ジョジョの奇妙な冒険~ガーネットハーツ~   作:星宮 司

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#2『バブルガムその①』

目覚まし時計は、憂鬱な朝の目覚めをオレに施した。鬱屈とした気分で、布団を退かしながら上体を起こす。大きな伸びをしてようやく、寝ぼけた頭も冴えてきたようだ。

 

「――朝食、作らないとな」

 

いつもと変わらない日常が始まろうとしていた。だが、そんな変わらないはずの日常は、既に異常だ。リビングに着いたオレは、朝食を作り始めた。

 

冷蔵庫から取り出した卵を、熱したフライパンの上で割る。いつもなら2つあるはずの卵は、今日は1つだけだ。卵だけじゃない。付け合わせのハムも、トースターに入れる食パンも、デザートのキウイも、今日からは全て1人分だ。

 

「この家、狭いとずっと感じていたが、意外と広いんだな」

 

何気ない気分で呟いた独り言は、どこに向かうでも無くただ広い部屋の中で響くだけだ。

 

「アニキ、今頃元気にやってかな……」

 

心做しか味気ない朝食を食べ終えたオレは、高校へ行く為の身支度を整え始めた。

 

どっちが先に洗面台やトイレを使うか決めるじゃんけん大会も、当分開催はしないのだろう。誰もいない家の中には、常に誰かが居そうな気がした。振り返れば、そこに居そうな気がした。

 

「――なんて、メソメソしてんのは性にあわねぇだろうよ。ほら、シャキッとしろ!」

 

自分の頬をバチバチと叩き、喝を入れる。

 

「昨日決めたじゃあねぇか。もうアニキを頼るだけの自分には、おさらばだってな。オレがこんな様で、一体どうやってアニキを助けるってんだよ!」

 

弱気な自分を拭い着ることなんて直ぐには難しい。だから、こうやって尻叩きを繰り返すのだ。己を律し続ければ、志しは成されると、偉い誰かも言っていた。

 

「よし、気を取り直して準備だ準備!時間は待っちゃあくれねぇってな」

 

寝巻き姿から自校の制服姿へと着替える。学ランに袖を通すと、心做しか弱い気持ちも吹っ飛ぶような気がした。さて、準備は整った。

 

「時間も大丈夫そうだな。よし、行ってきます」

 

誰に言うわけでもない言葉は、またしても部屋の中に響き渡った。不思議と、今度は誇らしい気分であった。

 

玄関の扉に手をやると、丁度視界に例の指が映り込んだ。相も変わらず、ソイツは黒い羽根に覆われているままだった。昨晩風呂で念入りに洗っても、羽根が抜け落ちる気配はまるで無かった。

 

「――今更だがこの指、周りになんて説明すればいいんだ?怪我……って、事にしておくか」

 

あまり深くを考えてもしょうがないことだ。寧ろこの気分を崩したくは無い。振り切るように羽根から視界を離し、オレは自宅を後にした。

 

「――あれ?案外誰も何も言わない?」

 

通学路を歩く途中、自校もとい、夕ヶ丘学園高校の生徒は何人かいるのだが、オレは今、彼らに対してあえて指が見えやすいように歩いているのだ。なんてことない動機だ。この指を見た時の反応がどんなものなのか、少しだけ気になっただけだ。だが、オレの指を見ても、誰も驚いたり訝しげになる様子も見えはしない。それは別に、臭いものには蓋をする考えからなる見て見ぬふりという訳でも無さそうだった。

 

まるで、彼らにはこの羽根が見えてすらいないのでは無いか。そう錯覚してしまう程に、見事なまでのスルースキルだ。

 

「オイオイオイ。マジでコイツが見えてないってのか?そんなバカな……」

 

試しに、指の力を抜いてベラベラとゴムのように揺らしてみる。しかし、周りにいる生徒や通行人は誰一人として、この異常な光景に気付いていないようであった。

 

「こりゃあマジで見えてないな。もしかすると、コイツはオレ以外には見えないのかもしれねぇな。――幻覚じゃあないよな?」

 

いや、昨日からくっきりと見えるし触れるのだ。流石にそんな訳は無いだろうと思った時だ。

 

「あっ――」

 

不意に背後で声が聞こえて振り返ると、そこにはクラスメイトの星月(ほしつき)リサが立っていた。金髪のツインテールは毛先が右はピンクで左は緑、目元には赤いアイライン、左右の耳にはピアスが3つずつ開いている。本人曰くクォーターなので、顔は若干白人寄り。パッと見、ハーレイ・クインに見えなくもないファンキーガールだ。

 

「よぉ星月。相変わらず派手な格好だな。何かあっ、て聞こえたが、どうかしたのか?」

 

星月の視線の先を見る。俺の右側だ。そういえば、俺の体勢はとある部位を見せびらかすように、そこを軽く掲げたままだ。そして、星月はそれを注視していた。

 

「何だよ。やっぱりコレ、見えるんじゃあねぇか。いやぁ実はよォ、昨日ちょっくら怪我しちまってこんなことに――」

 

瞬間、左腕に何かが張り付いた。ベッチョリとした感触だ。だが、特段湿っている訳では無い。左腕を見れば、黒色の溶けかけたような物体がそこにはあった。

 

「なんだこれ……。ひょっとしてコレ、学ランじゃあねぇのか……?」

 

張り付いている感覚、それは地肌に触れる学ランの感覚だった。

 

「気付いたみたいね。ま、さ、か、ソッチの方から現れてくれるなんて、ね。スタンド使いは惹かれ合うって言うけど、ここまで来るとある種の運命よね」

 

「スタンド使い……?な、何言ってんだお前――」

 

そう言いかけた時だ。それまでの星月のクールな雰囲気は一変して、まるで阿修羅のような威圧感を俺に向けた。

 

「とぼけてんじゃあねぇぞお前!ようやく見つけやがった、姉さんの仇!」

 

「か、仇?ま、待ってくれ!ホント何言ってんだか――」

 

「問答無用だ!弁解なら、地獄の閻魔様にでも聞いてもらいな!」

 

オレの言い分など聞く耳持たない星月が、拳をオレへと突き出した。その拳に重なるように、何かが見えた。まるで、見えない誰かの腕のようにも感じる。とにかくヤバい。直感的に、身を(よじ)ると、何とかスレスレで回避出来た。

 

「今のは、一体――」

 

そう思い、再び星月を見るとその背後には見慣れない異様な存在が(たたず)んでいる。機械的な身体付きと顔付きをした、巨大な猫耳ヘッドフォンを付けたピンク色の女のように見える。が、生物かどうかすらも怪しい。

 

「なっ、なんだあソイツはーッ!」

 

俺の驚愕の声に応えるように、星月はソイツの肩に体重を預けよっかかりながら、やや斜め下からオレを見上げるような体勢で、ゆっくりと唇を動かした。

 

「シュガー・ベイビー・ラヴ。アンタみたいな甘っちょろいお子ちゃまには、名前を教えるだけで充分よ」




スタンドネーム:『シュガー・ベイビー・ラヴ』

破壊力:A

スピード:A

射程距離:E

持続力:D

精密動作性:C

成長性:B
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