロに、行動開始の合図を告げ、走り出す。前もって指示しておいた通り、二手に分かれて多くの歩兵達の後にスコーチと綾波、ジャベリンが続いて行った。

 

「前進を続けろ!」

 

4人で1小隊、それの1つが私たちの前を走っていく。その挙動は現実と遜色なく、まるで本物の兵士が進軍しているよう。

 

設置されているコンテナや車といった遮蔽物を使い、前方の安全を確認しながら進む歩兵隊について進んでいく。

 

「見えた、あそこだ!」

 

そして、しばらく進んで階段を登ろうというところで、向かいから機械歩兵…スペクター隊がこちらに発砲しながらやってくる。その後ろに、一緒になるように指揮官の姿も…

 

「こん、のっ…!」

 

真正面から、隠れもしないで…舐められているとしか思えない。シュミレーションの中だ、木っ端微塵に吹き飛ばそうと問題はないでしょう?

 

「吹っ飛びなさい!」

「ネルソン様…!?」

 

主砲装填、構えと同時に全門斉射。前方を丸ごと吹き飛ばすのだ、海での艦との戦闘とは違いそこまで狙わずとも問題はない。即座に弾着、爆発。思い知ったかしら?

 

そんな風にモクモクと立つ爆煙を眺めていると、いきなり腕を引かれてコンテナの影に押し込まれる。

 

「…っ!罠です、ネルソン様!」

「はぁ!?ちょっ…!」

 

ニューカッスルだ、彼女の声に振り返れば、先ほどまで私が立っていた場所には梱包爆弾のようなものが。さらに同じものが上から歩兵隊の方へと降ってきて…即座に起爆した。

 

「な、何が?」

 

吹き飛び、光の粒子になって消えていく歩兵隊、指揮官側のスコアに、4という数字が加算される…こっちはまだ向こうのチームが稼いだであろう2、だ。指揮官を倒したら5ポイント入るはずなのにどうして…!?

 

「ベルファスト、対空射撃!とにかく弾幕を!」

「わ、分かりました…!」

 

そんな風に疑問に思っている傍ら、ニューカッスルはベルファストに指示を出して私に手を貸してくれる。

 

「い、今のがあの…?」

「いえ、恐らくホロパイロット…ホログラムによるデコイかと思われます」

 

その手を取って立ち上がって訊けば、どうやら例の警戒すべきものではなかったらしい。どれ程の手札を隠しているのか…もっと確認していなかった少し前の自分を恨みたくなるが、言っている場合ではない。

 

「ニューカッスル、指揮官は!?」

「恐らくクローキングで姿を隠して近づいてきます、警戒を…!」

 

完全に先手を取られた、少し熱くなり過ぎて状況が悪くなってしまった…反省するのはいいけれど、今は指揮官をと、周りの様子を探ったその瞬間だった。

 

「……っあ!?」

 

高く響くような特徴的な撃音、同時にベルファストの体が崩れ落ちる。青く光る粒子になって消えていく彼女のその体越しに、ライフルを構えた指揮官の姿が。

 

「っ、ネルソンさ…ま–––––!」

 

指揮官のスコアが加算される、その瞬間にピストルを取り出し叫ぶニューカッスルの動きを封殺するよう指揮官の手から何かが彼女へと飛んできた。

 

重桜のシノビ、とやらの使うとされる武器…クナイに似たそれは、深々とニューカッスルの胸に突き刺さっていた。また加算されるスコア、崩れるニューカッスルの体…この一瞬で、歩兵隊一つとKAN-SEN二人を倒された。

 

「…く、このっ!」

 

こちらに走ってくる指揮官、それに向けて装填済みの副砲を斉射。近距離で射線は完全に正面、巻き添え覚悟で撃つんだから、この状況で外すものですか…!

 

砲撃の轟音、そして近距離での砲弾の炸裂の衝撃に、思わず目を瞑る。

 

「やっ…たの…?」

 

熱と、煙と、火薬の匂い…仮想現実というのに、律儀に全身に煤がついたままに目を凝らす。人影一つ見えない、そんな爆煙をジッと見つめて…

 

「……惜しいな、また次だ」

 

視界の端にチラついた銀の煙のような淡い光、次いでヘルメット越しのくぐもった声と、側頭部に何かが押し当てられる感触。

 

衝撃、視界が灰に染まり…

 

 

 

「な…にが…?」

 

気づけば初めにこの仮想空間へと降り立った、ドロップシップの発着場のような場所に戻されていた。状況の理解さえ出来ないくらい、一瞬で倒されてしまったらしい。

 

指揮官側のスコアを見れば、私の分の5ポイントも加算され、さらに今なおジワジワとスコアが増えている。一応こちらのスコアも増えているが…ペースは遅い…

 

「っ…ご主人様に、まんまと…」

 

横ではフラフラとしながら、頭を振るベルファスト。上から来るであろうと対空射撃していた彼女は、別方向からの不意の一撃でダウンさせられた。

 

「やられましたね…早く、戻らないと…」

 

ニューカッスルも、胸をさすりながら立ち上がる。こうしている間にも、点差はどんどん離されていく…スコーチがいるから、そこはあまり強気には出られないと思うけれど…

 

ニューカッスルにも、まだ指揮官の手札を聞かなければ。驕りではなく、本当に私たちの手なんていらない…悔しいけどそう思わされてしまうほど、鮮やかな手腕だった。また何の情報もなしに突っ込めば、また意表を突かれてやられてしまう。

 

「…ニューカッスル、ベルファスト。戻りながら、指揮官の手の内教えて頂戴」

 

まずはそこからだ、私達には情報が必要だ。それにしても…まさか指揮官がこんなに強いとは…悔しいけれど、その戦力は認めざるを得ない。

 

だからと言って、任せきりには出来ないが。なんとしても、指揮官には考え直してもらう。その為にも…!

