自殺を前提に付き合ってください!   作:―――――

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「高くないですかこれ」

 

「絶対おかしいですよこれ。缶ジュース買うのになんで二百円もかかるんですか?」

 

「まあ、ほら。遊園地価格ってやつ?事前にお茶持ってきてよかったでしょ?」

 

「くっ!入園料がタダなら、金はそんなに要らないだろって油断した……!あと二、三万は余裕をもって下ろしてくるべきでした」

 

「ほら、メインはアトラクションだ。そんなに財布とにらめっこしてないで、次はジェットコースター乗ろうよ!お化け屋敷でもいいよ?」

 

「あ、俺ウォータースライダーとかも乗りたいです」

 

 

 意外にも、遊園地にあいつがついてくるなんてハプニングはなく、昼過ぎになっても至極平和な先輩との休日を過ごすことができている。飯は高いしジュースも高いしで財布に受けたダメージは甚大だが、必要経費として割り切ろう。

 

 

「フフッ、なんだかんだで君も楽しんでるみたいだね。良かった、誘って」

 

「まあ一人なら虚しいんでしょうけど、仲いい人と一緒ですから」

 

「……へぇ、そっか。私と回るの、楽しいんだね」

 

 

 なんだか少し楽し気に、マナ先輩は次のアトラクションに向かう。

 実際俺もそれなり以上に楽しめてるし、人気なテーマパークなだけあってか掃除もそれなりに行き届いており、職員の対応も丁寧だ。

 

 無理やり押し付けられた形になるが、休日の使い方としてはとても有意義だった。

 後であの似非記者にチケット代くらいは返しておこう、約束を破った形ではあるし。

 

 

「久々に来たけど、いいねこういうのも。時間の流れが早く感じちゃうや」

 

「喜んでもらえて何よりです。マナ先輩は何時頃帰ります?」

 

「んー、そうだね。閉園ギリギリまで遊びたいけど……親がなぁ」

 

「ああ。門限がちょっとだけ厳しいんですっけ、マナ先輩のご両親」

 

「毒親って程ではないと思うけど、心配性な両親でさ。夜空を見ながら君とディナー、なんてのは少し難しいだろうね。夕焼け空ならそろそろ拝めそうだけど……」

 

 

 マナ先輩の言う通り、時計の針はもうそろそろ五時になろうとしていた。

 この遊園地のアトラクションは一通り遊び倒したし、十分満足もしているが……。

 

 

「空いてるアトラクションなら、あと一回だけ乗れそうですかね。マナ先輩、行きたいとこあります?俺はもう満足したし、マナ先輩に決めてもらっていいですかね」

 

「ん。……それなら、最後は定番で締めるかな」

 

 

 そう言って、先輩は観覧車を指さした。

 

 

 

◇◇

 

 

 

「あんまり人気無いのかなぁ、観覧車。殆ど待たずに乗れてしまった」

 

「どこの遊園地にもあるアトラクションだし、そんなもんじゃないですか?それに景色眺めるだけだから退屈になる人もいるでしょうし」

 

「勿体ない。人生の二割を損してるね」

 

「普通そこは、人生の半分とかじゃないです?」

 

「十を五で割ると二だろ?この景色を見ないってことは、五感の内の視覚が感じ取れる贅沢な娯楽を楽しめないってことだ。せっかく高級料理が目の前にあるのに、食べない奴はバカだろう?だから人生の二割。十を五で割って二だ」

 

「そんなもんですかね。俺は胃もたれしてる時は高級料理でも遠慮しますけど」

 

「えー、勿体なくない?」

 

「美味しい物なら、一番美味しく食べれる時に食べたいじゃないですか。今がその時じゃないなら、別の人にあげるか、もしくは冷蔵庫にでも入れて後で食べます」

 

「そういう考え方もあるんだね」

 

 

 他愛もない会話を交わしながら、ボーっとガラスの外に見える景色を見下ろす。

 夕日に照らされた遊園地はなかなかに赴きがあり、確かに先輩の言う通り贅沢な娯楽だ。けれど、両親の手を引いてアトラクションの待機烈に走っていく家族を見ると、少し寂しくなる。

 

 

「今日、楽しかった?」

 

「ええ、勿論。もっと遊びたいくらいです」

 

「お、じゃあせっかくだし夜のパレードも見てく?私まだ見た事ないんだ~」

 

「先輩を夜道の中帰らせるわけにもいかないので、やめておきます。女の人が一人で帰るのは危ないですし、門限厳しいんでしょ?」

 

「……フフッ、冗談だよ。これが最後って言っちゃったしね。私は約束を破るのは嫌いだ」

 

「義理堅いですね」

 

「頭が固いだけだよ。もうそろそろ天辺だね」

 

 

 俺達の乗る観覧車が、円の一番上に到達する。

 夕焼け空に彩られた遊園地の景色は、なかなかに綺麗だ。

 他のアトラクションに比べると刺激は少ないが、俺みたいな奴にはこれくらいのアトラクションが丁度いい。刺激よりも癒しが欲しい。

 

