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「……見えてきた、あと少しだ」
《はい、残り距離は1kmを切っています。同行者の疲労を確認、休憩を推奨》
ローニンに大破したノースを運ばせ、かつKAN-SENである夕張と明石を連れ基地まで戻る。俺一人ならばウォールランとグラップルでさっさと行ってしまう所だが、パイロットでも無い連れがいる手前そうはいかない。
「……休もう。あと少しだがゆっくり行こう」
一人なら走って10分だが、歩けば4〜50分掛かる。途中に休憩も挟んでいるので、時間としてはもっとだ。ようやく母港が見えてきた。
焦る必要もないし、どうせ戻っても少ししかやることは無い。だったら少しはゆっくりと戻ってもいいだろう。
「にゃぁ…結構歩いたにゃ、もう足が棒みたいだにゃ〜」
「……夕張はともかく、何故お前もついてきたんだ?」
休憩と聞いた途端にへばる明石に、水筒を渡してやる。中身は水だが、ほとんどコイツに飲まれている。『ドロップ』とやらをさせた夕張は、一応俺がどうにかする義務は発生するが、ただフラフラしていただけの明石にそれは適用されない筈だが…
「ぷはぁ…!生き返るにゃ。指揮官についていく理由なんて一つだにゃ、商売の匂いがしたんだにゃ」
「……商売…?」
残った水を飲み干す勢いで水筒を呷った明石。そんな彼女の口からはそんな台詞が出た。おうむ返しにそう聞き返すと、得意げに胸を張って明石は答える。
「元々ふろんてぃあには、明石は商売に来たんだにゃ。開拓地の未知の商品ならきっと、大きく稼げるんだにゃ」
「……それで?俺と何の関係が?」
現時点では俺は素性の知れぬ無所属のパイロット、こんな人間について行こうと言うのが、商売に繋がる理由が分からない。
「土地勘とかコネとか…明石まだ来たばかりで何にも持ってないのにゃ」
なるほど、要するにコネも何もない場所で一から商売するのが面倒だから、俺のコネを使わせてくれという話か。
「もちろんタダでとは言わないにゃ、何事にも見返りは必要にゃ」
そう言いながら水筒を返される。一応は俺のコネを使うにあたり、そのバックは考えているようだ。水筒を受け取りながら、冗談めかして言う。
「……当然だな、もし俺を利用するだけして何も還元しないと言うなら、フライヤーの餌にでもしてやろうかと思ったところだ」
「フライヤーってなんなのにゃ!?それに餌って酷すぎるのにゃ!!」
フライヤーはフロンティア生息の原生生物、ドラゴンのような見た目の生き物の事だ。食欲旺盛で、戦時中はIMCにけしかけたりもした。もっとも、そのけしかけたフライヤーがミリシアにも襲い掛かってきたのだが…そのくらい危険な生物だという事だ。
「……冗談だ、そんなに怯えなくてもいいだろう」
「指揮官の声だと本気かと思うにゃ!」
抗議する明石をよそに、ローニンの脚部を見つめて尻尾を振っている夕張の元へと行き、水筒を渡す。
「……ほら、お前も飲んでおけ。あと少しだ」
「ありがとうご主人!」
水筒を手渡すと、元気よく受け取り飲み始める夕張。道中に聞いた話だと、彼女も夕張も機械いじりは得意らしい。タイタンの整備にも興味を示していたため、俺が指揮官になるにしろならないにしろ、彼女に手伝いをしてもらおうか。などと考えている。
「んくっ、んくっ…はぁ、ありがとうご主人!」
「……ああ、あと少しだ。準備が出来たら行こう」
そうしてしばらく休んでから、また歩き出す。もう少しで拠点だ、それほど時間は掛からないだろう。
「……綾波、綾波。いるか?」
歩きながら、拠点でのんびりと過ごしているであろう綾波に通信を入れる。彼女とプリンツ・オイゲンに渡したタブレットの通信機能で、連絡を取れるようにはしている。
しばらく待つと、ヘルメットのHUDに綾波の顔が映し出される。
《指揮官…?どうしたのですか?》
基本的に俺から連絡を掛けることはあまり無いため、少し珍しいといった表情をしている綾波。そんな彼女に用件と報告をする。
「……重桜のKAN-SENを保護している。お前に設備の案内を頼みたい」
《それは本当ですか…!?分かったのです、どうすればいいですか?》
驚いたような表情の後に、嬉しそうに笑う綾波。同郷のKAN-SENがいるとなれば、寂しさも少しは紛れる事だろう。
「……エントランスに居てくれ、ゲートに着いたらまた連絡する」
《はい、待ってるのです…!》
通信を切り、再び歩く。彼女も嬉しそうだった、明石はともかく、夕張とはきっと仲良くしてくれるだろう。