 

「分かりました、では走らながら手短に…!」

 

負けるわけにはいかない。三人でまた走り出しながら、今度はある程度の詳しい概要を聞く。

 

大まかなカテゴリとしては3つ。移動補助、防御や回避、そして索敵と撹乱に分けられるという。

 

フックとワイヤーで移動するグラップル、薬剤を打ち全身の反応速度を上げて短時間の急速な身体能力向上を実現する興奮剤。

 

例のフェーズシフトという、短時間の無敵回避技。特殊な粒子バリアで外からの弾を防ぎながら、内側からは強化して通す増幅壁。

 

起動から射撃か効果切れまで目視での発見を困難にする、透明化迷彩クローク。先程ニューカッスルを仕留めた、刺さった位置から音波とX線で敵を探すパルスブレード。そしてホログラムによるおとり、ホロパイロット。

 

これ7つが指揮官の持つ手札、複雑に組み合わされれば対抗するのは難しいだろう…

 

どうするべきか、話を聞きながら具体的な戦法を考えつつ前線に向かうが…

 

《うわわわ!ネ、ネルソンさん!助けてなの…!》

 

また指揮官側のスコアが10増え、通信ではロング・アイランドが叫ぶ。綾波とジャベリンはやられてしまったようだが、スコーチに乗るロング・アイランドが追い込まれるなんて考えられない…

 

「ちょっと、大丈夫なの!?」

《指揮官さん、メチャクチャなの〜!上に乗られて暴れられてるの〜!》

 

タイタンの上に、乗られている…?そんな馬鹿な話が、と思う反面その光景がありありと目に浮かんでしまう。

 

「…見えました、本当にタイタンに飛び乗っていますね…!」

「ご主人様は、加減というものを知らないのでしょうか…?」

 

ベルファストとニューカッスルも、 引き攣った顔で状況を見ている。少し遠くで小規模な爆発が起きたスコーチから、指揮官が飛び降りながら手に持つランチャーを撃ち壁を走るのが私に見えた。

 

7m近くもあるロボットに、そのまま挑むなんて信じられない…シュミレーションだから通じる戦法、であると信じたい。

 

「と、とにかくやるわよ!基本は距離を保って飽和攻撃。点じゃなく面よ!!」

「「かしこまりました…!」」

 

とにもかくにも、まずは彼を落として機械歩兵を倒してスコアを稼ぐ。そうしなければ勝機はない、三人で対空砲による上空への弾幕を張りながら走り寄る。まだまだ、訓練は始まったばかりだ…

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…!」

 

息も絶え絶え、仮想空間での現実の体を使わない筈の戦闘なのにもかかわらず、荒い呼吸が止まらない。

 

「……ニューカッスルを主軸に変えたのはいい判断だ、屋内戦という選択肢もベスト。良く辿り着いたな」

 

対して、私の前に立つ指揮官は息一つ乱さず冷静にそんな事を言ってのけた。壁を走り高くを飛び越え、そしてその勢いを殺さないままの殺人的な加速の中での射撃を当てる正確さに苦しめられた。

 

もちろん、かなりの遠距離からの精密な狙撃や、爆発物を使った集団の効率的な排除にも驚かされた。

 

結局、スコアは250対200で私達の負けだ。指揮官を倒せたのは3回程度、それも一度使った戦術は通用していなかった。状況への適応力、桁外れのそれは指揮官の戦闘効率の良さを、身をもって体験させられた。

 

対空砲の飽和攻撃で一度撃破、二回目はそれをくぐり抜けてきたフェーズシフト解除の瞬間にニューカッスルの持つピストルで仕留めた。後の一度は室内に誘い込み、スコーチの火炎のトラップで焼いて、弱ったところをまたニューカッスルが倒した。

 

しかし指揮官自身は私達KAN-SENやスコーチを相手にしながらも、歩兵隊を巻き込むような立ち回りで、確実に戦力を削り続けていた。

 

指揮官相手に試行錯誤をし過ぎて、気づいた頃にはかなりの歩兵がスコアに変わっていて、慌ててまたチームを分けたがもう遅かった。

 

「それは…どうも…!」

 

精一杯の強がりで彼を睨むが、ヘルメット越しではその表情は窺い知れない。カチャリと銃を胸にかけ、へたる私に手を伸ばしてくる。

 

「……俺も勉強になった。正直やられはしないと思っていたが…3回も殺された。少し焦った」

 

