猿人類となった男と見える子ちゃん 作:好きな領域は【誅伏賜死】
今回はツナギ的な話です。特に後半は強引な展開が目立つと思いますが、気にしないでいてくれると助かります!!!!
あと誤字脱字報告ありがとうございます。本当に感謝しています。
追加:タイトルの名前どころかレイアウトを派手に間違えました。
日間ランキング6位…6位!?!?!?ヒェェ……ありがとうございます。
『ヘギュウ!!?』
『――――ッ!』
ガードを崩した
顔面を打ち抜くと共に溜まらず弾けた対戦相手―準2級相当の呪霊―を他所に、彼は“セコンド”の方を振り向きグローブを掲げた。
「…………」ペコリ
手を取って振り上げる訳でも歓声を上げることもなく、セコンドである四谷みこは軽く会釈をするだけだったが。それでも彼は満足そうに頷いた後三回のゴングと共に依代であるゴングの中へと入っていった。
みこのボディガードとして貸し出されている1級呪霊【拳威】は、今現在の生活にかなり満足していた。
一つ前のセコンドは自身よりも強く、また多くの対戦相手を用意してくれたが。彼が用意する試合は自身が望む一対一―せめて一対多―ではなく双方の勢力による乱闘が殆どであり。それでは不完全燃焼にて試合が終わる事が殆どだった。
「…そ、その。またお願いしますね」
「みこ、どうしたのー?」
「なんでもないよハナ」
その点
試合する相手こそ少し格が落ちるが、そのぶん大した移動時間を取られずにかつひっきりなしの
より良いのは……セコンドの隣で両手にクレープを持ち頬張っている友人の存在だ。
一瞥しただけで分かる桁外れの生命力、溢れ出すオーラは否が応でも呪霊を引き寄せる。行き過ぎたオーラは低級の呪霊を容易く焼いてしまう炎。一種の誘蛾灯のようなモノだが、それはあくまで低級の話であり、みこ一人の際は滅多に見れない高階位の呪霊も現れてくれる。
(また来た…やっぱりハナは引き寄せやすいのかな……)カーン
「アハハ、みこのその
「まぁゴング型だからね…」
『ミエ………』
『UWOOOOOOOO!!!』
『ジャ、マァ~…!』
乱雑な姿勢から放たれたテレフォンパンチをストッピング*1にて逸らしジャブを打ち込む。頬を押さえこちらを睨む
彼は顔に肩を近付けフィリー・シェル*2の構えを取り、獰猛に笑った。
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夏油傑の術式、【呪霊操術】の強みとは何だろうか?
神様から能力を借り受けてから数十年。この問いに結論が出たことはない。
たぶん原因は【呪霊操術】があまりにも万能過ぎることにあると思うが…質も量もいけるこの術式は、確かに現代最強の呪術師とは別ベクトルで【最強】なのであったのだとしみじみと噛み締める。
強いて欠点を挙げるとしたら強力な呪霊を一定数取り込むまでは自力で戦わなくてはいけないということだが、そもそも夏油様の恵体と呪力による基礎的な身体強化。それに【呪具】さえあれば余程理不尽な簡易領域でさえなければ1級と特級の間で反復横跳びしてるヤツまでなら祓えるので大したものではない。
…なんでこんな現実逃避染みたことを言っているのかって?
「弟子にしてください!」
目の前で頭を下げる一人の少女について困り、こうして自分のことについて考えていた。
先日あったみこちゃんに比べるとだいぶ低い身長に金髪のツインテール。服装は軽い所謂……【地雷系】と言えばいいのか?をしていた。珍しい参拝客だなと箒を掃いていたら私の顔を見るなり近付いてきて先ほどの言葉である。
「あー…残念だけど今は巫女さんのアルバイト募集はしていないよ。新年だと入り用になるからそれまで待ってくれま」
「バイトの話なんかじゃないです!……アレ」
一応とぼけてみたが、彼女はそこそこの大声で私の背後を指さす。
そこには…やはりと言うか何と言うか、3級呪霊が二匹ほど屯っていた。
私には伊地知さんが張っていたような呪い合いの隠蔽や部外者の侵入を防ぐ結界である【帳】を展開する結界術の才はなかったため。本拠地でもある寺院内にも呪霊は平然と入って………おっとっと、
「見えるけど、それが?」
「だったら――!」バクン
彼女が言葉を言い切る前に呪霊たちの上から覆い被さるように…いや、覆い被さると誤認出来る程に巨大な呪霊へと
3級呪霊を呑み込んだ、15mを超える体躯の蛇型の準1級呪霊【山蛇】はチロロと爬虫類特有の長く細い舌を器用に操り。私の方に調伏した証である珠となった呪霊を投げて寄越した。
そこらにいる雑魚呪霊と入れ替わるように現れた巨大な呪霊に驚いたのか固まる彼女を余所に珠を受け取り、飲み込む。
相変わらず味・喉越し・気分ともに最悪だが、転生前神さんに言われた「元ネタだと珠の精神汚染とかもあったけど転生させて悪人になったら悲しいからその類の悪影響はナシにしといたよ」という言葉を信じる。別に非術師の一般人を人間ではないと考えたことはないので平気だと思う。
(――いやアレは精神汚染関係ないか。強いて言うなら九十九さんとの問答の時?)
