アビサルハンターズのとびきり甘いチョコ   作:白煙

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ホワイトデー短編です。
pixivの方には投稿してたのにこっちには投稿しないのもあれなので投稿します。


アビサルハンターへの返礼

3月の頭にホワイトデーと言う日が今月の半ばにある事を、懇意にしてるトランスポーターから教えてもらった。

なんでも、バレンタインデーに貰った物へのお返しをする日だという。

受け取った気持ちへの返答も兼ねて。

 

受け取ったチョコの総数は163個。単純に1人1つお返しを用意するとして163個の菓子を用意しなければならない。

それだけでも絶望的な量ではある。

しかし、そのトランスポーター曰く、「ホワイトデーは3倍返し」らしい。

単純に計算するだけで489個の菓子を調達しなければならない事に倒れそうになったのが2週間ほど前。

そう、2週間前だ。つまり今日はホワイトデー当日なのである。

菓子に込められた思いと、返礼用の菓子が示す意味に翻弄されながらも、どうにか全員分のお返しを用意出来たのが昨日。

今は、部屋の隅に山のように積まれたダンボール箱を背にグレイディーアからの冷ややかな目線を受け、作業を進めていた。

代理として配ってもらうよう手配していたトランスポーターが早く来ないかと思いながら。

 

 

a.m. 09:00 天気/快晴 ロドス本艦 執務室

 

9時丁度。こちらが指定した時刻ぴったりに部屋の扉が叩かれる。

私の目配せを受けたグレイディーアが扉を開けてノックの主を迎え入れた。

入ってきたのは手配していたトランスポーターであるテキサスだ。

手を挙げて彼女を歓迎する。椅子から立ち上がり、部屋の隅に積まれているダンボール箱の方へ歩きながら。

 

「ペンギン急便のテキサスだ。ドクター、依頼の荷物は何処だ?」

「こっちだ、テキサス。事前に説明した通りだが、このダンボール4箱に40個ずつ、計160個のクッキーの詰め合わせが入っている。

クッキー自体は同じものだが、メッセージカードが全員違う物になってるから、渡す相手は間違えないで欲しい」

「あぁ、わかっている。一応中を改めてもいいか?」

「大丈夫だ」

 

テキサスはしゃがみ込んで手早くダンボール箱を開け、言った通りの数が入っているかなどを確認していた。

どうやらどの箱に誰宛てのが入っているかも記録しているようで、携帯端末を慌ただしく操作している。

数分後には一通りの作業が終わったのか、持って来ていた折り畳み式の台車を広げ、その上にダンボール箱を積んでいた。

 

「中身は確認した。報酬はいつも通りの方法で振り込んでおいてくれれば構わない」

「あぁ、助かる。テキサスのへのお礼も直接渡したかったんだけどね、流石に160個から1つを探すのは大変だからさ、ごめんな」

「何、しっかり受け取ったさ、楽しみにしている」

「しっかり皆に渡してくれよ」

「ああ。任された」

 

そう言って台車を押しながらテキサスは部屋から出て行った。

部屋の前を通る数人分の足音が聞こえることから、恐らくはペンギン急便の皆で配って回るのだろう。

これでほぼ全員へのお礼は事実上終わった。

後は、何人かへの個人的なお礼を渡せば、ホワイトデーはそれで終わりだろう。

会話に何か疑わしい点でも有ったのか。

グレイディーアのやけに懐疑的かつ冷ややかな目線に責め立てられてから作業に戻る。

 

p.m. 00:30 天気/快晴 ロドス本艦 執務室

時計のアラームが鳴る。

集中していて気付かなかったがどうやらもう昼らしい。

珍しく順調に仕事が進み、当初の目標以上の成果を出したことに内心満足していると、グレイディーアから声を掛けられる。

 

「お疲れさまですわ、ドクター。仕事は珍しく順調なようですし、私は休息を取ってきますわ」

「あぁ、待ってくれ、グレイディーア。渡したいものがあるんだ?」

 

立ち上がって扉の方に向かおうとしていたグレイディーアは猜疑的な視線を携えたままこちらに歩いてきた。

執務室の椅子に座る私をそれはもうぞっとする程に冷ややかな目線で見下ろしている。

引き出しにしまってある2つの紙袋のうちの片方。

グレイディーアの為に用意していたプレゼント、それが納められたものを差し出す。

不思議そうな顔で受け取ったグレイディーアは心底理解が出来ないとでも言いたげな声色だった。

 

「これは何かしら」

「今日はホワイトデーだろ? だから、バレンタインデーのお返しだ」

「………………」

 

気恥ずかしさと緊張を誤魔化すべく、出来る限り明るい口調で返答する。

しかし、グレイディーアからの返事は中々帰ってこない。

それどころか、そのまま振り返って部屋を出ていこうとしてしまう。

選択を間違えたことに後悔していると、扉の前でぶっきらぼうな言葉がようやく返って来た。

 

