「いろは、今日が何の日か知ってるよな?」
holoXの拠点にて。風真いろはに期待を込めた眼差しを向けながら、総帥であるラプラス・ダークネスは彼女にそう問いかけていた。
流石に侍でも、今日がバレンタインだってのは知ってるだろ――そう思いながら。
「もちろんでござる! ふんどしの日でござるよな!」
しかしそんな甘い考えは、満面の笑みで答えるいろはに呆気なく打ち砕かれた。
「いやなんでだよ」
その答えにラプラスは思わず呆れ顔で口にする。その反応にいろはは「なんでぇ!?」と驚くのだから、本人は真剣にそう答えたのだというのが分かってしまう。
「オメー、こういう時に侍みたいなこと言わなくていいんだよ」
「みたいじゃなくてかざまは正真正銘の侍なんですけど!?」
「あーはいはい。って、んなことはいいんだよ」
ぷんすかと怒るいろはに、ラプラスは「やる」とだけ言ってある物を投げる。放物線を描いて飛んできたそれを、いろはは慌てて受け取った。
「いきなり物を投げないで欲しいでござる……ってこれ、5円チョコ? 給料日はまだ先じゃない?」
「ホントに分かってねーのかよ。2月14日にチョコっつったら一つしかねーだろーがよ」
そこまで言われて、ようやくいろはも今日が何の日であるかに気が付いたようだ。
「ハッ! 今日はバレンタインだったでござる……!」
「なんだ、バレンタインだってのは知ってたんだな」
「失礼な! かざまだってちゃんと知っとるわ!」
――さっきふんどしの日とか言ってたのは誰だよ。そんな風に思いながらラプラスはジトリといろはを見る。
何も言えない用心棒は、その視線から気まずそうに目を逸らす事しか出来ない。
「てかバレンタイン知ってるならよぉ、当然チョコは用意してあるんだよなぁ?」
「うぅっ!」
そのリアクションでチョコを用意していないのは一目瞭然である。
「しょーがないな。じゃあ今度また飯作ってくれるなら許す」
「え、そういうのじゃなくてもご飯なら全然作るけど……」
「よし、言ったからな」
約束を取り付けて上機嫌になるラプラス。そんな彼女の様子を、いろはも微笑みを浮かべながら眺めている。
「――ところでラプ殿」
「んぁ?」
「この5円チョコはどういう扱いのチョコなんでござるか?」
いろはのその問いかけは、ラプラスにとっては少し意外だった。純粋な疑問で聞いてきたのであろうというのは彼女にも推測できたが。
「え、普通に職場チョコ的なやつだけど」
「そうでござるか……」
――おい、ちょっと残念そうにするな。
出かかった言葉を飲み込む。それを口にしてしまったら、きっと彼女は「気のせいでござる」と言うのも分かり切っていた。
「……ま、そういう訳だから。吾輩は部屋に戻る」
「あ、うん」
「ああそれと、他の奴らからのチョコはいろはの部屋の机に置いてあるぞ」
ラプラスはそう告げると、さっさと自分の部屋へと戻って行くのだった。
× × ×
「せめて友チョコだったらなぁ……」
自分に宛がわれた部屋に戻ったいろはは、そう呟きながら先程貰った5円チョコに目をやる。
「しかもいつもの5円チョコだし……」
彼女は溜息をつく。
ふと視線を机にやると、ラプラスが言っていた通り、holoXの他のメンバーからというのが分かる包装をされたチョコが置かれていた。
「……あれ?」
しかし、置かれていたチョコの数が一つ多い事に気が付く。それもわずかに離れたところに。
――これって……。
少し分かりづらい包装。だが、これを誰が置いたか分かる。
『吾輩の永遠の推しへ』などと書かれたメッセージカードも付いて。
「……ラプ殿のばかーっ!」
頬を赤く染めたいろはが大声でそう叫んだ。