 

「子供の頃に何度も見た景色だけど、今見るとなかなか趣があるように感じるね」

 

「何度も来た事あるんですか?」

 

「うん。私の家から近いんだ、ここ。子供の頃は年間パスポートなんかも作ってたかな。まあ、行き過ぎてちょっと飽きちゃってたけどね」

 

「やらかしましたかね俺」

 

「君と来たのは初めてだよ。だから今までで一番楽しかったわけだしね」

 

 

 さらっとこういうこと言うのがマナ先輩の恐ろしい所である。

 

 

「君はあんまりこういうところ行かないのかい?」

 

「中学生の頃はそれなりの頻度で行きましたけど、高校生になると一回も行かなくなりましたね。知り合いが一人しかいない高校に進学しましたし」

 

「そうなのかい?君が友達といっしょに遊園地、って少し想像しづらいかも」

 

「自覚はしてます。前はもう少し人付き合いが上手かったんですよ。他人が欲しい言葉も分かっていたし、どういうノリで人に絡めばいいのかも理解してた」

 

 

 中学時代の友人とはもう連絡も取っていないし、名前を憶えてる友人も少ないが、傍目から見ればかなり充実した青春時代だったのだろう。実際、羨む人も多かった。

 しかし、俺にとっては疲れるばかりの生活だった。

 

 

「根っこがこれなんですよ、俺は。人から魅力的に見える方法は知ってたけど、楽に付き合える友人の作り方は知らなかったんです」

 

「へぇ。それじゃあ、今は?」

 

「一緒にいて疲れない、素を見せていい人達に恵まれたので、楽しくやれてますよ。あの時、マナ先輩を見つけてよかった。あなたが居なけりゃ、俺はずっと疲れてました」

 

「……そっか。君みたいな人にそう言われると、嬉しいな」

 

 

 可愛い。

 あいつと違って突拍子も無いような行動をせず、しかも同じ立場にいてくれる。

 面倒くさいファン共の嫌がらせを受ける心配もいらず、それでいて可愛くかっこいい。

 なんでこの人に彼氏ができないのだろう、世の中の男共の目は飾りだろうか?

 

 

「先輩が何故彼氏がいないのか。俺の中の謎ランキングでトップ5になるくらい謎ですね」

 

「彼氏どころか、友人すら君しかいないからね私。……けど、まあ。好きな人くらいはいるよ、私にだって」

 

「マジですか」

 

 

 マナ先輩を泣かせるような男なら容赦はしないが、この人が好きになったのならきっとそいつはそこそこに良い男なのだろう。

 もし付き合ったなら、ご祝儀に何かしら持って行った方がいいかもしれない。

 けど、それで先輩と会う時間が減るのは少し悲しいな。

 

 

「……私の好きな人、聞きたいかい?」

 

「ちょっと待ってくださいね。今心の準備をしてますので。下手すればその男に対して憎悪を抱く恐れがあるので、落ち着く時間をください先輩」

 

「君でもそんなに取り乱すことあるんだね」

 

「そりゃそうですよ。ずっと世話になった、憧れの先輩の──」

 

 

 待て、待て待て待て。

 

 

 落ち着くために、窓の外を見て、あり得ないものを見て愕然とした。

 俺の目がいいというのもあるが、遠目から見ても分かる程にそいつは存在感に溢れていた。憎たらしい程に美人で、俺とは違いしっかりセンスの良い服を着て。

 何故か、俺の方を見ている、()()()と目が合った。

 

 

「すいません先輩。ちょっとその話はまた今度で……!」

 

「え?」

 

「今聞いたら情報過多で滅茶苦茶になるので、また後日お願いします!」

 

「ん、んん?どうしたんだい、急に」

 

「今日はすごく楽しかったです!俺はちょっと爆弾から先輩を守るために奔走するので、先輩は先に帰っててください!あ、タクシー代どうぞ!」

 

「ちょっ」

 

「俺が死んでも、どうか俺のことを忘れないでくださいねぇ!」

 

「ええええええ!?」

 

 

 困惑するマナ先輩を他所に、観覧車が終わった後すぐに頭を下げ、別れを告げる。

 あの女、最後の最後になって来やがった、マジかよあいつ!

 放置すれば何をするか分からない、最悪の場合先輩にも被害が及ぶ!

 その前に、あいつの行動を抑制しなければ……!

