Azur Fall   作:Isaac/アイザック

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書きたいところまで書いたので少し長め

ご意見、ご感想はお気軽に


1-2

アズールレーンから言い渡された任務は、ここフロンティアの海での作戦行動だった。こちらはジャンプドライブを使ってコアシステムまで行くものだと思っていたため、少しばかり嬉しい誤算となった。

 

肝心の任務内容は、ロイヤルとミリシアの勢力の一つ『ラストリゾート』の機材輸送の護衛。聞き覚えのない勢力だが…

 

それとは別に気掛かりなこともある。何のつもりか分からないが、ロイヤル側の意向で俺の艦隊が旗艦として割り当てられていた。

 

正気とは思えないが、恐らく俺が使えるのかどうかというのを見定められるのも含めた任務なのだろう。決まったことにどうこう言うつもりは無い。

 

「あなたが、ここフロンティアの指揮官ね!」

「……パイロット、パラドクス。今回はよろしく頼む」

 

今は空母の甲板の上、やけに仰々しい椅子に足を組んで座った、幼い見た目のKAN-SENの前に膝をついている。アレがロイヤルの女王、クイーン・エリザベスらしい。

 

そしてその横には姉妹艦であるウォースパイト、というKAN-SENがいる。目上の上司、ということになるため可能な限り丁寧に挨拶をするが…周りのロイヤル海軍の人間は、ヘルメットも取らない俺に怪訝な目を向けている。

 

「そのヘルメットを取らない事はあの庶民達から聞いているわ!特別に許してやるわ!」

「……感謝する」

 

あの庶民達、が誰を指すかは分からないが、パイロットが基本的にヘルメットを外さないものだという事が周知されているのは大きい。顔がバレると色々と面倒なんだ、知られていないに越したことはない。

 

その後は今回のこの任務が、アズールレーンが俺に対して課した試験のようなものであること。上手く行けばロイヤルからある程度の戦力を派遣することが説明された。そして女王の話は俺から横に控えるニューカッスルに移った。

 

「久しぶりねニューカッスル、災息かしら?」

「はい、ご機嫌麗しゅうございます陛下。何のご連絡も出来なかった事を、お許しくださいませ」

 

そう言って頭を下げた彼女…やはりと言うべきか、女王とは面識があるらしい。当然といえば当然か、自分で元ロイヤル所属と言っていた。そこの指揮官と色々折り合いが合わず、という話だった。

 

「本当に、いっつもフラフラ居なくなるんだから…まぁいいわ、貴女も満足いく主人を見つけられたようだし、特に赦すわ!」

 

満足そうな笑みを浮かべてそう言ったエリザベスに、彼女は恭しく礼をした。

 

「ありがとうございます陛下、これからもどうぞご贔屓に」

「えぇ!所属が変わっても、貴女は大切な部下よ!ロイヤルはいつでも歓迎するわ!」

 

身内には寛大なようだ、そういう組織は長く続く。IMCは規模も力も膨れ上がり過ぎたせいで、度々内部の人間が処刑されていたりもした。俺が奴らを見限る原因の一つでもあった。

 

周りのロイヤル海軍の人間がどうかは知らないが、まだ短くしかやり取りしていない身としても、この女王のカリスマならば大丈夫なのだろうというのが分かった。

 

「では、私達は一度失礼致します。向こう方…『ラストリゾート』の方々にもご挨拶をしなくてはならないので」

 

やがて挨拶も終わったのか、ニューカッスルが会話をそう切り上げた。そしてこちらを向いたエリザベスが、俺を指差し高らかに言う。

 

「分かったわ!…庶民、精々頑張ることね!」

「……あぁ、失礼する。出来うる限りを尽くさせてもらう」

 

立ち上がり、一礼。踵を返して謁見の場から離れる。入れ替わるように俺を睨んだロイヤルの士官が、エリザベスの方へと駆けていった。

 

「…陛下!本当にあんな男を…!!」

 

背中にはそんな声が聞こえてきた。なにやら俺への不満があるらしい。俺への印象が悪くなるのは構わないが、それで仕事に支障が出されるのは困る。もちろん俺の本分は白兵戦、及びタイタン搭乗による対セイレーン戦。直接戦地に出ない奴の目には、俺は異質に写るだろうが…

 

ともかく、戦いの場において下らない感情を捨てられないようなら、そいつは死ぬか、重大な失敗をするかだ。気にせずに俺は俺のすべき事をするだけだ。

 

