ご意見、ご感想等お気軽にどうぞ
きちんとした形式に則った報告書などいつぶりに書くか…それも電子で入力するのではなく、こうして手書きで書くなど贅沢なものだ、羨ましい。
「……はぁ」
もっとも、書類仕事など微塵もした事のない俺からしたら苦痛な作業だが…まぁ仕方ない。これもKAN-SENのためと思ってやるしか無い、戦いじゃ解決できない問題だ。そういうのも覚えなければならない…
出撃の際にかかった燃料と消費の比較、それと戦果と損害…書くべきことを記入していき、最後にサインを書く。これを記録用にコピーして、所定の手段で保存すればやっと一息つけるわけだ。
「貴方様。お茶を淹れましたので、よろしければ」
「……あぁ、ありがとう」
いつのまにか執務室に、ニューカッスルが入ってきていた。俺は机の上に広げていた資料やら何やらを片付けつつ答える 彼女は、そのままティーカップを目の前に置いた。
ヘルメットを脱いだところで紅茶が注がれると、ふわりといい香りが鼻腔をくすぐる。茶葉の種類には全く詳しくないが、これが良いものだというのは分かる。
「ロイヤルで淹れていたものでございます。貴方様のお口に合えば、幸いです」
「……そうか。頂こう」
口をつけると、少し熱く…だがそれが心地よく感じられた。なるほど、紅茶か、これはいい…戦地で飲む水なんかよりも、何倍もいい…心が落ち着く、ような気がする。
ニューカッスルはそんな様子の俺を見て、満足げに微笑んだ後、業務に使うタブレット端末に目を落とした。
「委託の皆様は、もうすぐ帰ります。それから、明石さんが貴方様を呼んでいましたので、後ほどお願いします」
幾つかの事務的な報告を、滞りなくしてくれる。彼女を秘書艦に選んでよかったと心底思う…初めてするトップとしての仕事は、いかんせん面倒な作業の量が多い。間違えがあってはいけないというのは分かるが、踏む手順が多くて混乱する。
「……分かった。委託組を迎えたら、そのまま明石の所に行ってくる」
ひとまず今やるべき事は終わった。紅茶を飲み干し、ヘルメットを掴み立ち上がる。
「……美味かった、また頼む」
委託組が戻るまでは、警備スペクターの武器の整備でもして待とう。そう思いながら、執務室としている部屋を出る。まずは武器庫に行き、適当に武器弾薬を見繕って来なければ。
○○○○○○○○
「なるほど…このようになっているのですね…」
「……安全装置は掛かっている、だが気を付けて持て」
廊下の途中、壁に仕込まれたストーカーとスペクターのハンガー。そこにいるスペクターやストーカーの持っていた武器である、ボルトSMGを手に取り興味深そうに眺めるニューカッスル。安全装置は掛かっているが、何かの拍子で解除してしまっては困る。
そもそも、これは俺達人間の殺し合うための武器だ。あまり触らせたく無かった故に、何も言わずに出てきたのだが……
「では、こちらをお持ちしますね」
などと気配もなくいつの間にか後ろにいた彼女に、なんだかんだでついて来られてしまった、という訳だ。クロークでも使ったのか、と思うくらい気配が無かった…油断した…
別に見られても構わないと言えば構わないのだが…俺個人としては、あまり銃には触れて欲しくは無い。
とは言え突っぱねるのも彼女の好意を無碍にする事になる、だから妥協案として幾つか提示し、それを守らせる事にした。
・何があっても引き金には触れない
・安全装置は必ず掛けること
この二つは絶対に、追加の指示にも従うようにと言い聞かせて、不本意ではあるがこうしてメンテナンスに同行させている。
「……それはバレルが曲がってる…もう使えない」
そんな中メンテナンスをしているが、まぁひどいものだ。そもそも弾の入っていないマスティフショットガン、バレルの曲がったボルトSMG…連中、雑用はマーヴィンに任せっきりでこういう所までは作業していなかったらしい。
この状態でこいつらを出したら、全く戦力にならない個体が出る。警備がそんなでは困る。新しいボルトSMGを手に取って、拡張弾倉を付けてやりながら愚痴をこぼす。
「……杜撰な管理体制だな、奴ららしいと言えば奴ららしい」
