※今回は短め
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人…この場合はKAN-SENも含めよう。損傷を受けた、となるとそれは二つのパターンにカテゴライズ出来る。
肉体的に損傷があり、所謂怪我をしたという状態。これは適切な治療をすれば回復する…四肢の欠損や、肝臓、膵臓。脳などの重要な器官を撃ち抜かれたという場合を除き、大抵は時間が解決してくれる。
瑞鶴、という旗艦の片割れの空母がそうである。仲間を庇った時の被弾に、そもそもその前にも戦闘をしていた。そのせいで張り詰めていた緊張の糸が、保護と同時に切れたらしく今は眠っている。だがそう時間はかからず目覚めるというのが俺とヴェスタルの見解だ。
もう一つは精神的な損傷。これはそう簡単にはいかない…今回の翔鶴…というらしい空母の娘は、極度の精神的な疲労といった症状で眠っているからまだいい。だが、精神とは形の無いもの、下手をすれば二度と治らなくなる可能性さえある。
目の前で親しい者が無惨に殺された、となればほとんどの奴が正気ではいられまい。一度壊れた心は、元の形には戻らない…そういった点では、この重桜艦隊も、敵の手に落ち自我を奪われてもその程度で済んだ翔鶴、という空母は本当に運がよかったと言える。
「と、いうわけで。医務室の手配、ありがとうございます〜♪」
「……カッスル達がもう委託から戻っていたからな、帰って礼を言わないとな」
追撃の危険はひとまず無いということを確認して、ヴェスタルの指示の元怪我人をウチの母港まで搬送する事になった。元より応急処置だけして、やることはしたからと放り出すような真似をするつもりは無かった。
予定通りと言えば予定通り、医務室と彼女らを休ませる部屋は委託帰りで申し訳無いがメイド隊の三人に通信し頼んだ。
「彼女達の様子は伝えたとおりです…あの空母の姉妹お二人は、まだ少し目覚めるまでかかりそうですから」
「……弾薬燃料も尽きかけ、その状況での撤退戦…負担も相当だったはずだ。ゆっくり休んでもらうのが先だ」
目下の目標である三笠の捜索と、周辺海域のセイレーンの掃討…参加してもらうにしても、今の重桜艦隊の様子では厳しい。どうせ所属人数と収容可能エリアの差があり、使っていない個室も山ほどある。
無駄に広いIMC準拠の設計の拠点に感謝しつつ、受け入れの用意を連絡、指示し進めさせたのが一時間前。もうじき全員乗せたこの量産型軽空母で、母港に帰還する。
念のため交代で周囲を見張らせているが、敵影は無し。この分なら何事もなくに戻れそうだ。
「……向こうもコミュニケーションは問題なさそうだ、この分ならそう肩筋張らずに気を抜いてもらえる」
俺が甲板のある方向を見ると、ヴェスタルもそちらを向く。
「特にあのお二人なら、ローニンさんととっても仲良くなりそうですね〜」
そちらでは、綾波と屈んだノースが、愛宕と高雄二人と話していた。彼女ら自身タイタンと触れ合うのが初めてらしく、それは物珍しそうに話している。
愛宕はどうか知らないが、しばらく甲板で刀を素振りしていた高雄は…確かに、ヴェスタルの言う通りローニンを見たら感動しそうだ。
恐らくは、出迎えの段階で収容するKAN-SENの状況と権限付与の件を聞く為にローニンは間違いなく来るだろう。そこでどんな反応をするのか…少し楽しみではある。
「……そうだな、会ってみたら…面白いかも知れないな?」
俺がそう答えるとヴェスタルはニッコリ笑って頷き、では私はそろそろ〜、と船内医務室に戻っていった。俺はその背中を見送り、遠洋に目を向けておく。無いとは思うが、何かあった時にすぐ指示を出せるように。
「……ようこそ母港へ…無駄に広い、ゲスト権限で行ける範囲は自由にしてくれて構わないぞ」
介護担当マービン…ヴェスタルに権限を渡している、ナース帽を被ったマービン達がストレッチャーを持ってくる中、軽空母を降りる。
ノースは一足先に降り、タイタンハンガーへと向かわせた。補給と、細かなメンテナンスをさせておきたかったからだ。まぁ終わればまた母港敷地内を、アイツの思うなりに周るのだろう。
「広いな…ここまで大きな拠点は初めてだ…!」
さて、重桜艦隊だが、比較的軽傷な愛宕と高雄はもう医務室まで搬送する必要は無い。残り…目が覚めない空母姉妹の翔鶴瑞鶴と、意識の戻った軽巡洋艦姉妹の最上、というらしい娘とその妹三隈。
その四人は一度医務室へ、そして艤装の損傷が激しかった駆逐艦の暁という娘と野分という娘は、応急処置で済んだため明石と共にドッグに向かってもらう事になっている。
「ここが、指揮官殿の…素晴らしい場所ですね…!」
「暁ちゃん、迷子にならないでね〜?」