「い、今のって……!」
ショックから立ち直った彼女は、肩をワナワナと震わせながら此方を振り抜く。
余程の命知らずか代々その手の家系でもなければ今ので呪霊に大して畏れを抱き、霊能力者になろうとは思わないだろうと…そう考えて一芝居打ったが流石に驚かしすぎただろうか?
自分で勝手にやっといてなんだがフォローを入れようと声を掛けようとする。
「指をさしただけで“この世ならざる者”が消え去った…」
(この世…え、なんて???)
振り返った彼女の表情に畏れはなく、寧ろ喜色がその多くを占めているような顔だった。
「まさかここに来て、ワタシのチカラが一気に上がった…!?」
震えが止まると同時に、彼女は「ふふふ…」と笑いだす。不敵な物が多分に含まれるその含み笑いに私はいやな予感を覚えた。
「すまない、もしかして今の「弟子入りの話、聞かなかったことにしてもらえるかしら?」…うん?」
「勝手な事だとは思うわ。ゴメンなさい……でもワタシは、ワタシだけの道を行きたいの」
「えっと……」
「さようなら。ワタシはいつかきっとアナタより……いえ、“絶対”にアナタよりも凄い霊能力者になってみせるわ!」
心なしか先程より4割増しで輝いているような金髪をかきあげ、彼女は颯爽と去っていった。
「ハッ……えっーと、つまりは…」
ふと反射的に振っていた手を引っ込め、ようやく再起動した私は彼女の言動から状況を整理し始める。
(言動と反応からして間違いなく3級呪霊は見えていた筈。山蛇が見えなかった原因はなんだ?)
(だが山蛇に隠蔽能力はない。アレは【拳威】と同じ身体能力で相手を倒すタイプ……山蛇を自分の能力だと誤解した?しかし「突如として消えた」と言っていたからないな)
思考を重ねた結果、夏油ボディの私の脳内CPUが弾き出した答えは――
「…まさか彼女。高位の呪霊は見えていないのか?」
……!
…………?
………………。
なら、別にいいのでは…?
…うん。よくよく考えたら高位呪霊は見えてようが見えてまいが危険度は変わらない。謂わば地雷のようなものである。みこちゃんのように「全部見える」ならまた別だが…
「今度来た時注意勧告すればいいだけ…かな、これは」
常人としてはアレかもしれないが、術師としては別段間違っていない思考の筈だ。
私はそう自分に言い聞かせながら、再び境内の掃除へと戻った。
【山蛇】
等級:準1級仮想怨霊
発生源:山岳地帯特有の山が一気に隠れるような影の降り方から
嗜好・興味:食事
嫌いなもの:強烈な日射
概要:巨大な蛇のような形の呪霊。読み方は「やまへび」では無く「やまばみ」見上げる程の体躯から繰り出す大質量の攻撃を得意とする。自身を拡大する術式を保有する。
現在は50m程が限界だが。調伏前の人による信仰ブーストを最大まで発揮した際は文字通り山の名前を冠するに相応しい巨大蛇、又は山を飲む邪龍のようなスケールにまでなる。
前述通り土着神のような存在でもありその存在は余り広まってなかったが、【巨大蛇伝説】を態々追ってきたオカルトサークルと、そのメンバーである冬月によって調伏された。
ユリアちゃんは大体3級まではくっきりと、準2級から急に輪郭がぼやけて見えるということにしました。
追加:みちるちゃんそれ普通に犯罪や。