猿人類となった男と見える子ちゃん   作:好きな領域は【誅伏賜死】

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この世界の霊的存在のあれこれについてです。呪術廻戦でも幽霊がいるかどうかは明言されていませんし見える子世界でもみこのお父さんと猫の守護霊、先生のお母さんの例もあるので独自解釈のものとなります。


【第ニ視】人は未知に恐怖を抱く

「お待たせ致しました。カフェラテとメロンソーダでございます」

「あぁ店員さん、メロンソーダは私だ。彼女がカフェラテだよ」

 

 その言葉に慌てて配置を変え「申し訳ありません」と軽く頭を下げ小走りに去っていく店員を見送る。

 そりゃあ立派な体格の大男に私服とはいえ一目で未成年と分かる女の子二人だ。自分でもさっきの店員と同じ間違いを犯す自信がある。

 

「遠慮せずに飲むといい。私の奢りさ」

「は、はい…いただきます」

 

 横道から出て程々の位置にあるカフェのチェーン店。その窓際の二人席にて私の対面に座る少女…四谷みこは湯気を上げるカフェラテを少し冷まし口に含み、ホッと息をついた。

 ――正面から改めて観察してやはり普通の女の子だ。

 

 この世界にて知り合った呪術師や呪詛師、また霊媒師や聖職者(どうぎょうしゃ)といった“呪い”に立ち向かう力を持った人間とは違う。

 喜怒哀楽をしっかりと持ち合わせたただの女の子だ。

 

「あの、先程はありがとうございます。もし助けてくれなかったらどうなってたか…」

「気にしなくていい。寧ろ呪霊が存在する場所に不用意に誘導した私の責任さ」

 

 事実その通り、取るに足らない3級呪霊とは言え流石に拙かった。「呪術は弱者(非術師)を守るためにある」とは夏油様の言葉。それを全うするのは私の義務だった筈なのに……“最強”を騙ることから起きた無自覚な驕りがこんな形で発露するとは――!

 

「いきなり不躾だとは思うんですけど…あなたにもその、“見える”んですか?」

「…っ、あぁ見えているさ」

 

 思考を進め思わず至らぬ自分を責めていたが、四谷みこの声で我に帰る…そうだ、今は彼女と話しているのだ。反省会は家で幾らでも出来る。

 

「!じ、実は私。数日前から急に見えるようになっちゃって…知り合いのみんなも見えないみたいだから相談できなくて」

「うん、見える人はそう多くはない。私にも知り合いはいるがせいぜい数十人ほどだね」

 

「見えるのは全部怖くって…でも、驚いたり逃げたりして何されるのか分かんからずっと無視してて…!」

「見える人が少ないように、彼らへの対抗手段もまたそう多くはない。今更ではあるが仕方ないさ」

 

 ぽつぽつと降るような言葉が、次第に堰を切った濁流へと変わっていく。

 

「街の至るところ…お店にも学校にも通学路にも、私の家にもいてずっと気が抜けなくて」

「人の感情はそこら中に渦巻いている。どこにいてもおかしくはないものだ」

 

「いつか見えてることがバレちゃうんじゃないかって考え出したら止まらなくて、でも気付かれないようにって泣けなくて…!」

「どこから見られているのか、分からないからね。君の心配はもっともだよ」

 

 今の彼女に必要なのは受容と共感…ようするに彼女自身を受け入れ相槌を打つことだと感じた。だからひたすらに肯定する言葉を投げかける。

 

「うぅ……」

「使うといい。飲み物も冷めないうちにね」

 

 吐き出し終えたのか、嗚咽混じりに声を上げる彼女にそっとハンカチを渡す。顔に前髪がかかっているため顔は見えないが、おそらく漸く溜め込んだものが涙腺の許容量を超えたのだろう。

 

 だが、顔こそ伏せているが声は噛み殺している。対面の俺には聴こえるが他の人間には聞こえていないだろう。その配慮/工夫は人目があるからか、それとも……

 

(あぁ、嫌になる)

 

 呪霊絡みの事件はいつもそうだ。元々がマイナスな感情から生み出される存在。それによって齎された事件はいつも多くの犠牲と深い爪痕を残す。

 そうして呪霊に対して恨み辛みを募らせ、己の中に呪力が生まれるのを自覚し。そしてこれでまた呪霊を祓うのだと生まれた呪力に静かに誓った。

 

「…ご、ごめんなさい、こっちから質問したのに。勝手に泣き出してしまって」

「気にしないさ――すみません、追加注文いいですか?」

 

 ふと近くにいる店員を呼び止める。

 

「ドリンクのおかわりと、この『極厚ピザトースト』を。一つはチーズ増しで」

「え……?」

 

