自殺を前提に付き合ってください!   作:―――――

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「隣いいかい?」

「げっ!」

 

「げっ、とはなんだい。随分と避けられているようだから、わざわざ他の子に聞き込みしてまで君の昼食場所を当てたというのに」

 

「ストーカーみてぇなことしてんじゃねぇよ、気持ち悪い。せっかく校舎の片隅で、一人だけで飯食える場所見つけたってのに。もう俺から言えることなんもねぇぞ、マスメディアもどき」

 

「二週間ぶりだが、その態度は変わらないね。遠藤君に無くとも、僕からは聞きたいことが沢山ある。言ったろう、僕は君に興味があるんだ。新聞記者を目指す者として、そして君が今現在付き合っている⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎さんに恋焦がれていた人間としてね」

 

 

 なるほど、こいつがこうもしつこいのは、嫉妬も含まれているからか。

 変われるもんなら変わってやりたい。以前にも俺に取材という名の尋問を仕掛けてきたマスメディアもどき君は、もどきらしく情報収集能力は無いらしい。

 

 

「真実を見極める目を持たなきゃ、新聞記者なんぞやってられねーぞー」

 

「助言ありがとう。だが真実という名のパズルを完成させるためには、そのためのピースが必要だ。君が僕に真実を見極めさせたいと言うのなら、是非僕の取材に協力してほしいな」

 

「そんなくだらないことするくらいなら、授業の復習やってた方が有益だぜ」

 

「有益かどうかは僕自身が判断することだ。……ところで、今食べている弁当は、彼女が作ったのかい?なかなかおしゃれというか、可愛らしいね。男子生徒各位に恨まれそうだ」

 

「いやこれ作ったの俺だが」

 

「え」

 

 

 聞き捨てならない発言を訂正するため、物欲しそうに俺の弁当を眺めていたもどき君にスマホで撮っておいた料理中の動画を見せる。最近は学内食堂を使うのが難しくなってしまったため弁当を作り始めたのだが、これがなかなか楽しい。

 

 

「うわ、ほんとだ。器用に作ってるなぁ……ていうか遠藤君、こういうの場面を写真に残したりするんだね。意外だな」

 

「失敗した時に、なんで失敗したかを映像で見返すのは重要だ。がむしゃらに練習してもどうにかなるっちゃなるだろうが、それだと効率悪いだろ。反省点は丁寧に、一つずつ潰していくのが上達のコツだ、何事もな」

 

「……テストで毎回平均点ギリギリを取ってる人とは思えない発言だね」

 

「勉強は飽きるし」

 

「まあ気持ちは分かるが……ん?」

 

「どうした?……あ」

 

 

 動画を見ていたもどき君の目が丸くなる。

 そこに映っていたのは、へたくそな手つきで卵焼きを作るあいつの姿。

 しまった、そういやあの女、泊って行った時に弁当作りに顔出したんだった。

 

 

「そろそろ昼休みも終わりだな!じゃあ俺はこれでっ!?」

 

「ハハハ、逃がしませんよ何を言っているんですか。説明お願いします遠藤君」

 

 

 俺はすぐさまスマホをしまい、足早にその場を立ち去ろうとするが、もどき君は凄まじい反射神経で俺の手首を掴み、眼鏡を光らせ怪しい笑みを浮かべる。

 

 

「今映ってたの、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎さんですよねぇ!?ちょっとお話お伺いしたいのですがぁ!」

 

「ちげぇよ馬鹿、離せ!どんな怪力してんだお前!」

 

「こんな面白そうなニュース手放すものですか!え、まさかマジで同棲してるんですか!?あの⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎さんと!?弁当なんぞよりよほどとんでも無い事実なんですが!!」

 

「たまたま泊まりに来てただけだよその日は!!それ以外特に何も──」

 

「お泊り会はしたんだね!?男女で、同じ屋根の下で!」

 

「あーもう、うぜってぇなお前!冷静に、なれ!」

 

「いった!?」

 

 

