Azur Fall   作:Isaac/アイザック

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今回はKAN-SEN視点です


3

 

 

 

 

 

「……行っちゃった…のです?」

 

「えぇ、そうみたい」

 

腕に抱く重桜の駆逐艦、綾波がおずおずと訊くのに答えて髪を撫でる。周りの饅頭達、それからあのパイロットの置いていった無機質な機械の兵士が私達の周りを守っている…

 

このIMC、とかいう連中。そこの指揮官適性の低い、KAN-SENの指揮官と呼べるのかさえ分からないような指揮官に私たちは「建造」された。

 

あの連中は私達KAN-SENの指揮官、という立場と指揮官適性を利用して、アズールレーンへと加入したかったらしい。

 

どうもこの隊はIMCの本体からの補給を断たれているらしい…その状況から抜け出すべく、そのような手段に出たという。だが彼らはアズールレーンには認められなかった…適性が低過ぎたと、突っぱねられた。

 

それに憤慨した奴らに、こうして閉じ込められた。慰み者にして、実験に使ってやると…そう言われた。

 

「…パイロット、ね…」

 

しかしそれが実現する前に、あの男が現れた。パラドクスと名乗る、黒尽くめの装備の男。×字に青く輝く、フルフェイスのヘルメットが印象的だった。

 

彼は元々はIMC所属だったらしく、この基地をセイレーンとの戦いの為に乗っ取りにきたと言っていた。

 

俄には信じられない…けれど、パイロット…かつてまだKAN-SENの多くなかった時代、地上にまで伸びた奴らの魔の手を人の手で押し退けた、という話をこうなる前に聞いた。

 

その活躍は、たった一人で戦局を変えうるという…もしもそれが真実なら、あるいは…それに、気になる事がある。

 

「ねぇ、あの人は…指揮官、なのです?」

「ふふっ、そうかもしれないわ。少なくとも、私達を閉じ込めた奴よりは、よっぽど適性が高いわ」

 

そう、綾波が言った通り。思わず私もそう思ってしまう程、彼は指揮官としての適性がある。KAN-SENだからこそ分かる、その感覚を確かに感じた。

 

もしかすれば、あの男が、自身の指揮官になる…のかもしれない。でも完全に信じる事は危険かもしれない。あのパイロットの元で動くにしても、しばらくは様子を見なければ…

 

○○○○○○○○

 

「……待たせた」

 

「あら、意外と早かったのね。もっと掛かるかと思ってたわ」

 

戻ってきたパイロット…パラドクスと名乗った黒尽くめの彼は、肩を竦めてやってきた。

 

「……まぁな、連中の中にパイロットがいれば少しは手間だったが」

 

来い、とそのまま招かれるままに、綾波を連れてパラドクスについて歩きながら辺りを見回す。やはり見慣れない光景だ、機械の歩兵が警備するように歩き回り…モップを持った別のロボットがそこらを掃除して回っている。

 

そんな奇妙な風景を横目に歩いていると、やがて一つの部屋に通される。そこにはベッドと機材が並び、さっき廊下でモップを持っていたロボットが待機していた。

 

「……そっちの、あぁ…名前は?」

 

「あ、綾波…です…」

 

ついてきていた綾波に名前を訊き、ロボットに指示を出すパイロット。

 

「……見たところ、栄養状態が悪い。一応の検査も兼ねて、点滴を用意した。こっちに」

 

そう言ってロボットを連れて、奥まで行ってしまうパイロット。

 

「え、えっと…」

「ほら、行くわよ」

 

オドオドとする綾波を連れて、ついていく。言っていた通り、点滴が用意されていて、それをセットしていた。衛生兵にはとても見えないのに、その手際はとても良いように見えた。

 

「……ほら、綾波。ここに横になってくれ」

「は、はいです…」

 

促され、恐る恐るという風にベッドに寝転ぶ綾波。その腕に針を刺し、点滴を打つ。それから、横にいたロボットが、綾波の腕に布のような物を巻いて、コードでそれが繋がった機械を触り始める。

 

「……問題はないか?」

「……!………♪」

 

