Azur Fall   作:Isaac/アイザック

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この世界における「フロンティア」とは、広大な海の未開の開拓可能な海域及び島のことを指します。


1

 

 

 

 

 

 

どうしてこんな事になってしまったのだろうか…必死に森の中を走りながら、そんな事を考えてしまう。どうにも折りの合わない指揮官の元から、メイド隊の業務をベルファストへ引き継いで平穏な日々を過ごすための場所を探す旅に出た。

 

「ちっ!逃すな、追え!」

 

追ってくる気配を感じ取り振り向く、そこには銃で武装した兵士達が徒党を組んで追いかけて来る。

 

「はぁ…!っはぁ…!」

 

切れそうになる息を必死に整えながら、木々の間を走って抜ける。突然現れたセイレーンの艦隊に襲われて、中破しながらなんとか近隣の島へ上陸した。そして遭遇した、怪しい様子の兵隊達に目をつけられ、こうして追いかけられている。捕まったら、どうなるか分からない。

 

少なくとも、もう私の望む平穏なる日々など訪れないだろう。背後に迫る敵を振り切ろうと走る速度を上げる。しかし、それはすぐに限界を迎えた。

 

「あっ!?」

 

もつれた脚にツタが絡みつき、派手に転んでしまう。その時に頭を強く打ち付けてしまい、意識が飛びかける…ダメだ、ここで気を失ってしまったら…必死になって意識を保つ。

 

立ち上がろうとしても身体が言う事を聞かない、そのまま這うようにして逃げようとすると、その目の前に兵士の足が幾つも見えた。

 

「…あ、あぁ……」

 

絶望的な状況に追い込まれてしまった私はただ声にならない悲鳴をあげることしかできなかった。

 

「CP、此方外周警備。女を捕らえた、指示を待つ」

 

手首を掴まれ、無理やり立たされる。目眩のような感覚が増悪する。

 

『こちらCP了解、基地まで不審人物を連れ帰還せよ』

 

「了解。おい、こっちに来い!」

 

手を引かれるままについて行く。このままでは何をされてしまうのかわからない。怖い…誰か、誰でもいい…助けて……

 

「っ!?止まれ!」

 

「…ぁう…!」

 

そんな風に絶望に打ちひしがれて、俯いていた時だった。急に立ち止まった男の手から離され、また地面に衝突してしまう。一体何が起きたというのだろう?

 

「……誰だ?!」

「離れるな、陣形を整えろ!」

 

兵士が警戒するような口調で言う。その視線の先には人影があった。ボヤけた視界と、暗がりでよく見えないけれど、その頭らしき部分は、青い×字の輝きが見える。

 

しかしそれは、次の瞬間には何も無かったかのように消えた…まるで、景色に溶け込むかのように。

 

「クローク…!パイロットだと!?」

「マズイ、撃て!撃て!」

 

兵士達の動揺したような声と同時に銃声が鳴る。だが手応えがあったような様子はなく、むしろ兵士たちの顔は焦燥に染まっているように感じた。

 

「クソッ!どこ行きやがった!!」

「探せ!…おい、離れるな!」

 

そう言って慌ただしく動き回る兵士達、私の近くの一人が警戒するように辺りを探っていた時だった…その兵士の体が宙に浮いた。

 

「グァッ…!?ヒッ、やめ……!」

 

あの消えた何者かが、その兵士を地面へ転ばせ、その顔にナイフを刺した。鮮血が噴き出し、男は悲痛な叫びさえ上げれず息絶えた。

 

すぐさまその手に持った機関銃を構え、殺された兵士に気付かない兵士達の背中に向けて撃ち始める。

 

「ぎゃあああっ!!?」

「誰かっ!応援を…!!」

 

次々と撃たれていく兵士達は、ある者は腕を、ある者はまだ無事な足を砕かれ、その場に倒れ伏していく。

 

「…っ…あぶ、ない…!」

 

そうして兵士を倒すその人物の死角から、ナイフを持った兵士が突っ込んでいく。しかしその人物はそれを予測していたかのように、兵士の手首を押さえ、瞬きの間に制圧。倒れた背中に発砲してトドメを刺した。

 

「……無事か?」

 

ヘルメット越しの、くぐもった声。男だという事以外何も分からないが、とにかく助けてくれたという事は分かった。

 

「あ、ありがとう…ございます……助かりました……」

 

「……立てるか?」

 

差し出された手を握り立ち上がる…が、すぐに力が抜けて彼に支えられてしまう。

 

「……頭を打ったか、少し我慢してくれ」

 

彼は私を軽々と持ち上げると、少し離れた場所の木陰に座らせてくれる。そこでやっとまともに見えるようになった彼の姿をまじまじと見つめた。

 

全身を覆う黒い装備、所々青く輝くその姿…腰に付いた大きな装置。そして頭部には特徴的なヘルメット…その姿は、かつてロイヤル本島に訪れた、ミリシアSRSのパイロット、と呼ばれるエリート兵士の姿によく似ていた。

 

「貴方、様は…?」

 