○○○○○○○○

 

「ドロズ!パラドクスだ!生きてたんだ!」

「おぉ、パイロット!会いたかったぜ!」

 

その後ジップラインを使って、別の艦船にいる『ラストリゾート』なる勢力の頭に会いに向かったのだが…なんとそこには見知った顔が居た。

 

「……ドロズ、デービス…?6-4はどうしたんだ?」

 

フロンティア戦争で、精鋭傭兵パイロット集団6-4に籍を置いていた、ドロズとデービス。まさかの再会に驚いてしまったが、またこの二人に会えたのは素直に嬉しい事だ。

 

だが今回、6-4は作戦に参加していない。なぜこんな所にいるのかと、思わず疑問を先に出してしまった。すると寄ってきたデービスに肩を組まれ、対面に立つドロズがいつもの調子で喋り出した。

 

「ゲイツにゃ悪いが脱退した。やりたいことが出来てな」

 

肩を竦めてそう語るドロズ。仲違いでもしたのかと訊こうとすれば、すぐに肩を組んだデービスが補足を入れる。

 

「と言っても、喧嘩別れじゃないぞ?キチンとアイツとは話し合って、円満に抜けたんだ」

 

相変わらずの息のピッタリさ、戦場でのコイツらのコンビネーションには舌を巻くものがあるが、喋りについても息が合っているようだ。

 

「……そうなのか…なら、今は『ラストリゾート』とやらに雇われているのか?」

 

俺がそう尋ねると、二人は顔を見合わせた後に揃って答えた。

 

「「雇われたも何も、俺達が立ち上げたのがラストリゾートだ」」

 

なんと、会おうとしていた『ラストリゾート』の頭はこの二人だったらしい。

 

「……そう、なのか…今回護衛するのはお前達の荷物、ということになるのか」

 

思わず驚いてしまいそう呟くと、デービスが俺から離れながら戯けたように言う。

 

「じゃあ、アズールレーンの新米指揮官ってお前の事なのか!?」

 

俺を指差すデービス、その肩に手を置いたドロズが続ける。

 

「へぇ、そいつはいい。下手なコアシステムの奴より、よっぽど信頼できる」

「……俺も、ある程度面識のある奴がいて安心したよ」

 

アズールレーン…さっきのロイヤルの士官がそうだったように、コイツらもあまり連中を信用出来ていない部分があるらしい。まぁまだ居なくなっていない俺にすら聞こえるように、ああして不満の声を上げるくらいだ。コイツらも似たようなことをされたんだろう。

 

出身地で人を選り分けるのは、人間の悪い所だ。起こさなくていい対立を生み出し、買わなくていい顰蹙を買う…アレが分かりやす過ぎる、というのもあるだろうが。

 

「お待たせしました、貴方様…あら?」

 

そんなことを思っていると、ニューカッスルがやってきた。俺はジップラインで移動したが、彼女は海の上を経由してここに来た。遅れるとは言っていたが大して待ってもいない、本当に俺には勿体無いくらい優秀だ。

 

そんな彼女の登場に、ドロズとデービスが固まる。珍しく黙り込んだ。かと思えば、二人揃って俺の腕を掴んで詰め寄ってきた。

 

「お、おいおいパイロット!この美人さんは誰なんだ!?」

「いつの間にそんな…!所帯は持たないんじゃ無かったのかよ!?」

 

所帯を持たないなぞ話した記憶は無い上に、さっき俺が指揮官だと話したろうに…そんな様子にクスクスと笑ったニューカッスルが、スカートの端を摘み優雅にカーテシー。

 

「お初にお目にかかります。私、パラドクス様に仕えるKAN-SENにしてメイドを務めさせて頂いてます、ニューカッスルと申します」

 

深々と頭を下げて挨拶をする彼女。それをポカンとした様子で見つめるドロズ達だったが、すぐに我に帰ったのか慌ただしく口を開く。

 

「お、俺はドロズ…ラストリゾートのパイロットだ、よろしく頼む…」

「ハハッ、顔真っ赤だぜドロズ!俺はデービス。よろしくメイドさん!」

 

ドロズはしどろもどろに、それをデービスが揶揄いながら。二人の自己紹介が終わると、ニューカッスルも頭を上げた。

 

「はい、今回はよろしくお願いいたします」

 

にこやかに微笑むニューカッスル、さっきのとは違い和やかな雰囲気で顔合わせを済ませた俺達は、そのまま護衛艦の甲板を歩きながら輸送船の方へと視線をやって話をする。

 