パイロットが問いかけると、訳の分からない機械音声を発しながらサムズアップするロボット。その胸のモニターにはスマイルマークが表示されている。

 

「ねぇ、まさかアンタ。そのロボットが何て言っているか分かるわけ?」

 

思わず茶化したようにそう訊くと、当たり前だというように首肯し、ヘルメットをトントンと指で口を開く。

 

「……あぁ、翻訳機能がある。綾波は軽く栄養失調だが、健康状態は特に問題ないらしい」

 

そう言ったパイロットは、椅子をニつ持ってきて一つを私に、もう一つは自分で座った。

 

「……この基地はもう俺のものだ、お前達を害した虫共は、俺が一匹残らず駆逐した」

 

その言葉を聞いて、深く息を吸い、吐く。こうして私と綾波があの独房から何事もなく出れている以上、それは事実。この男は本当にあの忌々しい残留艦隊の連中を排除した、たった一人でだ。信じられない事だが、実際にそうなっている。

 

…そして、同時に疑問も浮かぶ。この男の目的は?セイレーンとの戦いの為に基地を奪ったというのは本当なのか。 

 

「そうみたいね、一応お礼を言っておくわ。助けてくれた、お礼くらい」

 

「……成り行きだ、礼なんていらない」

 

素っ気なくそう返すパラドクス。そんなパイロットに、一つ質問を投げかける。セイレーンと戦うとは、どういうことなのか、どうするつもりなのか…私がそう言うと、一瞬黙り込み…やがて、小さく溜息をつくような音が聞こえた。

 

「……正直に言えば、あまり深くは考えられていない…」

 

そう言ったパイロットは、首を振りながら続ける。

 

「……取り敢えずは、ここの設備を使って指揮官としての適性があるかを調べるつもりだ」

 

それだけ答えたパイロットが、今度は私に訊いてくる。

 

「……それで?お前達はこれからどうするんだ?」

 

これから、か。私達を建造した仮初の指揮官は、このパイロットによって恐らくはもう始末されている。それは別にいい、奴は私達を利用しようとし、それが出来ないと分かれば閉じ込め酷いことをしようとした。いい感情なんてこれっぽっちもない。

 

でも、同時に所属を失ってしまった。私達はKAN-SENだ、セイレーンと戦う為に生まれ、その為に存在する。なのにそれを放り出して、好き勝手にしていていいものなのか…

 

「……決まっていないようなら、しばらくここにいると良い。どの道、アズールレーンにも近々連絡は入れるつもりだからな。その時にでも決めてくれ」

 

言葉に詰まる私に、パイロットはそう提案してきた。それに呆気にとられる私に、近くのテーブルに置いてあったタブレット端末を寄越して立ち上がった。

 

「……マップはそれに入ってる、俺にも連絡可能だ。部屋はマービン…あぁ、コイツの同型機だ。そいつに掃除させている」

 

そのまま立てかけてあった銃を手に取って、何かあれば呼べ、とだけ言って行ってしまった。

 

私は綾波と共に残されてしまい、機械をいじっていたマービン、とやらもどこかに行ってしまった。

 

「オイゲンさんは、どうするのです?」

 

しばらくの沈黙の後、綾波が話しかけてきた。どうするも何も、まだ分からない。そもそも、今の状況すら理解できているのか怪しいところなのだ。

 

「さぁ…どうしようかしらね…?」

 

鉄血に行こうにも、この広大な海の未開領域…フロンティアと呼ばれるこの場所から、鉄血まで行くには気が遠くなる程の距離がある。とてもそこには行けない。重桜に行くにしても、そこも同じだろう。

 

「…ふふっ」

 

綾波が、何が楽しいのかくすくすと笑っている。全く、呑気なものね。

 

「綾波、あなたはこの先どうしたいの?」

「…綾波は、あの指揮官についていく、のです…助けてくれたあの人なら、大丈夫そうなのです」

 

そう言った綾波は、少し嬉しそうにしている。久しぶりに彼女の笑った顔を見た気がして、釣られて頬が緩むのを感じる。

 

「ふぅん?まぁ、あなたがいいなら、いいのかしら?」

 

