猿人類となった男と見える子ちゃん   作:好きな領域は【誅伏賜死】

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過保護となる冬月(夏油)さん。実際みこちゃんがあぁなってたら誰だって助かると思います。マル


【第三視】歯には歯を、目には目を

「まず、霊への対抗手段を持つ人間。君でいう【霊能力者】はそこそこ多い。道を歩けば…とは行かないが、それなりの根気を持って探せば一人二人は見つかる」

 

「それで一口に言っても色々タイプがある。生命力で浄化したり式神使ったり、お祓いの道具とか使ってと様々さ」

 

 この世界は冬月が持つ能力の登場元である世界とはかなり法則が異なっており、“呪霊(のろい)”は“呪い”でしか祓えない…ということはなかった。

 事実大学生時代「武者修行」と称してオカルトサークルのメンバーと共に幾多の地を巡る旅では、聖水ぶっ掛けて呪霊を蒸発させたシスターや生命力を乗せた一喝で複数の霊を足止めした老人。果てには如何にもな本片手に意味のわからない言葉の羅列を呟いたと思ったら地面から現れた触手が呪霊を捕らえ飲み込んでいく様子もみてきた。

 

 例によってこれらは全て呪術師とは異なる霊能力者であり、冬月の同業者でもあった。

 

「冬月さんはなんなんですか?」

「私は呪術師だね、イメージし易いのは藁人形釘打ちにするアレ」

 

 みこの脳内に冬月がヒステリックに人物の名前を書いた紙と藁人形を木に固定し釘とトンカチでぶっ叩くイメージが湧き出たが、あまりにも似合わなかった。

 

「呪術師は呪霊と同じ負の感情から生まれるエネルギー“呪力”を操り。身体能力を強化やそれぞれの“術式”…固有の能力のようなものを使って呪霊を祓う。“術式”の有無は生まれた瞬間に決まるから、数は極少ないけどね」

「じゃあさっき幽…呪霊を倒したのは。その呪力を使って殴ったから…って事ですか?」

 

「その認識で正しいよ、まぁアレは。私でなくとも呪術師であれば誰でも出来ることだが」

 

 冬月は自身の呪力を意図的に拳へと集め、より濃い呪力を作り出す。見た目としては虎杖悠仁の“逕庭拳”に近いものである。

 

「この青白い炎みたいなのが呪力。そして“術式”だが――」

「?、どうしたんですか?」

 

 これまで一度口を開けば説明がひと段落するまでぶっ通しで喋っていた冬月の突然の沈黙に、みこは疑問符を浮かべた。数秒迷うように口を閉じていた彼だが、口を開き続きを口にした。

 

「私の術式は【呪霊操術】。調伏した呪霊を取り込み自由自在に操る術だ」

「もしかして、冬月さんから出てるオーラって」

「そう、私が今まで取り込んだ呪霊達のものさ。10、20ではきかない数がいるから。濃さも一入」

 

 戯けた様子でそう締めた冬月だが、内心では少しピリついている。

 

(これで『呪霊を取り込むなんて…』とか言われたらちょっと不味いな)

 

 彼としては早めにみこに対処法を教えたいが、その前に冬月自身がみこに拒否されては不可能になる。

 

(何も教えないで私の呪霊を警護につける事も出来るが、無為に不安を煽るだけかもしれないな)

 

「呪霊を操るって…なんか凄いですね」

「……えっ、それだけ?」

「それだけとは…?」

「いや、なんかこうもっと…人と魔の間に生まれたハーフみたいな反応されると思ってたんだけど」

 

 夏油モドキ(羂索に非ず)としての口調を思わず解き“素”に近いモノで聞き返す冬月に、みこはキョトンとした顔で口を開いた。

 

「確かに体の中に呪霊がいるって言うのは恐いかもしれないですけど……冬月さんは助けてくれたじゃないですか」

 

 それだけで、信じるには十分すぎますよ

 

 

「あれ…冬月さん?」

「…………大丈夫」

(今時見ないぐらいに良い子だこの子。モンペになりそう)

