そして多分次回も遅れます!(`・ω・´)ゞ
day1 早朝
「...朝、か」
少し眠気の残る体を起こしながら、目を擦る。
とても嫌な夢を見た。そんな気がする
具体的な内容は覚えていなかった。
それでも、あの夢のような光景は二度と見たくないと心から言える、そんな夢を。
(...あれ? 霜山さんがいない)
立ち上がってベッドを見てみれば、霜山さんの姿が見えなかった。
(どこ行ったんだろ?)
高橋さんが言ってた通りにどこか行ってしまうのか、と驚いた。
時刻はまだ4時。
起床時間にはまだ早いが___
(__探しに行こう)
外はまだ肌寒い。
ハンガーにかけてある自分の上着に手を伸ばして身に纏った。
こういう時は特に自分の服であるスカートが丈の長いもので良かったと心から思う。
「寒いっ!」
音を立てないように外に出れば、春になったばかりなのに寒い外の空気が出迎えた。
暖かくなるように腕を服の上から擦りながらあたりを見渡しても、霜山さんらしき姿は見当たらない。
それどころか人一人見当たらない現状に眉をひそめる。
「こんな寒い時間にどこいるんだろ?」
当然の疑問だ、と自分で肯定したかった。
誰も好き好んでこんな寒い時間帯に外には出ない、そう思いたかったが実際に霜山さんは外にいる。好き好んでこの時間帯に外にいるのだから肯定できなかった。
(でも、なんでこんな時間帯に外に...?)
お店もカフェテリアもやっていないこの時間帯に彼女は何を求めて外に出たのか。
無性にそれが気になった。
(自主トレーニング、ただの散歩...流石にこの気温で外で寝るのは危険だよね?)
探しながら思考する。
体感的には一桁ほどの気温ではなかろうか?
そんな気温の外で眠るなんて自殺行為だと思う。
前者であるトレーニングや散歩はまだ可能性があるが...それもこんなに寒い時間帯にやるべきものかと言われれば、そこはその人の予定的な部分もあるから何とも言えない。
どちらにせよ本人を見つけて聞かなければ分からないのが現実だった。
(トレーニングと言えば広場...)
「よし、ナービィー広場に行こう」
このあたりで広場と言ったらあそこしかない。
直感がそう叫んでいる。 もうこれ以上ないほど叫んでいる!
「そうと決まればダッシュだ! みんな! 自分に続けぇ!」
______
「いや待って、みんなって誰」
ふと冷静になって足を止めた。
それでも目的地には着いていたらしい。気が付けばナービィーたちがその可愛らしい瞳を輝かせながら思い思いの場所にいる、唐突な野球にも対応できそうな広さの広場に立っていた。
「しかしこう見ると広い」
(本当に野球くらいならできるんじゃないだろうか?)
そんな思考がよぎる。
(いや、ナービィーズが邪魔で野球は危険だ)
が、こんな思考が邪魔をした。
「...霜山さん、いないな」
考えるネタが無くなって現実を見ることにした。
探していた霜山さんらしき姿は何処にもおらず、見えるのはたくさんのナービィーたち。
もしかしたら既に部屋に戻っているのではなかろうか? と思い、走って疲れたからベンチに座ることにした。
「ふぅー」
ため息を一回。
久々に走って痛む足を摩りながら、思い思いに飛び交うナービィーたちを見た。
「この子達は人類のピンチとか分からないんだろうなぁ」
何を考えているのかわからないその謎生物。
その実態は司令部さえも理解していないのか、大事に扱えとしか電子軍人手帳には書いていなかった。
「___ん?」
誰もいない広場の近くから、音が聞こえた。
水面に何かが落ちるような音だ。
(ここらに池なんてあったっけ...?)
一度しか来ていないこの場所に詳しいわけではないが、それでも周囲に水の貼ってあるような場所があるとは思えない。
(とりあえず音の発生源を探そう)
音が聞こえるということは音が聞こえる距離に発生源があるということ。
それはつまり音を辿ればいるはずだ、霜山さんが。
(目を閉じて...空を見上げて耳を澄ませる...)
心を無にして、精神を統一する。
聞こえる音すべてに耳が反応するように、聞こえない音さえ聞こえる様に集中。
____チャポン
(聞こえたっ! 多分こっち)
...
