自殺を前提に付き合ってください!   作:―――――

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「そのゲームって楽しいんですか?」

 そいつは、俺がリビングでゲームをしている最中。

 ソファーに寝っ転がりながら、不機嫌そうに言ってきた。

 

 

「なんだ急に」

 

「いえ、別に?ただ、彼女が家に来てくれてるって言うのに。それを放ったらかしにして、随分と楽しそうに遊んでいるものだなと」

 

「連絡も無しで家に来る奴に払う礼儀はねぇ。今日は一日ぐーだらしつつ、やりたかった積みゲーを昇華する作業に入ってんだよ」

 

「あー。オンラインFPSか何かですか?」

 

「いや、オフラインのRPGゲーム」

 

 

 思い切り怪訝な顔をされた。

 何だよ、別にいいだろ一人寂しくソロゲーしても。

 男子高校生はオンラインFPSにハマるもの、という認識は多分そんなに間違えてはいないんだろうが、あれは一緒に遊べる友達が居て初めて楽しいジャンルだろう。

 それをぼっち気質の俺に当てはめるなど愚の骨頂である。

 

 

「何時でもできるじゃないですかそんなの……」

 

「何時でもできるからこそ今日やるって決めてたんだよ」

 

 

 ギャーギャーと喚く後ろの声を気にせず、キャラの外見などを決めていく。

 普段ならばネットでも使うハンドルネームを付けてやるところだが、生憎と今日はキッカの奴がいるため、ネットの情報を知られかねない名前を使うのは避けたい。

 ので、今回だけは『ライチ』という名を、この物語の主人公にくれてやった。

 

 

「名前、好きに決められるタイプのゲームなんですね。というかなんか、処刑人だの拷問官だの、やたらと物騒な文字が表示されてるんですけど……これどういうゲームなんですか?フォントとかを見た感じ、世界観的には中世がモチーフみたいなんですけど」

 

「お、なんだよ興味湧いたのか?しょうがねぇなぁ、お前にも教えてやるかこのゲームの自由度を。これが終わった時、お前は家に帰ってこのゲームを購入したくなるだろうな……!」

 

「そこまで好みではないですし、多分望み薄だと思いますよ」

 

 

 ククク、そんなこと言っていようが、興味を持った時点でお前の負けよ……!

 友達が碌にいなかったせいで布教も出来なかったが、前作は既にトロコンするまでやり込み、攻略ウィキにおいてもちょっとだけ情報提供をした程のプレイヤーである俺が!

 お前に、このゲームのすばらしさを余すことなく教えてやろう……!

 

 

「中世ヨーロッパをベースとして、そこに魔法や魔物などのファンタジー要素を混ぜた世界観で繰り広げられる、血と剣と悪魔たちの笑い声を乗り越え、人生を生き抜いていく。自由度高めの名作RPG、それがこの『ブラックナイツレジェンド2』だ!」

 

「はぁ、なるほど。ライチさんの好きなゲームの続編とかなんですね」

 

「フフフ。前作のファンからは高い支持を受けており、本作は開発期間三年の時を経てリリースされた最新作……!面白くないわけがねぇ!」

 

「いや、けどゲームの二作目って割とこけること多くないです?」

 

「シャラップ!」

 

 

 不吉な予感をさせるな、馬鹿め!

 とはいえ、やはり前作と比べてグラフィックの向上は著しい。

 キャラクリエイトもかなり自由度が高く、キャラ設定の妄想が捗るというものだ。

 まあ今回は自分の名前を付けてしまっているので、後々作る本命キャラの為のゲームシステムの理解、及び効率のいい攻略方法などを見つけるためのテストみたいなもんになるが。

 

 

「さあ、冒険者ライチもとい生贄君の旅が今始まるのだ……!」

 

「すっごい可哀想な別称付けてません?」

 

「いいんだよ、どうせ後でちゃんとしたキャラ作るし。ブラックナイツレジェンドは難易度が高いことで有名なゲームだし、死亡したら主人公のキャラがデータごと消えるんだ」

 

「……クソゲーでは?」

 

「分かってねぇなぁ。この難易度がいいんだよ」

 

 