人手が増えればその分隅々まで目は行き届かなくなり、手は伸ばせなくなる。これはそんなIMCの内情の、一種の暗示のようなものだ。無論、これからは俺が使う以上そうはさせないが。
そんな風に考えながら、新しく取り替えたものを、替えの弾薬も装備させて、並ばせて待機させているスペクターに渡してやる。
「…………」
唸り声のような声は発するが、彼らはマーヴィンと違って話さない。話す言葉を翻訳できない。だが、受け取った武器をじっと見つめるようにした後、どこか満足げにハンガーへと戻っていった。
「…嬉しそうですね、貴方様」
「……そうだといいな」
穏やかにそう言うニューカッスルに同意し、マスティフに弾を込めていく。まだまだ整備は始まったばかりだが、こういう細かな気配りが後に何かあった時に必ず響く。
一つずつ、丁寧に。ニューカッスルに指示して弾薬を取らせ、受け取ったそれを装填もしくはスペクターに持たせる。その作業を続け、一ブロック分のスペクター達の武器の整備は終わった。
次はストーカー達をと思い、ハンガーから出した所で連絡が入った。
《指揮官、もうすぐ母港よ。もうくたくた、何か甘いものでも用意しておいて頂戴》
「……オイゲンか。了解した、迎えに行く。甘味はニューカッスルに頼め」
連絡を寄越したのは、正式に俺の艦隊所属となったプリンツ・オイゲン。長ったらしいからオイゲンでいい、と言われそちらで呼んでいる。
早速迎えに行くかと立ち上がったが、ふと後ろを見る…ストーカーを起動したままだ。武器の整備にと起動した瞬間の連絡だったため、一小隊四機が待機状態でそこに立っている。
起動した手前、何かしてやらなければと思っていたが、こんなにすぐにハンガーに戻らせるのも気が引ける…
「…………」
じっとこちらを見つめてくるストーカー達。命令を待っている彼らの目が、このまま戻すのかと訴えているようで。
「……護衛として来てもらう。取り敢えずは使える武器を渡す」
結局俺は、彼らをそのまま連れ出す事にした。二機にはL-スターを、二機にはボルトSMGを渡し後ろに引き連れる。そしてそのまま、基地を出て、港へと向かう。
「…で、そんなのを連れてるって訳?」
「……あぁ、忍びなくてな」
委託組のリーダーである、オイゲンが楽しそうにクツクツと笑う。綾波と夕張は初めて見る武装したストーカーの姿に興味があるのか、L-スター持ちのストーカーに集っている。
「ねぇねぇ指揮官さん、幽霊さんもうクタクタ〜…」
その後ろでは、初の俺の母港での建造艦の軽空母、ロング・アイランドが疲れた様子でそう言っていた。自らを「幽霊さん」と呼び、なるべく働きたく無いと駄々をこねる困った娘だ。優秀ではあるのだが、いかんせんエンジンが掛かるのが遅いらしい。
「し〜き〜か〜ん〜さ〜ん、幽霊さんつ〜か〜れ〜た〜!」
「……分かった、分かった。今日はもう出撃はない、報告書だけ出したら休んでも構わない…」
腰に引っ付いて、叫びながらこちらをグラグラと揺らすロング・アイランド。その力はかなり強く、こんなに小柄でも彼女がKAN-SENだという事を思い出させられる。
休む、気を抜くことに関しての妥協はしないらしい。だが、俺もあまり無理をさせるつもりは無い。委託を任せてそれを達成してきたのは確かだし、対価として休息も必要だろう。
「……燃料は倉庫まで運ぶ。作業員饅頭は待機済みだ…綾波、夕張。ストーカーは一機お前たちにつけるから、先に工廠までいって装備を整備して来い」
そう言ってやると、二人は喜んで、元気よく敬礼をして走って行く。そんな二人の背中を見ながら、オイゲンは微笑んでいる。
「平和なものね、腑抜けちゃうわ」
「……そうでもない。もうすぐアズールレーンから任務を下される、束の間の平穏だ」
その言葉を聞いて、彼女は小さくため息をつく。何か悪いことでも言ってしまったのか?と思っていると、こちらにズイの顔を寄せてきた。
「分かってるわよ。ただ、こういう時くらいアンタは肩の力を抜きなさい、と言ってるの」
そう言いながら、俺の胸ぐらを掴むようにして、ヘルメットを小突くオイゲン。どうもこの装備のままいるのが不満らしい。
