ブラマス短編 作:ミュータント・アタッカー
――G-ソフィア車内。
「……あっ」
「どうしたの?」
「イヴって今いくつなんだ?」
「ええっ!? と……」
思いついたから質問してみたものの、答えが返ってこない。
様子が気になって立ち上がり、後部座席の方を覗き込むと、イヴは薄く頬を染めて俯き、両手を膝の上に組んでいた。その熱っぽいような表情に見覚えがある気がして、俺は嫌な予感にハッと息を呑んだ。
「イヴ!?」
背もたれを掴んで飛び出すと、イヴは驚いて座席の中で跳ねるように揺れた。
「ジェ、ジェイソン?」
「イヴ、気分が悪いのか?」
「何ともないけど……?」
「そっか、よかった……」
杞憂だったと俺が胸を撫で下ろすと、イヴはまた俺から視線をそらした。
「イヴ?」
「……ねえ、ジェイソン」
そして、意を決したように張り詰めた顔で、俺の目をまっすぐ見た。
「私、いくつに見える?」
「……」
今度は俺が答えに窮する番だった。
しまったな。訊き方を間違えたかもしれない。かといって、イヴの質問に答えないわけにもいかないし……
「……よし」
イヴが真剣なんだ。俺もまた本気で答えないと。つまり、当てずっぽうは許されない。
いくつに見えるか――すなわち、製造時に設定された肉体年齢を考察しようと、俺は決意を固めた。
とにかく、観察しないと始まらない。車内は十分に明るいから、道具は必要ないだろう。座ったままのイヴに近づき、まずは顔から見ていこう。
「……?」
きょとんと見返してくるイヴの肌ツヤ、目元から、髪……と、僅かな手がかりも見逃すまいとじっくりと見る。焦点が首筋に差し掛かった所で、あることに気がついた。
(流石に、触って確認するのはダメだよな……)
本来、研究に妥協は許されない。どんなデータが真実へたどり着くキーとなるかわからないからだ。しかし、いくらイヴから提示された命題だからといって、していいことと悪いことはある。
……"触ってもいいか"なんて、俺にはとても言えないしなぁ……
いや、服の上から肩や腕を触るくらいならいいんじゃないか?
「……ジェイソン?」
そう思った時には、俺の手はイヴの肩に伸びていた。
手のひらに滑らかな生地が触れ、遅れて皮膚と骨の感触が伝わる。それから、ノギスで植物の茎を測るように、丸めた手でイヴの上腕を一度、二度と場所を変えて触れ、そして力の強さも変えて再度触れていく。
目を閉じ、生地越しの感触――情報に全神経を集中して、肌のハリ、筋肉・脂肪のつき方を計算していく。俺の専門外な上に比較資料のない不完全な検証だが、これが今の俺にできる全てだ。
頭の中に計算結果を書き留めて、目視で得られた情報とすり合わせる。何度も繰り返し、"本当にこれでいいのか"と自分に問う。
……いや、確認していない事項がまだあるな。
「イヴ、何か話してくれ」
「えっ、ええ……?」
「いや、やっぱりいい」
声を確認しようと思ったけど、イヴとはずっとこれまで隣同士で過ごしてきた。声に限っては、今更確認する必要もなかったな。
……よし、俺の答えは決まった。
目を開けて立ち上がり、ゆっくりと息を吸い、吐く。
「……イヴに設定された肉体年齢、それは17歳だ!」
どうだ……!?
「……ジェイソン」
「……どうなんだ?」
「その……私、そういうつもりで訊いたんじゃなかったんだけど」
「えっ?」
今の今まで、計算と推論で頭が一杯で気付かなかった。イヴは、かける言葉が見つからないとでも言うような、困った顔をしていた。
「いきなり腕を触られたりするもんだから、私、これから何されるのかと思っちゃったわよ」
ため息混じりにそう続けられ、俺は顔が熱くなるのを感じた。
「ご、ごめん……」
「ううん、いいの」
イヴが立ち上がった。
「それだけ真剣に、私のことを考えてくれてたってことだもの」
今度はイヴが、俺の腕を掴んで、じっと見つめてきた。
「イヴ……」
「ジェイソン……」
時が止まったように感じられた、その時。
「ゲコゲコッ!」
「うわっ!」
フレッドが顔めがけて飛んできて、俺は後ずさり、背もたれに肩をぶつけた。
「フレッド?」
足元に落ちたフレッドが、抗議するような目で俺を見上げていた。
「ゲコッ!」
「"何か忘れてないか"ですって」
フレッドの言葉がわかるイヴがそう通訳して、俺は当初の目的を思い出した。
「そうだ、イヴはいくつ……じゃなくて。イヴが作られてから何年経つんだ?」
「ああー……さっきのって、そういう意味だったのね」
イヴが手を打つ。
「でも、どうして?」
「いや、俺って初対面の時からイヴのことを"イヴ"って呼んでただろ? でも、もし年上だったら"イヴさん"って呼ばなきゃいけなかったかもしれないなって」
「……」
「……?」
数秒、俺たちの間に沈黙が流れた。
「えっ、それだけ?」
「そうだけど」
伝えると、イヴは額に手を当てて、より大きくため息をついた。
「イヴ?」
「……ジェイソンって、すっごくすっごくカッコいいのに、たまーに、ヘンよね……」
「ええっ……そんなにヘンかな?」
「絶対ヘンよ。ね、フレッド」
イヴがフレッドを見るが、フレッドは明後日の方向を向いたまま動かない。
「……」
「フレッド?」
俺たちのやり取りを聞いていたフレッドは、俺たちの呼びかけもどこ吹く風と、横目のままに喉を数度膨らませ、
「ゲコ」
と短く鳴いて、軽快に跳んでいった。
なんだったんだ?
そう思いつつイヴの方へ視線を戻すと、両手を口元に当て、信じられないという顔をしていた。
「……イヴ? フレッドは一体なんて言ったんだ?」
「"さんをつけろ"、って……」
「!?」
振り向くと、卓上で手足を折りたたんで体を伏せたフレッドが、目だけをこちらに向けた。
見慣れたはずの姿、佇まいのはずなのに、いつになく大人びて見えた。
年上、だったのか……
ケインはサポートロイドシステムに最後まで反対していたとのことから、サポートロイドはサポートアニマルより後に作られたものだろうと思いました。