 ひりつく難易度が、この世界の無情さ、険しさを教えてくれるのだ。

 とはいえ序盤なだけあり、剣を装備した生贄君はゴブリンたちを軽く一掃する。

 生まれを傭兵にしただけあって、戦闘に関するステータスが高いのが幸いした。

 

 

「よし、レベルを上げて金をゲット。地道にこういうことを繰り返しつつ、いずれキャラクターが戦いや事故で死ぬか、寿命が尽きるまで生き続ける、ってゲーム性だな」

 

「はぁ、なるほど」

 

 

 少しの間、俺がゲームをしている画面を眺めた後。

 キッカはほんの僅かに遠慮しながら口を開いた。

 

 

「これやめて映画見ません?」

 

「飽きるのはえーよ。まだ全然序盤だぞ?いいか、こっからこいつは様々な冒険を経て、英雄にだな……!」

 

「その英雄さん、なんか盗賊にボコボコにされてません?」

 

「え。うおおおおおお!?目を離した隙に襲われてる!油断も隙もねぇ!」

 

 

 このゲーム、道にキャラを放置してると当然のように追いはぎが出てくるのだ。

 十分にキャラが育っていれば、返り討ちにして身ぐるみを逆に剥ぐことも可能だが。

 今のレベルだと、流石に……!

 

 

「あ、やべぇ片腕が折れた!」

 

「負傷もちゃんと戦闘に影響するんですね。この様子だと、もう助かりそうにもないですね」

 

「クッソ、ちょっと悔しいなおい……いやまあテストプレイだし死んでもいいキャラではあるんだが。せめて後続のキャラの為に、色々と残してから……おん?」

 

「あら?」

 

 

 生贄君の短い生涯を憐れんでいると、突然ムービーシーンが入る。

 どうやら確率で発生する乱入イベントらしく、今回のイベントでは旅人のNPCがプレイヤーの苦戦を見かねて助力してくれるようだ。

 

 

「おお、魔法使いか。へぇ、こんな感じに助けてくれるんだな」

 

「へぇ、女の子なんですね。けど、名前が書いてなくないですか?」

 

「あ、ほんとだな。助力者としか表示されん。あー、もしかして」

 

 

 そして、案の定というべきか。

 戦いが終わり、戦利品等の回収が終了した後。

 助力者が自己紹介を行なうタイミングで、プレイヤーが名前を付けられるようになっていた。

 

 

「前作は一括でランダムネームだったけど……ああ、これ設定で変えられるのか。とは言っても、今回は面倒だし、適当にデフォルトネームで……」

 

「『キッカ』で行きましょうよ、ライチさん」

 

「……えー?」

 

「嫌そうな顔しないでくださいよ。ただでさえ今暇なんですから、少しでも彼女がゲーム実況に没入できるよう、それくらいの遊び心は入れるべきでは?」

 

「いやまあ、別にいいけど。なんつーかこう、小恥ずかしいなこれ」

 

「青春の一ページですね」

 

「いかれ女が相手でなきゃ文句無しにそう言えたよ」

 

 

 とはいえ、こいつの言うことをいちいち否定していても面倒だ。

 それに、今回は運よく助かったが、どうせ知識無しだとすぐに死ぬ難易度だし。

 短い付き合いだと自分に言い聞かせて、キッカの名をくれてやる。

 さて、前情報無しでどれだけ進めるものか。

 

 

「短い人生だろうが、頑張って生きるんだぞ~ライチ」

 

「不穏なこと言わないでくれません?絶対生き残ってくださいよ、キッカちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 状況は、過去最悪に近かった。

 尽きた回復ポーション、暗黒竜の圧倒的な力によって倒れ伏す仲間達。

 されど、未だ立ち続けているのは、最初に出会った二人の旅人……!

 

 

「ライチさん!また来ますよ、あのやたら痛いブレス!速くガードしてください、大魔法の詠唱してる私を守って!」

 

「後ろから騒ぐなバカ!うおおおおお唸れ俺の運命力!耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろォ!」

 

「うわあああああHPがゴリゴリ減ってる!?これこのまま削り切られませんかね!?」

 

「いいや、行ける!信じろキッカを!間に合え、間に合え、間に合えよキッカァ!」

 

 

 魔法の詠唱が完了し、闇を滅ぼすための光の最強スキルが発動する。

 そして、凄まじい光のエフェクトが画面から収まり、立っていたのは……!

