「お疲れ様」
自分以外の31S部隊が退出したのち、そう言って浅見教官はこちらに近づく。
「教官...」
「湊本、お前が何を考えているかわからない訳じゃない」
「っ」
見透かされている。
そう、理解できた。
「だが、さっきの訓練。
あのまま時間を稼げば勝てただろう。何故攻勢に出たんだ?」
それをわからないお前ではないはずだ?
そう言いたそうな目でこちらを見てくる。
実際、あのまま時間を稼げば勝てた。
それを理解していたし、そうしようとも考えた。
でも現実の自分は攻勢に出た。
少しでも戦闘の時間を減らすなんていう考えでもなく、味方の負担を考慮して動いてしまった。
「...仲間を、信じられなかったんだと思います」
「そうか」
自分の本音に教官は怒りを見せることはなかった。
ただ優しく自分を見て、アリーナを去る。
31S部隊のみんながそう簡単にやられるような人たちではない。
楽観的な思考をしているはずなのに、心の何処かでは彼女たちを信じることのできない自分がいる。
「分かっているはずなんだけどなぁ」
搾りだした声に答えるものはおらず、悲しくアリーナに木霊した。
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(___ジムか)
ナーヴィ広場を少し進んだ先にある小さな建物を見て少し感動した。
戦闘だけで実戦に適した調整ができるとは考えていなかったからこそ、この手の施設があるのは非常にありがたい
「おぬしもトレーニングか?」
「あ、比良坂さん」
近くの自動販売機で買ってきたのか、スポーツドリンクを片手に持った比良坂さんが目の前にいた。
「そういうわけではないんだけどね。 そっちはトレーニング?」
「我こそが最強だからな! あのような訓練だけで満足するものか」
胸を張り、より多くの訓練を求める姿は心強いものに思える。
表情に無理をしている様子もないことから、本当に自主練をしたいだけなのだろう。
だとすればそれは自分も同じだ。
疲れはそれほど溜まっていないし、できるうちに訓練をしておきたい。
「なら自分も一緒にいいかな?」
「えっ?」
目に見えて少し嫌そうな...というより、心配そうな表情を比良坂さんはした。
(何かあるのかな?)
「ごめん、何か用があるならやめておくよ」
「い、いやちが__そういうわけではなくてな」
何か言いずらそうにもじもじするその姿に首を傾げる。
「トイレならジムの中にあると思うよ?」
「違うよっ!?」
「違うのか」と少し残念に思う。
以心伝心とはいかなかったらしい。
「ゴホン...なるべく訓練しているところを見られたくはなかったのだ」
苦笑いをしながら比良坂さんはそう言う。
その感性を理解できないわけではない。
影での努力、隠れたトレーニング。胸を張って言えることでも彼女にとってはあまり見せたくない行動なのだろう。
「でもみんなでトレーニングした方が楽しいと思うけど」
「それは分かってるのだが...どうも慣れぬのだ。 誰かと共に動くのは」
「うーむ、うーむ」と比良坂さんは唸る。
彼女の過去を知っているわけではない。
だけど、きっと集団行動をあまりしてこなかったのだろう。
「ごめんね比良坂さん。
セラフ部隊としても長く付き合うんだろうし、今度よさそうなタイミングで一緒にトレーニングしよう」
「む、むぅ。 気を遣わせたようで悪いな」
少しばつの悪そうな表情で頬をかきながらジムの中に入っていく比良坂さんの背中を見送って、また一息ついた。
(...やることがない)
夕食にはまだ時間があり、ジムに入るのは先ほどの比良坂さんとの会話の流れ的にダメな気がする。
そんな状態で行ける場所なんてあまりなく、呆然とするにも有り余った体力を消費する方法が欲しい。
(そういえば、他の部隊の人たちは何をしてるんだろう?)
ふと、そんな疑問が脳裏をよぎった。
これまで31A部隊以外とは関わりのなかった。
本音で言えば、今まで31S部隊内の関わりを増やすためと意図的な接触はしなかったわけだが、そろそろ同僚となる彼女たちの情報を自分は全く知らないのはまずい気がする。
(そうと決まれば交流しよう!
どこか手軽に交流できそうな人は....いた)
少し歩いてナービィ広場についてみれば、それらしい人が数名程度見つけられた。
どこの部隊かは不明だが、珍しいものを見ているかのようにナービィたちを見ていることから先輩部隊というわけでもなさそうだ。
(え、あれが同僚...?)
口に出てしまいそうな言葉を飲み込んだ。
眼帯にカニの腕にメイド。
恐るべき個性派集団、と言えるその部隊はいったいどこのものなのか、まったく見当がつかない。
少なくとも自分たちよりも個性の立っている彼女たちは、間違いなく自分たちよりも強いと胸を張っていける気がした。
彼女たち比べて自分たち31S部隊はどうだろう?
