仮面ライダームラサメ外伝譚 仮面ライダーライキリ   作:八咫ノ烏

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どうも。八咫という人です。
あらすじにもある通り、本作品は正気山脈様執筆の仮面ライダームラサメのスピンオフ作品となっておりますので、もしまだそちらを見ていない方がいましたらひとまずムラサメ本編を先に読まれることをお勧めいたします。

さて、ムラサメは緻密に練られた素敵な世界観や魅力的なキャラクターに溢れた作品なので、少しでもそれを再現出来ていたら嬉しいです。
それでは、ライキリ本編をどうぞお楽しみくださいませ。


第一頁[風纏う緑蛇は月夜に駆ける]

 それは満月の明かりがよく見える日の夜更けのこと。

 一人の男性が人気の少ない住宅街の道を必死に逃げ惑っていた。

 

「なんだよ! なんなんだよあの化け物は!」

 

 おそらくは仕事帰りなのだろう。高いスーツやネクタイが乱れるのも構わずに何かから逃走する。

 男性が怯える何かはフルル、と息を漏らし、口から涎を垂らしながら男性の目の前目がけて跳躍し、頭上を通過して男性の前に降り立つ。男性の頭を何かの涎が濡らし、月明かりが何かを照らすが逆光になっていて男性にはよく見えなかった。わかるのは異形の怪物ということだけ。

 

「ひい! く、来るな!」

 

 腰を抜かして座り込み、しかしそれでもなお逃げようと手で地面を這ってなんとか後退ろうとする。

 異形は男性の怯える姿を面白いと言わんばかりに息を吐き出し、なおも涎をだらだらと垂らしながら男性の肩をその手でがっしりと掴む。

 

「うわあああ!!」

 

 恐怖のあまり気が動転したのか、大事な資料が入っているのであろうカバンで異形の横顔を引っ叩いた。ロックが外れ、中から幾つもの白い紙が出て宙を舞う。

 

「いただきます……」

「は?」

 

 異形はボソリと呟くと口をあんぐりと開けて男性の肩に齧り付く。血が辺り一面に飛び散る、なんてことはなく。代わりに男性の肩が糸のように解け異形の口に吸い込まれていく。

 男性は自分の身に何が起きているのかを理解することはできず、彼の脳はこれはきっと夢だろうと判断し考えることをやめ気絶する。

 異形はそのまま男性から紡がれる糸を食い尽くし、色を喪った男性が音すら立てずに砕け散っていくのを横目に不快そうに唾を吐き捨てる。

 

「あの男、不味かった……。口直しに女食べる……」

 

 さながら犬のような遠吠えを辺りに響かせ、更なる獲物を求め、異形は夜の街を彷徨う。その場に残ったのは散らばった何かの資料と人狼が垂らした涎の跡だけ。

 ここは日本のどこかにある渡津海市。この土地の裏側では魑魅魍魎が、人々の知らぬ不思議が、渦巻いている。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 2022年の4月中旬、咲き誇っていた桜も緑を見せ始めてきたくらいのころ。渡津海市にある渡津海高校にて。

 

「はぁ!? また外れたし!!! ちょっ……なんで当たんねえんだよおお!!!」

「うわうるさ」

 

 昼休み、二年生が使う一つの教室から怨嗟にも取れる悲鳴が響き渡った。教室にいた生徒は一瞬驚き目線を悲鳴の発信源にやるが、机に項垂れている少年の姿を見ると呆れるように笑って談笑を始める。

 

「なんでぇ…? 一枚くらい目当てのカード当たってくれても良くない? これで8パック目なんだぞ…頼むから当たってくれよお……あとバイ・スが当たってくれさえすればいいんだって……」

 

 懇願するように呟いた少年の机にはライドファイターズというカードゲームのカードと空いたパックのゴミが広がっており、相当そのカードゲームにハマっているんだなということを伺わせる。

 少年の名は白石 拓也(シライシ タクヤ)。生粋のゲーマーであり、ライドファイターズにのめり込んでいる。

 