「……それで、アレはなんだ?何を運んでいる?」

 

やたら大きい、高さで言えばタイタンよりも高い。筒のような、そんな形をしている。ああいう機械は、少なくとも俺は見たことが無い。

 

「ハーバスターってんだ。資材採掘用の大型機、ずっと前線だったお前にゃ見慣れないだろうさ」

 

得意げに説明するデービスによればあれはハーベスター、と呼ぶ資材を採掘する機械らしい。見慣れない、ということはフロンティア戦争中も後方にあったものということになる。単に俺の知識不足だったらしい。

 

「俺達は、あれで採った燃料資源やレアメタルなんかを、お前のような前線の指揮官に提供したいと考えている」

 

ドロズがハーベスターを眺めながら、そんな事を言う。海由来の資源が強いとはいえど、採掘により得られる資源の需要も大きい。

 

エンジンや動力には、『エナジーキューブ』というメンタルキューブとは別の海由来のキューブが使われることの多い昨今だが、反対に回路やそのパーツに使われるのは今もレアメタル類の貴金属だ。

 

アレはそんなものの需要を埋めるためのものらしい。胸を張るデービス、それに同意するように頷くドロズ。

 

「それが俺とドロズの新勢力、ラストリゾートだ!」

 

ヘルメットで素顔は見えないが、きっととても良い笑顔なのだろう。そう思うほど朗らかな声で、浮き足立つような雰囲気を醸し出していた。

 

「目的地の本拠の島までコイツの輸送が終われば、あとはドロップシップで各地に運べる。そしたら、お前の艦隊にも資源を回せるぜ」

「……そいつはありがたいな、まだこっちも色々と足りてないんだ」

 

駆け出しの艦隊たる俺達には、まだ人脈も資源も金も無い。今はとにかく、それらをかき集めるため模索の最中なのだ。そんな俺の言葉に、二人は笑う。

 

「そいつはいい、いい得意先になってかれよ?」

「末永くやろうぜ、パイロット!」

 

そう言って手を差し出してくるドロズとデービス。俺はその手を取ろうと両の手を伸ばし–––––

 

《庶民!セイレーンよ!》

「……ッ!?」

 

…それを掴む前に護衛艦を爆音と衝撃が襲った。崩れた姿勢をすぐに整え、海を見渡せる甲板の端まで走る。前方から右翼にかけて半円状に、こちらを包囲しているのはセイレーンの量産艦…形からして駆逐艦・pawn級。

 

さらにこちらを目掛けて突っ込んでくる自爆ボートの大群、間違いなく敵の襲撃だ。ニューカッスルが彼女に預けていた俺のヘムロックをこちらに投げ渡しながら、艤装を展開した。

 

「貴方様、指示を…!」

「……艦隊総員、戦闘配置!こちらに接近する駆逐艦、自爆ボートを優先して攻撃せよ!」

 

すぐさま安全装置を解除、コッキングして装填した初弾をすぐに自爆ボートが積載する爆薬に向け発砲。

 

「おぉ、やるなパイロット!」

「言ってる場合かデービス、アイツらを撃ちまくれ!」

 

ドロズとデービスも愛銃であるL-スターを遠慮なく薙ぎ払い、次々とこちらに辿り着き自爆される前に処理していく。

 

自爆ボートは歩兵の火力でも、爆薬の誘爆でどうにかなる。撃って近づくそれらを落としながら、潜水艦隊の二人にも無線で指示を出す。

 

「……U-47、U-557!俺の艦隊の後方で待機、追って指示を出す!」

《分かった。557、行くよ》

 

空になった弾倉を捨て、すぐに次の物を入れる。落としたものもフェーズ技術で回収されるため、気にせず射撃を継続する。

 

だが、まずい。奇襲だった為か統制が全く取れていない、ロイヤルの艦隊が各々迎撃をしているが陣形が崩れている。そこにつけ込まれると、ハーベスターを落とされる可能性が高い。

 

現にまともに指揮を取れず、回線が非常に混乱している。喚き散らすだけの指示が、指揮系統を乱して混沌を呼び込んでいる。俺は撃ちながら、余計な通信一つ一つをヘルメットの機能で切りつつ、女王に通信。

 

「……ッ、エリザベス!早く陣形を整えさせろ、落とされるぞ!」

 