 

 

「勝ったあぁぁぁぁ!」

 

「いやったあぁぁぁ!」

 

 

 思わず叫んで、何故かそのテンションのままにハイタッチを交わし。

 何故か生き残ってしまった二人が感動のエンディングを迎える中、途中からもうずっと煩かったキッカ(本物)が涙ぐみながら画面に映るスタッフロールを眺める。

 

 

「うう、よかったですね……!まさかキッカ(偽)ちゃんにあんな過去があるなんて……!暗黒竜に故郷を滅ぼされ、家族を失いながらも復讐のために生き続けた彼女が、ある日街道で助けた傭兵崩れの旅人と共に幸せになる。最高のサクセスストーリーです……!」

 

「ほんとにランダム生成かってくらい乱数が神がかってたなぁ。ランダムNPCにあそこまで濃い設定があって、ライチ(偽)がいつの間にか拾っていた彼女の両親の遺品が彼女の心を救う切っ掛けになるなんてな……!」

 

「暗黒竜の洗脳魔法に屈せず、たった1%の成功率を引いて竜の心臓に刃を突き立て、絶望に沈みかけていたキッカ(偽)ちゃんを助けるライチ(偽)君も感動的でしたね……!」

 

「最終版でライチ(偽)が伝説の黒騎士と対峙し、彼に認められ新たなる伝説を作れと剣を託されるシーンは涙無しには見られなかったな……!」

 

 

 いつの間にか、二人一緒にこのゲームにがっつりハマってしまい。

 最初はさほど興味無さそうだったキッカの奴ですら、やがて俺では思いつかない数々の助言をして、二人そろって食い入るように物語の結末を見届けてしまった。

 獲得したトロフィーは『最高のハッピーエンド』、文句無しの真エンディングだ。

 

 

「いやけど難易度に関してはほんとにやばかったですねこれ」

 

「ほんとな。デッドエンドのフラグ多すぎだろ。最初に殺したゴブリンの家族が、ハイゴブリンキングとなって復讐のために襲い掛かってくるイベントとか冷や汗流したぞ」

 

「強敵でしたね、あのゴブリンは……。復讐に生き、最後にはゴブリンとしての矜持も忘れてしまった彼の姿は、キッカ(偽)ちゃんにも暗い影を落としましたし……」

 

「けどあのおかげで彼女は……って、あ。おい、お前ん家方面の終電……!」

 

「あ、過ぎちゃいましたね。まあすでに一回泊らせてもらってるし今更では?」

 

「……いやまあ、確かにそうなんだけどよ」

 

 

 多分こいつ、時間に気づきながらも黙っていやがったな。

 溜息を吐きながら、夜ご飯を作るためにセーブデータの保存だけしてキッチンに向かう。

 するとキッカは、何かを思いついたように。

 

 

「せっかくですし、ゲーム内であったドラゴンステーキっぽいの食べたくありません?たしか冷蔵庫に、鶏肉ありましたよね?チキンステーキ焼きましょうよ、ステーキ!じゅわーっと油に、弾ける皮衣!今食べたら、きっと最高に美味しいですよ!?」

 

「あー?ステーキなんてお前……」

 

 

 クソ、ダメだ。

 空腹と食欲という暗黒竜以上の強敵を前に、理性が打ち勝てるはずもない……!

 

 

「食うに決まってるよなぁ!冷蔵庫の中にある鶏肉を出せぃ!」

 

「ぃやったー!」

 

「どうせ明日も休みなんだ!ちょっとだけ夜更かしするぞ~!」

 

「変なテンションになってるライチさん、私大好きですよ!」

 

 

 多分後日死ぬほど後悔するけど、今の俺を阻むものはない!

 ゲームを完走した後の深夜テンションに勝るもの、ここに無し!

 

 

「二人のハッピーエンドを祝って!」

 

「乾杯です!」

 

 

 そしてまあ、後日。

 一緒の布団で寝てるあいつを見て、激しく今日のことを後悔することになるんだが。

 まあ、それはそれとして、こいつとやるゲームが楽しかったのは事実であった。

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