 そして白石が爆死していく様を面白そうに眺めるもう一人の少年。名は蒼月 凪(ソウゲツ ナギ)。黒い髪は癖毛なのか少しハネており、瞳は海の底のような深い青に染まっている。首元にはヘッドホンを着けていて、そこから何やら音楽が流れている。

 凪はケラケラと笑いながら

 

「嫌われてんじゃないの? お前に使われたくねえって」

 

 と言って白石を揶揄った。白石はその言葉にカチンと来たのか、語尾を強めて

 

「言ったな? 9パック目で当てたらその発言撤回しろよ?」

「いくらでも撤回してやるから引いてみなよ。俺の勘だとそれと最後の10パック目にお前の目当ての代物はないぜ」

 

 金を賭けてやってもいいぞ、と付け加えて白石を挑発するように笑う。凪の挑発にまんまと乗せられた白石は財布からカードパック購入資金のうちの千円札を出し、音を立てながらそれを机に叩きつける。

 凪も財布から千円札を出し、静かに机に差し出した。白石は凪に「それでいいんだな?」と聞くが、凪の蒼い瞳に迷いはない。白石の手から二つのカードパックを奪い取るとそれを勢いよく開ける。

 

「千円を奪われる覚悟はいいな? 今更嫌ですつっても貰うからな、凪」

「俺は日本一勘と運がいい男なんでね。この賭けには勝つさ」

 

 必ずな、と勝ちを確信したかのような事を言った凪は二つ同時にカードパックの中身を取り出し、それを机に置いた。結果は──。

 

「な、ない……だと……。馬鹿な、そんなはずは……」

 

 白石は現実を受け入れられないといった様子で頭を抱え、出てきたカードを手にする。排出されたカードはすでに持っているものばかり。つまり賭けに勝ったのは凪ということになる。従って

 

「ほれ見ろ。んじゃ、この千円は俺の物ってことでね」

 

 ニンマリと微笑みながら机に出された二枚の千円札を回収して財布に入れる凪。実にくだらない日常。いかにも高校生らしいバカなやりとりだ。

 

「んだよお前気持ち悪いな。透視能力でも持ってんのかよ」

「んな能力いらねえよ。持ってたところで鬱陶しいだけだろうし」

 

 ゴミを片付けつつくだらない会話をする。彼らは高校一年の時に出会い、対して趣味が合うわけでもないのに何故か波長が合い、それ以降それなりに仲良くやって来ている。

 喧騒の教室。ドアがガラリと開いたことで喧騒が止み、一瞬の静寂が教室を包んだ。

 

「おいっすー。凪いるー?」

 

 気が抜ける挨拶と共に入ってくる少女。教室は再び騒がしくなり、その様子に苦笑しながら凪の後ろ姿を視認すると彼の元に歩み寄る。凪は慣れた様子でくるりと振り向くと

 

「どしたよ朱莉(アカリ)。教科書借りに来たのか?」

 

 と言ってカバンを手元に引き寄せる。その少女、鷹原 朱莉(タカハラ アカリ)は首を振ってそれを否定し、N(ネイバー)-フォンのトーク画面を凪にチラリと見せて直ぐに仕舞い、何かを顔につけるジェスチャーをしてから凪に要件を伝える。

 

()()()()()()()()()が入ったから伝えに来たってこと。どうせめんどくさがって連絡見てないんでしょ?」

「よくお分かりで。それにわざわざ見なくても伝えにくるやつがいるもんでな。じゃあ詳しい話聞きたいからあの場所行くか」

 

 どっこらせと口にしながら立ち上がり、気怠そうに首をぽりぽりと掻きながら教室を後にする。

 

「はいはいわかりましたよーっと。それじゃ凪借りてくね」

 

 ふわりとした微笑みを白石に向け、自身も赤い髪の毛をたなびかせながら凪の背を追って教室に出て行った。しばらく惚気に当てられたのか気味の悪い笑みを浮かべていた白石。正気を取り戻したときに一つの疑問が彼の頭に浮かぶ。

 

「めんどくさがりのあいつがバイト、ねぇ? 珍しいこともあるもんだな」

 