 注文を復唱し下がっていく店員に会釈し、目をパチクリさせる彼女に夏油様らしい余裕のある笑みで悪戯っぽく微笑みかけてみる。

 

「泣くと腹が空くし喉も乾くからね、一先ずは腹拵え。詳しい話はその後さ」

 

 

 

 

 ドリンクやピザトースト(先ほどの店員がアドバイスしたのか最初から冬月にメロンソーダが配膳された)が届き粗方食べ進め終えたころ。

 冬月はその顔に似合わないメロンソーダを飲み干してから漸く呪霊…というか霊全体について語り始めた。

 

「まずこの世には主に二種類の霊的存在がいる」

 

「一つは幽霊。二つに呪霊」

 

「私が主に対応するのは後者だね。ここまではいいかな?」

「はい。あと、ご馳走様でした」

「ご馳走しました。最初に幽霊について説明しようか」

 

 結構な量があったピザトーストをペロリと食べ、ある程度憑き物が落ちたような顔をしている四谷みこの様子に安心し胸を撫で下ろした冬月は、外面上は和かに微笑んで教師のように指を立てる。

 

「幽霊は主に個人の未練などによって生み出されたり、幽体離脱してたり。発生要因はいろいろあるね。道端で呻いてるだけの無害な奴や誰かの守護霊もここに入る」

「害はないって…」

「対抗手段がなく反応してしまった場合は別だね。被害は大方憑依、体の乗っ取りだ」

「のっとり」

「乗っ取り。」

 

 驚き半分怯え半分といった様子でおうむ返ししたみこの様子を見て軽く微笑みながらも冬月は二本目の指…彼にとっては幽霊よりも馴染みのある存在についてだった。

 

「そして呪霊だけど…彼らは私や他の術師ではない君のような、辛酸・後悔・恥辱…非術師のマイナスの感情から生まれる。謂わば人の感情から生まれた災害さ」

「個人への害意、場所への執着。病魔への恐れ――あげ出すとキリがないよ」

 

 溜息を吐いた冬月は喋りっぱなしで乾いた喉をメロンソーダで潤す。見た目は高身長の彼がサイケデリックなミントグリーンの液体を飲む姿はかなりミスマッチであり、初めて聞く単語が満載され視覚と聴覚両方からタコ殴りにされているみこは取り敢えず頷き続ける。

 

「…すまないね、できるなら分かりやすくいってあげたいのだけど。どうしても()()()()が多くなってしまう」

 

「いやいやっ、説明してくれるだけでも…業界用語?」

「それについては追々。取り敢えず呪霊が厄介なのは――負の感情から生まれた故に人に危害しか加えない」

「……危害、しか」

 

「面倒なのは幽霊と違って見えてる見えてないの可否問わず襲う所さ。まぁ見えてる方が凶暴性増すけどさ」

 

 こともなげに呟かれた「見える方が凶暴性が増す」という言葉にみこは思わず身を竦める。

 今回こそ目の前の冬月に助けてもらえたが、もしいなかったら…そう考えると先程吐き出し終えた筈の恐怖がふつふつと湧き出てくるのをみこは感じた。

 

「あの…もしあのままだったらどうなってたんですか?」

「え?うーん…いやぁチョット君の年齢だと不適正な説明しか出来ないね。二年経ったら言うよ」

 

 戯けてそう言う冬月だが、ようするにR-18G的なアレなことになっていた可能性が高いということ。本当に自分はたまたま運が良かっただけなのかもしれないとみこは思った。

 

「要するに霊は幽霊と呪霊の二種類がいて危険度は呪霊の方が高いって覚えとけばいいさ。因みに呪霊と幽霊の見分け方は明らかに人を逸脱した姿だったり黒いオーラ出してたり…あぁそうだ。そう言えば君――()()()()()()

 

 ふと何かを思いついた冬月は自身の腹部を指さす。

 

「えっと…はい。なんかすっごい黒いモヤみたいなのが見えます」

 

 みこの目には、初対面の時と同様冬月の腹部を中心にこれまで見たどんな呪霊よりも濃いオーラが透けて見えた。

 

「うん。じゃあ今度はそんな私の力に因んで、呪術師や霊能力者について話させてもらうよ」

 

 冬月はそう言い微笑む。本人としては慈悲の笑みだが、みこからすれば親切にしてくれてるとはいえ未だに素性の知れない男が笑っても怖いだけだった。




という訳で呪霊だけにせずに呪霊と幽霊に分けました。二つをまとめて呼ぶときは「霊」または「霊的存在」とします。
冬月がメロンソーダ飲んでるのはまぁ…ネットミームということで、勿論あのTS腐脳お母さん系ラスボスと夏油様は別人なのは重々承知ですが。
次回も説明回となります。テンポも悪く読みづらいとは思いますがお付き合い頂ければ幸いです。
感想・評価お待ちしてます。

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