○○○○○○○○
「にゃ〜…!おっきい基地だにゃ!」
「……ARESじゃ小さい方だった、これでも行く行くは施設を拡張し、機能を拡大していくつもりの設計だったらしい」
ようやく着いた拠点の外観を見た明石が、それまでの疲れなど吹き飛んでしまったかのようにはしゃぎ出す。心なしか出会った時よりも元気だ、この分なら出会った時に銃を向けられた事も忘れていそうだ。切り替えが早いのはいい事だ。
「こ、これでも小さい方…ご主人の古巣って、とんでもないんだね…」
一方で帰路の途中、軽く経歴を話している過程でIMCの規模や力を知った夕張が顔を引き攣らせながら外壁を見上げていた。
「……思想やその手段はともかく、技術と財力は本物だ…待ってろ、今ゲートを開ける」
IMCのスケールに驚く夕張の肩を叩いて関所へ、そこには受付業務を任せたマーヴィンがいる。
《マスター、おかえりなさい!^ ^》
「……ゲートを開けてくれ、タイタンハンガーまで故障した機体を運ぶ」
《分かりました!^ ^》
意味の分からない機械音声で話すマーヴィンだが、実はしっかりと意味のある言葉に変換できる。もっとも、文字起こししなければならないため、パイロットのヘルメットのようなHUDのある物でも装備しなければ分からないが…
マーヴィンが関所内の端末を操作し、ゲートを開く。
《ではパイロット、タイタンハンガーまでノーススターを運びます》
「……あぁ、頼んだ。5番の修繕ハンガーが空きのはずだ」
《了解》
ゲートが開き、ローニンに一旦ノースを任せて俺はエントランスまで二人を案内を。そう思って待たせた二人の元に戻ろうとすると、マーヴィンの機械音声によって引き止められる。
《マスター、お手紙をお預かりしてます!》
「……何?」
手渡された手紙を受け取る。電子化進む今時は珍しい、完全に紙の手紙だ。綺麗な便箋に、蝋の封…それを開いて中を見る。
内容は、救ってもらった礼とその恩を返したいという旨。文末の差し出し人の名前には『New Castle』と書いてある…ミリシアや知り合いにこんな名前のやつはいなかったが…
《応接室にお通ししました、お客様がお待ちです!》
なんと、このマーヴィン…客としてしっかり応対し、応接室に通したらしい。高度なAIのマーヴィンではあるが、実際ここまで出来るとは。
「……そうか、助かる。引き続き頼む」
《わーい!^ ^》
労い、モニターにスマイルフェイスを映して喜ぶマーヴィン。相変わらずのその無邪気さに苦笑しつつ、二人を呼ぶ。
「……明石、夕張。こっちだ」
エントランスにはさっき頼んだ綾波が待っている筈だ。彼女に二人の案内を任せて、俺はその客人に会いに行くとしよう。
「……俺に客が来ているらしい。ここの案内は、お前達と同じ重桜陣営の綾波に任せる」
「にゃ、同じ重桜の娘がいるのかにゃ!」
二人の反応も好意的、この分なら大丈夫だろう。エントランスに入れば、綾波が掃除をするマーヴィンの横でそれを見ながら待っていた。
「……綾波、待たせたな」
手を上げて呼べばこちらに気づいたようで、俺の元へと駆けてくる。
「大丈夫です、それで重桜の子たちって…」
やはりとても気になっているようだ。一歩横にズレ、後ろについてきていた二人の姿を見せる。
「……この二人、明石と夕張だ。こっちは綾波、仲良くしてくれ」
「綾波、です。よろしくお願いしますです」
「よろしくだにゃ〜」
「夕張だよ、よろしく頼むぞ!」
三者三様の反応を見せつつ、挨拶を交わす三人。どうやらこの様子なら問題なさそうだ。
「……綾波、後は任せる。俺に客が来てるらしくてな…何かあったら、連絡してくれ」
「はい、分かったのです。じゃあ二人とも、ついてきて欲しいのです」
綾波に二人を任せ、俺はその背を見送り反対側へ。向かう先は応接室、待たせている『New Castle』なる人物の元。廊下を歩くマーヴィンや饅頭、警備のスペクターの横を抜けて廊下を行く。
この基地の大まかな構造はもう頭に入っている、淀みなく角をいくつか曲がって行き、ドアの横でスペクター二体が待機するそこを見つける。
「……通常警備に戻っていいぞ、待たせて済まない」
スペクターにそう言えば、敬礼をひとつして配置に戻っていく。AIの度合いで言えば、マーヴィンと同じらしいが、こちらは会話が不可能、向こうが何を思っているかはわからない。だが邪険に扱うのは憚られる、それが例え替えの利く兵器であろうともだ。