 

 

「マナ先輩との楽しい思い出を、壊させてたまるか!」

 

 

 

◇◇

 

 

 

「いや何やってんだお前」

 

「特に何もやってませんけど?」

 

 

 さて、急いで遊園地の外にいるこいつ目掛けて走ってきたわけだが。

 この女、微動だにせずベンチに座っているだけで、特に何もしちゃいなかった。

 スマホを触るなり、本を読むなりして時間を潰すとかならまだ理解もできるが、こいつが持っているのはどうやら大した金も入っていない財布とバックだけのようで。

 

 

「急に走ってきて『何を企んでんだお前!』なんて言われた時はびっくりしました」

 

「びっくりするのは俺の方だわ。……うわ、電車代しか入ってねぇのかこれ?」

 

「そうですね。それだけしか持ってきてません」

 

「……いや、ならマジで何しに来たんだよ」

 

 

 こいつのことがつくづくよくわからない。

 遊園地にわざわざ来たのに、朝から晩までずっとこうして座っていたのだという。

 俺や先輩に何かするわけでも無く、ほんとにただ遊園地の入り口に来ただけのようで。

 

 

「せめて遊園地に入れよ、来たのなら」

 

「別に遊園地で遊びたくはないので」

 

「怖いよもう。じゃあ何しに来たんだよ、お前は」

 

 

 訳の分からない女は、暫くの間黙り込んで、俺が何か言おうとしてようやく口を開いた。

 

 

「もしかしたら、と思いまして」

 

「はぁ?」

 

「もしかしたら、入園直前で先輩さんと喧嘩別れするなりして、チケットが余ったりすることがあるのかも、と思いまして」

 

「……」

 

 

 何を言っているんだろうか、こいつは。

 

 

「まあ、そんな仮定もあなた達が仲睦まじそうに入って行ったのを見た時点で崩壊しましたが」

 

「じゃあもうその時点で帰れよ……なんでまだいるんだよ」

 

「遊園地で遊んでいる途中に、気が変って私を誘いに来ないかなとか思いまして」

 

「バカなのかお前」

 

「私もよく分かりません。なんで来たんでしょう、私」

 

 

 いや、バカでももう少し現実を見るだろ。

 こいつは何なんだ?最初から最後まで、何一つ分からない。

 

 

「つぅかやっぱり遊園地行きたいんじゃねぇか。それなら銀行で金下ろすなりして」

 

「別に行きたいわけじゃありません」

 

「この御に及んでマジで何言ってんだお前!?」

 

 

 もうこれ、放っておいて帰るべきだろうか?

 なんか先輩に危害加えるような様子でも無いし、捨て犬みたいになってるし。

 

 

「……帰ります。ここにいる意味も無いですし」

 

「おう、帰れ帰れ。貴重な休日に何やってんだお前」

 

 

 ……何やってるんだ、こいつは。

 

 足がふらふらじゃねぇか、どんだけ居座ってたんだよ。

 つぅかもうすぐ夜だぞ、朝から見てたってことは何時間ここにいた。

 おいコラ腹の音も聞こえたぞ、さては飯も食べてないなお前。

 それで何もしなかったってなんだお前、せめて声かけるなりすりゃいいのに。

 

 

 ほんとにお前。

 

 なんでそんな。

 

 

 

「……急にどうしました?」

 

「……うるせーよ。お前の態度が気に障ったんだよ。遊園地来たんなら冷やかしだけじゃなくちゃんと入れ。スタッフさんに迷惑だろうが」

 

 

 帰ろうとしたあいつの手を握って、ずかずかと遊園地の方に向かう。

 閉園時間までは多少ある。この時間から、アトラクションも込んではいない。

 多少なら楽しめるし、そこそこ美味しいものも食べられる。

 ついでに言えば、先輩と見れなかった夜のパレードもか。

 

 

「チケット、もう使ったんですよね」

 

「買い直す。まだ金はある」

 

「昼頃からずっと遊んで、疲れてるんでしょう?いいですよ、別に」

 

「うっせーバカ、さっさと行くぞ。そんで飯食ってから適当にアトラクションに並んで、パレードだけ見てさっさと帰るぞ」

 

「私、遊園地入るお金も。フリーパス買うお金も無いんですけど」

 

「奢ってやる。返さなくていいぞ、何なら明日にはさっさと忘れろ」

 

 

 ただの気まぐれだ。

 別にこいつに同情したわけでも、絆されたわけでも無い。

 ……そう思わないとやってられない。

 

 

「お前が何を思ってここに来たかは知らないけどな!せっかく先輩と楽しい思い出作ってきたのに、最後に胸糞悪い思い出残そうとすんじゃねぇよ!」

 

「わぁ、凄い理由。嘘でも私が可哀想だから~とでもいえばいいのに」

 

「俺は嘘が嫌いだ」

 

「そういう人間ほど嘘つきなんですよ」

 

 

 どこか調子が戻ったように、いつもの微笑を浮かべてから、保険委員の奴は足を速めた。畜生こいつ俺より足が速い、体育の成績も毎回最上位だから当たり前だけども!

 

 

「あと四時間程は遊べますね!」

 

「やっぱり遊びたかったんじゃねぇか!」

 

「違いまーす!あなたがようやく彼氏っぽいことをする努力を見せてくれたので、それに応えようとしてあげてるだけでーす!ほら、足が遅いですよ!」

 

「無駄にテンション上げやがってこいつ……!」

 

 

 全然いつもの微笑じゃなかった、最初にアホな告白したあの日の笑顔によく似てる。

 

 




納得いかずに数回書き直す羽目になり遅れました、申し訳ねぇ()
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