Azur Fall   作:Isaac/アイザック

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新章プロローグです。三人称視点になります


2章 戦神と紅染の来訪者
2-0


「はぁ…!瑞、鶴…!」

「翔鶴姉…!」

 

桜の花が散り、美しく舞う諸島の海。コアシステムに存在する主要陣営の一つ、重桜。そこによく似た、深い霧に包まれた異空間。

 

人類の敵、セイレーンによって作られる『鏡面海域』。KAN-SENの姿をしているが、意思のない『駒』を使い海戦のシュミレートが行われているという場所。

 

「あぁ…この魂のぶつかり合いで生まれた素晴らしき輝き…「カミ」さま、どうかご覧あれ…あなた様が求める「覚醒」は」

 

その奇怪な海で、恍惚と天に向けて言葉を紡ぐ人影。狐のような赤混じりの黒の九つの尾と耳、目尻を彩る紅の化粧…重桜の一航戦、空母の赤城は、鋭く目線を目の前の鶴のような衣装の羽織の二人…五航戦、翔鶴と瑞鶴に向け、獰猛に笑う。

 

「こうも美しく…こうも脆い…握り潰したくなるわね…?ふふ、ふふフフフフッ!」

 

見下すような、自分が格上と信じて疑わないような。そんな自信に溢れた、攻撃的な台詞。しかし、今にも五航戦二人に襲い掛かろうとする赤城を、傍らに寄ってきた白い人影が制する。

 

「やっぱりこうなってしまったか…姉さま、どうやら今回の演目はここまでのようです」

 

一航戦、加賀。赤城とは対をなすような白の九尾と耳を持つ、姉妹艦の空母。彼女に制され、赤城の殺気が霧散し余裕のこもった微笑みを浮かべる。

 

「そう…?残念。では新しい「聖域」を用意しましょうか」

 

そして五航戦に一瞥をくれると、すぐに踵を返して霧の奥へと消えてしまう赤城。

 

「ま、待て…!うぐ…!」

「瑞鶴、待って!」

 

それを追おうと立ちあがろうとする瑞鶴だが、受けた傷の痛みでよろめき膝をついてしまう。そんな様子を見た加賀は、振り向き様に言い放つ。

 

「瑞鶴。別の因果の未来へと繋がる世界を…その可能性を探す…それがこの実験場とも言える鏡面海域の存在意義だ」

 

加賀の言葉を聞きながら、痛みに耐えるように顔を顰める瑞鶴。その体を支えるように翔鶴が側に寄って、彼女を抱きしめる。

 

「いつかわかるはずだ、私達のこの行動の意味…理由が…」

 

そして完全に振り向き、消えていく加賀。手を伸ばしても、彼女の動きが止まることはない。

 

「瑞鶴…お前にも、ヤオヨロズのカミガミの加護があらんことを…」

 

かつての仲間で、尊敬すべき先輩であったはずの二人が…こんな場所で、セイレーンの『駒』を使いなんらかの実験をしていた。

 

それだけでもショックで、瑞鶴はもちろん翔鶴も動けなかった。重桜に戻れば、恐らくあの二人に今度こそ沈められてしまう。重桜の為を思っての行動なのだろうが、五航戦とその同艦隊のKAN-SENは秘密を知ってしまった。

 

瑞鶴は度重なる戦闘の後でボロボロ、翔鶴も自我を封じ込められ半ば『駒』として一航戦に使われていたせいで疲労も相当。ノコノコと重桜に戻っては、すぐさま始末されてしまうと二人は理解していた。

 

告発し、再戦を挑むのにも今のままでは足らない。とにかく今はどうするかは後にして、ここから逃げなければ。そう思い立った瑞鶴は、翔鶴に肩を貸して一航戦の向かった方とは逆に進む。

 

今でなくてもいい。なんとしてでも、あの先輩たちに報いるために。まずはここから離脱しなければと…

 

 

 

○○○○○○○○

 

「へぇ…面白いデータね。『覚醒』に似たような反応、ただの『駒』がここまでやるなんて…」

 

真っ暗な空間、幾つも浮かぶ画面。呟くのはセイレーンと呼ばれる人類の敵。白い肌、海の生物のような特徴を持つ兵器…KAN-SENと似ていても似つかないような、奇妙な見た目の少女。

 

かつて制海権の9割を人類から奪ったセイレーン、その一人であるテスターはニタリと笑って画面に映った重桜KAN-SEN…翔鶴の顔をなぞった。

 

「想定外だけれど…それは私達の目的の為には重要なファクター、結構なことだわ」

 

満足そうに頷くテスター、しかしその背後から画面を覗き込む別のセイレーンが詰まらなさそうに口を開く。

 

「うん?実験場γ?なんだ、あの「小動物」たちのこと…」

 

タコのような触腕と、砲塔のある艤装。アズールレーンがオブザーバー、と呼称するセイレーンが意外といった表情で笑う。

 

「いいものが見れたわ。高々コピーの『駒』程度が、『覚醒』らしい反応を示すなんて…」

 

感心したような、しかしそれでもどこか見下すような。そんな高慢ともとれる態度で画面を見つめるオブザーバー。それにテスターが頷きながら、言葉を紡ぐ。

 

「支配から逃れようと、そして大事な仲間とやらを救う時の底力…エネルギーレベルは低いけれど、興味深いデータだわ」

「なかなか面白いじゃない?もっとも、私たちが欲しいデータには程遠いけれど」

 

つまらなそうな顔をしながら、オブザーバーが言葉を発する。しかし、そんな彼女にテスターが微笑む。

 

「丁度いいわ。こっちには『イレギュラー』が居るもの、鉢合わせてクロステスト、なんていうのも面白いかもしれないわ。オブザーバー」

 

そう言って空間に指を滑らせ新しいウィンドウを開くテスター。そこに映っていたのは、フロンティア、と呼ばれる海で指揮官として活動を始めた…黒染め装備のパイロット。

 

ニタニタと深い微笑みを浮かべ、パイロット…パラドクスと呼ばれる男を眺めて言う。

 

「もう面白くないと思った世界だったけれど…中々、愉快なサンプルになる人間がいたものだわ」

 

テスターは追加でパイロットの映るウィンドウを開きながら、自らの艤装を展開する。イトマキエイのようなそれは、砲塔と魚雷の信管を備えた禍々しいもの。

 

「少し行ってみるわ、もしかすれば良いデータが得られるかも」

 

そう言い残し、テスターはその手で闇を切り裂いて消えていく。残されたオブザーバーも同じように姿を消すと、部屋の中は静寂が戻る。

 

真っ暗な部屋の中央、巨大なモニターだけが光を放ち続け…やがて消える。誰一人いない暗闇、何処とも知れないこの場所で、セイレーンの密会は終わった。




・一航戦
3-4の悪夢。重桜正規空母の九尾姉妹、ドロップ限定入手の為に苦労した指揮官も多い。作者はリアル1年かけて仲間にしました、これ以降本編での出番はまだ先になる予定です。

・オブザーバー
生足魅惑のセイレーン。タコのような艤装のセイレーン、『鏡面海域』と呼ばれる、別次元のセイレーンの戦略シュミレーション場のような場所での、実験の管理者をその名の通り務めている。

・テスター
マンタのような艤装のセイレーン。鏡面海域やKAN-SEN達の前に現れて、その名の通り戦力を押しはかる役割を務めている。
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