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《……そっちは大丈夫か、カッスル?》
「今のところは平気です、貴方様。戦闘の痕跡はありますが、セイレーン艦隊は索敵範囲内にはまだ…」
今、ここにはいない彼の声を聞きながら、ゆっくり慎重にこの諸島の海域を進んでいく。本当はいつものように、タイタンを積載した量産型の軽空母で来ていただく予定でしたが…
相変わらず、私達に隠れて徹夜で作業をしようとしていたのを止めた結果…トーン様の装備…専用のタイタンキットの置換が間に合わず、今は上空に飛ぶIMCの輸送機・ウィドウに明石様と乗って最終的な調整をしながら降下する場所を探しているというわけです。
職務に真っ直ぐなのはとてもよい事ですが…あの人は、やり過ぎなきらいがありますから。例え出撃に間に合わずとも、こうして向かいながらの調整作業が出来る以上は無理はさせません。
《……重桜艦隊と第二艦隊も、それらしき敵影は確認していないようだ。引き続き頼む》
「はい、貴方様」
そう言って、彼からの通信が一度途切れる。
この辺りは小規模な島が連なる諸島海域、目標となるセイレーン上級個体のテスターがいると思われる、周辺海域の掃討で唯一残ったエリア。恐らく、そこに重桜艦隊を救ったというKAN-SEN…三笠様もいる筈だと予想されています。
今回の作戦は、この諸島海域を私達彼の艦隊の二つ、そして重桜の艦隊で三方向から捜索と掃討を行い、どれかの艦隊がテスターと接敵し次第そこに集合。囲んでテスターを排除するというもの。
彼もトーン様の整備が終わり次第、戦局に応じて上空からタイタンフォール。戦闘支援に加わってくださるとのことです。
「グラスゴー、しっかり見張って。ユニコーンちゃんは、空からの目を任せましたよ」
「了解よ、ニューカッスル姉さん」
《うん。任せて…!》
グラスゴーと、ジャベリン様も一緒に私も前衛を。少し離れた後方より、ユニコーンちゃん、ネルソン様とレパルス様の主力艦隊三名が。
以上がロイヤル陣営のKAN-SENで統一したた第一艦隊、オイゲン様と綾波様が率いる混成の第二艦隊。そして重桜の皆様の重桜艦隊での作戦。
航空戦力も重桜艦隊のお二人のお陰で盤石の体制、交戦準備は万端といったところです。
対空の配置と艦砲の装填のタイミングの指示に関しては私が行い、グラスゴーが持ち前の足の軽さで前衛の火力支援のみならず主力艦隊の方々への防御支援も行える私とグラスゴーの連携の取れる編成。
さらには足の速さが自慢のジャベリン様が、素早く雷撃を行い撹乱。その隙にネルソン様とレパルス様が主砲装填、ユニコーン様の航空攻撃と合わせて一気に火力を出すことができます。
ここ一週間と少しのセイレーン掃討での編成で、とても安定して損害の少なさと火力を両立できたものの一つ。
第二艦隊も同じようにここしばらくでの成果を元に、火力と耐久力の安定した編成をしています。
ベルファストは向こうでオイゲン様と綾波様の対空をサポート、主力のロング・アイランド様と伊勢級のお二人に十全に火力を出していただけるようにするのがベルファストの役割。
オイゲン様は元々の艤装の装甲の強固さに加えて、スキルであるシールドの展開、その時の立ち回りでかなりの火力を防げますが…反面、対空に関してはやや苦手なようで私たちロイヤルメイドに対空の支援を度々お願いしてきています。
ご主人様もそれは把握していて、基本的には対空の得意な私たちロイヤルの巡洋艦の誰かを組ませるようには意識しているようです。
《ニューカッスルさん、2時の方向から、セイレーンの駆逐艦が見えるよ…!》
「ユニコーンちゃん、ありがとうございます。グラスゴー、ジャベリン様と対処を」
彼のそんな考えに思考を巡らせるのを一度やめ、捕捉された敵駆逐艦…恐らくは小規模の偵察艦隊のPawn級の対処をグラスゴーとジャベリン様に頼み辺りを見回す。
