「訓練内容は出現したキャンサーの撃破だ。
初めてだからそこまで強い敵ではないが、慢心しないように」
そう言って浅見教官は自分たちから少し下がり、何か機械を操作する。
視界の色が変わった。
青だった周囲は赤くなり、建物らしき形をとっていた凹凸が形を変えていく。
全身がゾワリと震える。
人よりも大きな体、虫の特徴を持った多関節の足。
少し遠くに投映された影は、気が付けば自分たちの敵であるキャンサーがその形をとっていた。
「31S! 総員戦闘準備っ!」
即座に声を上げて全員に注意を促す。
訓練だから手を抜くなんて考えは全く存在しない。
自分たちが生き残るための手段を逃すなんて無駄は愚者でなければ行わない。
「___【約束はここに、私はここに】っ!」
目を閉じ、祈るように小さく、力強く呟く。
確かな重みを感じ、その武器を構える。
短小なセラフだ。
二刀あっても、戦うにも守るにも適しているようには見えない。だが、それでも自分にとっては唯一無二の武器であることに変わりはない。
「セラフ召喚後、全員の武器をチェック、陣形を決める」
「「「「「了解!」」」」」
まずは全員分の返事が返ってくることに安堵する。
そして思考。目の前の敵を倒す方法を、模索する。
周囲を見渡す。
形を変え、入ってきた際の地形とは大きく異なる外見のアリーナは、おそらく市街地を模したものなのだろう。
崩落した建物や瓦礫のせいで決して視界がいいわけではなく、遭遇戦や不意打ちの多くなる見晴らしの悪い地形は数で劣ることになる自分たちには適した戦場ではない。
(...ならできる方法は)
簡単な作戦を考えて思考を終える。
これ以上はまだ考えない。この先を考えるには情報が足りなすぎる。
「全員セラフの展開が終わった。 どうする?」
丁度いいタイミングで後ろからエルの声が聞こえた。
「まず全員のセラフを確認させて」
確認のための第一声。
全員のセラフが何なのか、それによってまた作戦は大きく効果を変える。
遠距離が多ければ前衛の時間稼ぎが重要になり、近接が多ければ速攻で勝負をつけることが重要になる。
それを決める自分は重要な立ち位置にいるのだ。
思考に思考を重ねて悪いことはない。
「俺は銃だな、支援なら任せてくれ」
そう言って高橋さんは手に握られたライフル型のセラフをこちらに見せる。
「防衛戦ではまったく当たらなかったがな」
「うっせぇ」
鎌のような形状をしたセラフを持つ霜山さんががそれを担ぎ高橋さんに言う。
やはり二人は仲がいいのか、それともまた何かあるのか会話が多くなる印象がある。慣れ親しんだ仲だというのもあるのだろうが。
「それで、作戦はどうするんだい? 隊長」
わざとらしく嘉山さんが聞いてくる。
だが気になるのはその手に握られているのは巨大な銃だ。
高橋さんのものとは異なる巨大なソレは、嘉山さんの体だけでは扱いきれないのだろう。手足には先ほどまで装着されていなかったはずの補助機材が付いており、全力で駆動しているのか音を発し、煙の方なものも出ているのが見えた。
「煙出てるけどそれ、大丈夫なの?」
「...そのための実験さ」
(なんか目をそらしてるように見えるんだけど)
心なしかこちらに視線を合わせていない嘉山さん。
本当に大丈夫なのだろうか? もし途中で不備が起きても助けに行くのは至難の業なのだが。
「危険になったらあたしが止めるから、舞は安心してくれ」
「なら今すぐにでも止めてもらいたい光景なんだけど」
