遠くから虫の声が聞こえ始める春でも、そこそこの冷え込みで体を震わせるには十分な寒さである。
「すみません、遅れました」
高橋さんと話して十数分。
そろそろ一度連絡を取ろうと思ってきたところで、広場の外から声が聞こえた。
「ようやく来たか...これで飯食いに行けるな!」
と、言ったのは高橋さん。
現在時刻を確認しながらその言葉に同意して、到着した残りの三人に視線を向けた。
「途中で
そう言いながら声の主、小さな少女の足元に付いている機械に視線を向ける。
動くたびに駆動音を出しながら曲がる機械は、足にくっついているのだろう、足と同期して同じ動きをする。
「え、ナニコレ?」
「パワードスーツです」
「は...?」と声が出た。
先ほどまで話していた高橋さんも同様で、目を点にしてこちらを見ている。
「と言っても、これはパワードスーツよりも歩行補助の機械ですね。まだ実験段階ですから」
「え? ...え?」
(ぱわーどすーつ...?)
そう思うのは自分だけではなかったようで、隣の高橋さんも頭の上に疑問符を浮かべている。
「知貴、普通はそんな風に言われてもピンとこないだろ?」
「しかしそれ以外の表現方法はないですよ。 我々の提出した資料も結局パワードスーツで通してしまいましたし」
後ろにいたメガネをかけた女性が言えば、知貴と呼ばれた少女は困ったように頬をかいた。
「と、とりあえず、お互いに自己紹介しませんか? これから同じ31Sのメンバーですし」
「そうしましょう。 ぼくは知貴、
「自分は湊本舞。こちらの黒髪の子が高橋悠奈で、白い髪をしたのは」
「___霜山颯だ」」
「ホいつの間に!?」
いきなり後ろから声がして、驚いた自分に彼女は「さっきから起きていた」とジト目で言った。
本当にいつの間に起きていたのだろうか。気が付いたら後ろにいるというポル〇レフ体験をしたような気分になりながらも、一拍おいて話を続ける。
「そちらのメガネの方は?」
「あたしか。あたしはエル・ハーシェル。同じ部隊だ、気楽にエルとでも呼んでくれ」
その長い茶髪を揺らしながらこちらに手を差し出す彼女は、メガネも合わさり知的で年上に見えてしまう。
勿論、見た目で判断するなどあまり褒められた行為ではない
しかし、海外の人なのだろう。 日本人とは異なる外見である彼女に対するイメージは、すっかり年上として固まってしまっていた。
「では自分も舞と、親しい人にはそう呼ばれていましたから。
...ところでもう一人の方は?」
そう言いながら二人の影に隠れている最後の一人に視線を向けた。
包帯のようなものを身体に巻き付けているその見た目は、一瞬怪我をしているのかと心配になるがよく見ると血が滲んでいるようなことはなく、巻き方も緩めになっている。
おそらくファッションで巻き付けているのだろうが。
(なんで巻き付けているの? と聞くのは野暮なのかな)
一部一部に巻き付けられているチェーンがそれを物語っている。
電子軍人手帳を身体につける際の固定具もすでに弄られており、ジャラジャラな銀の鎖が街灯に照らされて眩しい。
「クックックッ...ようやく我が出番のようだな!」
そう言いながら片手を大きく振り上げて、謎の動きをした後に天を指さす。
何度も行った行動なのだろう。 一連の動きには慣れを超えた武術の型に似た何かを感じさせる。
「我が名は
「「「「・ ・ ・」」」」
「___何か言ってよっ!?」
「いや、何かって」困惑を隠さず呟く高橋さんを、横から霜山さんが小突いているのを横目に比良坂さんを見た。
折角の名乗りへの反応が薄かったのか。オドオドとした反応をしている彼女の特徴はやはり、そのわざとらしく巻かれた包帯だろう。
中二病...そう呼ばれる古くから伝わる病、きっと彼女はソレを患っているのだ。
(>そっとしておこう)
脳内の選択肢が答えを出したところで現実に意識を戻す。
「とりあえず全員そろったから部屋に行こうか」
「待ってなんでみんな全然反応してくれなないのぉぉぉ____!」
後ろから聞こえる悲痛な叫びから、自分たちはは目をそらすことしかできなかった。
______________________
「___もうヤダ、死にたい」
そう呟く彼女に罪悪感を覚えながら進む先は、自分たちがこれから暮らすことになる部屋。
曰く部隊それぞれに割り当てられたものらしく、他部隊同様の一部隊一部屋の編成らしい。
「ここが31Sの部屋かな」
建物通路の真ん中あたりだろうか?
地形的に比較的出入りしやすいのは助かるが、それはきっとこの部隊が多忙だからこそなのだろう。
中に入れば二段ベッドが三列に、何の装飾もないシンプルな部屋と積み上げられた段ボールがお出迎えする。
「よし! 飯食い行こうぜ!」
「寝るか」
「機械の整備をだな」
「待て知貴、その前に道具のチェックだ」
「...もういいやふて寝しよ」
「その前に持ち物チェックだよ」
「「「「「えぇー」」」」」
「えぇー、じゃないわ」
不満そうに全員がこちらを見る光景に思わず笑いながらやるべきことを確認する。
「とりあえず全員、部屋に置かれたものが全部あるかの確認をすること」
非常食、飲料水、ライトetc...
災害用のセットから現在支給されている衣服の替えなど、確認すべきものは多くあった。
「確認しないとご飯にも食べに行けないからね」
「よし! みんな早く確認するぞ!」
「そうそう、それくらいやる気を出して___」
「___終わった!」
「って、はやっ!?」
満足そうに頷く高橋さん。
「え、本当に確認終わったの...?」
「しっかり確認したぞ。 衣服も非常食なども全部ある」
「何なら確認するか?」とバッグを開いて確認させようとするのを拒否しながら、全員に確認を促しつつ自分も確認作業を急いだ。
...
