《戦闘終了》
「……終わったか…」
ノイズ混じりの合成音声、赤い警告の光で満たされた機内。ディスプレイも視界の端が破損により映らなくなってしまった。
《機能の一部が使用不能、極度の損傷により保護層が破損。コアリアクターが露出》
「……無理をさせたな、すまない」
ハッチを開き、外へと降りる。その直後、ノーススターは膝を着く。見れば機体は黒焦げ、それどころか装甲が剥がれ落ち炎も上がっている。
これはドゥーム状態、と呼ばれるタイタンの状態で、この状態だとタイタンの格闘攻撃程度の衝撃で機能が停止。最悪そのまま爆散してしまう程に追い込まれた状況だ。
周辺の哨戒をしていた所、明らかにこちらを狙うセイレーンの艦隊に遭遇。基地に被害があっても困るし、今は検査の結果待ち、故に綾波やプリンツ・オイゲンは動かせない。仕方無しに迎撃を開始したが、よく喋る人型セイレーンの攻撃でドゥームに。相打ちで仕留めた形になった。
《パイロット、機体の互換。もしくは修復が必要です》
「……ハンガーに予備のシャーシは無かった。時間はかかるが、修理するしかない」
乗っ取った基地のタイタンの格納ハンガーには、ノーススター級のシャーシは無かった。それがあれば中身のコアを入れ替えるだけで話は済んだが…
「……シアキットを」
《了解、よろしくお願いします》
前途多難だ。ノースにシアキットを渡すように指示、それに従い猫の目のような球状のカメラアイが部分が外れる。
青く輝くパーツ。これがタイタンの頭脳であり心臓である、タイタンのコア。取り外して、別の機体へ取り付けることで同一個体として再稼働することも可能でな設計になっている。もっとも、今はその替えの機体が無いため、互換は不可能だが。
次いでコアを抜いた球体のパーツの左右が開き、中に収納されたものが出てくる。一つはデータナイフ、俺も持っている標準装備。そしてもう一つは…
「……あぁ、そうか。渡したのか」
パイロット専用の特殊武装が収められているはず、だがそれは先日の拠点掌握の時に介抱し、意識をまだ取り戻せていない少女に渡してしまった。あの少女も今思えばKAN-SENだったのかもしれないが…確かめる手段は無い。
今のシアキットからは、もう取り出すべきものは無い。空になったシアキットを持ち上げ、動かなくなったノースの元に置いておく。
とにかく、ローニンでも連れてきてこのシャーシをハンガーまで運ばなければなるまい。幸い、母港までは大した距離は無い。ウォールラン含めるパルクールで片道10分程度走れば、何とかなる。
「……行くか」
一人呟き、駆け出す。大事な相棒なんだからな、ここに置いて行って使わないなんてことは無い。
○○○○○○○○
道中は特にセイレーンや海賊なんかが出ることも無く、母港には着いた。そこで警備巡回中のローニンを呼び、またノースの元へと向かう。
ローニンの機体の上に乗り、道を急がせる。あれだけの損傷を受けた機体から、何かパーツを抜き取ろうなんて奴はいないだろうが、現状唯一のノーススターシャーシなんだ。メインの機体が使えなくなるのは困る。
しばらく進んで、ようやくその姿を遠目で確認できたが…
《警告:目標周辺に不明な生体反応を検知》
「……何?」
ローニンが突如として警告を発する。ヘルメットの望遠機能でノースの方を見れば、緑の髪の少女と、黒髪で重桜の着物、という格好をした少女が工具を手にしてノースのシャーシを触っているのが見えた。
KAN-SENか?しかしそうだとして、タイタンのシャーシに何をしようとしている?疑問は尽きないが、止めなければ。
「……俺が行く、ここらを頼んだ」
《ガードモード起動。センサーで敵をスキャン中》
ローニンを待機させ、武器を手に持ち近づいていく。相手は二人とも人間と遜色ない体躯、KAN-SENとは言えいざとなればタイタンを相手にするほどの脅威ではないはずだ。
まずは対話を…そう思い銃を構えて近づいていけば、会話の内容が聞こえてくる。
「タイタンのジャンクパーツが手に入るなんてついてるにゃ〜…これで明石はさらに稼げるにゃ…」
「むむっ、儲けは半々だぞ。夕張、メロンをすごく食べてみたいぞ」
緑色の髪の猫耳のようなものが見える、