KAN-SENはいい、彼女らは海の上を行ける。だが俺達パイロットや士官は人間だ、海に落ちたら成す術もなく溺れ死ぬだろう。

 

《今やってるわ、焦らさないで頂戴!ウォースパイト、そっちの方は大丈夫かしら!?》

 

向こうもダメそうだ、俺達の艦隊が一刻も早く敵を排除するか、混乱を打ち消すだけの何かがいる…考えろ、思考を止めるな。もし思考を止めればその瞬間に死が待つ。

 

何かないか、チャージライフルは持っているが、決定打にはならない。セイレーンの人型でさえ、仕留めるのに数発いる。こんな混乱の最中、100m超の遠方の仲間がいる状況で仕留める自信は正直ない。

 

もっと精度を、何か士気の上がる一手が…

 

「………そうか…ドロズ、デービス!」

 

ある、あった。俺達パイロットに許された、逆転の手段。動揺さえも、劣勢さえも覆せると自陣を鼓舞する…最大の手段がある。

 

「なんだパイロット!こっちは的当てで忙しい!」

「外したらヤバいんだ!手短に頼むぜパラドクス!」

 

敵から目を離さないドロズと、叫ぶ割には余裕そうに片手を上げてこちらを見るデービス。そんな奴らに俺は一つ問いかける。

 

「……この艦隊の艦艇のどれか、どれでもいい。タイタンフォール、可能か?」

 

タイタンフォール。戦地にパイロットの半身とも言える、タイタンを直接降下させる手段。成層圏に上げたタイタン建造用のシップから、直接戦場へと戦力を送り込む荒技とも言える手段。

 

「…そうか、その手が…!」

「ドロズ!ボーッとするな!」

 

一瞬射撃をやめてしまったドロズの隙を、デービスがカバー。本当にいいコンビだ、流石元6-4。迎撃の射撃に戻ったドロズ。撃ちながら奴が答えた。

 

「ロイヤルの女王サマと、お前が会った空母。ありゃ量産型の装甲空母というらしい、恐らくフォール可能だ!」

 

なるほど、それなら…希望はある。俺が受けた仕事だ、俺が受けた以上最大を尽くす。

 

「……エリザベス!聞こえるか!?」

《さっきから不敬よ庶民!まぁいいわ何かしら!?》

 

女王に連絡を入れる。どうやら呼び捨てが気に食わないらしいが、言っている場合ではない。

 

「……その空母、甲板から人員を退避させろ!そうすれば俺がどうにかする!」

 

時間がない、だが確証がある。うまく行くと断言する、タイタンさえ有れば、それだけの力が発揮できるだけの自信と確信がある。

 

《…ッ!本当ね!?本当にどうにかなるのね!?》

 

女王からの問いに、俺は一言答える。

 

「……あぁ。信じてくれ」

《……分かったわ、すぐに指示を出す!貴方も準備しなさい!》

 

通信が切れる。さて、空母は護衛艦をもう一つ挟んだ先。どう行くかだが、これは一応考えがある。

 

「……ニューカッスル、海に降りてくれるか?お前の艤装に、コイツを掛けて海を渡る。やれるか?」

 

ニューカッスルの方に視線をやり、右手を上げる。所定の動きをさせれば、腕についた装備からフック付きのワイヤーが飛び出す。

 

パイロットアビリティ、グラップル。本来は高所や、建造物の間を素早く移動するための物だが、使い方次第じゃ横移動も伸ばせる。

 

「はい、お任せください…!」

 

胸に手を当て、一礼したニューカッスルは、軽やかに海へと降りた。さて、俺も準備しよう。速攻で行く…一瞬たりとも、気は抜けない。

 

 

○○○○○○○○

 

《あぁクソッ!とにかく近づかさせないでくれ!こっちが沈んだら終わりだ!》

 

「クッ…!」

 

突然のセイレーンの襲撃、大混乱に陥ったロイヤル艦隊。飛んでくる指揮官からの指示も、要領を得ない大雑把なものだけに。それだけ撹乱されてしまっているというのは分かりますが、そんな具体性のない指揮ではこちらとしてもやり辛い。

 

なんとか自爆ボートを沈めていくが、そろそろ限界が近いのを感じます。攻めるでも、きちんと範囲を決めて守るでもありません。陣形の指示や砲撃、雷撃のタイミングさえも自己判断に委ねられています。

 

「ベ、ベルファストさん…!もう、ジュノーちゃんが!」

 