この海域は大小様々な広さの島が点在し、諸島を成している。複雑に入り組んだ海域は、私達が隠れ、奇襲に使える地形であると同時に…セイレーンもそれは同じで、奇襲や回避のために隠れる事が当然できるでしょう。
この海域は交戦中に、諸島の陰から挟み撃ちや包囲をされてしまうのは避けたかったということ。そして最もセイレーンの出現域の中心に近かったと言う理由で最後の掃討海域になっていた場所です。
(何事もなく、無事に終われば幸いですが…)
グラスゴーとジャベリン様が、連携して敵の駆逐艦を撃破するのを傍目に周囲への警戒は怠りません。未だ小規模な偵察艦隊、中規模の主力級艦隊のみとの接敵しかありませんが…
これが、嵐の前の静けさでなければいいのですが…そんなことを考えながら、警戒して戻ってくる二人と合流して、再び艦隊運動での哨戒を続けます。
「姉さん。他の艦隊も目立った動きはないって」
「ありがとう、グラスゴー。ジャベリン様とユニコーンちゃんの直衛について」
通信で第二艦隊と重桜艦隊に状況確認をしたグラスゴーにそう指示を出せば、滑るようにまたジャベリン様と一緒にユニコーンちゃんの方へと戻っていきます。
天候は快晴、視野は広く確保出来ますが未だにセイレーンの上位個体・テスターの姿は確認できません。せっかくのお天気だというのに…無駄な争いは早めに片をつけるに限ります。
私を含めた前衛艦隊の見える範囲内、そしてユニコーンちゃんの艦載機が見渡す上空からの警戒網にも大規模なセイレーンの艦隊は発見出来ていません。
それは一見、まだ安全である…と錯覚してしまいそうになりますが、神出鬼没なセイレーンはいつどこから仕掛けてくるか分かりません。
故に警戒は解けません。今この瞬間にも、セイレーンの艦隊が奇襲をかけてくる可能性はゼロではありません。
空母が艦載機による攻撃を仕掛けてくるかもしれません。重く厚い装甲の巡洋艦が火力とその耐久力で押し潰しに来るかも。あるいは、自爆ボートと駆逐艦の艦隊で撹乱し、戦艦の主砲を放ってくるかも。
もっと他の方法でセイレーンは私たちを襲うかもしれません。戦場に絶対はありません、特にセイレーンは突拍子もなく、それらを含めた戦術で襲ってきます。
《ニューカッスルさん、11時の方向から駆逐艦と偵察機が来るよ…!》
片時も油断出来ない、緊迫した哨戒航行。私の望む平穏とはかけ離れた、気の休まらない瞬間の連続。しかしそれでも、この非日常から逃げてはいつも通りの平凡なる日々は戻ってきません。
「ふぅ…グラスゴー、あちらは私が。引き続きユニコーンちゃんの直衛をお願い」
《分かったわニューカッスル姉さん、気を付けてね?》
戦闘への忌避感を追い出すように、一息。気を引き締めて、取り舵。装填は既に済んだ主砲と対空砲を構え、駆逐艦Pawn級に相対します。
「平凡なる日常を謳えましょう」
元より対空は得意とするところ。対空砲を放ち、偵察機の回避運動を見極め…より
主砲を斉射、三隻の内先行していたものに榴弾砲が直撃。主砲の再装填をしつつ魚雷を発射。先に主砲を当てたpawn級にトドメを刺し、残り二隻からの砲撃と雷撃を回避。主砲装填完了と同時に即発射。
海上を滑るように駆けて敵駆逐艦の砲撃、雷撃を躱しながら偵察機も対空攻撃の網で墜とし続け…再びその駆逐艦の側面に主砲を照準、装填完了と同時に斉射。
《…ッ!ニューカッスル姉さん、こっちにもセイレーンの量産艦が来てるわ。今度は軽巡のKnight級もいる…!》
「分かりました、無理をせずに雷撃で牽制しながら持たせて。あと一隻落としたら合流します」
また一隻、撃破と同時にグラスゴーからの通信。なにやら攻勢が本格化してくるような気配を感じながら、残った駆逐艦Pawnへと隙を与えないように航行し攻撃を躱しながら接近。
「これで……!」
そして至近距離からの砲撃を直撃させ、駆逐艦と偵察機の混成偵察艦隊を撃破。Pawnが沈むのを一瞥しながら魚雷の再装填を確認。すぐさま主砲も装填しながらグラスゴーとジャベリン様の方へ舵を切ります。
「貴方様、こちらでの接敵が増えてきています。警戒を」
