《う、うわぁぁぁ!?来るな、来るなぁ!!》
オープン無線から聞こえる敵パイロットの悲鳴を聞きながら、ダメージを与え装甲を崩した『ドゥーム状態』に追い込まれた敵タイタンに急接近。
その勢いのまま足払いをかけ、敵を転倒させる。後は飛び上がって、コックピットをパイロットごとメイン武器・プラズマレールガンでブチ抜けばそれで終わりだ。
《敵タイタンを撃破。お見事です》
「……あぁ、お前も良くやってくれた」
鉄屑と化した敵を一瞥し、ハッチを開いて外へ降りる。見渡せば血溜まり、肉片、千切れ飛んだ腕や足…俺が倒した残留艦隊兵士の、哀れな成れの果てがそこら中に転がっている。
ノースに乗った俺が、クラスターミサイルや機体重量そのもので片付けた奴らだ。敵タイタンとの戦闘中にも、巻き込んで倒せるように意識した立ち回りをしたお陰で、もう外の兵士は全滅したようだ。
「……外の敵は、今ので最後か?」
《はい、現在センサーの反応は屋外にありません》
確認のためノースに訊けば、すぐにそんな答えが返ってくる。最初はパイロットはいないものだと思っていたが、途中でタイタンフォールの反応を検出。成層圏から降ってきた鉄の巨人を、こちらもノースの力をもって返り討ちにした。
まぁ、あまり練度の高そうなパイロットではなかった。動きにもムラがあり、こちらの読み通りに動いてくれたお陰で早く済んだ。きっと対して『再生』の世代を重ねていなかったのだろう。
「……分かった。ガードモード起動、誰もこの基地から出すな」
《了解、プラズマレールガン充填完了》
ノースへ指示を出し、施設入り口まだ向かう。シャッターが閉まっているが、IMCの施設および製品には緊急用に操作端末の下にUSB端子8.1が仕込まれている。
これはパイロットの標準装備、データナイフでハッキングが可能。外からだろうがクリアランスが無かろうが、操作することができる。
俺はエントランス横の柱にあった操作板をこじ開け、端子にデータナイフを突き立てる。柄頭に付いたホログラムが、赤い円を三つ映し出す。それらは回転しながら、ハッキングの進捗が進むにつれて一つづつ青くなっていき、やがて全て青くなった所でデータナイフを抜く。
「……屋内の掃討を行う。フォローを頼む」
《了解ですパイロット。マップデータと位置情報の照合を補佐します》
開いたシャッター、開くスライドドア。しっかりと獲物であるスピットファイアを構えてエントランスに踏み込む。
中は薄暗く、人の気配は無い。だが油断はできない。敵は必ずいる…それもIMCの連中は質より数で押してくる、何処かの部屋に入ったところに押し寄せられたら抜けるのに苦労する。まずは各部屋を調べる事が先決か。
《パイロット、パルスブレードの使用を推奨します》
「……あぁ」
ノースからの通信に同意し、腰のシースからそれを抜く。パイロットアビリティの一つ、パルスブレード。特殊な音波とX線の反響を利用し、着弾点から一定範囲内の敵を壁越しだろうとヘルメットのHUDとミニマップに表示できる優れものだ。
これを使えば、隠れている敵の位置が丸分かりになる。無数にある部屋を一々一つずつ、馬鹿正直にクリアリングする必要は無い。
黙って投擲したパルスブレードの刃先には、壁に突き刺さり、HUDの画面にはオレンジ色の波紋が広がっていくようにしてソナーが表示される。
「……左は三、右に五。ここはそれだけか…」
壁越しに見えたシルエットを数え、まずは右の部屋へと向かう。軍需品のグレネードを手に取り、扉の横に。
扉を開いた瞬間に、ピンを抜いたそれを投げ入れる。
「敵っ…!?グレネードだ!」
叫び声、爆裂音が響く。同時にパイロットアビリティ、クロークを使い姿を消して突入。パイロットの装備込みの明るい場所で、ようやくうっすらと影が確認できる程度。ほとんど完璧に姿を消すこのアビリティで、室内の兵士の死角を取った。
即座に手に持った武器を部屋の隅にいた二人組の兵士に向け、躊躇いなく引き金を引く。不意を打たれて呆気なく死んだその兵士達には目もくれず、次の目標へ。
クロークは既に発砲した時点で解除されているが、入り口に注視したままの敵兵がこちらに向き直るだけの時間があれば全員殺れる。
《お見事です、パイロット》
「……まだだ、次が来る」
そう呟きながら、リロードをしようと内容量の減ったマガジンを外し、新たなものを入れ初弾を装填しようとレバーを引いた時だった。ガキッ、と鈍い金属音を立て、コッキングレバーが動かなくなる。故障だ、このタイミングで…