そしてもう一人、こちらは黒髪で緑の和服、こちらの少女は狐のような尻尾があり、頭の上には同様に獣のような耳がある。
摩訶不思議な見た目だが、それがかえって彼女らがKAN-SENだということを確信できる要素として存在している…だが愛機をバラされ売られるのは勘弁願いたい。
「……おい、シャーシから離れろ」
声をかけつつ手に持つ武器、ヘムロックBF-Rの銃口を向ける。その声に驚いたのか、ビクンと震えて縮こまって恐る恐るこちらに振り向く二人。どうやら即座に敵対する気はなさそうだ。
「……離れろ、と言っている。そいつは俺の機体だ、替えが無い。バラして売るなら他を当たってくれ」
構えた銃の銃口を振り、離れるように再び指示する。するとようやく状況が分かったのか、手を上げながら慌ててノースから離れた。
「待ってほしいにゃ!明石達悪者じゃないのにゃ〜!」
緑髪の猫のような耳をつけた少女が言う。続いてもう一人の黒髪の少女も慌てたように話す。
「ゆ、夕張も悪者じゃないぞ!そもそも解体を提案したのはこっちの明石だぞ!」
「に゛ゃ゛!?明石を売らないでほしいにゃ〜!」
…まぁ悪い娘らではなさそうだ、やいのやいのと騒ぐ二人に向けた銃を下ろしてノースに近づく。パーツは…見たところ何も取られてはいなさそうだが、一応聞いておくべきだろう。
「……取ったパーツがあるなら、今のうちに返してくれ」
「取ってないにゃ!!本当にまだ取ってないにゃ!」
緑の猫耳の方…明石と呼ばれた少女が必死な様子で否定してくる…嘘はついていないようだ。隣にいる夕張、と自身を呼んでいた方は、先程からジッと俺に視線を寄越している。
「……ならいいんだが…ローニン、回収してくれ」
《了解、そちらへ向かいます》
ローニンを呼び戻しつつ、俺は目の前の娘らに改めて向き直る。とりあえずは、こちらも名乗っておく位はしよう。
「……俺はパイロット、コードネームはパラドクス。このタイタンの所有者だ、さっきは驚かせたなら謝る」
そう言えば、ようやく怯えたような雰囲気は消え去り、彼女らもきちんと自分達の事を話し始める。
「明石は明石だにゃ。さっきは死んじゃったと思ったにゃ〜…」
「私は夕張、軽巡洋艦だよ」
軽巡洋艦…やはりKAN-SENであるらしい。すると夕張が俺に訊いてきた。
「ねぇ、ご主人は指揮官なの?」
「……ご主…?まだ指揮官では無い、適性検査の結果待ちだ」
夕張の謎の呼び方に困惑して一瞬詰まってしまうが、まだ指揮官と呼ばれる立場にないという事は伝える。綾波も俺を指揮官呼びするし、初対面のこの娘も勝手に主人呼び…適性がある、とプリンツ・オイゲンも言っていたがそれがいよいよ現実味を帯びてきた…
「……お前はどこから来たんだ、重桜か?」
それは一度置いておくとし、どこから来たのかを知りたい。重桜はここからかなり遠い…ジャンプドライブでも使わなければ、そう簡単にはこんな所には来れないはず。
そんな事を思ったが、夕張は首を横に振った。
「気づいたらここにいたんだ。それで夕張は、夕張のご主人を探してたんだぞ」
「……そんなことがあるのか…?」
いきなり現れたKAN-SEN、ということか…疑問を込めそう呟いたが、それに補足を入れるように明石が話に入ってきた。
「それは多分『ドロップ』だにゃ〜」
「……ドロップ?」
聞き慣れない言葉に思わず問い返す。明石曰くドロップとは、セイレーンとの戦闘後にKAN-SENが現れる現象のことである、らしい。
「明石は近くの街までどろっぷしっぷ?とやらでやってきたにゃ、だから詳しくはないけど…この辺りできっとセイレーンの艦隊が沈んだんだにゃ」
なるほど、ドロップについてはわかった。そうなると、夕張が何故ここにいるのかという事の答えは出たようなものだ…というか、俺のせいだ。
「……俺がついさっき、潰したな。セイレーン」
「にゃ!?じゃあ夕張をドロップさせたのは……!!」
明石は驚きの声を上げているが、夕張はそれどころではないようで…興奮したように俺の腕を掴んで揺すってくる。
「ご主人!やっぱりご主人が夕張のご主人なんだね…!」