《……了解した。第二艦隊、及び重桜艦隊からも接敵報告がある。油断するな》
「はい、こちらは抜かりなく対処いたします」
ご主人様に報告の通信を入れると、他の艦隊の状況の報告も合わせて入ってきます。どうやら他の艦隊の方々も同じような状況……
これはそう遅くない内に重桜艦隊の皆様を襲った上位個体、テスターとの遭遇も視野に入れなくては。
「お待たせしました。二人とも、早急に片付けましょう。状況が動きそうです」
「はい!ジャベリン、全力で行きます!」
「了解…凛として、優雅に……!」
そう思いながら前衛二人と合流。軽く檄を飛ばせば返ってくる頼もしい返事。
向かってくるKnight級に対し左舷に舵を切ったジャベリン様の動きに合わせ、右舷からグラスゴーが主砲と魚雷で
左右に分かれた二人と、そのまま正面で陽動をする私に対応を一瞬迷ったKnight級の側面に、グラスゴーの全火力が直撃する。巻き上がる爆炎、弾け飛ぶ装甲。
「ジャベリン様!」
「ジャベリンの活躍、見てくださいね!」
そして航行速度が落ちたKnight級が、最後の抵抗とばかりに放った砲撃に合わせるように、同じくジャベリン様も砲撃。それと同時に駆け出したジャベリン様は
一歩間違えれば真正面からの直撃必至の回避を危なげもなく敢行したジャベリン様、まっすぐ最短距離でKnight級に接近すると手に持った
「なんとか、損傷もなく終わりましたね」
「ふぅ…この戦果なら満足してもらえるんじゃない?」
同時に放たれた三連装の魚雷が、着弾と同時に発破。敵艦の被弾箇所がよかったのか、派手に爆発炎上し沈んでいきます。
グラスゴーと並んで撃沈を喜びユニコーンちゃんの偵察機に手を振るジャベリン様を見ながら、私は少し後方に控える旗艦のネルソン様に通信。指示を仰ぎます。
「ネルソン様、ひとまず眼前の脅威は排除しました。特に損傷はありません」
《了解したわ、ここらはいいから一度全員で……》
恐らくこの周辺はもう敵がいないため、次の海域への移動指示が下ると思っていたその時。不意にネルソン様に優先度の高い通信が入ったようで、その指示は遮られました。
《待って、オイゲンからね…………えぇ……そう……分かったわ。すぐに向かうわ、無理はしないで頂戴》
それはどうやら第二艦隊の旗艦である、オイゲン様からの連絡のようで。割り込みで通信が入った瞬間、まさかと想定した通りの指示が下されました。
《ニューカッスル、指揮官に通達をお願い!重桜艦隊の方にセイレーン上位個体、第二艦隊も大規模な主力艦隊と交戦中よ!》
「かしこまりました。皆様、行きましょう。貴方様、ニューカッスルです────」
回線を開きご主人様に報告。状況をお伝えしながら第一艦隊全員での行動を開始……犠牲なくこの戦闘を乗り越えるべく、全速力で皆様の救援へと向かいます。
○○○○○○○○
「やっと見つけた。この遠洋でよくもまぁ……相変わらずの悪運の強さね?」
現れたテスターは、大量の量産艦を引き連れ私たち重桜艦隊の前に現れた。ニタニタと軽薄さと嘲りを含んだ笑みで、私たちを見下している。
「このッ…!」
「だめよ瑞鶴ちゃん、高雄ちゃんも。落ち着いて」
今にも突撃しそうな瑞鶴ちゃんと高雄ちゃんを諫め、努めて冷静に状況を分析する。大小様々な孤島が諸島を織りなす海域、そのほぼ中央。
完全に不意を突かれた私たち重桜艦隊は、島の幾つかをもまとめて大きく包囲される形で囲まれている。
正面にはテスター率いる戦艦級の下級セイレーンスマッシャーを旗艦に、かなりの数の量産型の重巡、戦艦で構成された主力級の艦隊。
さらにその後方にはセイレーン量産型空母Queen級の姿も確認出来る。このまま支援や策も無く突っ込んだら、ただでは済まない……
「指揮官?こっちはテスターと接敵したわ…」
《……状況は確認している。今カッスル達第一艦隊が、そっちの包囲網突破の支援に向かっている》
指揮官に指示を求めて通信、頼もしいくらいの対応の返事を貰ってほんの少しだけ安心する。