「……ただの傭兵パイロットだ」

 

そう言いながら彼は懐から取り出した小さな箱を開けると、中から注射器のようなものを取り出した。

 

「……緊急用のスティムだ。恐らく気を失う…だが、次に目覚めた時には全快している筈だ」

 

そのまま腕にその注射器を射ち込まれると、途端に意識が遠のいて行く…

 

「ぅ、あ…」

 

「……時間が無い、コイツを渡しておく。目が覚めたら、西に向かえ。そこに街がある」

 

沈みゆく意識の中で、冷たく、重いものを持たされるのを感じる。そして、気配が消えていく。

 

(……待っ、て…………)

 

声に出そうとした事さえ、言葉に出来ず、私は眠りに落ちていった。

 

○○○○○○○○

 

《敵歩兵隊と交戦》

「……クラスターミサイルを使え」

 

ノースに歩兵隊の応戦をさせている間に、奴らに襲われていた少女を介抱し終えた。だが、彼女を連れて行く余裕も無かった。故に、俺の持つ特殊な武装を手渡し、見つからない場所に隠してきた。

 

「……ゴミ共が」

 

沸々と湧き立つ怒りは、頭を逆に冷やして視野を広げていく。ウォールランとダブルジャンプ…パイロットの基本技能を組み合わせたパルクールで、敵歩兵達の頭上を行きながら鉛玉の雨を降らせる。

 

体に染み付いた射撃術、完璧な反動制御と立体軌道でこの軽機関銃、スピットファイアで敵群を薙ぎ払う。

 

「ここはもうだめだ!行け、行け!」

 

次々と倒れる同胞に恐れをなし、後退していく隊長。その隙を突いて、俺は木々を足場に跳躍しその背中にグラップリングフックを射出、逃げる隊長を無理矢理引き寄せる。

 

「うわっ!?な、何を…!」

「……っはぁ!」

 

そしてフックを外すと同時にアッパーカット、宙に浮かせたそいつの顔面に間髪入れずにグラップル。そのままワイヤーを背負うようにして地面に叩きつける。

 

 

ロードチェック、と呼ばれる処刑だ。一つでも逃すと面倒だ、確実に殺すにはこれが一番だ。

 

「クソッ!化け物め!」

「逃げろ!……ガァッ!?」

「タ、タイタン!タイタンもいるぞ!!」

 

そうして無意味な抵抗をする兵士達を次々と殺していき、辺り一面に死体の山を築いていく。

 

「……ノース!」

《了解、追従しますパイロット》

 

粗方片付けた所でノースを呼び、挟み撃ちにする様に残りを追い込む。軽量級とは言えど、ノーススターの機体重量は30トンを軽く超える。踏みつけられたらただでは済まない。

 

しかし、それでも尚彼らは足掻いた。ある者は武器を捨てずに立ち向かい、またある者は仲間を犠牲にしてまで生き延びようと必死に逃げていく。その執念は認めよう…だが逃げるのならもっと早くに逃げるべきだし、タイタンの装甲は歩兵の銃火器では貫けない。無駄な行動だ。

 

「……」

 

逃げ惑う彼らの背に向けて引き金を引く。一人、二人、三人と次々に倒れ伏す兵士達。やがて全ての兵士が死体と化して、静寂が訪れる。

 

《いい動きですパイロット。搭乗を》

「……あぁ」

 

ノースの言葉に従いコックピットに乗り込み、ハッチを閉じる。基地の制圧は何度もしたことがある、今から向かう古巣の基地で構造と機能も頭に入っている。

 

多少苦労はするだろうが、まぁ誤差だ。仮にパイロットが敵にいても、残留艦隊に所属する連中程度どうということはない。

 

「……行くぞ」

《飛行システムの操作は任せます》

 

AIであるノースの合成音声を聞きながら、マニュアルに切り替えた機体の制御で基地へ向かう。

 

「……」

 

脳裏にチラリと介抱したメイド服の少女の姿がよぎる…基地外周の敵は掃討した、しばらくは問題ないはずだ…だが、あまり悠長にはしていられない。

 

《パイロット、集中しましょう》

「……分かっている」

 

そんな思考をニューラルリンクで繋がった愛機の、女性らしい合成音声に注意され、余計な思案を頭から排除する。今は目の前の事に集中するべきだ、目の前の脅威への対処に意識を向ける。基地はすぐそこ、まずは残留艦隊の殲滅…それが第一だ。




・タイタン
全高7m前後の二足歩行のロボット。軍用以外にも、工業用や農耕作業用その用途はなど多岐に渡ります。ただし、強力な兵器であるためこれに乗り戦う場合は、『フルコンバット認証』というライセンスが必要とされています。

・パイロット
上記の『フルコンバット認証』のライセンス試験に合格した、タイタンを駆る上級兵士。特殊な装備で壁を走り、空中で跳ね、あらゆる武器の正確無比な射撃で敵陣を壊滅させるエリート兵士。戦地からの撤退では、優先的に救助が来るほど優遇される存在。
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