「敵は部屋にいる!」
「行け行け行け!」
まだクリアリングしていない部屋に残ったグラント達が、既に部屋の入り口まで来ている。すぐさまスピットファイアを投げ捨て、クールダウンの済んだクロークを発動。
グラント達の視界から消えたまま、あらぬ方を向く兵士の一人にデータナイフを飛び掛かりざまに突き刺す。すぐにホルスターのサブ武器・マシンピストルのRE-45の引き金を残りに引く。
「ガァッ!?」
「何っ!?ぐぁ…!」
連射速度と、機械歩兵のボディにも食い込む威力。そのおかげでなんとか兵士を排除、このエリアは確保した。だが他の場所では今の戦闘を聞きつけたのか、施設奥から敵の押し寄せる気配がした。
「……来るか」
《はい。外には誰も出しません、パイロットは戦闘に集中を》
リロードしてコッキング、パルスブレードを投げて走り出す。敵の位置と数を確認、奴らの不意を真正面から突いて倒す。腰のジャンプキットを利用し、壁を駆けて上を取る。屋内だろうが、やることは変わらない。
敵を、全て倒す。何度も何度もした事だ。問題はない。
○○○○○○○○
《施設の残りは10%です、そのまま進んでください》
特に備えもなく、パイロットに正面から挑んだ一般兵士の末路など語るに及ばない。全員倒した、一人も残さず。
そもそも部屋に篭って全員で入口にスピットファイアでも向けるか、廊下にタレットを並べておけばいいものを…何故正面から来るのか。指揮官の指示なのか?それともただバカなだけか。
どちらにせよ、もう終わりだ。後はこのフロアとその先、司令室を制圧すれば、この基地は俺のものとなる。
「……二重ロック…ノース、ここは?」
扉が二重に配置された入り口、格子状の構造物…何のエリアだ、俺がここにいた時にはこんなものは無かった。
《捕虜の収容エリアのようです、以前この場所は空白でしたが…》
「……なるほどな」
つまりは、後付けで作った設備らしい。データナイフでハック、さっさと開けて中を行く。パルスブレードを投げ、独房内の様子を……
「……?なんだ、この反応は…?」
見た。二つほど人の反応があった、それはいい。だがほとんどの房内が、鳥のような訳の分からないシルエットで埋め尽くされている。これは一体なんだ?
《パイロット、どうかしましたか?》
通信でノーススターからの呼びかけ。それに答えず、近くのドアの窓から中を覗く。黄色い体色、小さなくちばしと丸っこい瞳…ヒヨコか、しかしこんなに大きくは無いだろう。コイツらは一体…
《データ照合完了。パイロット、それは饅頭と呼ばれている知能の高い生物です。害はありません》
「……饅頭…?」
ヘルメットのカメラ越しにそれを見たノースからの、謎の生き物に対しての解説。その呟きに反応してか、一斉にこちらを見た饅頭達がドアに殺到する。ピヨピヨと鳴いているが…開けて欲しいのか?
「……」
一瞬の迷い、だがノースが言うのなら…そう思い、データナイフでロックを解除して解放する。
「……っ!」
解放された途端、一目散に飛び出して来る饅頭。あまりの勢いに反射的に構えてしまうが、俺の周りを跳ね回るだけで攻撃はしてこない…本当に害はない、らしい。
「……おい、あまりくっつくな…」
懐かれてしまったのか、肩や頭の上に乗っかってくる饅頭達に辟易しながら、俺はホルスターにRE-45を仕舞う。このエリアには敵の反応は無い、残った戦力は司令室に集結しているのだろう。
しばらくピヨピヨと跳ねて騒いでいた饅頭だが、不意に動きを止め、俺の前でリーダーらしき風格の饅頭が羽根をバタつかせて何かを訴えかけてくる。
「……?ノース、解読は出来るか?」
《不可能です。MRVNではありません》
何を伝えたいのか理解できず、ノースに訊くがやはり分からないらしい。対応に困っていると、その饅頭が駆け出していき、こちらを振り向いて跳ねる。
着いてこい、ということか。その饅頭に追随するように歩き出せば、饅頭が駆け出す。少し歩いた所でそいつは止まり、あるドアに体当たりをし始めた。
「……ここは…」
そこはさっきの人の反応があった場所、覗いてみれば少女が二人身を寄せ合って房の隅にいた。
「……なるほど」
どうやら二人は捕虜のようだ。この基地の連中に捕まり、ここに閉じ込められているらしい。データナイフを取り出し、ハッキング。ドアのロックを解除し、中へ。部屋の隅で震えていた二人の前に立つ。
「あなたは…誰?ここの指揮官じゃないみたいだけれど…」