 凪がどんなバイトをしているのか、そんなことを彼は知る由もない。

 そして場所は変わり校舎の屋上。普通であれば立ち入ることは許されないが、彼らだけの特権としてスペアキーを渡されている。

 

「で、どんな内容なんだ?」

 

 単刀直入に話を切り出した。朱莉はN-フォンを操作して情報を表示し、その画面を彼に見せつつ説明を始める。

 

「ざっくり言うと男性が行方不明になったって事件なんだけど……ほらここ」

「資料が散らばってて若干壊れたカバンが落ちてて、何かが垂れた跡に、犬飼ってるやつがいねえはずの住宅街で遠吠え?」

 

 顎に手を当てて熟考し始める凪。後者は野良犬で説明がつくが、前者の三つは説明がつかない。人に誘拐された可能性は無きにしも非ずだが、ニュース記事を見るに被害者の男性はただのサラリーマンで狙われるようなことをしているとは考えにくい。

 

「臭うな」

「でしょ? どうにも垂れてた何かも何十mもの距離垂れてたみたいだし、何故か知らないけど男性の帰宅ルートと一致してるらしいし。だから私達に来たってこと」

 

 そう言ってブレザーの懐から動物を模した仮面を取り出して微笑んだ。夕焼けの空のように赤い瞳には若干の闘志が漲っていて彼女のやる気を示す。

 しかし、凪は彼女のやる気とは真逆の反応を示し、一つ大きくため息を吐くと

 

「やんなきゃいけねえってのはわかるけど面倒くせえなぁ……。何もわざわざ俺に振らなくてもあのナルシスト野郎に振ればいいじゃねえか。どうせあいつ暇してんだろ?」

「あの子はこの間戦って少し怪我したから休憩中なだけであって、決して暇ってわけじゃないからね?」

「あの程度の怪我くらい流石にもう治ってんだろ……。んまぁ、やるにはやるけどさぁ」

 

 再び大きなため息を吐いて空を見上げる。雲一つない澄んだ青空が広がっていて太陽の光を遮るものは何もなく、あまりの眩しさに思わず目を細めた。

 

「シャボン玉が弾けて無くなるようにパッと消えてくれりゃあ助かるんだがな」

 

 吐き捨てるように言って踵を返してドアを開け、階段を下る。朱莉はその様子を苦笑いしながら見送り、壁にもたれかかって仮面を着けて呟いた。

 

「私も戦えたらいいんだけどねぇ……」

 

 少女の呟きをかき消すように授業開始五分前の予鈴が学校中に響き渡る。朱莉は焦るようにヤベッと呟くと自分も屋上から去り、小走りで教室に戻っていく。

 そして屋上には誰もいなくなった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 さて、渡津海市の特徴として《中途半端な街》というものが挙げられる。近年では中心地である渡津海駅や海沿いが目覚ましい発展を遂げているものの、しかし一度目を内陸の方へ向ければ手付かずの山や田園風景が広がり、鹿や猪などの被害に悩まされている。

 そして中心部であるはずの渡津海駅周辺にしても、少し外に足を向ければ静かな住宅街が広がっており、もう少し歩けばやはり田んぼが散見されるようになる。

 発展している都市なのか田舎なのか判断しづらい街。それが渡津海という土地に住む人々の認識である。

 

 閑話休題。その静かな住宅街や農道は、時に悪しきものに遭遇してしまう危険性を孕んでいる。

 昨夜襲われた男性のように。そして、今宵襲われている女性のように。

 

「ハァ……ハァ……何なのよあれ……ゲホッ!!」

 

 閑静で人気が全くない住宅街の道を仕事帰りであろう若い女性が何かから息を切らしながら逃げ惑っていた。

 

「何で私があんなのに襲われなくちゃならないの!? 何でこういう時に限って誰もいないのよ!!」

 

 喚きながら足を動かす。髪や化粧はとうに崩れ、体力も限界を迎えそうになっているが今の女性にそんなことを気にしていられる余裕はない。

 止まれば殺される。追い付かれても殺されてしまう。女性はその恐怖から一心不乱に逃げ続ける。

 