苦笑したような声音、だが本当にそう思っているかは怪しい。手を取って立ち上がり、地面に転がる機械歩兵、ストーカーの残骸を見る。

 

「…足を壊しても、這ってくるとは思わなかったわ……」

 

そう。歩兵隊ではほとんど太刀打ち出来なかったストーカー。スペクターまでならギリギリ対等程度に渡り合えたが、歩兵隊4人とストーカー4機では確実にこちら側がやられていた。

 

それをカバーすべく、副砲を撃ち込んで指揮官の対処をしていた時…思い出したくもない。足元に這ってきていたストーカーに組みつかれ、囲われてそれでやられてしまった。

 

シュミレーション故に痛みは感じず衝撃だけだったが、何度も何度も殴られた景色は軽くトラウマになりそうな程怖かった。

 

「……防御は固く、弱点の背部バッテリーパックを撃っても数メートル範囲を巻き込み自爆。ここまで出来れば人より強い」

 

そんなストーカーの千切れた機械の脚を拾い、プラプラと弄ぶ指揮官。

 

「……また、通常の歩兵じゃ戦闘不能な四肢の欠損でも、動き続けて獲物を狩る…優秀な機械だ、味方であれば頼もしい」

 

そう言いつつ、残骸を投げ捨てて私に向き直る指揮官。

 

「……他にも、機械歩兵のみでの編成に俺がこだわる理由がある。分かるか?」

 

この模擬戦で、スペクターとストーカーの優秀さはよく分かった。頭ごなしの否定は出来ないほど、この体で理解した。だが指揮官は、それだけが警備に人を配置しない理由でないと言った。

 

「…さぁ、もう見当もつかないわ…これ以上何があるのよ…?」

 

もう想像はつかない。ここまでの性能のAIを積んだ、硬い機械の体。人件費と比べたら高くつくのは目に見えるため、お金関係では無いだろう。そうなればもう私には分からない。

 

そう答えた私の声に、指揮官は淡々と答える。

 

「……替えが効く。お前達や人間の兵士は、死んでしまえばそこまで。だがコイツらは、データさえあれば替えの機体にそれを移せる」

 

つまり、人間の兵士と機械兵の決定的な違いは、壊れても代わりが簡単に準備できること。

 

それが、彼が機械歩兵だけで警備の部隊を編成する最大の理由だった。私は、指揮官が考えていた事に思い至り、そこまで考えずに彼に噛み付いた事に後悔の念を抱いた。

 

「……勿論、お前に言った指揮の混乱というのもそうだが、一番はそれだ。理解してくれたか?」

「えぇ…思ったよりも、ずっと考えていたのね…」

 

指揮官の言葉に、素直にそう返す。彼は指揮官としてはまだ駆け出しもいいところだが、こうした海以外での戦いにおいては、きっと私や他のKAN-SENよりもずっと長けている。

 

「…ごめんなさい。アンタが、てっきりこだわってるのかと思って……」

「……別に、いい。俺も説明が下手だった」

 

私の謝罪も、さして気にしていないようにそう返した指揮官。

 

「……お前達には、海で。奴らと戦ってもらう、だから…せめて陸での、お前達に降りかかる悪意は。俺の手で払わせてくれ」

 

そう言って、彼はこちらに手を差し出してくる。その手を握り返しつつ、真っ直ぐ彼を見据える。

 

「…改めて、よろしく頼むわ。指揮官」

「……こちらこそ。頼りにさせてもらう」

 

しっかりと握手を交わし、改めて挨拶を。私と指揮官の間に少しあったような気がする溝が、埋まった気がして。悪い人ではなく、ただ器用でないと分かった。

 

私や、この艦隊のKAN-SEN達で、彼の助けになれば…

 

(案外、いい上司に恵まれたわね)

 

そんな風にも思って、仮想世界から現実へと帰還する。戦闘面では敵なしなようだが、執務に関してはきっちりと教えてやらなければ。そう気合を入れ直し、私はトレーニングポットから立ち上がった。




・スコーチ級
テルミットや、ガスによる引火を利用した重量級の火力タイタン。単発装填のテルミットランチャー、防御と攻撃を兼ね備えた灼熱のヒートシールド。とにかく単発火力と、そこから派生する燃焼ダメージで戦う上級者向けのタイタン。冷房機能付きらしい。

・ダブルテイク
正式名称D-2ダブルテイク、エネルギー式の狙撃銃。威力、連射性能共に高く使い勝手は非常にいい。遠距離からの狙撃、中距離での歩兵戦で優位を取れる。ただ、タイタンフォールシリーズは高速の軌道戦が売りのゲームなので、使っているパイロットはあまり見ない…

・長島さん「上に乗られて暴れられてるの〜!」
ロデオアタック、という戦術。タイタンに飛び乗り、ソケットからバッテリーを引っこ抜いたり、そのソケットにグレネードを突っ込んで起爆させる荒技。普通に考えて7mの動き回る武装したロボットの上に乗って、攻撃するとか狂気の沙汰。でもパイロット的には、割とメジャーな戦術。現地で自機タイタンの回復をしたい時にはこうするパイロットも多い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。