その表情は喜びに染まっており、キラキラとした目でこちらを見つめてくる。どうにも、彼女の中では俺が自身のご主人と確定しているようだった。夕張の後ろでは、明石が何か納得するようにウンウンと首を縦に振りながら笑顔を浮かべていた…
「……はぁ、分かった。とにかくまだ俺は指揮官では無く、一介のパイロット。拠点まで行くから、指揮官ということが確定するまでは適当にそこで過ごしてくれ」
「うん…!よろしくご主人!」
満面の笑みを見せる彼女を突っぱねるなんて事は出来ず、そしてセイレーンと戦うための協力者を得られるならば…と。なんとか自分を納得させて、ノースの回収作業に移る。
二人とも重桜のKAN-SENだ、綾波が喜ぶだろう…
○○○○○○○○
「入れ違いに、なってしまいましたね…」
訪れた拠点から大きなロボット…タイタンに乗って行ってしまった、あの人の背を見送りながら呟く。
あの時命を、そして尊厳を救われて…見返りを求めるどころか、護身用の武器まで渡されて介抱された。目が覚めて、言われた通りに西へ。そこにあった街に行き、色々と情報と物資を集めさせてもらった。
そこの住民で、元民兵だという人が言うには、渡されたこの重たい銃は特別なもので決して一般の兵士には出回らない代物らしい。そんな大事な物を、なんの躊躇いもなく預けられてしまったことに、申し訳なさと感謝の念でいっぱいになってしまった。
ともすれば、もうすべき事は決まっていた。もし会えなかった時のために、感謝の手紙をしたためて彼らしき人物が向かったというあの場所の近くの軍事施設へと足を運んだ。
「………では、手紙を置いていきましょうか」
その結果は惜しくも入れ違い、一目会いたかったが仕方ない。施設の関所に手紙を預けようと、そこに向かい、中にいるであろう人に声をかけようとして…
「あら……」
「……!………!!」
止まってしまう。そこにいたのは人ではなく、オレンジ色の塗装のロボット。かの軍産企業IMC傘下の会社、ハモンドロボティクス社の製品である移動ロボット型汎用作業機…略称でマーヴィンと呼ばれるそれが、(恐らくは)にこやかに応対してくれた。
「今しがた、ここから出て行ってしまったあの方に会いたかったのですが…それは叶わなかったので、お手紙を渡してくれませんか?」
そう告げると、機械音声のような声を上げながら関所内のコンピュータを触り始めた。何をしているのだろう、と思いながらしばらく待っていると、ゲートが開いて饅頭と、それに伴う機械歩兵が現れた。
「饅頭まで…」
どうしたものでしょうか…と思案していると、マーヴィンが手を差し出していた。まるで何かを渡してくれとでも言うような…
「……!……!」
「手紙、でしょうか…?」
彼の言葉は分からないが、そう言えばその通り!と言うように大きくカメラアイのある頭部を揺らす。促されるがままに手紙を渡すと、それを受け取ったマーヴィンは今出てきた饅頭達の方へと手で指し示した。
「えぇ、と…ついていけばよろしいのですか?」
質問にサムズアップで返してくれたマーヴィンに従って、饅頭の元に。案内してくれるらしく、こちらを先導するように跳ねて移動し始めるその小さな背中についていく。
やがてたどり着いたのは、どうやら応接室らしき部屋。促されるままにソファに座ると、先ほどまでとは別の饅頭がお茶を運んできてくれた。それだけでなく、また別のマーヴィンが幾つかの新聞や雑誌をテーブルに置いてくれた。
どうやら、あの人に会わせてくれるらしい。心優しいロボットと饅頭達に感謝の念を持ちながら、お茶を一口。インスタントのそれは、いつも私の淹れるものよりもずっと優しい味を感じた気がしました。
・ノーススター
パラドクスの愛機で、軽量級のタイタン。プラズマレールガンを装備し、背中のジェットでVTOLホバーが可能な遠距離特化の機体。ローニンとは真逆の位置にあるコンセプトのタイタンです。
・受付のロボット
マービンと呼ばれる作業用ロボット。正式名称は移動ロボット型汎用作業機(MOBILE ROBOTIC VERSATILE ENTITY)、英語の頭文字を取ってマービンと呼ばれている。頭部のカメラアイとは別に、胸のディスプレイにスマイルマークや顔文字、ハートや感嘆符を浮かべてコミュニケーションをする。タイタンフォール世界のマスコット(?)