 女性の後をつけ回す何かはハァーッと長い息を吐いて跳躍。逃げ惑う女性の目の前に降り立ち、月明かりがその姿を妖しく照らし出した。

 頭は狼。体は黒い体毛で深く覆われており、口の中から覗く歯や手の爪は刃物に匹敵するほどに鋭く、その爪は月の光を反射してキラリと光っている。四肢は筋肉がくっきりと浮き出ておりかなり力強い印象を与える。

 

「ヒイッ!」

「お前美味そう! 俺食う!」

 

 怯える女性を見た異形の目は欲望にギラリと光り、口から涎をダラダラと垂らしながら固まっている女性を襲う。

 この異形の正体は戯我(ギガ)

 言うなればウェアウルフ・ギガとなるだろうか。

 太古の時代……それこそ神と呼ばれるモノが世を統べていた時代から存在している、人の色を蝕んで生き長らえる恐ろしき魑魅魍魎である。

 

「いやあああ!!」

 

 女性は絹を裂くような悲鳴をあげ、ガパッと開けられたウェアウルフの口に通勤カバンを押し当て一旦は食われることを回避する。しかし相手は化け物。それだけで終わるはずがないのは火を見るよりも明らかだ。

 ウェアウルフは手の爪を振るい女性のカバンを引き裂くと、勢いのままに女性を押し倒した。女性は抗おうと蹴りを入れたがそれが効いている様子はまるでなく、涎をたらりと垂らすと舌舐めずりをし、女性の肩口に食いつこうとする。

 

 圧倒的に戯我が有利に思えるこの状況。どう見ても女性の生還は絶望的である。

 しかし、この戯我は一つ失念していることがあった。どうして戯我が好き勝手人の色彩を食えないのか。なぜ自分は人気のない場所を通る人間を襲おうと思ったのか。

 それもこれも単に、人智を越える力を持つ彼らにも天敵がいるからである。

 

「死にたくない! 誰か! 誰かああ!!!」

 

 必死に救いを求めるその声が辺りに木霊したその瞬間、ウェアウルフの体に黒い何かが突っ込んだ。いくら戯我といえど、人一人はあろうかという大きさのものがぶつかればひとたまりも無いらしい。グエッといううめき声を上げながら地面を転がっていく。

 

「あ、あなたは……」

 

 女性は戯我を突き飛ばした何かを視認し、無意識のうちに呟いた。

 そこにいたのは黒い軍服の上に裏地が青い黒マントを着用し、ヘッドホンを耳につけ、マフラーのようなものを身に付けている蛇の仮面をした少年だった。

 

「いやぁ、遅くなってすいませんねお姉さん。ついでにもう一個謝んなきゃいけないことがあって」

 

 少年は右手でクルクルと右側面に二つ奇妙な窪みスロットのある銃を回しながら、女性の首にストンと手刀を落とす。一瞬驚愕を見せた女性だったがすぐに気を失った。

 

「俺は秘密結社なもんで。悪く思わないでもらいたいね」

『その様子だと被害者を保護したっぽいね』

「まだ退避させちゃいねえけどな」

 

 蛇仮面の少年、凪はヘッドホン越しに聞こえてくる朱莉の声にそう返し、立ち上がって彼を鋭く睨みつけるウェアウルフと対峙する。凪の目に恐怖の色はなく、ただ冷静にウェアウルフを観察する。

 

「人間風情が…邪魔を、するな!」

 

 ウェアウルフは獲物を取られたことに苛立ちを隠さずに叫び、凪に襲いかかった。

 

「そいつは無理な相談だな」

《レリックライザー!》

 

 冷静に繰り出された爪による斬撃をひらりとかわして銃を操作して起動させ、慣れた手つきで左腰から弾丸(カートリッジ)のようなものを二つ取り出す。透明な薬莢の内側には液体(インク)が詰まっており、色はそれぞれモスグリーンとアイスグリーン。

 凪はそれらの底部に備わったスイッチを起動させる。

 

《ザルティス!》

《サイクロン!》

「面倒なことに俺の仕事はおたくらの邪魔をすることなんでね」

 