なんとか一塊になって迎撃をしていたJ級駆逐艦のジャベリン様、ジュノー様の疲労と損傷がもう限界…このままでは…

 

「ベルファスト、大丈夫ですか…!?」

 

「ニュー、カッスルさん…しまっ!?」

 

次の波を凌ぎきれるか、そう思いながら主砲を構えましたが、次の瞬間には自爆ボート群が薙ぎ払われました。掛けられた声に目を向ければ、私にメイド隊を任せていなくなってしまった筈の方が。

 

驚いた私は、思わず艤装を下ろしてしまいました。それは致命的な隙、速度を上げて突っ込んでくる自爆ボートを前にしてする事ではありませんでした。

 

《……下がれ!》

 

しかしどの指揮官のものか分からない咄嗟のその指示のお陰で、弾かれたように身体が動いたのを感じました。その瞬間、護衛艦の方からの射撃…砲撃ではなく、射撃が自爆ボートを誘爆によって粉砕したのです。

 

「ふぅ、危なかったですね…ありがとうございます、貴方様」

《……そっちが無事ならいい。とりあえず合流する、頼むぞ》

 

ニューカッスルさんのお礼に答えたのは、聞き覚えのある声でした…あの新米指揮官にも関わらず、今回護衛艦隊の旗艦を任された、あの『パイロット』というここフロンティアでの上級兵士の方の声でした。

 

「はい、位置はこの辺りでよろしいですか?」

《……あぁ、ちょうどいい。今そっちに行く…!》

 

その通信の後、護衛艦の方から何かが飛んできた。腕から出したワイヤーをまるで振り子のように使い、こちらに向けて思いっきり跳躍したのは、あのフルフェイスのヘルメットが特徴のパイロット…

 

そんな常識外れの光景に思わず唖然としてしまうと、こちらに飛んできながら彼は手に持つ小銃を撃ち始める。そして、爆発音。その銃口から放たれた銃弾が命中した場所から次々と自爆ボートが爆発していきます。

 

あんな状態での射撃だというのに、まるでそんなことを感じさせないような命中精度…これが…フロンティア最強と名高いパイロットと呼ばれる兵士…!

 

そんな彼は一度射撃をやめると、ニューカッスルさんに向けてワイヤーを射出した。何をするつもりかと思わず構えてしまったが、彼女は艤装をそのワイヤーを受け止めるかのように構えました。

 

《……いい位置だ、助かる》

「そちらにある護衛艦までならっ、届くかと…!」

 

そして受け止め、ワイヤーが張られたままその場で楔のように彼の振り子運動の軸になり、パイロットを護衛艦の側面まで飛ばしてしまったのです。

 

なんてメチャクチャな…一つでも間違えれば海に落ちてしまうというのに…完全にニューカッスルさんを信頼して、曲芸じみた立体軌道で護衛艦の側面に腰のジェット装備で張り付いた。

 

「……おい、お前達の指揮はどうなっている?」

 

そんな常識外れの事をしたにも関わらず、それをまるで感じさせない口調に思わず返答が遅れてしまいますがなんとか返すことができました。

 

「あ、はい…具体的な指示はなく、ただ自爆ボートを近づけるなとしか…」

 

そう答えると、少しの間黙った彼でしたが…すぐに護衛艦の甲板まであのワイヤーで上がっていきました。

 

《……次飛ぶまで、リキャストが約40秒ある。その間は俺とニューカッスルで持たせる、少し息と陣形を整えろ》

 

そう言った彼は、射撃を開始。ニューカッスルさんもそれに合わせて、彼のカバー出来ない場所の自爆ボートに対応し始めました。

 

《……左を頼む、右は俺が》

「はい、貴方様」

 

しかし、なんでしょう…先ほどまでの焦りが嘘のようです。あの人一人とニューカッスルさんが来てくれただけで、こんなにも心強くなるものなのかと思いました。

 

「す、すごいです…これなら、少しは落ち着けますよベルファストさん!」

 

ジャベリン様がジュノー様を支えながら、感心したようにそう言いました。確かに、今の今まで全く余裕がなく、休む暇もなく戦っていた私達にようやく一休み出来る時間が出来ました。

 

私も正直、驚きを隠しきれません。まさか、ここまでこの方が頼りになるとは…もちろん私達の従う指揮官が使えない等という気は毛頭ありませんが、たった一人でここまで私達KAN-SENを鼓舞するなんて…

 