 

 善性の塊のようなその言葉に冬月は思わず目頭を押さえ天井を向く。彼にとってただでさえ呪術師という表にはまず認知されない仕事を生業とし*1、対峙する呪霊は人間の恨み辛みの結晶。

 このような【感謝】とはほど遠い職種である冬月にとってはみこの言葉は最早劇毒にも等しかった。

 

「ど、どうしたんですか?」

「うん、平気だよ。さて君を助ける方法だが」

 

 冬月は、護衛につけようと目星をつけていた呪霊を一旦下げ。新たに取り繕うことにした。

 

 

 

 

 あぁ、救われた―――。

 

 と古いネタはさておき、みことは会計もそこそこに店を出てその後私達は夕暮れの寂れた公園へと来ていた。

 

「な、なんでここに?」

「実演した方がいいかと思ってね」

 

 老朽化が進んだ遊具に何故か公園一帯を覆うように植えられた枝垂柳のせいで見通しは極めて悪い。不気味な雰囲気と公園の外から目を向けられないこともあってご近所では「近寄らない方がいい」と評判らしい。

 

そしてこういう場所には得てして――

 

「やはりいるね、臨床に不足無くて結構」

 

 呪霊に見られないことを悟らせぬよう視線をぐるりと回すと。二四六八…この公園内だけでも9体の呪霊が発生していた。

 

(今まで現れなかったということは夕方から夜にかけて発生する呪霊…変に稚拙な姿からして子供達から発生した負の感情によって生まれた類いか)

 

 こうした曰く付きの土地に住み着いた呪霊は下手すれば土着信仰のように強力な呪霊へと成長するケースもあるのだが、大して強くなくて一安心…と思っていたのだが、ふと服の端を引っ張られる感覚を覚える。

 

「あの、早く離れた方が……」

「――大丈夫さ、こんなの私にとってはそこいらの石と同じだよ」

 

 そうだった、この子にとっては呪霊とは特級も蝿頭も関係ない恐ろしい存在であることをすっかり失念していた……どうにも価値観が呪術師寄りになってしまっているらしい。

 取り敢えず安心させるためにも普段よりも獰猛に笑ってみるが、それでも足は少し震えている。

 

「私の術式は【呪霊繰術】、降伏した呪霊を取り込み使役する。更に私よりも大きく強さに劣る呪霊の場合は調伏の必要なしに無条件で取り込める―――こんな風にね」

『『『『――ッ!』』』』

 

 術式の開示による縛りでも強化(必要ない、ぶっちゃけ雰囲気作り)し近くにいた呪霊四体を纏めて球に変える。この倍量以上を後々呑み込むことには気が滅入るが今更だ。

 

「これで少しは信じられるかな?」

「だ…大丈夫です」

 

 先ほどよりも血色の良くなった顔をみて少しだけ安心する。……そして今回の()()を果たすためにバッグからあるものを取り出す。

 

「さて、これは何に見えるかな?」

「えっと…()()()()()()()()()()()ですか?」

「正解。まぁ用事があるのはコレの中身なんだがね…っと」

 

 カプセルの蓋をパカリと回し開け、中から指でつまめる程度の。木の板に乗る黄金色に輝く真円状の物体と小さな木槌――そう。ボクシングの試合の合図として使われるゴングの超ミニチュアサイズだった。

 

「よし、これとこれを持ってくれ」

「あっはい。…えと、これは?」

「簡単に言うと呼び出すための触媒だね。これを鳴らせば君のボディガードが出て来る」

 

 私はそれをみこちゃんに渡す。ないとは思うがあとで悪用や事故を防ぐためとある縛りを設けるが今回は別だ。試験運用というだけなので()の姿を見てその力を見て貰えばいい。

 

「さぁ、そのゴングを」

「分かりました…えい!」カーン…

 

 本物に比べればかなり薄っぺらい音が周囲に木霊する。

 

ビュン!

「キャア!?」

 

URAAASHUAAAAA!!!