そんなことを思いながら、一度頭を振って切り替え、ドアに向き直る。この中に、客人がいる。ドアを叩き、入室を知らせて直後に開く。
「……すまない、少し、待たせて…しまった…」
応接室の中には、向かい合うようにソファが二つ机を挟んで置いてある。そのうちの一つ、そこに腰掛けた少女と目が合う。その姿に、思わず言葉が尻切れになってしまう。
「あぁ…また、お会いできましたね」
「……お前は…」
少し茶味がかった黒の髪、儚げな雰囲気の碧の瞳と視線が絡む。少女は立ち上がり、スカートの端を持ち優雅にカーテシーをして名乗る。
「あの時、助けていただきました。タウン級サブクラス、ニューカッスルと申します」
窓を背にしてされたその所作は、まるで絵画のようで。思わず見惚れてしまうくらいには、忘れられない再会だった。
○○○○○○○○
応接室に現れたのは、間違いなく私の探し求めていた彼。全身黒い装備、そしてフルフェイスのヘルメット。確かに私を救ってくれた、優しく強い方。
「……あ、あぁ…無事だったようで、何よりだ。座ってくれ、大事な客人なんだ」
少しの間驚いて固まっていましたが、すぐに切り替えて私に座るように促してくる。そんな言葉に甘え、ソファに座る。彼が対面に座ったタイミングで、私の方から切り出す。
「まずは、これを…」
机の上に置いたのは、あの時持たされた武器と、その弾薬。拳銃にしては大きく、様々なパーツの付いた重たい一品。ただの拳銃でない事は、街の元民兵のバーテンダーに聞いている。
「……スマートピストル…わざわざすまない」
銃を手に取り、細部を確かめる彼。スライドを引き、弾薬を確認して…少しして、机にそれを置いてまたこちらに向く。
「……使う事が無かったようで、良かった。体の方は大丈夫か?」
ヘルメット越しでも分かる、気遣うような声音での問いかけ。あの時は頭を強く打ち付けていて、彼に何か注射のようなものを打ってもらったことを朧げに覚えている。恐らくあれのおかげで、ここまで何もなかったように回復したのでしょう。
「はい、おかげさまで…今は、特に問題ありません」
「そうか、それなら良かった」
ほっとした様子の声色、きっと本当に心配してくれたのでしょう。こんなにも優しい方が、なぜ戦っているのか… 私はその疑問を口に出さず、彼の次の言葉を待ちます。
「……お前は、KAN-SEN…なのか?」
彼はそう尋ねてきます。私がここに居る理由、それはただ彼に物を返すだけではなく、恩も返したいから。彼を目の前にして、私の朧げな予感は確固たる確信に変わっています。
「はい、ロイヤルのタウン級サブクラスの軽巡洋艦…多くいる姉妹達と同じ、ロイヤル王家に仕えるメイドにしてKAN-SENです」
彼は、指揮官だ。今はそうでなくとも、そうなる資格と素養がある。ロイヤル本島の元指揮官よりも、目の前の彼の方がずっと『指揮官』だと…KAN-SENとしての本能と感覚がそう感じている。
「……そう、なのか」
「はい、貴方様に介抱される前は、ロイヤルで働いていました」
もっとも、もうその役はベルファストに引き継いでしまいましたが…そう思っていると彼からそれに関する話をしなくてはならない問いかけがなされる。
「……何故、あんな所に?」
もっともな疑問です。ここフロンティアはロイヤルどころか、アズールレーンの主権の及ばない未開の海。仮にも軍属のKAN-SENが、たった一人でいるなんておかしな話だ。
「色々ありまして…まず私は今はロイヤルの所属、ではなくなっていて………」
そこから丁寧に、事のあらましを語っていく。元指揮官が適性が高くはなく、私に対してとても執着的で嫌になってしまったこと。隠居先を探している中、フロンティアの話を小耳に挟んだこと。フロンティアまで来たものの、海でセイレーンの艦隊に襲われたこと…
そして…そして…この方に助けられたことを。
「……なるほど」
全てを聴き終えて、彼は一言呟いた後沈黙する。その反応を見て、次の言葉を待つ。
「……これからは、どうするつもりなんだ?」
質問、そしてそれに補足するように彼は話し続ける。
「……ここフロンティアが危険なことは、もう分かっている筈だ。ロイヤルに帰るのか、それともここに行く宛があるのか…?」
そう言われて、私は用意していた答えを返す。
「いえ、宛などない身です…ですので、貴方様の元で働かせては頂けないでしょうか?」
「……何?」
彼が驚くのも無理はないと思います。私自身、まさかこうやって自らの意思で…ましてやこの未知の海で。誰かに仕えようとするとは思ってもみませんでしたから。