「……装備したままでは、ダメか?」
「当たり前じゃない。ようやく帰ってきたのに、そこの頭が臨戦体制なのよ?こっちの気が休まらないわ」
オイゲンは、自分の髪を指でクルリと弄りながら、そう言った。確かに、彼女の言う通りかもしれない。だが、それでも。
俺は、今この瞬間もどこか不安なのだろう。いつ、何が起こるのか分からない。それはほとんどの時を戦場で過ごし、常に戦いに身を置いていた弊害ともいうべきもの。
「……」
黙り込んだ俺に、何を思ったのか。オイゲンはそっと手を離すと、ヘルメットを取り上げた。そして正面から目線を合わせ、言い聞かせるように話し出す。
「すぐに変えろとは言わないわ、けどせめて私やニューカッスルの前では、これくらい取りなさい。分かった?」
少し怒ったような表情。だが、その瞳の奥に心配そうな色が浮かんでいた。それが分かるからこそ、俺は小さく首肯する。その返事に満足したのか、オイゲンは笑顔を見せるとヘルメットを俺に渡して踵を返した。
「分かればいいのよ。じゃ、燃料はしまってくるわね」
「……あぁ、頼む」
燃料庫へと燃料を積載した輸送船を先導し、行ってしまうオイゲン。それを見送り、ストーカーを引き連れ工廠の方へと足を向ける。明石に呼ばれている、恐らくは修復中のノースの事だろう。
○○○○○○○○
「……待たせた。どうした明石」
「にゃ…指揮官かにゃ。ヘルメットじゃ無いから驚いたにゃ」
呼んでいた指揮官がやってきた。もっと遅くなると思ってたから、嬉しい誤算だ…もっとも、伝えなきゃいけないことは、嬉しく無いことだけれども…
「このタイタン…ノーススター、だったかにゃ?多分艦隊最初の任務には、修復は間に合わないにゃ…」
そう伝えて、機体を見上げる。マーヴィン達が細かなパーツの溶接をしているけれども、全体の進捗としては三割を超えない。まだ装甲部分さえも付けられる段階にない…
「……そうか…」
あまり表情は変わらない指揮官だったけれど、やっぱりどこか残念そうにしている。
「申し訳ないにゃ…」
「……いや、元々無理を言ってやってもらっている。充分以上だ、ありがとう明石」
そう言って謝る明石の頭を、ポンポンと優しく撫でてくる指揮官。あんなに怖い雰囲気を出すのに、それがまるで嘘みたいな優しい手つき。あったかいそれに思わず力が抜けてしまいそうになるが、なんとか頭を振って抜け出す。
「当然だにゃ、明石は優秀なんだにゃ〜」
そう言って胸を張れば、指揮官は僅かに微笑んでくれる。そうにゃ、いっつもしかめっ面だと損だにゃ。
「……あぁ、分かってるよ。助かっている」
「マーヴィンや饅頭達も褒めてあげてにゃ、皆指揮官の為に頑張ってくれてるんだにゃ」
そんなことを話しながら、修理の詳しい進捗を見せるためにタブレットを渡す。指揮官はそれを見ながら、明石の説明に耳を傾ける。
「………と、いう訳だにゃ。何かあれば聞いて欲しいにゃ」
「……なるほど、特に意見はない。ここからもお前に任せたい」
費用も資源もかなりかかる、という話をしたはずなのに、指揮官は軽く流して明石に任せてくれた。信頼してくれるのは嬉しいけれど、そんな簡単なことじゃないと思うのに…
返されるタブレットを受け取りながら、明石は訊く。仮にも軍事兵器の修復なんだ、ちょっと高い買い物程度じゃ絶対済まない。
「そう言ってくれるのはありがたいにゃけど、本当に大丈夫なのかにゃ…?」
「……使い道の思いつかない口座の大金にようやく使い道が出来たんだ、問題ない」
そう言い切る指揮官に、明石は小さくため息をつく。金銭感覚がおかしい…明石はお金稼ぎは大好きだし、太っ腹な人は好きだけれど、こんなお金の使い方する人初めてだにゃ…スケールが違うんだにゃ…
そんなことを考えながら、任せると言って工廠の奥へストーカーを引き連れて行ってしまうのを見送る。きっと昨日セットしていた建造のキューブを見に行くんだろう、そろそろ建造も終わるはず。
また新しい仲間が増えるのは嬉しい事だにゃ。そんな風に思いながら、ノーススターを直すマーヴィン達や、資材運搬の饅頭達にアレコレ指示を飛ばす。