何か話しかけてこようとした白髪の少女を遮るように、銀髪の女が話しかけてくる。鉄血風の軍服に身を包んだその女は、強い眼差しでこちらを睨むように見ている。
「……俺はパイロット、コードはパラドクス。元ここの所属で、裏切ってミリシアについた…セイレーンと戦うために、この基地を乗っ取りにきた」
そう名乗れば、その女は目を丸くした。しかしすぐに元の表情に戻り、口を開く。
「指揮官じゃ…ないのね。私はプリンツ・オイゲン。鉄血の重巡よ」
鉄血の、重巡…重巡洋艦という意味なのか?であれば捕虜だと思っていたこの女と少女は…
「……KAN-SEN、なのか?」
「えぇ、そうよ。初めて見るかしら?」
俺の疑問に、プリンツ・オイゲンが答える。対セイレーンのため主要四陣営の設立した軍事同盟、アズールレーンの議会にはミリシアの請け負う警備の仕事の一環で訪れたことがある。だがそこでKAN-SENは見ていないため、初めて目にした。
「……あぁ。だが、何故KAN-SENがこの残留艦隊の基地に…?」
そう問えば、プリンツ・オイゲンが答えた。曰く、この基地には適性は低いものの指揮官と呼ばれる、KAN-SENを指揮することの出来る者がいて、自分達はソイツによって「建造」されたらしい。
そして、ミリシアに敗北しIMC本体からの支援を得られない残留艦隊、となってしまったここを乗っ取っている奴らが、指揮官としてアズールレーンに離脱する腹づもりだったらしい。
だが、ソイツの適性が低過ぎるせいでアズールレーンにも指揮官として認められず、残留艦隊からの離脱が叶わなかったため、まだされてはいないが実験や研究の為にここに閉じ込められたらしい。
「……下衆共が…」
思わず呟いてしまう。この基地の連中は彼女らをまるで邪魔者のように扱い、まして彼女らに実験だと…?
《ストレス値の上昇を確認。パイロット、感情的になるのは推奨しません》
ノースが諌めるが、これは抑えられない。俺もかつてはIMCにいたが、その横暴が原因で部隊を引き連れ袂を分かつ決断をした…ミリシアと戦い、少しは己の間違いに気付いていると思ったが…期待しただけ無駄だった。怒りのままに立ち上がり、踵を返す。
《パイロット、落ち着いてください。彼女達はどうするつもりですか?》
ノーススターが呼び止めるのを聞きながら、他の饅頭達も解放していく。あぁ、落ち着いているさ。大丈夫、俺は冷静だ、やるべき事は見失っていない。
全ての饅頭を解放して、頭に乗る奴を降ろして、そいつに言う。
「……あの二人の側に、居てやってくれ。警備はつける、頼むぞ」
饅頭は了解と言わんばかりに敬礼をし、跳ねて彼女達の方に行く。その様子を見て頷き、一度エリアから出る。
IMCの施設には、壁に機械歩兵のスペクター、その強化版ストーカーを収納し有事の際に使えるよう格納されている設備がある。俺はそれを使わせないように立ち回っていた為、それを使ってここを守らせる事にした。
制御板のパネルに触れてユーザー認証、司令のトップを俺として起動。壁のラックから、スペクターとストーカー、各五機ずつが起動した。壁から離れ、俺の方に向く無機質なカメラアイに向け指令を出す。
「……このエリアを守れ、特にKAN-SENの二人は、絶対にだ」
そう命じれば、機械歩兵は命令に従ってエリアを警備し始める。これでいいだろう。後は……俺は再び房に戻り、隅にいる二人を見る。怯えた様子で身を寄せ合い、こちらを見ている銀髪の女…プリンツ・オイゲンとその腕に抱かれる少女に向かって言う。
「……ここに居ろ、俺が残りを制圧してくる。それまでは危険だ、絶対にここから出るな?」
それだけ言い残してその場を去る。プリンツ・オイゲンが引き留めようとするのを無視し、倒すべき敵の元へと駆け出す。さっさと済ませよう、この世に奴らがいるだけで…不愉快極まりない。
・迷彩
パイロットの装備の色はTITAN FALL2ゲーム内で自由にカスタマイズできます。この主人公の色は真っ黒、何度か『再生』と呼ばれるレベルリセットをすると解放されるものです。
・クローク
熱光学迷彩により、ほとんど視認不可なまでに透明化するアビリティ。パイロットならばうっすらと視認できるが、そういった装備のない歩兵からはほぼ視認は出来なくなります。
・パルスブレード
クナイのような見た目のブレードを投げ、刺さった場所から一定範囲にX線と音波を発し、壁越しだろうとシルエットをヘルメットに映し出し索敵するアビリティ。クロークに最も有効なアビリティです。