自殺を前提に付き合ってください!   作:―――――

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何故か一時期ランキングに載って滅茶苦茶評価上がりました、めでたい
これからも皆様応援よろしくお願いいたします


お遊戯会

 

 

『この子は天才なんです』

 

 

 具体的にどんなところが天才なのかは、母が口にすることは無かった。

 鳶が鷹を産むこともあれば、鷹が鳶を産むこともあるということだ。

 母にとっては子供が天才なのは当たり前で、それ以外の真実など必要無い。

 けれど世界は当然のように、産まれだけで才能の配分を決めたりしない。

 

 

『だってこの子は、あの〇〇〇〇の子なんですよ?』

 

 

 余計惨めになるようなことを言って、母は先生に食らい付く。

 先生は困ったように、その様子を眺めていた。

 

 

『お母さん、何も劇に出さないというわけではないんです。ただ、主役は生徒達の投票で決めるルールがあるんです。それ以外の役ならばこの子でも……』

 

『私の子以上に演技が上手い子なんているわけありません!しっかりと実力を見て評価してください先生!私の子は、将来最高の女優になるんです!』

 

 

 実力を見ての評価。

 母は、この場の誰よりも現実を見れてはいなかった。

 己の子の才能の無さを、素人である彼女には見抜けなかった。

 

 

『じゃなきゃ、私は一体何のためにこいつを育ててきたんですか!?』

 

 

 窓の外に、沢山の友人に囲まれた一人の男の子が居た。

 彼は人懐っこい笑みを浮かべ、声を高らかに上げ、誰よりも何よりも目立っていた。

 そこに無いはずのスポットライトを浴びて、まるで主役のように振る舞っていた。

 

 そんな光景を眺めながら、それに釘付けにされながら。

 誰からも好かれるような表情を張り付けた彼に、ただ一言だけの感想が口から出た。

 

 

『気色悪い』

 

 

 なんてことは無い、負け犬の遠吠えだった。

 

 

 

◇◇

 

 

 

「おはようございます、ライチさん」

 

「……おはよう」

 

 

 目を覚まして最初に見た物は、昨日押し倒そうとしてきた女の姿だった。

 俺より起きていたらしく、髪を梳かしながらいつものように俺に微笑む。

 昨晩のあれこれもあり、妙に気恥ずかしい。

 

 

「もうそろそろ始発の電車が出ますけど、どうしましょうか。すぐに帰るか、もう少しだけ遊んでいくか。ライチさんが決めていいですよ」

 

「遊ぶ金なんか殆どねぇよ。元々日帰りの予定だった上、余計の出費も重なった。さっさと電車に乗って帰るぞ」

 

「そうですか。残念です」

 

 

 それでも、やはり基本的な俺達の関係性はそれほど変わりはしないようだ。

 あいつが特に態度を変える様子は無く、俺の口から出る言葉も普段と変わらない。

 だからいつも通り、俺はあいつの顔を見ようとして。

 

 

「……」

 

「どうしました?」

 

 

 自分でも分かる。多分顔が若干赤い。

 それを見せるのも癪だから、顔を逸らしてさっさと帰り支度を始める。

 昨日色々あったとはいえ、変に意識をしてしまうのはなんか負けた気分になる。

 

 

「なんでも無い。俺はお前の叔母さんに挨拶してくるけど、お前も来るか?」

 

「先に朝の支度だけ終わらせておきます。ライチさんはお先にどうぞ」

 

「そうか、分かった。ロビーで待ってるから、挨拶を済ませたら声かけてくれ」

 

 

 女の支度は時間がかかる、というのは女性経験ほぼ無しの俺でも知っている。

 髪を梳かしたり、化粧したりと色々あるらしいから遅れるのも当然だろう。

 その点、男は支度が少なくて楽……いやそうでもないか。

 

 

「昔に比べりゃ、朝にやること減ったもんだなぁ」

 

 

 単純に、俺があいつと比べて面倒くさがり屋なだけだ。

 昔はもう少しおめかしなんかもしてたが、今となっては顔を洗って歯を磨くだけ。

 中学の頃にお洒落して、高校生になってからそれをやめるというのも珍しいかもしれないが、おしゃれにかけられる金も減ったし、わざわざ外面をよくする意味もあまり無い。

 

 あまり無い、のだが。

 

 部屋を出て、髪をいじりながら少し考える。

 今までは特に気にしていなかったが、改めて触れると以前よりも髪の質が悪い。

 それに服装もコスパ重視の安物ばかりだし、組み合わせなんかも特に考えていない。

 別にそれが悪いわけではないのだろうが……。

 

 

「……流石に、もう少し身だしなみを気にした方がいいか?」

 

「おや、いいじゃないか。旦那の服幾つかあげようかい?」

 

「どわぁ!?」

 

 

 気づけば背後にあいつの叔母さんが立っていた、心臓に悪い。

 カラカラと笑いながら、叔母さんは俺に缶コーヒーを差し出した。

 

 

「急に出てこないでくださいよ、びっくりするんですが!?」

 

「なんだい、男の癖に肝っ玉が小さいねぇ。そら、もう行くんだろ?眠気覚ましに飲んでおきな。あの子をちゃんと家まで送ってあげるんだよ」

 