片目を仮面のようなもので隠した、重桜にいるというニンジャ、なるものの格好をした暁…のほほんとした様子で、はしゃぐ暁が迷わないかを心配する野分。
彼女らは怪我の方は大した事がないが、艤装が相当にボロボロだった。明石に頼めば恐らくどうにかなるだろう、と踏んではいるが…見せてからでなければ、確定したようなことは言えない。
まずは明石に見せてから、だ。ドゥーム状態のノースを直してくれた位だ、信用してはいるが無理なら別の方法を考える他ない。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
《よく戻りました、パイロット》
そう思案し、頭を働かせながらマービン達と饅頭に指示を出していると、後ろから高低両方の凛とした声に迎えられる。振り向けば、ローニンと、手から軽やかに降りてきたベルファストが。
ベルファストはこちらに歩いてくるが、大きな刀…ローニン級の標準装備である無骨な剣、ブロードソードに高雄は興味津々。詰め寄られたローニンが困っている…
「……珍しいな、ローニンと一緒とは思わなかった」
この一人と一機、それほど接点は無かったと思うのだが…そんな風に思っていると、クスリと笑ったベルファストがその疑問を解消してくれた。
「随分と、汚れてましたので…僭越ながら、機体のお掃除をさせてもらいました」
優雅に一礼するベルファスト、そんな事があったとはと驚きの方が大きく、ローニンの方を見てしまう。
確かに、言われて見れば黒染めの装甲には艶があり、陽光を反射し輝いているように見える。細やかな傷を見落とせば、新品同様であるかのように見える…それ程まで綺麗に磨かれ、汚れが落とされていた。
「煤、こびりついた血、油に泥…少々見て見ぬふりの出来ない状態でしたので」
優雅にカーテシーで礼をしたベルファスト、そのメイド服には汚れ一つないように見えるが相当な重作業だっただろう。タイタンは案外汚れる…機体重量を活かしての敵兵士の轢殺、近接格闘による敵タイタンやタレットの潤滑油、他にもあげればキリがない。
《パイロット、ベルファストさんの期待清掃は完璧なものでした。感謝するべきです》
「……本当に、助かる。俺はいつも最低限の事しかしていないからな…随分、手間をかけた」
普通ならパイロットの半身になるタイタンの整備は、リンクしたパイロット自身が行うべきだが…いかんせん、指揮官としての業務に追われて、最近は無碍にしていた。これを機に反省しなければ。
「いえ、これもメイドの務めですから…さて、他にもお仕事があるのですよね?」
微笑んで俺にそう言ったベルファストだったが、もう次の瞬間には凛とした仕事をする顔になっていた。俺は頷き、ローニンの脚に触れる高雄と、それを見つめる愛宕を指差す。
「……しばらく、彼女達をうちでセイレーンから匿う。部屋の案内に…ゲスト用のキーカードにレベル1権限を付与してタブレットと一緒に渡してやってくれ」
居住空間自体は掃いて捨てるほどある、この艦隊全員分を用意した程度で余裕がなくなる事はない。
その指示に頷いたベルファスト、頷いた後に俺に問いかけてくる。
「かしこまりました…ご主人様は?」
普通なら、このまま執務室へ行き出来事の記録等をすべきだが…そこはオイゲンに任せた。俺は少し、やらなくてはならない事がある。
「……少し、外す。過去のログを見る必要があるからな、終わったら戻る」
戦艦、三笠…ログで相棒がその名を口にしていたシーンを見たような気がするのだ。いつだったか、どんな状況だったか…俺は『再生』の影響で、あまり過去のことを憶えていない。
それはARESの連中も織り込み済みだったようで、ヘルメットについた多機能カメラによって作戦や生活の記録…つまり『ログ』を撮って、それを欠けた記憶の補完に当てる手法を取った。
「分かりました。ニューカッスルさんが探していましたので、先か後に会うようにしてくださいませ」
「……あぁ。少し、任せる」
ベルファストに告げ、わざわざ居なくなるところを見せて不安にさせないよう、重桜艦隊の気が逸れた所でクローク起動。俺は俺の、調べ物をするとしよう。
○○○○○○○○
「ここが食堂です。基本的に食事以外でも、自由に使ってくれて構いません。ドリンクはあちらで頼めば、担当の饅頭達かマービンが出します」
あの指揮官…パラドクス、と言ったか。あの男の配下である侍女、ベルファストとやらに施設を案内されている。
彼とその部下の母港であるこの基地の規模は、信じられない程大きく…機械製の歩兵と作業員が巡回し、巨大なタイタンなる兵器も闊歩する異質さ。
フロンティア…かつてセイレーンに押されていた人類の、技術革新によってその尽きかけの資源を救ったという開拓の海。鏡面海域を抜けた先がその辺境だったことには驚いたが…そこでの出会いは、随分と恵まれたものだった。