 

 その音と共に、みこちゃんのすぐ脇を風切り音と共に一体の呪霊が駆け抜ける。

 姿は見たままトランクスパンツにボクサーグローブと完全ににボクサーのそれだが…彼の体はあまりにも貧相で、あまりにも痩せこけていた。

 

『グギャア!?』

『SHIIIII…!』

 

 急に現れた呪霊に驚くが、彼はそんな彼らに驚愕から立ち直る時間も与えずに振りかぶる。

 まるで線の敷かれたような一直線のストレート。

 

べ ゴ ォ !

『ゲギャアアアア!!!』

 

 細い腕からは考えられないほどの重厚な音を響かせ風穴を拵えた彼は、次なる()()()()を見定め凶悪な笑みを浮かべグローブを顔の前で揃えるピーカブースタイルを取り一気に距離を殺した。

 

 そこからは唯の蹂躙である。

 

「まぁこんな感じさ…あぁ。ゴングを三回鳴らしてみてくれ」

「う、うわぁ…」カンカンカーン

『…………!』

 

 みこちゃんがゴングを三度鳴らすと、彼は両腕を天に突き上げ一頻り喜んだ後黒いモヤとなって消えていった。

 

「い、いまのは…」

「アレが今日から君のボディガード代わりになる1級呪霊【拳威】くんさ。

 呼び出す時はゴングを一回鳴らして、呼び戻す時は三回鳴らすんだよ」

「」

「あと彼には、

 『一回につき連続活動時間は三分』

 『その後一分間の休憩時間(インターバル)が必要』

 『所有者に敵対した霊にしか攻撃しない』

 っていう制約…縛りを設けてるから、そこだけは注意するように」

 

 彼の縛りについて説明すると、ようやく状況が飲み込めたのかみこちゃんが心配そうな顔で覗き込んでくる。

 

「い、いいんですか…?明らかに凄く強そうで、冬月さんが困っちゃうんじゃ」

「あーまぁ。使い勝手が良いって意味では痛いかもしれないけども、問題ないさ」

「そうですか…」

 

 実際【拳威】はかなり使い勝手のいい呪霊ではあるが、まだ私が肉弾戦をした方が強い。そもそもそうして調伏したのだし。

 

「何回か使ってみよう。ホラ…()()()()にはもってこいな数がいるだろう?」

「ガンバリマス…」

 

 そうして使い方をある程度習得したみこちゃんは、日も沈んだので帰るとの事だったので。近所まで送ることにした。

 少々顔は引き攣っていたが我慢してもらいたい。十種影法術とかならまだマシなのを付けられたかもしれないがあっちがポケモントレーナーならこっちはフロムトレーナーだからしょうがない。

*1
住職としてされた感謝は七割方呪霊目当てなため「感謝される謂れはない」と無意識に自虐している




【拳威】
等級:1級怨霊呪霊
発生源:拳を主とした暴力
嗜好・興味:シャドーボクシング
嫌いなもの:なし
概要:とある地下ボクシングで階級を落とすため狂気的なまでの減量をしたとあるボクサーが試合後(相手の頚椎損傷による死亡にて決着)に死亡し、その霊魂と凄惨な試合によって観客から発生した拳への恐怖感によって生まれた呪霊。
 簡易領域により相手からの飛び道具を無効化し、ひたすらに相手を殴り壊す。
 ゴングを依代とする形となっており、本来みこに渡されたゴングは血がベッタリと付着したショッキングなものだったが。【そうあれかしと思った姿形に固定する呪霊】によって劇中の様子となっている。
 冬月との戦闘時は【呪霊操術】が飛び道具と見なされ呪霊による質量戦を封じられるが、六合大槍の【呪具】による長大なリーチから刺殺された。

こういう感じで今後出てくるオリジナル呪霊には簡単か設定を書かせて頂きます。
本来なら準2相当を付ける筈が手が滑って1級呪霊をつけてしまう夏油(オリ主)様。みこちゃん可愛いから仕方ないね。

見える子世界の1級呪霊はトンネルのドラム缶や子供擬態などを想定しています。

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