「あー、いや。俺とあいつ、最寄り駅が反対側なんですよね」

 

「ありゃ、そうなのかい?不便だねぇ、それじゃデートに行くのも一苦労じゃないか」

 

 

 いやまあ、何故かあいつは頻繁に俺の家に来ているわけだが。

 休日とかならともかく、平日も平気で来るのはなかなかにヤバイと思う。

 それに付き合っている俺も、なんだか色々と毒されている気はするが。

 

 

「で、昨日やったのかい?」

 

 

 なんとデリカシーの無い女性だろうか。

 

 

「血のつながりを感じますね。やってません。高校生ですよ俺ら」

 

「なんだい。せっかくシチュエーションは整えてやったのに、据え膳かい?男の恥だよ」

 

「親族とはいえ、横からやいやい交際関係に口出しするの、どうかと思いますよ」

 

「おや、小僧に説教されちまったね。しょうがない、控えておいてやろうかね」

 

 

 冗談めかして言っているが、多分本気で言っていたのだろう。

 人生を転落する前に、多少は良い思いをさせてやろうという親切だったのだろう。

 けれど俺はどうしても、その親切心が気に入らなくて。

 

 

「それと、もう一つ」

 

「なんだい?」

 

「俺はあいつの未来を諦めちゃいませんので。世話になりました」

 

 

 頭を下げて、ロビーに向かう。

 別に大して意味も無い、ただなんとなくで出た言葉だ。

 それでも、言っておかなきゃ気が済まなかった。

 

 

「……男の趣味は、真逆だねぇ」

 

 

 

◇◇

 

 

 

「済ませてきました。行きましょうか、ライチさん」

 

「おう」

 

 

 ホテルを出て、二人揃って近くの駅を目指して歩きだす。

 特に寄るような場所も無いし、特に出すような話題も無い。

 その上昨日のこともあって若干話しかけづらい。

 

 

(気まずい)

 

 

 以前ならばそれでも良かったのだが、昨日あんなことを言っておいてこの有様は流石にちょっと男としてダメな気がしてきたし、いつもなら話しかけてくるあいつも今日に限って黙ってる。

 無理やりにでも話題をひねり出そうと頭を回すが、残念俺のコミュ力はEランクだ。

 もはや自爆特攻覚悟でゲームの話でもしようかなと考えて、ふと話の種を思いつく。

 

 

「そういやお前、なんか今日の朝から変じゃなかったか?」

 

「変、と言われても。それが何なのか分からなければ答えようがないのですけど」

 

「いや、だから」

 

 

 なんとなく感じた違和感が、ようやく形になってくる。

 以前は散々『図書委員』と呼んでいた癖に、今日は呼ぶ名前が変わってる。

 それは多分、俺の聞き間違いでなければ俺の下の名前だった気がして。

 

 

「……あー、いや。別にいいや」

 

「なんですか。恥ずかしがらずに突っ込んでください。ずっと待っていたんですから」

 

「なんで待ってるんだよそんなもん」

 

「せっかく相思相愛になれたようなので、恋人らしいことをまた一個したいなと思いまして。私もようやくライチさんの名前を覚えれたので、ずっと朝から連呼していたんですよ?」

 

「ああ、そう」

 

「せっかくなので、ライチさんも私の下の名前をどうぞ。ずっと『お前』だとか『保険委員』だとか言ってるのも変じゃないですか」

 

「なら最初から名前で呼んでおけよ……」

 

「あれは仕返しなので」

 

「なんのだよ」

 

 

 わけわからないことを言いながら、そいつはジーと俺の目を見て。

 どうにかこいつの名前を思い出そうとして、最初にあいつが家に来た時のことを思い出す。

 

 

『いいですか?私の名前は───』

 

 

 ……ああ、そうだ。

 

 たしか。

 

 

「キッカ」

 

 

 ようやく口にした名前に、キッカの奴は珍しく、子供みたいな無邪気な笑みを浮かべた。

 

 

「ライチさん、もう一回お願いします」

 

「なんでだよ。何度も呼ばなくていいだろ別に」

 

「いいじゃないですか減るもんでも無いですし。ほら、アンコールアンコール」

 

「うっせぇバカ。さっさと帰るぞ」

 

 

 馬鹿なことを言い合いながら、見えてきた駅の方に向かう。

 それなりに色々あったし、楽しいかもしれない思い出も幾つか出来た。

 まあ上等な休日だ。そんなことを考えながら、駅のホームに入ろうとして。

 

 

「随分と、いいご身分だね」

 

 

 見知った声が、背後から聞こえた。

 

 

「女性とのお出かけをいきなり中断した次の日に朝帰りとは、いいご身分だ」

 

 

 それは誰よりも尊敬する、俺があの学校にいる理由である大切な人であり。

 つい先日、自分から誘っておいて途中でお出かけを切り上げちゃった人であり。

 そして今この場で、誰よりも俺に怒る権利がある人であり。

 

 

「やあ、愛しの後輩君にその彼女さん。ちょっとそこのカフェでお茶でも如何かな?」

 

 

 そういやマナ先輩、遊園地から近い場所に住んでるって言ってたなぁ。

 現実逃避気味に、そんなことを考えた。

 

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