服装は一般的な制服のような見た目にカーディガンを羽織ったもの。
多少長めのスカートは自分だけだが、基本的にはミニスカートとは言いずらい丈だ。
特徴らしい特徴はあまりない。それどころかキャラクター的な濃さだけだったら茅森さんたちにも負けているから実質モブみたいな存在だ。
「...そんな、それじゃあ自分たちは表舞台に上がれないっ!?」
絶句した。
自分たちがメインのストーリーにろくに関われない〈最初の方にちょっと出てきてそれ以降実装とかも全くされないチュートリアル用モブ〉みたいなビジュアルという現実に絶句した。
これはもうチームの作戦とかよりも重要な案件だ。
今後の自分たちの存在を左右する。今すぐにでも話し合わなければならないほどの重要な話だろう。
「...」
(そういえば、みんなは何処にいるんだろう)
比良坂さんは先ほどあったため居場所は分かるが、他の部隊員の場所は分からなかった。
これではこの、目の前に立ちはだかる巨大な問題を話し合うことは出来ない。
「くっ...! まさかこんなところで終わってしまうなんて...」
自分たちは名前がろくに出ないモブとしての一生で終わってしまうのか。
そう思うと悔しい。贅沢言わないから本編にずっと出てるくらいの活躍が欲しい。
「___そもそも本編ってなにっ!?」
変な電波を受信していたのか、一度冷静になれば、思考は正常に戻った。
このままでは不思議ちゃん扱いされるのも時間の問題になってしまう。そうなればこの、31S部隊の部隊長は頼りない的な噂が立ってしまうかもしれない。
(それだけは避けないと)
唐突に電波を受信する隊長の部隊なんて危なっかしいことこの上ない。
もし自分が上司だとして、その部隊に何かを任せるという話になったら全力で回避するだろう。
(...でも、個性か)
よくよく考えれば、自分以外は31S部隊の全員個性的なのかもしれない。
比良坂さんにはあの特徴的な話し方。
高橋さんと霜山さんにはコントのような会話があり、嘉山さんにはパワードスーツ。
エルはその見た目が最たる特徴であり、冷静な判断はチームの中でも重要な役目を持っている。
(...そして最後は自分の個性)
悲しいことに、すぐに思いつく個性はなかった。
(悲しい)
いや空しいというべきだろうか。
考えても一向に浮かんでこない自分の個性と言える部分を探し続けるさまは。
(とりあえず今はアリーナに行こう)
暇な時間を埋めるため、無駄な思考を中断するために自分は逃げることにした。
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改めて来てみれば、そのチグハグさがよくわかる。
アリーナに来て最初に思ったことはそんな疑問だった。
エルたちとの会話。
このアリーナと呼ばれる場所に使用される技術。
近しい技術を知ってはいるが、それらは間違いなく自分の記憶にはない。
「____訓練ですか?」
「えっ」
ふと、後ろから声が聞こえた。
「えっと...」
黄色い髪をした少女。
あまり動かない表情で、こちらを見ている。
確か名前は...
「...七瀬さん、でしたっけ?」
「はい、七瀬七海です。
湊本さんはどうしてここへ?」
合っていたらしい。
安堵の息を吐き、周囲を見渡す。
「いつ見ても不思議な空間だな、と思いまして見学を」
「そうですか。
一応、機密もありますのでくれぐれも変な場所に行かないようにしてくださいね」
「あ、はい」
会話終了。
自分はアリーナを見渡し、七瀬さんはそんな自分を見ている。
無言で何の進展のない時間が続く。
(無言つらい!)
心の中で叫ぶ。
自分はまぁ多少なり話す方だ。
しかし今、自分の後ろでガン見してくる七瀬さんはあまり会話をしない人らしい。
無言の時間が大体二分ほど続きそろそろ限界、会話したい。
「あのー、七瀬さん?」
「何でしょう」
「機密って、具体的になんですかね?」
何を聞いているんだろうか自分は。
「それも機密なので言えません」
「で、ですよね」
そりゃそうだろう、とどこかからツッコミが聞こえた気がして周囲を見渡す。
「どうかしましたか?」
「誰かツッコミをした気がして」
意味が分からない、と言わんばかりに七瀬さんは首を傾げる。
無理もない。自分だってそのツッコミがどこから聞こえたのか全く分からないのだから。
「七瀬さん、少し訓練してもいいかな?」
「わかりました。
しかし、大丈夫ですか?」
「なにが?」
「もう少しで夕食の時間なので」
「え、うそっ!?」
電子軍人手帳を取り出し時間を確認すれば、もう少しで17時30分。
今から向かえばちょうど夕飯の時間になるであろう時刻だった。
「考え事で時間取られちゃってたか...無駄にしたな」
「なにか悩み事でも?」
心配そうな...顔かはわからないが、少なくとも声色は心配そうな感じで七瀬さんが聞いてくる。
「うーん」
果たしてこれは相談するべき内容なのかと考える。
これは個人的な悩みであり、相談するべき内容かと聞かれれば首を横に振るだろう
だが、それでも誰かに相談すれば何か別の活路が見出せるかもしれない。
そんな淡い希望が胸の中にあった。
...
「湊本さんの個性ですか?」
少し説明すれば、七瀬さんは顎に手を当てて考え始めた。
「茅森さんたちと比べると、やっぱりキャラが薄い気がして」
「31A部隊と比べるのはさすがにどうかと思いますが」
「でも、手にカニを付けた女の子もいたし」
「31C部隊の
「メイド服着てる子もいたし」
「同じく31C部隊の
「眼帯付けてる子もいた」
「話の流れからして、31C部隊の
「うそっ!? 31C部隊しかいないっ!?」
衝撃の真実に驚愕する。
確かに自分が見たのは一つの集団でしかなかったが、それでも全員が同じ部隊だとは思ってもいなかった。
「ですから、あまり自分の個性について悩む必要はないかと」
「そうかな...そうかも...」
「はい、なので今は夕食を食べに行きましょう」
言われたとおりにアリーナから出る自分の足は、間違いなく軽いものだと胸を張って言えた。