満身創痍の艦隊を、追跡するセイレーンから庇い…そして余所者の自分らを保護すると拠点へと迎え入れられた。顔を見せられない、と言われた時には裏があるのかと思ったが…
そんな様子はまるで無く、本当に部外者には素顔を晒さないだけというのが分かった。悪い人間では無いようだ、ある程度信用はおける人物である事は理解した。
「ここも綺麗ねぇ。お掃除が大変そうだけれど…」
愛宕のその呟きを聞きながら、それとなく辺りを見回す。洋風な食堂はかなりの規模で、恐らく百人どころかその倍は収容可能な広さ。
今のところ食事を摂っていたりするKAN-SENや人は居ないものの、まばらに作業用と思しきオレンジの機械と饅頭が椅子を並べたり机を拭いたりしているのが見える。
あの機械はともかくとして…饅頭達は賢い生き物だ、労働させるにしても相応の報酬を用意しないとああまで精力的には動かない。
人間社会に溶け込む習性故に、待遇も良くせねば彼ら(?)は着いてこない。その点も一つ、あの指揮官に対する信頼度が増す要因である。
「普段は私達メイドと饅頭…それから、マービンの皆様方で清掃をしておりますので」
そう得意げに微笑んだ彼女は、次はこちらです、と丁寧に案内を進めていく。廊下も整然としていて、時折銃を持った機械の歩兵とすれ違い無機質な視線を向けられるが…それも一瞬。ベルファスト殿の姿を確認すると、すぐにそれを切って見張りに戻る…
辺境だと思い込んでいたフロンティア、だが実際に目の当たりにする設備は、重桜を始めとするコアシステムよりも最先端に見えた。
本当に…心底、運が良かったとしか言えない。この想像もつかない広さの未踏の海で、あの指揮官の艦隊に巡り合えたのは相当な幸運であったと言えよう。それに…
(ローニン、と言ったか…あのタイタン、刀を持っていた…)
艦隊を絨毯爆撃で救ったあのタイタンの他に、ここにいたタイタン。腰に大きな銃を持っていたが、それよりも気になったのはその背に背負った無骨な刀。
もし、仮に。アレをあの指揮官が、猫目の狙撃タイタンと同様乗れるとしたら…彼も剣について理解が深いのかもしれない。機会があれば、語り合いたいものだ。
「…着きました、ここが皆様方に使っていただくお部屋になります。こちらを」
そんな風に、思考を巡らせているといつの間にか部屋に着いたらしい。振り返ったベルファスト殿から、何かカードを渡される。
「それが鍵です、こちらのリーダーに翳していただければ扉が開きます」
試しにと、示した場所にカードを翳すと素早く静かに扉が開いた。連れられて中に入る。室内はよく掃除の行き渡った、清潔な部屋だった。台所に、寝台…大型のテレビまで備え付けてある。
「それと、こちらの端末で連絡が取れます。私か、ご主人様か…あるいは、ニューカッスルさん…もう一人のメイドが出ると思いますので、合わせてお渡ししますね」
続いて渡された薄型の端末。これもまた、最新のものなのであろう。つくづく豊かな設備、機材だ…底がまるで見えない…
「ありがとう、お部屋は二人部屋よね?」
「はい、もしご希望があれば、個室にもできます。お気軽にお申し付けください」
愛宕が確認を取ると、スラスラと淀みなく答えるベルファスト殿。そんな彼女は一礼して、微笑む。
「今日は、ゆっくりと休んでくださいませ。夕食の時間になりましたら、呼びに来ますので」
では、ごゆっくり。そう言って部屋から去っていったベルファスト殿。扉が閉まると同時に、ポスン、と愛宕がベッドに倒れ込む。
「はぁ〜…なんだか、やっと肩の力を抜ける気がするわ…」
そう呟きながら目を閉じる愛宕。どうやらかなり疲れていたようだ。無理もない、殿として艦隊の最も後ろでずっとセイレーンを抑えていたんだ。
「とにかく、休ませてもらうわ…高雄ちゃんも…少し……」
それだけ言うと、穏やかに寝息を立て始める。まあ…仕方ないだろう。かく言う私だって、緊張が取れたのか眠気が襲ってきている。この環境で、三笠さんを見つけるまでは、しばらく居させてもらうつもりだ。
大変な事になってはいるが…どことなく心強く、安心するな…そう思いながら、目を閉じる。すぐにそんな思考は暗闇に沈み、眠りに落ちた。
・ログ
タイタンフォール世界において、パイロットのみならず、科学者なども記録する音声や映像での記録。パラドクス君は、『再生』という技術で失われる自らの記憶を補完するために、ヘルメットのカメラ機能を使い過ごした日々を記録しています
・この母港のマービン達
一応、彼らマービンは汎用作業用ロボット。という事なので、作者の趣味で色々な役割を担わせています。あのちょっとトボけたロボットに、看護師の帽子とかヘルメット被せたい…!という作者の願望の表れでもあります。