そんな綾波を見つつ、手元にある端末を見る。表示されたマップには、今いるであろう位置も表示されている。適当に部屋や設備をタッチしては戻り…と繰り返しながら、考える。

 

「指揮官、ねぇ……」

 

あの男…パイロットは、自らを指揮官とは名乗らなかった。適性も今から測るなどと言っていたが、私や綾波の感性からすれば、彼の指揮官としての適性は充分だろう。

 

あの男は、間違いなく優秀な兵士であり、同時に指揮官になりうる。それにパイロット本人も、セイレーンと戦う気はある。そうでなければ、わざわざ基地を制圧などしないはずだ。

 

しかし…パイロットは、セイレーンと戦う為に来たと言った。それはつまり、指揮官として戦うだけではなく、一兵士として戦おうとしているという事。

 

後ろで偉そうに指示を出すタイプではないというのには好感が持てるが、同時に危うくもある。幾らタイタン…大きさが4〜5mもあるロボット兵器を使うとは言え、巡洋艦にでも囲まれればひとたまりもないだろう。

 

「……」

「オイゲンさん、どうかしたですか?」

「いえ…なんでもないわ」

 

そう言いながら、思考を続ける。そんな危なっかしい命の恩人を、放り出すというのはこう…少しバツが悪い。しばらくは様子を見させてもらうが、問題がなさそうならパイロットの元で働くのもアリかもしれない…なんて考えてしまう。

 

「……♪」

 

「…マービン…あら?」

 

そんな風に考え込んでいると、あのよく分からない機械音声が横からした。そちらを見れば、胸の画面に「?」と表示したロボット…マービンが、お盆にお茶と包装されたお菓子を持ってそこにいた。

 

「くれるのかしら?」

 

「…!……!!」

 

問い掛ければ、もちろんと言わんばかりに頷きながら、こちらにお盆を差し出してくるマービン。それを受け取れば、画面がスマイルマークに変わり、心なしか嬉しそうに私から離れた。

 

「…すごいのです」

「えぇ…案外、悪くないのかもしれないわね」

 

感心したように呟いた綾波に、同意しながらもらったお茶を飲む。まだ先の事は分からない…けれども、こうしてしばらく過ごさせてもらって、しっかり見極めさせてもらいましょう。

 

 

○○○○○○○○

 

寝返りをうつ…姿勢を変えて、目を閉じて…やっぱり眠れない。

 

「……散歩でも、するのです…」

 

綾波の部屋、という事で使っていいと言われた部屋のベッドから降りて、外に出る。もう深夜なのに、マービン達があちこちにいるおかげで、あまり施設の中も暗くは無かった。

 

外に出て、夜の風を浴びる。少し冷たいその風は、とても心地よく全身に当たる。

 

(気持ちいい、のです…)

 

しばらく歩いて、建物から離れる。海が見える埠頭まで来て、足を止める。そして…大きく息を吸って、吐く。深呼吸をして、もう一度……今度は思いっきり吸い込む。

 

「すぅー……っ!」

 

潮の匂い。波の音……夜空の星々に照らされる海面。それを見ているだけで、とても落ち着く。久しぶりに見た海は、広くて、綺麗で。

 

「……綾波?」

 

「!?」

 

不意に声をかけられ、びくりと身体を震わせる。振り返るとそこには、パイロットがいた。

 

「指揮官……」

 

「……だから指揮官では…いや、すまない…」

 

申し訳無さそうに謝る彼に、慌てて首を振って謝る。

 

「だ、大丈夫です…!むしろ、綾波が指揮官を驚かせちゃって…!」

 

「……?俺が勝手に驚いただけだ」

 

「それでも……なのです」

 

…どうしよう、すごく変な空気になってしまった気がする…何か話題を探そうと視線を動かせば、彼の後ろにいた大きな存在が目に入る。

 

「……あれ?指揮官、その機械は…?」

 

細い手脚と腰あたりには大きな銃…そして、背負うように無骨な剣…と言うより刀のようなものを背負ったロボット。

 

「……ローニン級タイタンだ、基地警備を任せるつもりでいる」

 

「タイタン…指揮官のもの、ですね?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

彼はそう言ってタイタンを見る。ローニンの方は綾波を見て、屈むように姿勢を下げた。

 