「戦術指揮官が特定の兵士に肩入れすると碌なことになりませんわよ。

ですが、ドクターからの折角のプレゼント。有難く頂戴致しますわ」

「喜んでくれたなら良かったよ」

 

どうやら、満足してくれたらしい。中身を見てはいないが、プレゼントを送ることに意味が有ると相談していたオペレーター達にはさんざん言われたので、きっとそう言う物なのだろう。

軽く一声かけて、立ち去るグレイディーアを見送った。

少し書類の整理をした後、昼食を取るべくロドス本艦にある食堂へ向かった。

 

 

p.m. 01:20 天気/快晴 ロドス本艦 執務室

 

食事を済ませて執務室に戻ると、渡したプレゼントの封を取り、中に入っている物を眺めているグレイディーアが居た。

手に取って光に透かしたりしていたが、私が入って来たことに気が付くと、箱の中へしまってから蓋を元に戻してしまった。

 

「お帰りなさいドクター。午後はどの仕事から手を付ける予定なのかしら?」

「とりあえず一昨日の交戦記録をまとめ直すところからかな」

 

グレイディーアに返事をしながら椅子に腰かける。

午後の勤務時間までにある程度準備をしてしまおうと、書類のファイルを確認する。

そうしていると、グレイディーアから声がかかった。

 

「先ほど貰ったプレゼント……こちらはいったい何なのです?

見たところ綺麗なガラス細工であることはわかるのですが」

「あぁ、それは極東の硝子細工職人が作ったガラスで出来たペンだ、インクもひと瓶入っていたと思うんだが」

「このインクはそう言う事でしたのね」

「試し書きとかはしないのか?」

「業務が終わった後、自室でやりますわ。下手にここで壊してしまうよりはマシですもの」

 

会話の最中にもグレイディーアは箱のふたを開けてガラスペンを眺めることは有っても、それ以上は触らないようにしているらしかった。

いつも通りの口調で、何でもないようにふるまっているグレイディーアの耳が、赤く染まっている事に内心満足しながら、午後の仕事を再開した。

 

 

p.m. 03:24 天気/快晴 ロドス本艦 執務室

 

控えめなノックの音が聞こえる。時計を見れば時刻は15時半の少し前位だった。

これはあらかじめ呼びつけておいた彼女が来たのだろうか。

グレイディーアがじとりと此方をにらみつけると、扉を開けるべく歩いて行った。

 

「ドクターも私も忙しいのですからあまり人を呼びつけないで欲しいのだけれど……」

 

茨に塗れた言葉を口にしたグレイディーアが扉を開けた先にいたのは、彼女よりも頭一つほど小さく、しかし彼女と同じ銀髪に紅い瞳の女性。

丁度私がこのくらいの時間に来るよう言っておいたスカジがそこにはいた。

 

「ドクターに呼ばれたから来たのだけれど……一体どんな用事なの?」

「渡したいものがあってな。こっちまで来てくれるか?」

「えぇ、構わないけれど……一体何?」

 

スカジは言われるがままに私の下まで歩いてきた。

グレイディーアはこのやり取りを見て、呆れかえったような表情で元居た秘書用のテーブルへ戻っていった。

キョトンとした顔で此方を見るスカジに、引き出しに残ったもう1つの紙袋を手渡す。

 

「先月、チョコくれたでしょ? だから、それのお返しだよ」

「そう……ありがとう。中を見てもいいかしら?」

 

首肯することで意を示せば、スカジは紙袋から朱色の包み紙で覆われた箱を取り出した。

慎重な手つきで包装紙を外していたが、力加減を間違えたのかビリビリに破いてしまった。

申し訳なさそうにするスカジと、その後ろでチラチラと心配そうに見つめるグレイディーアが印象的だった。

多少の苦難はあれど、箱の中から取り出したのは、真っ赤な宝石が特徴的なネックレスだ。

 

「こんなもの……私には勿体ないわ」

「君につけてほしくて選んだんだけどな」

 

スカジの口から出てきた言葉に返しつつ、反応をうかがう。

落胆している様子はなく、それどころか喜んでくれてはいるようだ。

そのことに安心していると、スカジからようやく返事があった。

 

「そう……じゃあ、着けるのを手伝って貰えるかしら。あまり、こういうのは買わないの」

「いいよ、後ろ向いて貰えるかな?」

 

スカジから受け取ったネックレスを彼女の首に着ける。

それだけだが、帽子を外してかきあげた髪から覗くうなじに妙な色香を感じてしまう。

自らの獣性を理性で必死に押し殺しながらその作業を終える。

ネックレスから手を離し、彼女へ声を掛ける。

 

「終わったぞ。スカジ」

「ありがとう。似合っているのかしら?」

「正直なところ、予想以上に似合っているよ」

 