しかし、これは私の偽らざる気持ち。助けられたから、というのもあるかもしれません。それでも、私の意思で決めたことです。
「私はKAN-SENです、海で戦うことも出来ます。それに、メイドとして。貴方様の身の回りの事をお手伝い出来るかと…」
だから、そう言いました。すると、少し困ったような雰囲気で、彼が口を開きます。
「……まだ、俺が指揮官としての適性があるかどうかは、検査の結果待ちなんだが…」
「きっと大丈夫です、KAN-SENである私が、貴方様を指揮官と認識出来ていますので」
彼の言葉に被せるように、そう口にします。きっと大丈夫…直感的にそう感じたのです。彼はそれでも、何か言い訳するように私に言います。
「……俺は、戦うしか能のない男だ…お前の思うような人間なんかじゃ、無いかもしれない…」
それは、まるで自分に言い聞かせるような言葉でした。戦いでしか役に立てない? それがどうかしたというのでしょう。そんなものは私も同じ。けれども彼は私を一人の人であるかのように扱い、接してくれる。そんな優しい人を、見紛うはずがない。
「もしそうだとしても、それでも貴方様は私を救ってくれました。だから貴方様を、私は信じています」
そう言って微笑むと、彼は驚いたように私を見つめている様に感じました。 数秒か、数分か。僅かな沈黙の後、ようやく彼が話し始めます。
「……本当に、いいのか…?」
「はい、もう心に決めたことでございます」
迷いなく、はっきりと彼に告げる。彼は少し考え込むと、再び口を開く。
「……分かった。俺はセイレーンと戦うつもりだ、適性の有無に関わらず。だから…」
そう言って立ち上がり、私の方へとその手を差し出してくる。
「……どうか、力を貸して欲しい」
彼のその手を、私は両手でしっかりと握る。力強く、それでいて優しく。
「…はい。このニューカッスル、貴方様の御心のままに」
私の返事を聞いて、彼もゆっくりと握り返してくれた。私は、これからもこの人の側に居たいと思った。この人の為に働きたいと願った。それが私の恩返し、身も心も、この方に捧げたい。そう、心の底から思ったのだ。
握手を解き、机からスマートピストルなる武器を手に取った彼。それを、私の方に突き出してきた。
「……これを」
「これは、貴方様の…」
勢いで受け取ってしまうが、これは一般の兵士には出回らない特殊な兵器の筈だ。何故そんな大事なものを、また私に…そう疑問に思って、聞こうとするが先に彼が話す。
「……予備はもう幾つか見つけている。だからそれは、お前が持っておけ」
それでも、貴重なものに変わりはないのだろうに…でも、もう主人となる彼の言うことだ。ここは素直に、好意として受け取っておくのがいいのでしょう。
「分かりました、ありがたく受け取らせていただきます」
私の返事を聞いた彼は、案内する。と踵を返した。でもその前に、頼みたいことがあって彼の手を取り止める。
「貴方様の、お顔を見せてくださいませ。私を救って下さった方の顔を、覚えておきたいのです…」
彼は一度も、この再会に際してすら、特徴的なヘルメットを取らなかった。せめてお礼を言う時は素顔を見て伝えたかったけれど、それが叶わなかった。だからこうしてお願いする、私を救った人がどんな顔をしているのかを、この目で見て記憶したいと。
「……あぁ、まぁ構わないが…そんなに面白いものでも無いと思うが…」
そう言いながら彼は思いの外、ヘルメットをあっさりと外した。ふるふると軽く顔を振り、今度は真正面から、遮るものなく彼の視線と私の視線がぶつかり合う。
「……そう言えば、自己紹介がまだだったな」
擦り切れたバンダナが特徴のその顔は、深いクマと少しずつ痩せた頬、そして鋭い目つきによる威圧感を加味しても充分端正と言える顔立ちをしていました。
「……パイロット、パラドクス。元IMCのARES師団所属、フロンティア戦争では裏切ってミリシアにいた。これからよろしく頼む、ニューカッスル」
・饅頭
アズールレーンに登場する、ひよこのような見た目のマスコットキャラクター。人畜無害かと思えば、自爆ボートに乗っていたり、アニメでは器用に溶接作業をしていたりする。今作ではアニメの描写から、作業員として母港で雇用する予定。
・フライヤー
タイタンフォールシリーズに登場する原生生物。まんまドラゴンの見た目をした恐竜みたいな動物。肉食で、獰猛らしく、タイタンフォールでは歩兵が戦闘中に捕まって喰われる描写があったりしました。