盾だろうか? 後方に展開されたビットのようなものはエルに追尾するように動いている。
「ん? あぁ、見た目通りこれは盾だな。
これでも持久力には自信があるんだ。 ヘイトを取るなら任せてくれ」
「盾か...エル。 悪いけど今回は後ろにいてもらいたい」
「どういうことだ?」とエルは問う。
作戦に必要な前衛は二人。残りの四人はそれぞれ守り合う形にしたい。だからこそ彼女には守りに入ってもらう。
だから、
「比良坂さん、頼める?」
大剣を担いでこちらに歩いてくる比良坂さん。
自分とと共に前に出る人に必要なのは一撃で大きく敵の体勢を崩せるセラフを持った人物、つまり大剣のセラフ持ち。
その条件に合っているのは彼女以外にいない。
「任せておけ、我が真の力を発揮するには奴は役不足だがな!」
ようやくの出番にうれしいのだろう。
今すぐにでも戦わせろと言わんばかりにこちらに顔を近づける。
「___というか近すぎるっ!」
「む、そうか?」
「いや近いよ! おでこぶつかりそうだったからね!?」
「そうだったか」と言いながら離れる姿に安堵しながら、作戦を確認する。
幸い遠距離と近接のバランスはいい。
遠距離組を近接二人で援護しながら残りの二人がヘイトを取るという最も理想的な戦い方ができるであろう人数分布は考えうる中の最善の戦闘方法だ。
「エルと霜山さんはそれぞれ嘉山さんと高橋さんの援護をお願い。
自分と比良坂さんが前に出て敵キャンサーの足止めとヘイト取りをするから、遠距離組の二人は隙をついて射撃して」
「前衛から抜けた敵をあたしたちが撃破、か。 了解した」
「...よし、全員質問はある?」
最終確認。
初めての訓練だろうと完璧な勝利を手にするために、できる最大の準備を行う。
「質問はないみたいだね。じゃあ___
___ミッションスタートだ」
...
__走る。
目標は目の前のキャンサー、その数は3。
|四足歩行の蜘蛛のようなイメージを持たせるキャンサー《クレストホッパー》
二体は防衛戦で見たことがあったが、ノッカーに関しては電子軍人手帳に書かれた情報でしか見たことがない。
「ヤツの相手なら任せておけ」
「比良坂さん?」
「前に見たことがある、と言っても負けたがな。 今度こそ奴に地面の味を味わわせてやる」
ふんす、と言わんばかりに比良坂さんは気合を入れている。
確かに前に負けたと言っていても自分の様に初めて戦うよりは可能性は高いはずだ。
「なら残りの二体はこっちで相手するよ」
二体の相手をとることになる。
後方にいるヒールホッパーは名前の通り回復を行うキャンサー。
放置するのは危険だろう。
前方、ヒールホッパーを守護するように待機するクレストホッパーはキャンサーの中でも標準、機動性は高いがその分火力は低い。
時間稼ぎは自分一人でも可能なはずだ。
「カウントダウン、3」
息を整える。
初めての31S部隊としての戦闘、緊張しないわけがない。
「2」
少し遠く、建物の上に配置した遠距離チームに視線を向ける。
準備は終わっているらしく、それぞれセラフを構えこちら動きを待っている。
「1」
構える。
ここからは戦い。
死ぬことのない訓練ではあるが、それでも命を懸けた戦いだ。
「0」
飛んだ。
デフレクタの残量を使用した短距離ワープ。
一瞬の視点の移動は吐き気を催すには十分なほどの酔いを発生させる。
決して連続での使用はできないが、
(奇襲のためのワープなら!)