《……おい、そこの…メイド…何と呼べばいい?》

「は、はい…!ベルファストと申します!」

 

などと思考していると、いきなり名前を聞かれました。咄嗟に間を開けないように、簡潔に名前だけ。すると彼は射撃を継続しながら答えました。

 

《……そうか…ベルファスト、今から言う事をよく聞け。何度も説明する余裕は無い、一度で頭に叩き込んでくれ》

 

突然言われた言葉に思わず固まりそうになるが、その瞬間に聞こえてきた爆発音に意識を引き戻される。

 

《……この自爆ボート群、ある程度パターンが決まっているようだ。もちろん完全ではないが、大方のパターンは分かった》

「っ!それは、本当ですか!?」

 

思いもよらない言葉に、上を見上げてしまいますが、やはり彼は目の前のボートを落とすことに集中しているのかヘルメットの目線はこちらに向きません。

 

《……あぁ。まず–––》

 

襲撃からまだそれほど時間は経っていないのに、彼が話すそのパターンは目の前で沈められる自爆ボートを見ていると、かなりの精度だった。

 

《–––––という訳だ、分かったか?》

「…はい、完璧に記憶致しました。助かります」

 

数瞬の間に脳内で伝えられたそれを反復し、そして頷いて彼に返します。これで少しは楽に…とまではいかないが、余裕を持って相手に出来るはず…そう思った矢先、彼はこちらを向いて言いました。

 

《……よし、では少しの間任せる。すぐに俺がどうにかする…ニューカッスル!》

「はい、貴方様…!」

 

再びニューカッスルさんを呼んだ彼は、またさっきの要領でワイヤーを使って大跳躍…量産型イラストリアス級の方へと行ってしまいました。

 

「はぁ…規格外、ですね……」

「うわわ…あんな無茶苦茶な動きをしてるのに、全然平気な様子でしたぁ…」

 

思わず呟いた私の言葉を拾ったのは、ジャベリン様でした。彼女も私と同じように彼の背中を見つめています。

 

「えぇ…とんでもありません…これがフロンティアの上級兵士の力、ですか…」

 

実際に見るまでは、あくまで誇張された噂だとしか信じていませんでした。壁を走り、家屋よりも高くを行き、そして敵を殲滅するエリート…そんなものは物語の中でしかあり得ないと。

 

しかし、現実はそんな話よりもずっと凄まじく、鬼気迫るものでした。まさに最強、真にエリートと呼ぶに相応しいまでの戦闘能力、判断力。

 

「ね、ねぇジャベリンちゃん…アレは何?」

 

しかし、驚きはそれに留まりませんでした。ジュノー様が指を差したのは…空でした。

 

「な、何あれ…?ベルファストさんは分かりますか…?」

「いえ…彼の持つ兵器、なのでしょうか?」

 

 

そこには一筋の流星のような、そんな光が落ちてきている様が見てとれた。それが何なのかは分からないが、それが彼の向かったイラストリアス級に向けて落ちているというのは分かった。

 

《……明石、助かった。これでどうにかなる》

《お安い御用にゃ、ノーススターは無理にゃけど、他の機体なら出来るにゃ》

 

ここにはいない彼の指揮下のKAN-SENと彼の声が、オープンな回線から聞こえる。あれはやはり彼の仕業らしい…他の機体と言っていた…ということはあれは何かの機械?

 

《さぁ、ロイヤルの皆さんも刮目するといいにゃ》

 

どんどんそれは近づくにつれ、何か腕と脚を持つロボットのようなものだということがわかった。思わずその光景から目が離せなくなってしまう。

 

《タイタンフォール、スタンバイ!》

 

その瞬間、ロイヤルの誰もが息を呑んだ。イラストリアス級のその甲板に、戦場に…勝利と死を運ぶ鋼鉄の巨人が、悠々と舞い降りたのだから。

 




・グラップル
パイロットアビリティの一つ。腕からフック付きのワイヤーを射出し、それをジャンプキットのジェットを使いながら巻き取ることで高所への移動や、ウォールラン中の進路転換などに応用できる。ゲーム内では地面に刺して跳ぶことで、さした場所を軸に高く跳び上がれます。今回パイロットはその応用で艦船を渡っています。

・タイタンフォール
ゲームタイトルにもなっているタイタンフォール。(恐らく)成層圏辺りから、タイタンの機体を降下させるという荒技チックな輸送法。着地の衝撃は、タイタンくらいなら問答無用で破壊する程度の威力はある模様。
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