___数分後。
「全員、確認終わったかな?」
確認のために声をかければ全員が頷く。
「時間もいい感じだし、そろそろ夕ご飯に行こうか」
「ようやくだ―っ!」
「...あはは」
オーバーな反応をする一人に笑いながら、予定を確認する。
夕ご飯を食べ、その後は各自風呂などの自由時間。そして日付が変わる前に就寝。
これが、本日残り時間の大まかな予定だ。
(これから話さないと、か)
31S部隊の
自分たちがこれから行う作戦の重要性を、彼女たちに伝えなければならなないし、納得させなければならない。
自由時間が若干ある。
本来はあそこで戦闘などなかったのだろうから、もっと時間があってそれぞれの部隊での交流を深めるはずだったのだろう。
(...もう少し時間があれば)
あまりにもできたタイミングでのキャンサーの襲撃を思い出して、窓の外を見た。
日が沈みかけているのか若干暗い外を。
決して街が見えるわけではない。 何かに違和感があったのだ。
「大丈夫か? 舞」
「え、あ、うん。 大丈夫」
気が付けばエルが目の前で心配そうな表情をしていた。
「キミが私たちの部隊長なのは状況から理解している。
ただ、一人ですべてを背負い込む必要はない。 それだけは伝えさせてくれ」
まっすぐとこちらを見つめるその瞳をこちらに向け、自分を正面に捉えて話す彼女の言葉にはどこか説得力がある。
「あたしもお腹がすいたのでな。 先に失礼させてもらう」
返事を言う前にエルは廊下の先へと歩いて行った。
...残った自分は、一人で薄暗い廊下に立っている。
みんなも先に食堂に向かったのだろう。
グゥゥゥ、っとお腹のなく音が聞こえた。
出撃により食べるタイミングを逃していたのだ、お腹が鳴るのも無理もない。
(自分も行くかな)
『本日入隊をされた皆様はカフェテリアにお集まりください。 夕飯の用意が出来ています』
歩き出そうとしたところでタイミングよくアナウンスが流れた。
______________
大きな建物、広い室内。
高い天井からぶら下がるライトが、優しく自分たちを照らすこの場所。
これから自分たちが毎日食事をすることになるであろうカフェテリアに着けば、
「席、取っておいたから」
と、全員分丁度の椅子のある席でこちらに話す霜山さんと、その目の前に置かれた刀削麺が視界に入った。
「ありがとう、他の人は?」
「多分選んでるんじゃない?」
素っ気ない反応をしながら刀削麺を食べていく光景を見ながら、カフェテリアの先に置かれた豪華な料理に視界を動かす。
(食べ放題形式なのか)
煌びやかに配置された料理は、今が人類の危機だとは思えないほどに多い。
勿論、これから自分たちは人類を守るために戦うのだからいい食事くらいは出来ていいだろう。いつ死ぬのか分からない身なのだから、それくらいの贅沢は許してもらいたい。
(...だけど妙ではある)
食べ放題、ソレは多少なり廃棄が確定するものだ。
それを出すというのはいくら新入隊員をお出迎えするための食事だとしてもやりすぎだと思う。
(とりあえず、何があるのかな)
折角の食事。考えるだけで何も食べないのは勿体ないと料理の置かれている場所に歩いていけば、少し遠い窓際に見慣れた数人が見えた。
(あ、茅森さんたちだ)
二人ほど見たことのない顔が見えたが、それはおそらく残りの31Aの部隊員なのだろう。
挨拶をする前に分かれたからそこらの状況はわからないが、少なくとも仲は悪くなさそうだ。全員が全員楽しそうに話しているのが遠くからでも見て取れた。
(挨拶は、明日以降でいいか)
今は部隊同士での親睦を深めるべきであって、他部隊とのかかわりは今取るべきものではないだろう。
実際、自分も今優先すべきなのは31S部隊全員にこの部隊の役割を説明と仲を深めることなのだから。
「舞さん、来ないから心配してましたよ」
「すいません、ちょっと考え事してて」
後ろからお盆に食べ物を乗せて持ってきた嘉山さん。
「嘉山さんはカレーなんだね」
「うん、安価で量も作れてアレンジも利く。 昔からカレーだけは嫌いになれないよ」
「あー、一人暮らしとかだと重宝するらしいもんね」
「...だからから、気が付いたら自然とカレーを選んでしまった」
そう苦笑いをしながら彼女は取られた席に移動していった。
(刀削麺...カレー...)
ゴクリと、つばを飲み込んだ。
真逆のジャンルの料理に、いったいどれほど料理の種類があるのかと期待に胸を膨らませる。
「おぉ!」
思わず声が漏れた。
そこにあるのは料理の列。
食べ放題というのは知識のみで実際に行ったことはないが、おそらくそれらを凌駕するであろう種類、そして量。
「...焼き鯖」
ポツリと端の方に置いてある焼き鯖がその脂身を神々しく輝かせながら食べてほしそうしている。
(でも今は鯖の気分ってわけじゃないから)
そう思い別の方向に視線を向けようとして見るが、何故だろう? 視界の端には先ほどの鯖のきらめきが見えて仕方がない。
かと言って真逆の方を見てみれば鯖の匂いが鼻を襲う。
「___はぁ」
諦めのようなため息とともに、輝く鯖の方に足を進めた。
三章進めないと...進めないと...エルデンリングアッアッアッ