「さ、今日の分はあと少しだにゃ!みんな頑張るにゃ〜!」
元気のいいピヨピヨという饅頭の声、そしてマーヴィンの機械音声が混ざり合った声が上がって工廠が賑やかになる。フロンティアまでやってきて、こんないい職場に恵まれるなんて…明石はとってもツイてるにゃ。
○○○○○○○○
建造の結果は、なんと潜水艦のKAN-SENが仲間に加わった。鉄血のUボートの一人、U-47と同じくU-557だ。
「ねぇ、指揮官…お部屋は、これで全部…?」
「……あぁ、後はお前達の部屋だな。案内する」
少し会話して分かったのは、557は引っ込み思案な娘で、47はあまり群れたがらない娘だという事。だがどちらも別に仲が悪い、という訳でも他人が嫌いという訳でも無いようだ
「静かな部屋がいいな、私…」
「……部屋は腐るほどある、気に入った場所を選んでくれ」
KAN-SENにも色々な気質の娘がいるんだなと、一人考えながら廊下を歩く。居住区スペースは今はガラ空きだが、そのうちKAN-SENで溢れるようにはしたいと思う…無論、自分に扱い切れる事を前提にしてだが。
それはさておき、潜水艦だ。実にありがたい、初任務で海中からの攻撃も視野に入れることが出来るのは、安心する。まだ駆け出しで絶対的な練度は低い、艦隊として陣形を整えられるかも怪しい程度には先行き不安だ。
そんな中、その艦隊行動に縛られない潜水艦を味方につけたのは大きい。攻撃の支点にするもよし、撤収の支援として魚雷を撃たせてもよし。行動の幅が大きく広がる、これはとても大きなメリットだろう。
彼女らには既に、もうすぐ任務がある旨と、それに同行してもらいたいとは伝えている。二人ともなんだかんだ言っていたが、それは了承してくれた。
「……ここのブロックは全て空き部屋になってる。好きな部屋を見繕ってくれ、そうしたらマーヴィンに掃除を頼む」
「分かった。じゃ、見てくるから」
「行ってきま〜す…」
U-47とU-557は早速部屋の選定に入った。日当たりや景色は部屋に入って見なければ分からない、それを確認しているらしい。そんな彼女達の背中を見送りながら、考える。
今は陣営が少ないが、いずれはもっと多くの陣営が集うことになる。艦隊の規模を膨らませていけば、自ずとそうなるのは目に見えている。
今はこれでいいが、いずれは生活習慣のズレによる衝突を避けるために、居住区は陣営で分けなければならない。幸いにもこの拠点は、拡張と機能拡大を前提に作られている。
少しずつでいいが、この拠点も大きくしていかなければならない。目の前の事を見つめながら、さらに先の事まで見据えなければならない。組織の頭とは面倒な仕事だと、思わずため息が出そうになる。
「指揮官…私は、あっちの部屋…」
「私も決まった。あそこでお願い」
そう物思いに耽っていると、両の手首を引っ張られて意識を戻される。U-47とU-557が戻ってきていた。どうやら、自分の部屋は決まったようだ。
「……分かった、手配する。部屋が用意できるまでは、しばらく執務室でゆっくりしてくれ。お茶でもしよう」
端末を操作してマーヴィンに室内の清掃を指示、それから執務室へ。既に戻っていたニューカッスルに頼んで、茶と菓子を出してもらった。
新たな仲間の話を聞きながら、四人で穏やかな午後のティータイムを過ごす事になった。
だがいつの間にか、燃料庫に燃料を運び終えたオイゲン、整備から戻った綾波と夕張。今日の分の作業を終えた明石に休んでいるはずのロング・アイランドも合流して中々に賑やかな茶会になっていた。
U-47は少し顔を顰めていたが、なんだかんだ言いながら楽しんでいた。そんな彼女らの様子を見て、俺が守るべき景色はこれなんだなと再認識し、来たる初任務に向け準備を進める手筈を整えていた。
・パイロットの所持金について
タイタンフォール2のゲーム内では、戦果に応じて与えられる「クレジット」というものを消費して、武器やタイタンの解放を行えます。主要な武器やタイタンの解放を済ませた後は、基本的に溜まっていくばかりになります。よってパイロットはかなりの金を余らせている、という設定にしました。