 気怠そうに言って今のところ人類が戯我に対抗することのできる唯一の代物と言っていいそれを銃のスロットにセットしていく。

 レリックライザーから鳴る音声を聞きつつ、凪はフォアエンドを握り銃身を前後にスライドさせてその手を離す。

 

Loading Color(ローディング・カラー)!》

 

 攻撃準備完了、という意の音声を聞くや照準をウェアウルフに向け、躊躇することなくその引き金を引いた。

 

「急々如律令。行きな、サイクロンザルティス」

 

Calling(コーリング)!》

 

 銃口から風を纏った緑蛇が現れ、悪虐非道の人狼へと襲いかかる。

 

『シャァーーッ!』

「ガッ!? この力、そのモンストリキッド、お前、まさか……!!」

 

 体に纏わりつきながら噛み付いてくる緑蛇に応戦しつつ、自分が何者と対峙しているのか察し舌打ちをする。

 

「ふーん、どうにも特に特殊能力なんかは無いと見える。単純に肉体スペックが高いタイプか、それとも単純に弱いだけか」

『油断しちゃダメだかんね? ……あ、女性の保護を確認、気を失ってるってだけで怪我は特にないみたい』

「そいつはよかった」

 

 凪が気を引いている間に誰かが運んだのだろう。いつの間にか倒れていた女性はその場から姿を消していた。

 

 凪と朱莉。この二人は人知れず世界の均衡を維持するために活動している封魔結社LOT(ロット)、その渡津海支部の一員なのだ。

 中でも凪は戯我に対抗するための切り札となる力を持つ。

 

「周りに人はいないんだな?」

『この時間外を歩く人はいないから大丈夫。やってるお店もないから暴れて大丈夫』

「いや暴れるのは戯我の方で俺ではないぞ」

 

 朱莉に人がいないことを確認をしてもらうとレリックライザーからモンストリキッドを引き抜き、それをバックルに装着した。

 

《レリックドライバー!》

「あんたを放っておくと余計面倒ごとが増えそうだ」

 

 そう言い放ち、先程と同じように二つのモンストリキッドを起動させる。

 

《サイクロン!》

《ザルティス!》

 

 似たような、しかし深さの違う緑に発光したそれらをレリックドライバーとなった銃のスロットに装填し、バックル部のハンドルを握って引っ張った。

 

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

 

 ベルトからは先刻とは少し違う音声が流れ出し、銃身のエネルギーラインが青緑と暗い黄緑の光を放ち、インクカートリッジも同じく左右で交互に発光する。

 ウェアウルフがグルルと唸り声で威嚇するのを見て小さくため息を吐き、グリップを手にしたまま引き金を指で弾く。

 

「変身!!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 その瞬間、彼の頭上に青緑の五芒星が、足元からは暗い黄緑の五芒星が描かれ、二つの光は重なり合おうとするかのように上下へ動き始める。

 それに加え、彼の身体にも変化が起きる。

 黄緑の星が通り抜けると同時に全身が黄緑のインクのような液体で包み込まれ、細胞組織のようになったそれが凪の身体と合身して『上塗り』し、身体を変質させつつ外骨格を描き出す。

 続いて青緑の星を潜ると、生体装甲が風を帯びて肩や脚、脚部が青緑に染まっていき、両眼が黄色に強く発光。

 そうして五芒星の消失と共に現れたのは蛇のとぐろのようなものを首元に巻き、鋭く尖る歯を模したものが仮面に拵えてある戦士だった。

 

《邪を噛み砕く風纏いし牙! サイクロンザルティス!》

『シャアアアーッ!』

 

 風が吹き荒ぶ音と鋭い咆哮がベルトから鳴り響き、仮面の戦士は腕を前に掲げた。その手には直刀のような刀身の剣が握られ、刃が露気を薄く帯びる。

 

A(アーティフィシャル)ウェポン2S(ダブルエス)!》

「仮面ライダーライキリ。面倒ごとを潰しにかかる」

 