手鏡をスカジが自分自身を確認できるように手渡しながらそう告げる。

彼女も、手鏡で自分を軽く確認すると、満足したように微笑んでくれた。

安心感に胸をそっと撫で下ろす。

スカジはプレゼントが入っていた紙袋に包装紙とネックレスの入っていた箱を入れると、近くの机に置いていた帽子を被った。

 

「仕事の邪魔になってしまうし帰るわね。

ネックレス、ありがとう、ドクター。嬉しいわ」

「スカジこそ、チョコレートありがとう。美味しかったよ」

 

名残惜しそうにチラチラと此方を伺いながらスカジは部屋を出て行った。

それから少しして、漸く作業に戻った。

グレイディーアは何か言いたげにしていたが、結局溜息を吐いただけでそれ以上は何も言おうとはしなかった。

 

 

 

p.m. 09:00 天気/快晴 ロドス本艦 病室

ホワイトデーから早くも1週間の時が流れた。

クッキーを渡したオペレーターからは未だに感謝の言葉を受けている。

グレイディーアは、インクに付ける頻度に多少の文句を言いながらもガラスペンを使ってくれている。

スカジは外勤のない日につけてくれているのを目にしている。

 

バレンタインデーにチョコを貰った人たちへはほぼ返し終わったのだが、あと1人には渡せていない。

しかし、つい先ほどワルファリンから連絡があった。

端的に、「目が覚めた」と。

 

そうしてやってきたのは重病患者を入れる一室だ。

もう夜なのであまり迷惑にならないようにノックしてから部屋に入る。

 

部屋の主は小さな窓からのぞく星空を眺めているようだった。

しかし、私に気付いたのか緩慢な動作で振り向いた。

 

「サメ、少しいいか?」

「あら、今回は気づいているのね」

 

振り向いたのは”スペクター”と言うコードネームで登録されているオペレーター。

彼女曰くまともな時はサメと呼称することを強要してくる。

何となくでサメと呼んだが、どうやら合っていたらしい。

安心感を覚える此方をよそに、サメはどこか残念そうだった。

 

「まぁ……な。それで、今日はバレンタインデーの時のお返しに来てな」

「ホワイトデーってやつ? アハハ! スカジが散々自慢して行ったから知ってるわ!」

 

随分と楽し気にしているサメに荷物を持っていない方の手を差し出す。

サメは視線をこちらの眼から手の方に移し、再度こちらの顔を向く。

 

「何もないじゃない。酷いこともするのね」

「いや、プレゼントはまだ渡せないんだ。それで……今から甲板の方に行かないか?」

「嬉しいこともしてくれるのね。いいわ、あの医者に気付かれないうちに抜け出してしまいましょう」

 

サメは、逡巡することなく私の手を取ってくれた。

そのことに喜びを抱えつつ、足を甲板へ続く通路の方へ向けた。

 

p.m. 09:20 天気/快晴 ロドス本艦 甲板

 

ロドス・アイランド本艦はある都市に停泊しているためか、風は強くない。

寒さの影響をあまり受けないところにあるベンチへ、サメを引っ張って向かう。

 

「さてと、ここならあまり寒くない」

「そんなこともあるの、地上は不思議ね」

 

サメをベンチへと座らせて、隣へ腰かける。

一緒に持ってきた荷物から、サメへのプレゼントを取り出しながら、サメの疑問へと返答する。

 

「ここの近くに色々あってな。そこの熱気が伝わって来るんだ」

「ふぅん、そうなの。それで、ここまで何も言わずにつれてきて何の用?

あぁ!もしかして私、乱暴されちゃうのかしら」

 

隣を向けば蠱惑的な表情を浮かべたサメが目と鼻の先ほどまで顔を迫らせていた。

ギョッとして、思わず体が仰け反り、手に持っていたものを取り落としそうになる。

それを見たサメは、残念そうに体を元の位置に戻していた。

 

「ま、貴方がそんな人じゃないのは百も承知よ。あーあ、残念だわ」

「さてと、まぁ、こんなとこに来たのはしっかり意味があってな」

「どんなものなの?私はこれでも悲しいことに重病人なのだけれど」

「極東の文化でな、星見酒ってのを聞いてな。折角だから一緒にしようと思って。形にはならないが……」

「いいわ。満天の星空の下でワインってのもオツなものでしょうし」

「受けてくれて嬉しいよ」

 

彼女にワイングラスを渡すと、持ってきた赤ワインをそこへ注ぐ。

自分の分のワイングラスへも注いだところで、スペクターがワイングラスを差し出してくる。

そこにワイングラスをかちりと合わせて呟く。

 

「乾杯」

「かんぱーい」

 

月光と、星明かりの下で2人並んでワインを飲みすすめる。

会話を肴にして、ワインと時間は進んだ。

サメとは未だに話し足りないのだ。

この時間が終わらなければいいと思わずにはいられなかった。

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