虫のような巨体から繰り出される攻撃。
二人で互いにヘイトを取り合い、狙われてない人と遠距離の人が狙うシンプルな作戦。だが___
「______きゃっ!?」
無意識に張られたシールドが避けられなかった攻撃を反射的に防ぐ。
だが、キャンサーという巨体から放たれる攻撃は自分の軽い体を吹き飛ばすには十分すぎた。
「大丈夫か?」
「ご、ごめん」
飛ばされた自分を受け止めたメガネの少女に頭を下げて、態勢を立て直す。
「まだ戦える」
再度、キャンサーに対してダガーを構える。
...先ほどはデフレクタと呼ばれるシールドで防御することが出来た。だがそれにも限界がある。
(大丈夫。残量に余裕は、ある)
キャンサーは一体のみ。
ボドドドゥー系少女は危なげなく回避しながら的確に攻撃を入れている。メガネの少女も、前衛のであるボドドドゥー系少女に当てないように一発一発弾を撃ちこんでいる。
このままいけばキャンサーは倒せる。
自分などいてもいなくても関係なく、眼前の戦闘は終了するだろう。
(自分は...何をしているのだろうか)
戦いたいわけではない、死にたいわけでもない。
でも、この戦いで何か役に立っただろうか?
「本当に大丈夫か?」
いつの間にか戦闘は終わっていたらしい。心配そうな表情をした二人がこちらの顔を覗いているのが見えた。
「いきなりの戦闘なんだ。ダメそうだったら教官に言った方がいい」
「大丈夫だから、心配かけてごめん」
「おいおい、大丈夫かよ」なんて言うメガネ少女の言葉を聞き流しながら深呼吸する。
「不味いな、ここの空気」
「確かにな。湿っぽくて埃っぽい、なるべく長居はしたくない場所だ」
それなりに放置されてきたからか、苔や水漏れ部分からは湿った匂いが来るし、風が吹けば埃やら砂が舞って咳をしたくなる。
「___ここに前まで人が住んでたんだよな」
誰が言ったか、その言葉に唾をのんだ。
キャンサーによって、人のいたはずの場所がここまで人に適さない場所になった。
そして今、この場所を取り戻せるかどうかが自分たちの手にかかっている。
その現実は、自分が考えていたよりも重くのしかかっている。それを今、実感している。
「いたぞ、新手だ」
メガネの少女が言えば、全員が同時にその方角を見る。
数十メートル先、キャンサーが二体こちらに向かって歩いてきているのが見えた。
「二体か...どうする?」
「あたしが「自分に片方相手させて」...大丈夫か?」
心配そうな目で見てくる二人。
無理もない、先ほどの戦闘ですぐにリタイアした人間が時間稼ぎだなんて無理だろうという心配は理解している。
だが、それでも自分が時間稼ぎをする利点の方が大きい。
「相手はさっきの奴とは別のキャンサー。だったら時間をかけて二体を倒すよりも一体一体を短時間で狩った方が危険性は減るはず。
...それに二人が速攻で片方倒してくれれば安心」
「おうさ、あたしたちが組めば秒で倒せるね」
「いや待て二人とも、簡単に言うがあたしたちも戦いは初心者だ。ここは各個撃破より全員でサポートできる場所で戦った方が安定する」
「「確かに!」」
盲点だった。慣れていないせいもありその考えが浮かばなかった。
戦いとはチーム戦だ。誰かが動くよりも、誰かと動く方がいいに決まっている。
「前衛は二人に任せる...が」
「?」
何か言いたそうにこちらを見るメガネ少女に首をかしげる。
「いや、そういえば名前聞いてなかったと思ってな」
「あ、ほんとだ」
自分の中では彼女らが名前以上のイメージで固まっていたせいで気にしていなかったが、確かに自分たちは互いに自己紹介をしていない。
それでは流石に今後ともよろしく!と出来ないから自己紹介はしっかりした方がいいだろう。
「自分は湊本、
少し不安になりながら言う。
「あたしは
「メガネのツッコミ役違うわ!...