 その言葉と共に刀を中段に構えウェアウルフの出方を伺う。今の彼からは殺気や覇気などは何も感じられない。自然体。それが今の彼に当てはまる言葉だった。

 ウェアウルフは低い唸り声を上げ、

 

「面倒なら、封魔司書なんてやめちまえ!」

 

 と言い、足の筋肉をバネのように使ってライキリとの間を瞬時に詰め、爪を振るう。ライキリはそれをバックステップで回避し、追撃として繰り出された蹴りもひらりとかわして再び距離を取る。

 

「戦い方が随分と単調らしい。お前さん今までよく俺以外の封魔司書に調伏されなかったな。逃げ回ってただけなのかもしれんが」

 

 仮面の下でニヤリとほくそ笑むと青緑(サイクロン)のモンストリキッドのスイッチを押し込んだ。

 

《サイクロン!》

「急々如律令」

Calling(コーリング)!》

 

 ピン、と指先でトリガーを弾くと、ライキリの周囲に凄まじい暴風が吹き荒れウェアウルフを最も容易く吹き飛ばした。

 そしてライキリは地面を蹴り、その風をブースターのように使い疾駆してすぐさま起きあがろうとしているウェアウルフに接近するやそれの腕を撫で切った。

 切られた腕の断面からは流れ出る血のようにインクがぼたぼたと垂れ、切り落とされた腕もやがて黒ずんで溶けてしまった。

 

「俺の、腕が…!」

「あんたらを斬るために造られたもんでね。なんでもハマノミズケ? ミズキ? ……なんだか知らんがそんな感じのやつを発してるらしい。どうよ、効くだろ?」

 

 笑いながら刀を横に払って付着したインクを飛ばし、ウェアウルフに切先を向ける。ウェアウルフは犬が遠吠えをするように咆哮を上げるとその目に怒りを宿し、

 

「殺してやる…! 封魔司書は存在してはならない、邪悪な者…!」

 

 と言って再びライキリに斬りかかる。ライキリはそれを刀で受け止め、ウェアウルフの腕をもう一方の手で掴むと足をかけて勢いそのままに投げ飛ばす。

 

「まず間違いなく邪悪なのはお前さんの方だろ。一般市民に俺たちLOTとあんたら戯我どっちが悪いって聞いてみな? 日本国民の十億人がお前らって言うと思うぜ」

 

 ウェアウルフが立ち上がるのを待つ間にそんなことを宣うライキリ。余裕そうな態度を見せ、それが一層ウェアウルフを苛立たせる。

 しかし仮面に内臓された通信装置から訂正が入った。

 

『日本の総人口は一億人だけどね』

「誤差だろ誤差」

『誤差で九億人錬成しないで?』

 

 朱莉のその声に苦笑いしたが、ウェアウルフが立ち上がり再び攻勢を仕掛けて来たことにより表情は引き締まる。

 

「お前、俺を舐めてる! だから余計にイライラする!」

「なんだ、ってことは本気でやれってか?」

 

 疲れるから嫌なんだけどなぁ、とボヤくものの目付きは先程までに比べて鋭くなった。

 大きく息を吸い込むとウェアウルフの鳩尾を蹴り、力が緩んだところに顎に鋭いアッパーを喰らわせる。

 

「だったら息をつく間も無く終わらせてやる」

 

 と宣言し、レリックドライバーを操作して再び青緑(サイクロン)のスイッチを押し込みトリガーを弾いた。

 

《サイクロン!》

「吹き荒べ!」

Calling(コーリング)!》

 

 再びライキリの体から突風が吹き荒れ、一瞬にしてウェアウルフとの距離を詰めるとすれ違い様に足を切り落とす。そして吹き荒れる風と尻の辺りから生える蛇の尻尾を利用して強引に進行方向を変えてウェアウルフの方向に詰めると残っていた腕を切り飛ばした。

 

「あいつから借りたやつを使うのは癪だが……せっかくだし役立ててやるか」

 

 呟いて左腰のホルダーからガーネット色のモンストリキッドを取り出してAウェポンにリードする。

 

《ブレイズ! Charging Color(チャージング・カラー)!》

 