 鼻息を荒くし、捲し立てるように質問してくるもどきの額に強めのデコピン。と軽い悲鳴を上げのけぞり額を摩る。ようやく冷静になったもどきは、恨めし気に俺を睨んでいた。

 

 

「それで?実際やることはやったのかい?」

 

「お前が想像するような、下世話なことはやってねぇよ。やる気にもならん」

 

「まあ、そんな気はしてたけど。分かっているとは思うけれど、あまりそれを公言しない方がいいだろうね。僕より嫉妬深く、行動的な人間なんて幾らでもいるのだから」

 

「知ってるよ。だからここにいるわけだしな」

 

 

 小学生か、と突っ込みたくなるような程度の低い嫌がらせも最近では慣れてきた。

 上履き隠しに机への落書き、陰口にバケツにその他諸々。覚悟はしていたが、やっぱりあいつのファンはかなり多かったようで、男女問わず様々な生徒から馬鹿みたいな嫌がらせを受けている。

 

 ……流石に生徒だけだよな?

 教師も同じようなことしてるなら、本気でげんなりするのだが。

 

 

「まあそもそも、大体の人間はそういう想像に行きつくだろう。というか君、彼女を家に招いて何も手を出さなかったとかマジ?もしかして不能?」

 

「んなわけあるか。人並みに感心はあるっての。ただ、あいつは無理だ。人間的に受け付けない。なんか嫌だ。チェンジ」

 

「ボロクソ言うね。近しい仲じゃないと見えない何かがあるのかな?」

 

「ってか、もういいだろ。充分話したよな俺。飯も食い終わったし、教室戻るぞ」

 

「ああ、いや。その前に、はいこれ」

 

「ああ?」

 

 

 彼から差し出されたものは、千円札と何かの紙切れだった。

 それはどうやら、最近流行っている、近所の遊園地のペアチケットのようだ。

 訝しんだ目でもどきを見ると、彼は笑いながら手を振った。

 

 

「そう怪しがるなって。取材の礼と、仲を進展させるための手助けみたいなものだよ。デートにはピッタリだろ、遊園地」

 

「余計なお世話なんだが。つぅか、なんでお前が俺とあいつの仲を応援すんだよ」

 

「気になるからさ。君と彼女の関係が。そして何より、君自身のことが」

 

「なんだそりゃ」

 

「何故君が彼女の恋人になれたのか。そうなるほどの価値が君にあったのか。君について知れば知るほど面白くなってくる。知的好奇心が刺激されるのさ」

 

「……率直に言って、気色悪いんだが」

 

「それでいいよ。君は僕になんでもない話をしてくれればいい。僕はそれで勝手に君のことを知った気になって、一人で満足して報酬を渡す。そんな関係性で充分だ」

 

 

 つくづく気持ち悪い奴。

 

 

「それはタダであげるから、終わったらデートの感想聞かせてくれよ。それにもお金を支払うさ。取材に応じてくれれば、それ相応のお礼はするとも」

 

「考えとくよ。で、もういいか?」

 

「ああ、引き留めてごめんね。それじゃ、また会おう遠藤君」

 

「おう、もう二度と会わないことを願ってるよ」

 

 

 立ち上がり、教室に戻っていく。

 意味が分からない奴だが、まあ悪意はないらしいから他の奴よりはマシだ。

 教室に戻ると、それまで騒がしかった奴らが一気に冷たい目になり、ヒソヒソと何かを話し合う。嫌な空気だ、ジメジメしてる。これからのことを思うと憂鬱になってくる。

 

 

「……あんの野郎」

 

 

 けれどそれ以上に目に付くのは、嬉しそうに俺に手を振る憎き元凶の姿であった。

 それが火に油を注ぐことになるのは明らかなのだが、あいつそこらへんなんも考えていないのだろうか。考えていなさそうだな、畜生が。

 

 

「ほんと、なんで俺なんだか」

 

 

 あいつがそれを知りたがっていたけれど、それを一番知りたいのは俺である。

 大きな溜息を吐いて、幸せを逃しながら俺はあいつを睨みつけた。

 

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