「霜山さん、おはよう」
広場を出てすぐの道を曲がった先。
木の生い茂る森に足を進めば、彼女はいた。
長い髪が地面に触れ、それでもそれを気にせず地面に座る彼女は、何やら棒のようなものに糸を付けた代物を池に垂らして何かを待っている。
「おはよう」
少しこちらに視線を向けて短く挨拶をすると彼女は、また池の方に視線を戻した。
「何してるの?」
「釣り」
「いるの? 魚」
「さぁ?」
「さぁ、って」と苦笑いをしながら霜山さんの横に座った。
一瞬、霜山さんは自分の方を見て、すぐに釣り竿に視線を戻した。
「釣り竿、まだある?」
「ない」
「ないかぁ」
流石に二本目はなかったらしい。
木と糸で作られた簡素な釣り竿は一本のみで、自分が使えそうなものはなかった。
「...なら横で見てるかな」
「部屋に戻っても暇なだけだし」と言えば彼女は「勝手にすれば」と言って少し姿勢を前のめりにする。
「...」
「...」
無言が続く。
霜山さんとしては釣りに集中するために無言なのだろう。
(...暇だなぁ)
空を見た。
木であまり見えない空は、それでも隙間から光が漏れて自分たちを照らしている。
まだ太陽が昇っているわけではないから、その光は決して強いものではないけれど、それでも自分たちは照らされている。
「___来た」
横からそんな声が聞こえた。
「ホントに来たの!?」
「間違いない」
心なしか嬉しそうな霜山さんの声。
力みながら器用に自作釣り竿を扱って、ものの十秒ほどで魚が一匹釣り上げられた。
「おぉ...」
「まさか本当に魚がいるとは」
「あそこまでやって確証なかったのか」
自作の釣り竿まで用意してなお、確証のない釣りをしていたという真実に驚きながら、釣られた魚を見た。
「この魚、種類は?」
「ブラックバスとかじゃない?」
若干緑っぽい色をした魚は、ぴちぴちと動いて手から逃れようとしている。
そんなことを気にせず霜山さんは刺さった針を抜き、その魚を池に返した。
「返しちゃうんだ」
「別に、食べるわけでもないし」
そう言って霜山さんは置いてあった道具たちをバッグに詰め始めた。
「帰るの?」
「もう十分」
「いつから釣りしてたの?」
小さく「ん」と声を出しながら指を三本、目の前で出す。
「そんなに朝早くから...って、もう部屋に戻るの?」
「寝る」
一言、たった一言そう言って霜山さんは来た道を戻っていった。
その背中を見ているだけで自分は動くことが出来なかった。
いや、一緒に帰るほど仲が良くないのだと、心の何処かで思っている。そんな気がする。
「___あの子だったら、こんな風にはならないのに」
_______________
時刻は5時30分少し前。
「さてみんな! そろそろ時間だから起きてー!」
部屋に戻っての第一声はみんなを起こすためのモーニングコールだった。
「おはよう。 舞」と、もとから起きていたエルが挨拶をする。
「おはよう、エル。 早起きだねぇ」
「本当はあたしが皆を起こしたかったんだがな。 二人の方が早かったらしい」
苦笑いをしながら、用意していたのか飲み物を手渡された。
「あ、ありがとう。 これは?」
「安心してくれ、緑茶だ。
部屋に二人がいなかったから外にいると思ってな。 春と言っても朝は冷えるだろう?」
そういうとエルはそのまま全員分の飲み物を用意し始めた。
よく見れば先に帰ってた霜山さんも同じように飲み物を貰ったらしい。
コップに入れられた飲み物を飲みながら電子軍人手帳をいじっている姿が見えた。
正直言ってしまえば、凄い助かる。
部屋に戻ってきたと言えど、未だ体は外の寒さを残しており、若干震えている。
いっそ外の自動販売機で温かい飲み物でも買ってこようかと思うほどには温かさに飢えていた。
「...あ、おいしい」
「そうか、それはよかった...あまり他の人に飲ませることはないからな」
一口飲めばちょうどいい温度に調節されたお茶が喉を通る。
ぬるいわけでも熱いわけでもない、飲めるちょうどの温度のお茶が。
(慣れてるのかな?)
疑問が生まれる。
彼女は飲ませることは少ないと言っているが、それでも慣れているように感じたからだ。
詮索すべきことではないが、それでも気になってしまう。知的好奇心というのは誰にだって存在するし、誰にだって止めることは出来ない。
たとえここで自分が全員の過去を聞き出そうとしたところで答えるか答えないかなど関係なく、気になってしまうものは気になってしまうのだ。
「ふぁぁ___っ! クックックッおのれ太陽、我が地を統べたら次は貴様を...」
「おはよう、比良坂さん」
「あぁ、おはよう。 しかしおぬしらは早いな」
目を擦りながら起きてきた比良坂さんは、こちらを認識すると例の病特有の話し方に戻る。
「おはよう、愛奈。 目覚めのモーニングティーだ」
「モーニング...ティー...! なんと心惹かれるワードか!」
目を輝かせながらエルのお茶を貰うとそのままグイッと飲み干す。
「うまい!」
「そう喜ばれると照れるな。 コップは置いておいてくれ、あとで洗っておく」
「...なんかホントに慣れてるね。 エル」
「そうか?」と言いながら起きた嘉山さんにコップを渡す動作は本当に慣れた人間にしか出来ないものだろう。
無駄がないとかの話じゃない。
無意識に行われるその行動たちは彼女がどれほどその行動を行ったかを表していた。
「彼女はここに来るまで、ぼくの世話をしてたからね」
受け取ったお茶を一口飲み、息を吐いた嘉山さんはそう呟いた。
「世話って...嘉山さんとエルが一緒にいたのは予想できたけど、そんな間柄だったの?」
「あぁ、キャンサーが侵略してくる以前からぼくたちは共にいた。
彼女が慣れているのもそのせいさ」
「知貴。 あたしとしてはきみの世話をしなくてもいいくらいにしっかりとしてくれればいいんだけど?」
「うぐっ」とわざとらしく声を出す嘉山さんを横目に、エルの方に視線を向けた。
「___腐れ縁のようなものだよ」
照れているのか、怒っているのか、顔を隠しているため判断が出来ないが彼女はそう言った。