 その音声と共に武器のエネルギーラインが紅に発光し、ライキリの目が光量を増し、とぐろを巻いていた蛇のような物は解けて肩から棚引き出す。肩や胸部の装甲も展開され、さながら放熱ダクトのような生体器官を露出させる。

 

「つ、強…」

「これで終わりだ…ってなァ!!」

 

 言葉を紡ぎ切ることすら許さず、ライキリはダクトから勢いよく排熱しながら刀を掲げそのトリガーを引き込んだ。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)! モノカラー・クロマティックスラッシュ!》

「グルアアアアッ!?」

 

 大気を焦がし陽炎を生み出すほどの熱気がウェアウルフの体を貫き、裂傷から徐々にインクの身体を燃焼させていく。

 やがてウェアウルフの体は燃え尽き、黒い塵となって夜風に攫われていった。

 

「ふぃー…調伏完了っと」

 

 そう宣言すると共にバックルからレリックライザーを外して変身を解き、大きく伸びをする。相当激しく動いていたにも関わらず凪には汗をかいた形跡がなく、残っているのは軽い疲労だけと言った様子だ。

 

「んー、取り敢えず戻っていいんだよな?」

『終わったからね。お疲れ様』

「ありがとさん。あぁ、そうだ。夕飯あれ作ってくれよ。牛すじ煮込み」

『あれ面倒くさいんだけど……鰆のポン酢バター焼きとかじゃダメ?』

「あー美味そう、それも全然ありだわ。てかむしろそれが食いたくなってきたな…」

 

 頼り強い相棒と、まるで夫婦のような会話をしながらマフラーを風にたなびかせて現場を後にする。渡津海の住宅街は静けさを取り戻し、人々が穏やかに過ごす夜が包む。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 その翌日。渡津海市の中心部にある渡津海図書館の地下。ここにLOTの渡津海支部がある。

 そしてその支部のある一部屋にて。

 

「ほらよ。お前に借りてたブレイズのモンストリキッドだ。わざわざ使ってやったんだからありがたく思え」

 

 ガーネット色のインクが詰まっているモンストリキッドを見せ、ある少年に乱雑に放り投げる凪。

 その人物は「へぇ?」と言って眉を上げる。

 

「僕は動けないんだしどうせならと思って渡しただけなんだけど、まさか使ってくれるとは思わなかったよ。君はやはり僕のことが好きみたいだ」

「自惚れんなバカが」

「いでっ」

 

 凪はその人物に拳骨を落とし、大きなため息を吐くとその部屋を後にする。灰緑色の髪を持つその少年はフフッと笑うと

 

「まったく、凪は素直じゃないねえ」

 

 と言って紅茶を口にする。彼のテーブルにはブレイズともう一つ、スカーレット色のモンストリキッドとレリックライザーが置かれていた。

 そして凪はと言うと。

 

「おい、あのバカのナルシスト加減をどうにかしてくれ朱莉」

「私に言われても困るんですけどそれ」

「付き合い切れん。無理だ」

 

 朱莉に泣きついていた。まさか助けられた女性は自分を助けてくれた何者かがこんなことをしているとは露程も思わないだろう。

 朱莉は半ば同情するように凪の肩に手を置いて、

 

「諦めなって。悪い子ってわけじゃないんだしさ」

「相手するのが面倒なんだよ……はぁ……」

 

 深い深いため息を吐いて項垂れる。無論、その深いため息を吐いたことを件の少年が知る由もなく。

 

「あーほら、コーヒー奢ったげるから。元気出しなって」

「お前だけが救いだよ……サンキュー……」

 

 力無くそう言って自販機に向かって歩き出す凪と、その背中をやはり苦笑しつつ追う朱莉。

 二人が渡津海支部を代表する名コンビであることは言うまでもないだろう。




最後までお読みくださりありがとうございました。
ムラサメ本編の進行や私の私生活(こちらのほうがかなり大きいですが)の影響で進むスピードはかなり遅いかと思われますが、気長にお待ちいただけると幸いです。

それでは次回でお会いいたしましょう。
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