「指揮官は、この子に乗って戦うですか?」

「……あぁ、メインの機体ではないが…それなりに使える」

 

そう言った指揮官は、ローニンの機体に触れる。すると、タイタンのカメラらしい所が指揮官の方を向いた。

 

「……ローニン、綾波。KAN-SENだ、しばらくここで過ごさせる」

《了解ですパイロット、メモリに登録します》

 

指揮官の言葉に、低く太い機械の声でそう答えたローニンのカメラが、また綾波を向く。

 

《こんばんは綾波さん、私は軽量級タイタンローニン。よろしくお願いします》

「あ、綾波…です…」

 

目の前に膝をつく鉄の巨人から、挨拶をされて困惑しながらも返事をする。そんな綾波に、パイロットが苦笑して口を開く。

 

「……最初は慣れないだろうが、まぁそのうち普通になる」

《コミュニケーション能力は、一定水準以上あります。基本的な会話は可能です》

 

 

「…そ、そうなんですか……」

 

機械なのに、まるで人みたいに話すローニン…それはあの残留艦隊の人達よりもずっと人間らしくて、ずっと自然で嫌な気分にはならなかった。

 

「……それで、こんな時間にどうしてここに?」

 

「えっと、その…眠れなくて、散歩していたのです」

 

切り替えるようにそう聞いて来た彼に、答える。誤魔化すような言い訳だけど、本当の事だから仕方ない。それに、指揮官は特に気にした様子もなく、ふむとヘルメット越しに顎に手を当てた。

 

「……気分転換、か…ローニン、ハッチを開けろ」

《了解》

 

そしてローニンに指示をし、そのローニンが口を開くようにハッチを開けた。中は人一人が座れるスペースが空いていて、そこが操縦席になっているらしい。

 

「……基地のマップ情報の入力ついでだ、案内する。ほら、乗れ」

 

「え、い…いいのです…!?」

 

困惑する綾波の聞き返しにも、黙って頷く指揮官。促されるままに操縦席へと登り、座った。

 

「……いつもより高い景色を、楽しんでくれ」

《フォローモード起動。追従します、パイロット》

 

そうしてハッチが閉まってしまい、フワッとした感覚がする。少しの間、真っ暗な空間だったが、程なくして正面いっぱいにこの埠頭からの景色が映し出された。

 

「わぁ…!」

 

さっきの埠頭からの眺めも良かったけれど、これはまた違った景色の良さがあった。普段よりもずっと高い場所から、水平線まで見渡せる。

 

「すごい……綺麗なのです……」

 

思わずそう呟いてしまうくらいには、その景色に見とれてしまった。

 

《……気に入ってくれたようで、何よりだ》

 

外にいる指揮官が、足元…ローニンの高い視界の下に見えた。そのまま手招きをしながら歩き出した。

 

《……気分が悪くなったら言え、降りるまではお前の見たいと思った方に優先して向くようになっている》

 

「はい…!ありがとうございます、です…!」

 

そうして夜の散歩が再開する。今度は綾波だけでなく、指揮官とローニンも一緒に。彼は少し怖い雰囲気だと思っていたけれど、本当はこんなに優しいんだ。そんなことを思いながら、また景色を楽しむ。きっとこの後は、ちゃんと眠れる…そんな気がするのです…




スペクター
・軍産企業IMC製の機械歩兵。人よりも硬い機械の体に、軽々と屋上へと登る跳躍力を誇る量産型の人間サイズのロボット。ある程度の戦闘能力があり、時に人間の兵士よりも脅威となります。

ストーカー
・軍産企業IMC製の機械歩兵。スペクターよりさらに硬く、さらに重武装が出来る。背中に剥き出しのバッテリーパックが弱点だが、そこを撃たれると自爆するため危険。脚が吹き飛んでも這って敵に組み付くほどの耐久力を持っています。

・ローニン級
背には全高と並ぶほどの刀、手にはタイタンサイズのショットガンレッドウォールを持つ、軽量級の近距離特化タイタン。海での戦いには明らかに向いていないため、パイロットは基地警備に配置しました。
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