「___ハァッ!」
一閃、速度を殺さずセラフを振る。
すれ違いざまに振られるセラフは通常よりも高い威力を発揮するのだろう。だが、一撃でその外殻を破壊できるわけもない。
チラリと比良坂さんを見る。
その巨大な剣のセラフを盾代わりにしつつ時間を稼いでいるが、おそらく長くは持たないだろう。
(指示は...出せないな)
射撃体勢に入っている二人に指示を出そうと思ったが、行動に移すことはなかった。
電子軍人手帳は通話も出来る便利な代物だが使用に制限がある。
使いすぎればGPと呼ばれる現在のお金の役割を持つモノを払うことになり、だからこそなるべく連絡なしで作戦を遂行できるようにすべきだ。
「もうい___っ!?」
もう一撃、態勢を崩したヒールホッパーに接近しようとしたところで足を止める。
「予想よりも動きが速い...?」
守るように現れたクレストホッパー。
互いを守るように動く二体は、仮に片方を攻撃しようにもどちらかに反撃される。
ならば自分も比良坂さんと同様に時間稼ぎに徹するべきなのだろう。
(...でも、それじゃあ遅い)
もし敵が追加出来たら、もし作戦時間が限られていたら、もし比良坂さんが耐えきれなかったら、もし、もし、もし_____
「___だったら無理やり押し通る!」
もう一度、短距離のワープを使用する。
目的地はヒールホッパーの真後ろ、そこで倒せれば状況は限りなく優勢になる。
一瞬の浮遊感が襲い、視点が移動する。
喉の奥から来る吐き気を飲み込んで、そのセラフを強く握る。
「まずは一体っ!!」
崩れ落ちるヒールホッパーを横目に、そのままクレストホッパーの背後に着く。
「一発っ!」
鋭い斬撃は確かにクレストホッパーの外殻を斬る。
だが切り裂くことは出来ず、後方に跳躍して距離を取った。
圧倒的な火力不足。
防衛戦から薄々感づいていたが、自分のセラフはキャンサーを斬るには少し足りない。
後方にいる柔らかいキャンサーであれば倒すことは可能だが、前衛である硬めのキャンサー相手では力不足だ。
「...無理か」
目を閉じる。
何も見えない。どこまでも暗い闇の中で、音が聞こえた。
遠くから何かが風を切って飛んでくる音。
その音の予想はついている、順番は前後してしまったがそれでも。
「___今だ!」
目を開ける。
衝撃が奔り、その風が頬を撫でる。
おそらく嘉山さんの援護射撃である爆発に隠れるように近づき、そのまま態勢を崩したクレストホッパーにとどめを刺せば作戦終了のアナウンスが鳴り響いた。
「ふぅぅ」
残滓を解き息を吐く。
部隊員であるみんなは、自分が頼んだ役割をしっかりと果たしていた。それは間違いない事実だ。
...だが、完全な作戦通りとはいかなかった。
何処でミスを犯したのか。
敵の戦力を甘く見ていた? 自分たち前衛が分かれるのではなく、二人で三体を相手にしていればよかった? 後方への連絡をすべきだった?
いや、そんな難しい話ではない。
(原因は間違いなく自分)
自分の力不足なのは目に見えている。
セラフを使用する戦闘でも、指示を出す部隊長としても自分はもっとうまくやれたはずだ。
「みんな、お疲れ様」
全体が青に戻ったアリーナ。
スタート位置に戻った自分たちは一息つく。
「楽勝だったな」
「三発」
「え?」
「三発外した」
「数えられてた!?」
なんて話をしていたり、
「やはりぼくの射撃は援護向きではない」
「そうだな。 制圧射撃...いや、足止めの方がいいかもしれない」
「次の訓練からその方針で行こう。
隊長、次の作戦はその方針で頼んだよ」
と、先ほどの戦闘から次の戦闘の動きを考えたり、
「ハァ...ハァ...勝った! 勝ったよ!」
「えっと、お疲れ様? 比良坂さん」
「うん!....ハッ、違うぞ! 今のは違うぞっ!」
そんな他愛のない話をして
「今日の訓練は終了だ」
という教官の言葉を最後に、午後の訓練は終わりを告げた。
訓練での作戦への指摘に関してはカットしました。
カット...というか書き終わった後に気づきました()
PS.ユイナ先輩ガチャ五十連して旧めぐみん一人でした。欲しかったなぁ...