自殺を前提に付き合ってください!   作:―――――

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「ですよね。知ってました。知ってましたとも」

「何をふくれてんだよお前は」

 

 

 やはりこいつの考えることは複雑怪奇だ。

 保険委員の奴は、何故か妙にがっかりした顔で目の前にあるボロいホテルを見ている。

 宿泊費相応のあまり質がいいとも言えないホテルだが、寝床があるだけ十分だ。

 

 当然ながら、俺とこいつで別々の部屋に泊まるし、受付も別々に済ませるつもりだ。

 未成年の男女を同じ部屋に泊めたがるホテルなんて無いだろうし当然の対応である。

 

 

「というか、安くて近かったとはいえここで大丈夫なのか?並みのビジネスホテルよりなんか2ランクくらい下に見えるが」

 

「問題ありませんよ。ほら、お先に受付の方にどうぞ。まあ、頑張ってくださいね?」

 

 

 その言い方に少しながら違和感を覚えながらも、今時は珍しい木製のドアを開けてホテルの中に入る。少し不安だったが、思ったより内装は綺麗で、清掃が行き届いているようだ。

 

 

「いらっしゃい」

 

 

 ぶっきらぼうに言う初老の女性。

 受付らしいその人は、俺を一瞬見て怪訝な顔をする。

 

 

「なんだいあんた。高校生か?」

 

「あー、はい。近くの遊園地に遊びに来たんですけど、終電を逃しちゃって。このホテルなら、親の同意者が無くても行けるって聞いたんですが……」

 

「一人来たのかい。あれまぁ、若いのに随分と遊び盛りだねぇ!私も若い頃はそうだったよ」

 

 

 カラカラと笑う受付の女性に、とりあえずは安心する。

 この様子なら、泊ること自体は問題無さそうだ、と。

 

 

「じゃ、さっさと帰りな」

 

「え」

 

 

 温和の雰囲気は崩さぬままに、受付の女性は冷たく宿泊拒否をした。

 

 

「……えーと、親の同意書やっぱり必要でした?」

 

「別にそれはいいさね。何か事情があってここに泊まりに来るガキも時々いるし、そういう奴には部屋を貸してやってる。問題さえ起こさなけりゃ、多少のことには目を瞑る」

 

「では何故?」

 

「女連れだろ、お前さん。匂いで分かる」

 

 

 ……匂いで分かるようなもんなのか、それ。

 

 

「ここはラブホテルじゃないんでね。そういうませたことをやりたいんなら別の所に行きな。未成年淫行の現場にされちゃ、ただでさえ低いうちの評判がどん底に落ちるんだよ」

 

「……あー。部屋を別々にします、とか言っても信じてくれませんよね?」

 

「ダメだね。後でどっちか部屋に合流するだろう。さっさと行きな」

 

 

 ただまあ、納得できる理由ではあった。

 そういうことを思われないよう受付を別にしようと思ったが、そういう理由ならなんとかなる。

 

 

「なら、もう一人の方だけ泊めさせることできます?俺はいいので」

 

「……ほう。思ったより男気があるじゃないか。それで、あんたはどうするんだい?」

 

「まあ、適当な場所で野宿でも。どうせ今の時間だと帰れませんし」

 

「いいじゃないか、気に入ったよ。そういうバカな意地を見せる男は嫌いじゃないんでね。待たせてる女の方を連れてきな。外で待たせてたら風邪ひくだろう?」

 

「ああ、はい」

 

 

 そう言われると、先にあいつに受付をさせた方がよかったかもしれない。

 ホテルの外にいるあいつに声をかけようと、扉のノブに手を掛ける。

 

 

「うおっ!?」

 

「ああ、終わりましたか?」

 

 

 びっくりして思わず声が出た。

 ドアノブに手を触れる前に、待ってたはずのあいつが扉を開いて中に入ってきたのだ。

 

 

「……こりゃ、驚いた。あんた、■■ちゃんかい!?」

 

「お久しぶりです、叔母さん」

 

「……んん?」

 

 

 人当たりの良い温和な微笑みを浮かべて、彼女は優雅に礼をした。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「そうだよな。そういう奴だ、そういう奴だったよお前は」

 

「ふてくされてます?」

 

「正当に怒ってるだけだ。知り合いなら初めからそう言いやがれ」

 

「せっかくなのであなたの困った顔を見たいな、と思いまして」

 

「この女……」

 

 

 このホテルの受付、というかオーナーは、こいつの叔母であるらしい。

 彼女は随分と可愛がられていたようで、二人で泊めてもらうよう頼み込むと、宿泊費をタダにした上で泊めてくれるというすさまじくありがたい対応をしてくれた。

 

 

「良かったですね、部屋を一つだけ貸してくれて」

 

「絶対あの人変な勘違いしてるだろ」

 

「昔から私によくしてくれてる人ですから、恋路を応援したいのでしょう。困ったことがあれば、いつもあの人のいる家に行って泣きついてました。今も変わらず、元気そうで安心しました」

 

「暫くの間会ってなかったのか?」

 

 

 少しだけ憂いを帯びた、困ったような笑みを浮かべる。

 

 

「叔母さんが母さんと縁を切ったきり、近所から引っ越しちゃったんです。まあ、愛想が尽きたんでしょうね。私の母は、人間としてはゴミクズ以下の人だったので」

 

「どんだけ嫌いなんだよ自分の母親のこと……」

 

「借金を残して死んだ親のことをどう好きになれと?」

 

「……まあ、それもそうか」

 

 

 母親を嫌いになったことは無いが、父親を嫌いになった経験はある。

 あの野郎もまた人間としてクソカス以下の、能力だけはあったクズ男だった。

 

 

「とりあえず、一緒にお風呂入ります?」

 

「入らねぇよバカ。やっぱ金払ってでももう一部屋借りられるか交渉してくるわ」

 

「いいじゃないですか、別に。恋人同士なのですから、それくらいはやるべきです」

 

「お前の恋愛観はどうなってんだよ」

 

「仕方ありませんね。私がお先に入るので、あなたは後でどうぞ。風呂上りの美少女の艶めかしさを味わうとよいでしょう」

 

「お前頭いいのにほんと馬鹿だな」

 

 

 風呂場に入ったあいつを見届けて、少しだけ溜息を吐く。

 自分が何故ここにいるのかを考えて、最終的にはやっぱり同じ結論に辿り着く。

 

 

「はぁ~……」

 

 

 別にあいつと一緒にいる理由も、あいつのために遊園地に行く理由も無い。

 近い内に死ぬ女のためにわざわざここまでする必要も無いし、俺はあいつのこと嫌いだし、半年間の恋人関係が終わればあいつのことを忘れたとしても、誰も文句を言うことはない。

 

 しかし現実として、俺はあいつを見捨てられなかった。

 きっと以前なら簡単にそうできたのに、今回はそれが出来なかった。

 

 

「ほんと、嫌になる」

 

 

 シャワーの流れる音が聞こえてくる。

 ドア越しに見えるあいつのシルエットに少しだけドギマギする。

 あいつに当てはまる好みなんて一つも無いし、多分相性もあんまりよくない。

 

 だというのに。

 ああ、くそ。

 

 

「似てるわけねぇだろうに」

 

 

 なんであいつの笑顔と、母さんの笑顔が重なるんだろう。

 ほんとにほんとに、嫌になる。




ちょっと短めになりました、申し訳ない
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