茅森月歌、和泉ユキ。その二人の名前を記憶に書き残す。
「さて、作戦だがさっき同じで茅森と湊本が前衛...ん?茅森、月歌...?」
「いや、今はそれどころじゃないな」と誤魔化す様に和泉さんはそのまま話を続ける。
「あくまでもあたしたちは初心者だ。デフレクタが危険になったら周りに声をかけて後ろに下がること」
そう言って和泉さんは確認を取る。
前衛として戦える自信があるか、と聞かれれば「ない」と答える。
先ほど戦ったキャンサーでさえ弱い方の個体だ。それなのに自分は、戦えなかったのだから。
「大丈夫だよみなちゃん」
「み、みなちゃん!?」
「うん、湊本―って呼ぶよりはいいだろ?」
気が付けば茅森さんが肩に手を置いて、勝手に付けたあだ名で嬉しそうに話してきた。
その行動に和泉さんもお手上げだと言わんばかりに手を上げているのが横目で見える。
「もしみなちゃんがやられそうになったら、あたしたちが助けるから。
だから、あたしたちがやられそうになったらみなちゃんが助けてよ」
「...茅森さん」
近づいた彼女の瞳が、自分を見ている
約束をするように、願うように思えるその言葉。だからこそ今、自分は約束する。
「自分と約束を「話の途中で悪いが二人とも、来るぞ」___っ!」
「行くぞ皆!」
茅森さんの掛け声とともに走りだす。
敵は先ほどまで少し遠くで動いていた二体のキャンサー。こちらを認識したのか走ってきているのが見えた。
「予定通りいくぞ。
茅森、湊本。前衛を頼む」
「「了解!」」
和泉さんが足を止めて射撃体勢に入ったのを確認してから、茅森さんと左右に分かれる。
(やっぱりデカい)
先ほどとは異なる緑色の何かを付けた敵。
改めて対峙して実感する敵への恐怖。
それ以前から恐怖がなかったと言えば嘘になるが、自分たちがこれから戦う存在がいかなる存在なのか。それを考えると足がすくんでしまいそうになる。
(来るっ!)
最初に相手したキャンサーとは違い、その行動速度は遅く鈍い。
「まずは一発!」
イメージするのは茅森さんがしていた動き。
攻撃を避けてすれ違いざまに足を斬る。それだけの筈なのに、自分では外殻に邪魔されて浅い斬り込みしか入れられない。
「もう一発っ!」
そのままの勢いで後ろに付く。
キャンサーは多脚。旋回速度は二脚よりも遅いはずだと、そう願いながら地面を蹴る。
踏み込み、速度、バランス。
全てが嚙み合った攻撃はキャンサーに傷を与えるには十分すぎた。
斬られた部分から消えていくキャンサーに安堵の息を吐く。
(勝てた...? そうだ茅森さんたちは!?)
戦闘時間は数秒。
勝てたという実感が湧かない勝利。だが、今は勝利を喜んでいる場合ではない。
周囲を見渡せば、戦闘をしている茅森さんたちを見つけた。
有利にことが進んでいるのか、危なげなく戦っている二人は安定したコンビなのだろう。
ならば今、自分のすべきことは自分で考えなければならない。多分、今はそういうことなのだ。
(なら二人の援護を)
援護に入るまでもなく終わりそうな戦闘に参加する必要はないかもしれない。
でも、それを理解していても自分は二人を助けたい。
「援護します」
茅森さんの攻撃に合わせる様に、キャンサーの背後から一撃を入れる。
(思ったより硬い!?)
先ほどのとは違い硬い外殻で覆われた身体にダメージを負わせることは叶わなず、有り余った勢いで体勢を崩す。
「みなちゃん危ない!」
体勢を崩した自分に攻撃を仕掛けてくるキャンサー。
それを邪魔するように茅森さんが外殻を切り裂いた。
「湊本、そいつは強敵だ! 一度こっちにこい!」
追撃と言わんばかりに砲撃を撃ち込む和泉さんの横に逃げる。
「ごめん。結局助けてもらっちゃった」
「いや、こっちのセリフだ。おかげでヤツの外殻は削りきったからな」
「え、凄い」と言う自分に和泉さんは「お前が来なかったらもっと時間がかかっていた」と笑う。
少しは助けになったという現状が、自分にはとても大きなものに感じた。
「和泉さん、自分に考えがあります」
気合を入れる。
まだ戦いは終わっていないのだから、自分のやれることはまだある。
「自分が囮になります」
「本当に、大丈夫なんだな?」
死ぬつもりはない。
その意思を汲み取ったのか、提案をのんでくれた和泉さんに心の中で感謝する。
「行きますっ!」
全力で地面を蹴り、身体を加速が襲う。
かろうじて自分で扱いきれるほどの速度は、少し気を抜くだけで暴走してしまいそうだ。
でも___
「___これでっ!」
速度を生かした陽動。
擦り傷程度しか入らない攻撃だが、それでもキャンサーはこちらに気が向いている。
「茅森さんっ!」
「任せろ!」
まさに連携だった。
キャンサーの後方から、茅森さんの攻撃が直撃した。
「二人とも下がれ!」
瞬時に和泉さんの声がし、共に二人が下がれば、倒れ込むキャンサーのいる場所に砲撃の雨が降り注ぐ。
「よし!」
消えてゆくキャンサー。
撃破の証明であるその現象を確認して、自分たちはハイタッチをした。
戦闘時にギャグが入れられない...反省