《……こっちも、トーンの調整は完了したところだ。すぐに俺も向かう…被弾を極力抑えつつ後方に退避、回避を最優先に立ち回れ》
「分かったわ、なんとかやってみるわ…」
《……そちらに行くまでは上空から方向の指示で支援する、沈むなよ》
その一言と共に通信が切れる。同時に瑞鶴ちゃんと翔鶴ちゃんが航空機を発艦させ、先行してきた量産重巡洋艦に撹乱と牽制の航空攻撃。
「高雄ちゃん、合わせて!」
「うむ、悪・即・斬!」
五航戦二人の攻撃への対応に割かれ動きが鈍った重巡Bishop級に主砲と魚雷を斉射。高雄ちゃんはタイミングをズラし、すかさず
《……いい連携だ、後退しろ!殿を高雄と愛宕が、なるべく中衛の最上級、暁野分は俺の指示で追手に魚雷で牽制を…!》
Bishop級が一斉攻撃で爆発炎上、大破したタイミングで指揮官の指揮が飛んでくる。私たちだけで動くよりも早く、弾かれるように身体が動く。
そして淀みなく、最後方に五航戦の二人を配置し、殿を私と高雄ちゃんが。その間を他のみんなが埋めて、後方への撤退が始まる。
「あら、また鬼ごっこかしら?いいわ、今度こそ沈めてやろうかしら…!」
構図はあの鏡面海域からの撤退とよく似ているけれど、今回は目の前のテスターから逃げるためではなく確実に勝つための後方退避。
《……追撃来るぞ。暁、魚雷発射!》
「承知…!」
下がっていく方向を確認すれば、包囲網に穴を開けるべく彼の艦隊も戦闘を開始している。量産艦や下位の人型個体が少しずつ数を減らしている。
《……敵旗艦攻撃態勢、左右に散開し回避。最上、三隈、回避後合図で魚雷を》
追手であるテスターの攻撃のタイミングに合わせて回避の指示。身体が、艤装が。導かれるままに海面を滑り動く。
後ろに下がりながらの回避を苦も無く行える、指揮官と彼の指示があるだけで格段に動きやすい。ここまで差があるなんて…!
《…………よし、魚雷発射!》
「「了解…!」」
そして左右両舷から、追跡してくるセイレーン艦隊に向け魚雷が襲う。テスターはそれを回避するが、随伴していたBishop級に命中。中規模の損傷で航行速度が下がった。
「チッ、厄介ね。まさかここまでとは……けれど、だからと言って状況はそうは変わらないわよ!」
再びテスターが艤装を構える気配。攻撃が来る……そう思い、彼の指揮にすぐに反応できるよう身構えた、その時だった。
《貴方様、
《……確認した。タイタンフォール、スタンバイ》
その通信が入った直後、上空から一条の光が降ってくる。それは遥かな空から私たちの左舷方向の諸島の上まで真っすぐに降ってきて、そして大胆かつ最短で。
着地の衝撃を吸収するための片膝ついた姿勢から、ゆっくりと立ち上がるタイタン…トーン級。そのコックピットのハッチが開き、中から彼が身を乗り出しテスターと視線を交わす。
《「……なるほど、あれが」》
そして、通信越しの指揮官の声と、テスターのつぶやきが重なる。
テスターはニタリと敵対的ながらもどこか愉しげに。
指揮官は顔を隠したヘルメット越しに、改めてテスターの脅威度を噛みしめるように。
長くも感じた数瞬の沈黙。テスターが私たちに向き直るのと、指揮官が再びトーンのコックピットに戻るのはほとんど同時だった。
「さて、目的のイレギュラーを引きずり出せた。お前たちはもう用済みよ」
《……重桜艦隊、後退は終わりだ。俺がつゆ払いと火力支援を行う。第一、第二艦隊が合流するまで耐える。頼むぞ》
頼もしいまでの指揮官の宣言。武装を構えるトーン級がテスターを睨む。
さぁ、ここが踏ん張りどころだ。ここで確実に、テスターを倒す……!
・ウィドウ
IMC製の小型高速輸送機、船の左右にタイタンを格納できる優れもの。TF2のキャンペーンでしか出てこない。タイタンを載せてもスペースにはかなりの余裕がある
・セイレーン量産艦
セイレーンの量産艦。強くはないがとにかく数が多い。チェスの駒の名前が振り分けられており、アズールレーンゲーム内ではⅠ~Ⅳ型までのバリエーションがある